近年、「アダルトチルドレン」という概念が少しずつ知られるようになってきました。それに伴い、アダルトチルドレンの原因となる「機能不全家族」も注目されるようになっています。
機能不全家族は文字通り「家族として十分に機能していない家族」の事で、アダルトチルドレンの原因になる家族です。
人生に生きずらさを感じてきて、「自分はアダルトチルドレンなのではないか」と気付いた方が、自分の育った環境が機能不全家族であったのかを確かめたいと専門家のもとを訪れる事も増えてきました。
自分の原家族(生まれ育った家族)が機能不全家族であったかどうかは、どうすれば分かるのでしょうか。
機能不全家族は厳格に定義されているものではないため、明確な診断基準などはありません。ネットを探せば色々なチェックツールがありますが、これらも確立されたツールではありません。
機能不全家族の有無を調べるには、根拠の乏しいチェックツールで安易に判断するのではなく、「そもそも家庭の機能とは何か」「そして自分が育った家庭ではそれが機能していたか」を地道に確認していく事が大切です。
ここでは機能不全家族のチェック方法について紹介させて頂き、また機能不全家族だと判断できたらどのように考えていけばいいのかもお話させて頂きます。
目次
1.機能不全家族とは
「機能不全家族」とはどういった家族の事なのでしょうか。
機能不全家族とは、子供が健全に成長するために必要な家族の機能が果たせていない家族の事です。
誰にとっても「家族」は大切なものですが、とりわけ子供にとって家族は欠かせない存在です。
大人であれば最悪、家族がいなくても生きていく事はできるでしょう。しかし子供は家族に守られなければ生きていけません。お父さん・お母さんがいなければ自分は生きていけないのですから、子供にとって家族の存在は絶大なものなのです。
子供は大人になるまで、家族に大きく頼るわけですから、子供にとって家族は安定しているもの・絶大な信頼を寄せられるものでないといけません。そうでないと子供は安心して毎日を過ごす事ができないからです。
自分の中で必要不可欠な存在が極めてもろく不安定なものだったら、誰だって不安ですよね。
となると子供が安心して穏やかに育つためには、家族が子供にとって必要な機能をしっかりと果たしていないといけないのです。
そして、これが達成されていないのが機能不全家族なのです。
機能不全家族で育った子供は、心が不安定な子供時代を過ごす事になってしまいます。その結果、大人になっても様々なこころの症状に苦しむ事になってしまうのです。
2.子供にとっての家族の「機能」とは
では子供が健全に成長するために必要な「家族の機能」とは何でしょうか。
それは「家族が子供に無条件の愛を注ぎ、子供が成長するまでしっかりと守る事」です。
子供は親に守ってもらい、親から無条件に愛情を注がれる事で「自分は大切な存在なのだ」と感じていき、その中で自尊心が育っていきます。
親は自分をしっかりと守ってくれるのだと感じる事で、安心感や信頼感が得られます。また安心できる環境の中で育つ事で、自分の意見を発したり、自分の考えに基づいて行動する事ができるようになります。
しかし機能不全家族ではこれが正常に行われないのです。
機能不全家族は、元々はアルコール依存症の親がいる家庭に対して使われていた用語です。親がアルコール依存症になってしまうと、親は家庭の中で必要な役割を果たせなくなります。
常に酔っ払った状態ですので、感情に任せて子供に怒鳴りちらすかもしれません。子供が少しでも気に入らない行動を取れば殴ったりするかもしれません。家族は子供を守ってくれるどころか傷付ける存在となってしまうのです。
現在では機能不全家族は、アルコール依存症の親がいる家庭に限らず、親が子供に無条件の愛を注いでいない家庭・子供をしっかりと守っていない家庭に対して広く使われています。
3.機能不全家族はどのような問題を引き起こすのか
機能不全家族が良くないものだという事はみなさん容易にイメージできると思います。
しかし機能不全家族で育ってしまうと、具体的にどのような問題が生じるのか分かるでしょうか。
子供は自分一人ではまだ何も出来ない無力な存在です。だから子供には自分を守ってくれる存在が欠かせず、通常は家族(親)がその役割を担います。
親が自分の子供をしっかりと守る事で、子供は親を信頼して、守られている安心感の中で伸び伸びと育つ事ができるのです。
このような環境の中で育つ事ができれば、愛情・他者を気遣う気持ち、自立心・自尊心など、心が安定させるような感情も正常に育っていきます。
しかし機能不全家族では、自分を守ってくれるはずの家族(親)が自分を守ってくれないのですから、このような穏やかな気持ちが育つ事はありません。
例えば、親の気分で怒鳴られたり殴られたりするような家庭を考えてみてください。無力な子供は、家族を離れては生きていけませんので、なるべく親の気分を損ねないように行動するしかありません。
すると「常に親に気を遣う」「自分のしたい事があっても口に出さない」「自分がどうしたいかではなく親が何を望んでいるのかを行動の基準にする」などといった生き方を、半ば強制的に強いられる事になるのです。
これでは「自分は大切な存在なんだ」という気持ち(自尊心)が育つはずがありません。むしろ、「自分なんていない方がいいんだ」という絶望感や無価値感を感じやすくなるでしょう。
このような環境で安心感や信頼感も育つはずがありませんから、人を心から信頼する事ができなくなり、また常に何かに不安を感じるようになってしまいます。
常に不安や怒り、恐怖感、虚無感など、こころを不安定にさせる感情が付きまとい、うつ病などの精神疾患も発症しやすくなるのです。
また親に怒鳴られたり殴られたりした事によって生じる不満や怒りは、そのまま親にぶつけ返す事ができません。無理矢理自分の中に抑圧されますから、他の場所で噴出します。
それは同級生をいじめるようになったり、大人になった時に子供やパートナーに暴力をふるうようになるといった形で現れ、対人関係も上手に作る事ができなくなっていきます。
4.機能不全家族の代表的なパターン
機能不全家族とは、家族(親)が「子供に無条件の愛を注ぎ、子供が成長するまでしっかり守る事」ができていない全ての家族が該当します。
実際に多いケースとしては、次のような家庭がよく見受けられます。
Ⅰ.肉体的・精神的な暴力がある家庭
親がすぐに子供に暴力を振るったり、暴言を浴びせかけるような家族である場合、これは「子供を守る」という家族の機能を果たしていません。
子供は「次はいつ傷付けられるのか」とビクビクしながら毎日を過ごす事になります。これでは、安心感や自尊心などが育つはずがありません。
中には「しつけのためには殴る事も必要だ」と暴力を正当化する家族もいらっしゃいます。体罰としての暴力の是非には色々な意見がありますが、子供が「家庭は安全な場所である」と感じることができなくなるという意味では家族の機能に反する行為であることに違いはありません。
Ⅱ.過保護な家庭
家族が子供を過度に保護するのも、子供の正常な成長を妨げるという意味で良くありません。
過保護な家族は子供に無条件に愛情をたくさん注いでいるようにも見え、一見すると機能不全家族には見えません。
しかし子供が自分で考える機会・選択する機会を奪い、「何でもお父さんとお母さんがやってあげるからね」という育て方では、子供の自信や自立心・達成感などが育たないのです。
また過保護に育てる背景には、「親の思い通りに育って欲しい」「子供をコントロールしたい」という親のエゴが隠れている事もあります。子供もそれを感じ取るため、無意識に親の希望に沿うような生き方をするようになる事も珍しくありません。
過保護は、見返りの求めない愛情ではなく、子供の意思や自由を奪う行為になりえるのです。
Ⅲ.失敗を許さない家庭
人間は失敗する生き物です。子供であればなおさらで、失敗をする中で少しずつやり方を学んで成長していくのが普通です。
子供が何かを失敗しても、それが成功のための一歩であるならば、家族は温かく見守ってあげる必要があります。
しかしいつも完璧を求める家族だと、子供は失敗を許されなくなります。失敗しない子供などいませんので、失敗が許されない子供は「挑戦しなくなる」「結果を隠すようになる」「ウソの結果を報告するようになる」という方法を取るしかなくなります。
「テストの点数は90点以下は認めない」
「常にクラスで一番じゃないと許さない」
代々エリートの家系に多いのですが、このように失敗を許さない家庭では、「失敗しながら少しずつ学んでいく」という子供の成長を妨げてしまっています。
これは、家族の機能を十分に果たしているとは言えません。
Ⅳ.親が子供に依存している家庭
無力な子供は、ある程度成長するまで親に依存して生きていきます。
しかし親の中には反対に子供に依存してしまっている親もいます。親と子の立場が逆転しているこの家族も、やはり家族として十分に機能しているとは言えません。
例えば親がアルコール依存やうつ病などで子供の世話を十分にできず、むしろ子供が親の世話をしているといった状態などが挙げられます。
本来守ってもらうべきものに守ってもらえない。それどころか子供には過大な責任を負わされているこの状況も子供の心の正常な発達を阻害します。
5.機能不全家族だったかどうかをチェックする方法
では次に、自分の原家族が機能不全家族だったのかをチェックする手順について考えていきます。
これはネットでよく見かけるようなチェックツールで安易に判定できるものではありません。
子供における家族の機能というのは、「子供に無条件の愛を注ぎ、子供が成長するまでしっかりと守る事」でした。
つまりあなたの原家庭が、
- あなたに無条件の愛を注いでいたか
- あなたをしっかりと守っていたか
を振り返ってみる事であなたの原家族が機能不全家族であったかどうかが見えてくるのです。
Ⅰ・無条件の愛が注がれていたか
無条件の愛というのは、何もなくても、「あなたは私たちにとって大切な存在だ」「あなたがいてくれて私たちは幸せだ」とあなたそのものの価値を認めてくれるような愛です。
あなたは子供の頃、親から無条件の愛を受け取ったでしょうか。「何かあっても親は自分を守ってくれる」「親は自分を大切にしてくれている」と子供ながらに感じ取っていましたか。
「無条件の愛」と反対なのが、「条件付きの愛」です。
これは「テストの点数が良かった時だけ褒める」「親の望む行動をした時だけ愛を与える」というもので、何か親を満足させる行動をした時のみに愛情が注がれるというものです。
条件付きの愛は、その条件がなくなれば愛が注がれなくなるという事ですから、子どもはその条件を常に満たすように必死になります。すると、「その条件を満たしてない自分に価値はない」「自分そのものに価値はない」という考えになっていきます。
条件付きの愛しか注がれないと、子供は「自分が何をしたいか」ではなく、「親が何を望んでいるか」を考えて行動するようになるため、自尊心や自分の意志が育ちません。また「親が気に入らない事をすれば見捨てられる」という恐怖と常に隣り合わせになるため、常に不安がつきまといます。
そして一番問題なのは、「愛情を注いでもらってなかった」というケースです。
これは子供にとっては思い出したくもない残酷な事ですが、子供の頃に一番大切にしてもらいたい親から愛情を注がれなければ、自分を大切だと思ったり、自分の居場所を感じられたりという事が極めて難しくなってしまいます。
Ⅱ.しっかりと守られていたか
あなたが子供の頃に、家族にしっかりと守られていたかも機能不全家族かどうかを判定する重要なポイントです。
より具体的に見ると、
- 肉体的に守られていたか
- 精神的に守られていたか
- 社会的に守られていたか
という点で考えてみると分かりやすいでしょう。
「肉体的に」というのは、あなたの衣食住やあなたの健康を家族は守ってくれたか、という事です。
「ちゃんと食事が用意されなかった事が多々あった」
「寒くても我慢させられていた」
「風邪をひいても看病してもらった覚えがない」
このような場合は肉体的に守られていなかった可能性があります。
また、
「親から暴力を受けていた」
「学校でいじめられても見て見ぬふりだった」
などがあればより問題で、肉体的に守られていないどころか、むしろ傷つけられていた可能性すらあります。
「精神的に」というのは、あなたが安心感や信頼感、達成感などを感じられるように家族はあなたを守ってくれたかという事です。
「家にいる時は常に父にビクビクしていた」
「親から裏切られるような言葉を発された事が何度もある」
「私が何かをやろうとすると親は否定してばかりだった」
などであれば、これは精神的に守られていたとは言えません。
また「社会的に」というのは、将来社会の中で生きていくに当たって、必要な倫理観や道徳観念、社会常識などをしっかりと教えてくれたかという事です。
子供は成長すればいずれ社会に出ていきます。その社会の中でしっかりと生きていくためには最低限の事はまず親が教えてあげる必要があります。
もちろん親といえども人間ですから、時には気持ちが不安定になり、一時的に家族として必要な機能を満たせなくなる事もあるかもしれません。一時的な機能不全があってもそれだけで「機能不全家族」となるわけではありません。
機能不全家族は、その状態が長期間に渡って持続している事を指します。
6.機能不全家族だと認められない方も多い
実際に機能不全家族のもとで育ったとしても、自分の育った家族が機能不全家族だとは認識していない方も少なくありません。
それは無意識で、「そんな事があっていいはずがない」という気持ちがはたらくからです。
子供にとって家族、そして親は、自分の生活の中の大部分を占めます。家族は自分にとって絶対的な存在であり、その家族が「機能不全」だという事は、なかなか受け入れられるものではないのです。
そのため自分の家族が機能不全家族である事を無意識のうちに「そんなはずはない」「うちは違うに決まっている」と否定してしまうのです。
そのため機能不全家族の判定をするためには、自分一人で判定するのではなく、冷静に原家族の状況を判断できる第三者と一緒に判定するのが本当は一番良いのです。
可能であれば精神科や心療内科で医師の診察の中で判定してもらうのがもっとも精度が高いでしょう。
7.機能不全家族だと分かったら
子供の頃に育った家族(原家族)が機能不全家族であった場合、正常な精神がはぐくまれないため、大人になってからも精神的に不安定になりやすかったり、対人関係でトラブルを起こしやすくなります。
このような場合、精神を安定させるような治療を行ったり、対人関係を円滑にするトレーニングを行う事ももちろん有効なのですが、これは根本的な解決ではありません。
根本的な問題は、昔に育った家庭である「機能不全家族」にあるからです。
機能不全家族の難しいところは、過ぎた子供時代はやり直すことができない、という点です。過去に終わってしまった原家族での生活はやり直せませんから、原因そのものを解決することができないのです。
しかし何も方法がないわけではありません。機能不全家族によって生じた不安定な精神状態や対人関係のトラブルは必ず改善させる事ができます。
機能不全家族による苦しみを解決するために、まず大切な事は自分の原家族が機能不全家族であったと認める事です。そしてその十分に機能していない家族の中で、無力な子供であったあなたは精一杯頑張ったのだと評価してあげる事です。
このように自分を許してあげる事ではじめて、自尊心や安心感を回復させるスタートラインに立つ事ができるのです。
そうする事で、今まで親に合わせて、自分の意見や主張を持たずに生きてきた自分から、自分の意志で生きていけるように「主体性を獲得する」ための準備ができます。
すると、自分の中にある抑圧された感情や自分の意志が少しずつ芽を出してくるのです。これからは、その芽の1つ1つを大切に育てていく事で、あなたは少しずつ自尊心や安心感・信頼感を育てる事ができるようになります。
このような治療は通常、ある程度の時間がかかります。そして経過中はつらい事や大変な事もたくさんあります。そのため自分一人で克服しようとするのではなく、ぜひ精神科・心療内科を受診し、プロである精神科医と二人三脚で自分を取り戻して頂ければと思います。
機能不全家族によってアダルトチルドレンになってしまった方の立ち直り方については、とても長くなりますので、より詳しくは別のコラムで書いていきたいと思います。