気分変調症(気分変調性障害)のチェック法と診断基準

気分変調症(気分変調性障害)はうつ病の類縁疾患の1つで、軽度のうつ症状が長期間続く疾患です。

うつ病と似ている点が多いため、「うつ病」と診断されてしまう事も少なくありません。しかし両者は治療方針が一部異なるところもあり、しっかりと見分ける必要があります。

私たち精神科医は患者さんの病歴や症状をもとに診断基準と照らし合わせながら診断をしていきますが、患者さんが自身で「もしかしたら気分変調症などの疾患かもしれない」と気付く事も大切です。

なぜならば気分変調症は患者さんが自分で自分の状態を病気だと気付きにくく、なかなか病院受診に至らない疾患だからです。では気分変調症かどうかをチェックするためにはどのような点に注意していけばいいでしょうか。

ここでは気分変調症を疑った時にセルフチェックするポイントについて紹介していきます。

なおセルフチェックには限界もありますので、正確な診断を希望される際は自分自身で解決しようとせず、精神科を受診して専門家に相談するようにしましょう。

1.気分変調症の診断のポイント

気分変調症と診断するためのポイントはどのようなものがあるでしょうか。

気分変調症は基本的にはうつ病と似ており、中核となる症状は「気分の落ち込み(抑うつ気分)」になります。

うつ病と見分けるポイントとして、気分変調症は、

  • 症状は軽度(日常生活は何とか保てている)
  • 経過が非常に長く、そのため患者さん自身に病識がない事が多い
  • 認知のゆがみはあまり生じていない

という点が挙げられます。

生じる代表的な症状としては、

  • 抑うつ気分(気分の落ち込み)
  • 食欲の異常(多くは食欲低下)
  • 睡眠の異常(多くは不眠)
  • 疲労感、気力の低下
  • 自尊心(自分を大切だと思える気持ち)の低下
  • 集中力の低下
  • 絶望感

などがあり、これはうつ病とほとんど変わりません。しかし程度は「軽度」です。

「軽度」というのは具体的に言うと、「日常生活への大きな支障が何とか生じていない程度」と考えるとイメージしやすいかと思います。

気分が落ち込んで、食欲も沸かなくて身体も常にだるいんだけど、何とか仕事は休まず行けているし、身の回りの事も最低限何とかこなせている。このような状態です。

また気分変調症は経過も非常に長く、数年~数十年といった長い期間、症状が持続しています。診断基準上は症状の持続が「2年以上(未成年の場合は1年以上)」となっていますが、実際はもっともっと経過が長い方がほとんどです。

経過が長いため、患者さん自身が自分の気分の異常に気付いていない事が多い事もポイントです。何年、何十年と軽度のうつ状態が続いているわけですから、「自分は元々こういった性格なのだ」「このような気分が生まれつきのもので治るものではない」と錯覚している事が多く、そのため患者さんが自ら病院に来るケースはあまり多くはありません。

症状が軽度であり、日常生活も何とか行えている状態であるため、うつ病と比べて認知の歪みが少ないのも特徴です。

認知というのは「ものごとのとらえ方」です。うつ病の方は気分が低下しネガティブな考え方になっているため、「自分は皆に嫌われているに違いない」「自分は生きていたら迷惑な存在なのだ」とあやまった認知をしてしまう事があります。

対して気分変調症の方は気分の低下はありますが、あまり極端に認知が低下する事はありません。

このような違いを診察の中で見極めていきながら、精神科医は気分変調症を診断しています。

2.気分変調症の診断基準

病気を診断するためには「診断基準」を用います。

精神疾患においても同様です。精神疾患の場合は「こころ」という可視化できないものを診断するため診断基準だけではカバーできないところもあるのが現状ですが、基本的には診断基準に従って診断は行われます。

精神疾患の診断基準もいくつかあるのですが、多く用いられるのは、

  • ICD-10(WHOが発刊)
  • DSM-5(APAが発刊)

の2つです。

ICD-10はWHO(世界保健機構)が発刊している診断基準です。世界的な診断基準であるため、公的な書類に使われる事の多い診断基準になります。ただし1990年代に発刊されたものであり今となっては大分古くなっています(もう少しするとICD-11が発刊される予定です)。

DSM-5はAPA(アメリカ精神学会)が発刊している診断基準です。2010年代にDSM-ⅣからDSM-5に改訂されました。

どちらの診断基準を用いても問題ないのですが、より新しいDSM-5の診断基準をここでは紹介します。

診断基準のA~Hまでをすべて満たした場合、気分変調症と診断されます。

なお診断基準は難しく書かれていてわかりにくいため、次の項でかみ砕いて説明します。

【持続性抑うつ障害(気分変調症/気分変調性障害)】

A.抑うつ気分がほとんど1日中存在し、それのない日よりもある日の方が多く、その人自身の言明または他者の観察によって示され、少なくとも2年間続いている。

(小児や青年では、気分は易怒的であることもあり、また期間は少なくとも1年間はなければならない)

B.抑うつの間、以下のうち2つ以上が存在する。

(1)食欲減退または過食
(2)不眠または過眠
(3)気力の低下または疲労感
(4)自尊心の低下
(5)集中力低下または決断困難
(6)絶望感

C.この障害の2年間の期間中(小児や青年については1年間)、一度に2ヶ月を超える期間、基準AとBの症状がなかったことがない。

D.2年の間、うつ病の基準を持続的に満たしているかもしれない。
(病気の現在のエピソードのいくつかの時点で、うつ病の基準に完全に合致する人は、うつ病と診断されるべきである)

E.躁病/軽躁病エピソードが存在したことがなく、気分循環性障害の基準を満たした事もない。

F.障害は、持続性統合失調感情障害、統合失調症、妄想性障害、または他の特定のまたは特定されない統合失調症スペクトラムと他の精神病性障害ではよく説明できない。

G.症状が物質(例、乱用薬物、医薬品)、または他の医学的疾患(例:甲状腺機能低下症)の生理学的作用によるものではない。

H.症状は臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

3.気分変調症のチェック方法

診断基準を元に、気分変調症をセルフチェックしてみましょう。

下記のすべてに当てはまる方は気分変調症の可能性が高いため、早めに精神科を受診し、相談する事をお勧めします。

Ⅰ.抑うつ気分が数年持続している

A.抑うつ気分がほとんど1日中存在し、それのない日よりもある日の方が多く、その人自身の言明または他者の観察によって示され、少なくとも2年間続いている。

(小児や青年では、気分は易怒的であることもあり、また期間は少なくとも1年間はなければならない)

気分変調症の中核にある症状は「抑うつ気分」です。これは、気分が落ち込み、暗く悲しい気持ちになってしまう事です。

抑うつ気分はそれ自体が異常な感情ではありません。誰でも悲しい出来事があれば一時的に抑うつ気分が生じる事はあるでしょう。

しかし気分変調症の抑うつ気分は、数年単位(診断基準上は2年以上)続く必要があります。

またその2年の間も、抑うつ気分があったりなかったりという波があるわけではなく、ほとんどの期間を通して抑うつ気分が持続しており、1日の中でみても1日の多くの時間抑うつ気分が持続しています。

その程度はひどくはないものの、軽度の憂鬱がずっとずっと続くような症状が気分変調症の抑うつ気分の特徴です。

Ⅱ.その他のうつ症状も2つ以上認める

B.抑うつの間、以下のうち2つ以上が存在する。

(1)食欲減退または過食
(2)不眠または過眠
(3)気力の低下または疲労感
(4)自尊心の低下
(5)集中力低下または決断困難
(6)絶望感

気分変調症の中核症状は抑うつ気分ですが、診断基準上はそれ以外にも気分が低下した時に認めやすい症状を2つ以上認める必要があります。

食欲は低下する事が多いのですが、時にイライラや衝動性などによって亢進する事もあります。

睡眠も不眠となる事が多いのですが、中には疲労感が持続する事で過眠となる事もあります。

何か作業(仕事や勉強など)をしても十分に集中する事が出来ず、普段ならしないようなミスが増えたりします。また自分に自信がなくなる事で小さな事でも決断ができなくなってしまいます。

気分変調症では自尊心の低下も認められる事があります。

自尊心というのは「自分を大切だと思う気持ち」の事で、本来、健常な精神状態であれば誰でも皆、自尊心を持っています。

自尊心が低下すると「自分なんて価値がない」「自分の存在は迷惑だ」のように考えてしまうようになり、抑うつ気分をはじめとしたうつ症状を更に悪化させてしまいます。

絶望感は、自分や自分の将来に対する「全く希望を持てない」という感覚です。これはしばしば「死んでしまいたい」「消えてしまいたい」といった自殺願望を引き起こす事があります。

Ⅲ.うつ症状が数年間、持続している

C.この障害の2年間の期間中(小児や青年については1年間)、一度に2ヶ月を超える期間、基準AとBの症状がなかったことがない。

Ⅰ.でも説明しましたが、気分変調症のうつ症状は「長期間持続している」事が特徴です。

2年間、うつ症状を認めていたのであれば、その間のほとんどの期間でうつ症状を認めている必要があります。どんなに長くても2カ月間を超えて症状が消失していた時期はない事が普通です。

Ⅳ.うつ病と合併する事もある

D.2年の間、うつ病の基準を持続的に満たしているかもしれない。
(病気の現在のエピソードのいくつかの時点で、うつ病の基準に完全に合致する人は、うつ病と診断されるべきである)

気分変調症は診断的にはうつ病と異なる疾患ですが、うつ病の類縁疾患の1つです。

そのため、経過中にうつ病に至る事もあります。

ベースに気分変調症がある方が、一時的にうつ病になってしまう事は「二重うつ病」と呼ばれます。

ただし最初は気分変調症であったとしても、次第にうつ病になり、うつ病の基準に完全に合致するようになった場合は気分変調症ではなく、うつ病と診断されます。

Ⅴ.他の精神疾患ではない

E.躁病/軽躁病エピソードが存在したことがなく、気分循環性障害の基準を満たした事もない。

F.障害は、持続性統合失調感情障害、統合失調症、妄想性障害、または他の特定のまたは特定されない統合失調症スペクトラムと他の精神病性障害ではよく説明できない。

G.症状が物質(例、乱用薬物、医薬品)、または他の医学的疾患(例:甲状腺機能低下症)の生理学的作用によるものではない。

気分変調症であるためには、他の精神疾患ではない事を確認する必要があります。

これは専門的な診察が必要になるためセルフチェックで判断するのは困難です。精神科医の診察を受けて判定してもらう必要があります。

気分変調症と似たような症状を引き起こす疾患もあり、そのような疾患が原因で生じているものではない事を確認しないと気分変調症の診断は行えません。

Ⅵ.日常生活に支障が生じている

H.症状は臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

気分変調症に限らずあらゆる精神疾患に言える事ですが、精神状態の異常によって本人に苦しみが生じていたり、生活に支障が生じていないと「疾患」とする事は出来ません。

落ち込みがあったとしても、日常生活を送るに当たってそれが全く支障をきたさなかったり、本人が特に苦しみを感じていない場合は、例えば落ち込みがあったとしてもそれは正常な精神状態の中の落ち込みと判断されます。

精神疾患と診断するためには、

  • 本人が苦しみを感じている
  • 生活に支障が生じている

必要があります。

以上のすべての項目を満たしていた場合、気分変調症と診断されます。

セルフチェックの場合は、Ⅴ.のチェックは難しいため除外するしかありませんがその他の項目をすべて満たしていた場合は気分変調症が疑われますので、早めに精神科を受診するようにしてください。

具体的には、

  1. 抑うつ気分が2年以上続いている(未成年の場合は1年以上)
  2. 食欲の異常、睡眠の異常、疲労感、自尊心の低下、集中力低下・決断困難、絶望感のうち2つ以上を認める
  3. 2年間(未成年であれば1年間)のほとんどの期間うつ症状が持続し、2カ月を超えて気分が正常であった事はない
  4. 仕事や日常生活に何らかの支障が生じてい

の全てを満たす場合は、一度精神科を受診し、専門家に相談する事をお勧めします。