自律神経失調症は、身体の各部位に張り巡らされている「自律神経」のバランスが乱れてしまう事で、様々な症状が生じる疾患です。
自律神経失調症は男性でも女性でも生じうる疾患ですが、頻度的に見れば女性に多く認められるという傾向があります。
その理由はいくつかあるのですが、その中の1つとして「女性ホルモン」の影響が指摘されています。
女性の方の自律神経失調症は、この女性ホルモンが影響している可能性がある事を知っておきましょう。女性ホルモンの影響が強いと考えられる場合では、通常の自律神経失調症の知識に加えて、更に知っておいて欲しいことがあるからです。
ここでは女性の自律神経失調症について知っておいて欲しい事をいくつか紹介します。
1.自律神経失調症は女性に多い
自律神経失調症はあらゆる世代で生じえますが、性別で言うと男性よりも女性に生じやすいという傾向があります。
これはなぜでしょうか。
自律神経失調症が生じる原因としては、
- ストレス
- 不規則な生活習慣
の2つが代表的です(「自律神経を乱して自律神経失調症を引き起こす2つの原因」参照)。
しかし、実はそれ以外にも原因となるものがあります。
それが「ホルモンバランスの乱れ」です。
女性は男性と比べてホルモンバランス(特に性ホルモン)の乱れが生じやすいのです。
女性では周期的に月経が生じるため、周期的に女性ホルモンのバランスが変動します。また妊娠や出産といったイベントも女性ホルモンが大きく変動します。更に閉経して更年期に入るとこれもまた女性ホルモンのバランスが変動します。
男性のホルモンバランスが生涯を通じて緩やかに変動することと比べると、女性のホルモンバランスはこのように乱れやすく、自律神経失調症も発症しやすくなるのです。
ではなぜホルモンバランスが崩れると自律神経のバランスも崩れてしまうのでしょうか。
それは、ホルモンの分泌は脳の「視床下部(ししょうかぶ)」という部位が中枢(司令塔)となっているためです。実は自律神経もホルモンと同じく視床下部が中枢となっています。ホルモンも自律神経も、この視床下部という部位によってコントロールされているのです。
同じ視床下部でコントロールされているため、ホルモンバランスが不安定になる時というのは自律神経も不安定になりやすい傾向があります。
ホルモンと自律神経はこのように密接した関係にあるため、互いに影響を受けやすいのです。
またそれ以外に女性に自律神経失調症が多い理由として、
- 特に昔の日本では、女性は自分の意見を言えずストレスを溜め込みやすい傾向があったため
- 女性の方が極端なダイエットなどの自律神経を不安定にする状態を起こしやすいため
- 女性の方がストレスがかかるライフイベントが多いため
などといった事も指摘されています。
このような理由により、女性は自律神経失調症を発症しやすいのだと考えられています。
2.ライフイベントで見る女性の自律神経失調症
男性よりも女性の方が自律神経失調症にかかりやすいのは、女性は男性と比べてホルモンのバランスが乱れやすいためです。
という事は、特に女性ホルモンのバランスが崩れやすい時というのは、自律神経症状が生じやすく注意が必要です。
女性のホルモンバランスが乱れやすいのは、どのような時でしょうか。またその時にどのような症状が生じやすいのでしょうか。
Ⅰ.月経
女性は性ホルモンのバランスが周期的に変動し、周期的に月経が生じます。そしてこのホルモンバランスの崩れは自律神経のはたらきも崩します。
正常な方であっても月経前後はイライラしたり涙が止まらなくなったり、頭痛や吐き気を来たしたりという事は珍しい事ではありません。これはホルモンバランスの変動、そしてそれに伴って自律神経のバランスが崩れたことによって生じる症状です。
これらの症状が更に悪化すると、PMS(月経前症候群)と呼ばれます。
PMSでは、
・落ち込み
・不安
・イライラ
・不眠
・頭痛
・筋肉痛
・吐き気
といった様々な精神症状・身体症状が生じます。また月経の度にこれらの症状が繰り返されるため、当人にとっては大きな苦痛となります。
Ⅱ.妊娠、出産
妊娠や出産は嬉しい出来事ですが、ホルモンバランスという視点からみると注意が必要な時期になります。
妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは増加しはじめます。そして出産するとこれらのホルモンは一気に減少します。このようなホルモンバランスの激しい変動は、
・気分の不安定性(落ち込んだり、怒りっぽくなったり)
・涙もろさ
・不眠
・不安
・焦り
・集中力低下
・意欲低下
などといった症状を引き起こします。
また、妊娠や出産は「環境の変化」「自分の役割の変化」「自分の見た目の変化」なども生じるため、これも大きなストレスとなります。このような理由から妊娠・出産に伴う症状は、精神症状が主体となりやすい傾向があります。
実際、産後に一時的に落ち込みや不安が増悪する現象を「マタニティーブルー」と呼び、それが更に増悪しうつ病の診断基準を満たす程度にまで至ってしまったものを「産後うつ病」と呼びます。
Ⅲ.更年期
40代後半から50代前半になると、女性は「閉経」が生じます。
閉経後はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌が低下し、ホルモンバランスの乱れが生じます。
また単にホルモンバランスの乱れだけでなく、
- 夫の退職
- 身体が老いていくことへの悲しさ
- 老後生活への不安
- 子供の巣立ち
- 親の死や介護
といったイベントがある時期でもあり、これもストレスとなり自律神経のバランスを乱します。
更年期の自律神経症状は、
・落ち込み
・不安
・イライラ
・不眠
といった精神症状の他、
・頭痛
・動悸
・耳鳴り
・体熱感、のぼせ感(ホットフラッシュ)
・めまい、ふらつき
・しびれ
・だるさ、疲労感
などといった身体症状も生じます。
このような症状が強い場合は更年期障害と呼ばれます。
3.女性の自律神経失調症で気を付けたい事
自律神経失調症は、男性であっても女性であっても生じる可能性があります。
しかし頻度でみると女性の方が多く、その理由としては女性特有の心理社会的な側面の他、ホルモンバランスが乱れやすいという理由が挙げられるという事をお話してきました。
そのため女性の方の自律神経失調症ではいくつか注意点があります。特に重要な事を紹介させて頂きます。
Ⅰ.症状を受け入れる必要があることも
自律神経失調症の代表的な原因として、
・ストレス
・不規則な生活習慣
の2つがあります。これはどちらも患者さんの工夫によって改善が可能なものです。
しかし、もう1つの原因である
・女性ホルモンのバランスの乱れ
というのは、ある程度は生活習慣の是正で改善がはかれますが、そもそもが生理的な現象であるため完璧に抑える事はできません。月経や妊娠・出産、更年期で女性ホルモンのバランスが乱れるのは正常な現象であり、それを無理矢理抑えてしまえば今度は別の問題が生じてしまうでしょう。
女性ホルモンのバランスが乱れたことによって自律神経失調症の症状が生じている場合、その症状をゼロに抑える事は難しく、ある程度は受け入れる必要があります。
不快な症状があると「症状を完全に消したい!」と考えてしまいがちですが、このような場合は「生活に困らない程度にまで抑えよう」という認識に変えた方が良い場合もあります。
Ⅱ.ホルモン剤が効果的なこともある
自律神経失調症に対してお薬を使う事もあります。
使われるお薬としては、
・精神に作用するお薬
・身体に作用するお薬
の2種類があります。
精神に作用するお薬というのは、抗うつ剤や抗不安薬などの事です。これらは気持ちをリラックスさせる事により、副交感神経を活性化させ自律神経のバランスを整える作用を期待して投与されます。
身体に作用するお薬というのは、生じている自律神経症状に対応したお薬です。頭痛がするのであれば痛み止め、胃痛がするのであれば胃薬などを用いる事があります。
更に女性の自律神経失調症に対しては3つ目のお薬として「ホルモン剤」があります。これは女性ホルモンをお薬として補充するお薬の事です。基本的には婦人科で処方されます。
女性の場合、精神に作用するお薬、身体に作用するお薬で効果がなく、かつ女性ホルモンバランスの乱れで生じている可能性の高い自律神経症状に対しては、婦人科でホルモン剤を検討してもらうという方法があります。