セルシン錠(一般名:ジアゼパム)は1964年に発売されたお薬で、「抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)」に分類されます。抗不安薬は文字通り、不安感を和らげる作用を持つお薬で、「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれる事もあります。
セルシンは幅広い作用をまんべんなく持つ、スタンダードな抗不安薬であるため、非常に古いお薬ではありますが現在でも用いられることがあります。様々な症状に広く効果を発揮するセルシンは良いお薬でもありますが、一方で必要のない余計な作用(副作用)が出てしまいやすいとも言えます。
ここではセルシンの効果や特徴、また他の抗不安薬との比較などを紹介していきます。
1.セルシンの特徴
まずは全体的に見た、セルシンの特徴を挙げてみます。
セルシンは「ベンゾジアゼピン系」に分類されるお薬になります。ベンゾジアゼピン系には、不安を取る作用以外にも、筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)、催眠作用(眠くする)、抗けいれん作用(けいれんを抑える)の4つの作用がある事が知られています。
セルシンもベンゾジアゼピン系になるため、この4つの作用があります。そして、それぞれの効果の強さを表すと次のようになります(個人差も大きいため、あくまで目安です)。
【セルシンの作用】
- 中等度の抗不安作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
セルシンはベンゾジアゼピン系の4つの作用をまんべんなく持っている点が特徴で、これがメリットでもありデメリットでもあります。
ベンゾジアゼピン系の中でも、抗不安作用に特化しているもの、催眠作用が特に強いものなど、それぞれお薬によって作用の強さにはかたよりがあります。しかしセルシンは、この4つの作用をどれもそれなりの強さで持っているのです。
不安も取りたいし、筋肉の緊張も取りたいし、けいれんも抑えたいといった場合であれば、セルシン1剤で複数の症状に対応できる可能性があります。これはセルシンの大きなメリットになります。しかし、1つだけの症状を抑えたいという時でも、余計な作用が出てしまうため、時に副作用として困ってしまう事もあります。幅広い効果があるというのは、良い事でもあり、悪いことでもあるのです。
また、セルシンは非常に古いお薬で歴史も長いため、剤型がたくさんあるのもメリットです。
錠剤を始め散剤(粉薬)、シロップ、注射など多数の剤型がそろっています。また、坐薬もあります。「ダイアップ坐薬」という別の商品名になりますが、これはセルシンと同じ成分であるジアゼパム製剤です。お薬は飲み心地も大事ですので、たくさんの剤型から選べるというのはありがたいことです。
セルシンは作用時間が長いことも特徴です。セルシンは服薬後、約1時間で血中濃度が最大となり、半減期は約50時間ほどと報告されています。半減期とはお薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、お薬の作用時間の1つの目安となる値です。セルシンの半減期も長いのですが、セルシンの活性代謝物であるデメチルジアゼパムの半減期も50~180時間と非常に長いことが報告されており、ここから考えるとセルシンの作用時間はかなり長いことが分かります。
代謝物とは、ある物質が体内で代謝・分解されてできる物質です。代謝物がその物質と同様の作用を持っている場合、「活性代謝物」と呼ばれます。セルシンの活性代謝物であるデメチルジアゼパムは、セルシンと同じく作用を有している事が報告されており、活性代謝物ということになります。
【セルシンの良い特徴】
- 抗不安作用、筋弛緩作用、催眠作用、抗けいれん作用の4つの作用がまんべんなくある
- 剤型が豊富
- 作用時間が長く、1回の服薬で長く効く
【セルシンの悪い特徴】
- 4つの作用がまんべんなくあるため、副作用も出現しやすい
- 作用時間が長く、お薬が残りやすい
4つの作用をバランスよく有しているセルシンは、抗不安薬と「標準薬」ともいえます。実際、セルシンは抗不安薬の中でも「スタンダードなお薬」という位置づけであり、お薬の比較をする実験などでも対象薬としてよく用いられています。
2.セルシンの抗不安作用の強さ
抗不安薬には、たくさんの種類があります。
それぞれ強さや作用時間が異なるため、患者さんの状態によってどの抗不安薬を処方するかが異なってきます。
セルシンは、不安を改善する作用(抗不安作用)は中等度です。
主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下図のようになります。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
セルシンは特別に不安を取るちからが強いお薬というわけではなく、中等度の強さになります。しかし、不安を抑えるために十分頼れるお薬です。
3.セルシンを使う疾患は?
添付文書を見るとセルシン(ジアゼパム)は、
- 神経症における不安・緊張・抑うつ
- うつ病における不安・緊張
- 心身症(消化器疾患、循環器疾患、自律神経失調症、更年期障害、腰痛症、頚肩腕症候群)における身体症候ならびに
不安・緊張・抑うつ - 下記疾患における筋緊張の軽減
脳脊髄疾患に伴う筋痙攣・疼痛 - 麻酔前投薬
に適応があると書かれています。
たくさんの適応疾患が書かれているので、とても分かりにくいのですが、要するに「様々な疾患の不安・緊張を軽減したり、筋肉の緊張を取ったり、けいれんを抑えたりすることに使われる」という認識で良いと思います。
心身症とは、身体の異常の主な原因が「こころ」にある病気の群です。例えば食生活が悪くて胃潰瘍になるのは心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になるのは心身症になります。同じようにタバコで血圧が上がるのは心身症ではありませんが、ストレスで血圧が上がってしまうのは心身症になります。
ちなみに正常な人にも不安はありますが、そういった「正常範囲内の不安」には用いません。正常範囲内の不安にも効果は示しますが、健常者に使っても副作用などのデメリットの方が大きいからです。
不安感があり、医師が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断された場合にセルシンなどの抗不安薬が使われます。
疾患で言えば、パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏、強迫性障害などの疾患には良く使います。うつ病や統合失調症などで不安が強い場合も補助的に使用されることがあります。
4.セルシンが向いている人は?
セルシンは、ベンゾジアゼピン系が持つ4つの作用を幅広く持ちますので、複数の症状がある方には良いお薬だと考えられます。不安、緊張もあって、筋肉も凝っていて・・・などという方は、セルシン1剤で十分な効果が得られる可能性があります。
しかし反対に特定の症状しかない場合でも、セルシンは幅広く効いてしまうため、余計な作用(副作用)が出てしまうリスクがあります。
セルシンは、服薬してから血中濃度が最大になるまで約1時間程度と報告されています。臨床的な体感としては内服後20-30分ほどで効果を感じられますので、即効性もあります。
しかし作用時間が長いため、すぐに効きはしますがその後にしばらく効果が残りやすい点は注意をしなくてはいけません。セルシン自体の半減期が約50時間と長いうえに、セルシンの活性代謝物であるデメチルジアゼパムの半減期は50~180時間と報告されており、作用時間はかなり長いお薬であると言えます。
そのため、頓服的な使い方をする場合は、お薬の効果が長時間残りやすい点に注意をしなければいけません。
5.セルシンの作用機序
セルシンは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬です。セルシンに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。
ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体という部位に作用することで、先ほど説明した抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用を発揮します。
ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用が特に強いものが「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」になり、セルシンもそのひとつです。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち、催眠作用が特に強いもののことです。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの効果が全てあります。
ただ、それぞれの強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど、抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど、催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。
セルシンは、先ほども書いた通り、
- 中等度の抗不安作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
を持っています。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のセルシン錠とは異なることをご了承下さい)