クレミンの副作用と対処法【医師が教える抗精神病薬の全て】

クレミン(一般名:モサプラミン塩酸塩)は、1991年から発売されている抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。

抗精神病薬には古い第1世代と比較的新しい第2世代があり、クレミンは古い第1世代に属します。

第1世代は効果は強力なのですが、副作用も強いという問題があります。特に問題なのは、頻度は稀ながら命に関わるような重篤な副作用が生じるリスクがあるという点です。

そのため現在ではクレミンのような第1世代はやむを得ない症例に限ってのみ用いるお薬となっており、安易に投薬できるお薬ではありません。

しかし統合失調症の幻覚や妄想をしっかりと抑え、また陰性症状や抑うつ症状にも効果を期待できるクレミンは、第2世代が効かないような症例に対して現在でも使用される事があります。

ここではクレミンで注意すべき副作用と、臨床で比較的見られやすい副作用について紹介させていただきます。

1.クレミンの副作用の特徴

抗精神病薬は大きく分けると2つに分けられます。

1つ目が1950年頃から使われている古いタイプである第1世代(定型)抗精神病薬で、2つ目が1990年頃から使われている比較的新しいタイプである、第2世代(非定型)抗精神病薬です。

第1世代は強力な作用がありますが、副作用も強力なのが難点です。そのため、副作用の軽減を目指して開発されたのが第2世代で、現在では第2世代が主に使用されています。

第2世代は、第1世代と比べると、

  • 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
  • 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用)

などの神経系の副作用やホルモンバランスを崩してしまう副作用は少なくなりました。

また、

  • 悪性症候群(高熱、筋破壊で死に至ることもある危険な副作用)
  • 心室細動・心室頻拍(命に関わることもある重篤な不整脈)
  • 麻痺性イレウス(腸がまったく動かなくなってしまう副作用)

などの命に関わる事もある重篤な副作用の頻度も大きく低下しました。

しかし、第1世代よりも身体をリラックスさせて代謝を抑制するため、

  • 血糖やコレステロールなどを上昇させる
  • それに伴い、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げる

といったデメリットがあります。

第2世代は全てにおいて第1世代と比べて優れているわけではなく、第2世代は第2世代の問題点があります。

しかし総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられるため、現在の統合失調症の治療は第2世代から始めることが基本となっています。

この中でクレミンは第1世代(定型)抗精神病薬に属しています。古いお薬であり、第2世代と比べると副作用の多さはやはり目立ちます。

クレミンは第1世代の中でも「イミノジベンジル系」という種類に属します。

イミノジベンジル系は、

  • ドーパミンをブロックする作用がある程度強い
  • ノルアドレナリン・セロトニンに作用し賦活系の作用を持つ

というのが特徴です。

賦活系(ふかつけい)というのは、患者さんには「アッパー系」と言った方が分かりやすいかもしれません。これは気分を高める作用の事です。

賦活作用は陰性症状で無為自閉になっていたり、抑うつ状態に陥っている場合には良い作用となる事もありますが、一方で変に気分を持ち上げてしまう事で不穏・興奮状態にしてしまうリスクもあります。

このような特徴から、クレミンの副作用の傾向としては、

  • ドーパミンをブロックしすぎる事で生じる副作用がやや多め
  • 気分を変に持ち上げてしまう事で生じる不穏・興奮に注意
  • 第1世代であり、命に関わるような重篤な副作用の発症に注意

という事が挙げられます。

ドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用としては、

  • 錐体外路症状(EPS)
  • 高プロラクチン血症

が挙げられます。

【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンのブロックによって生じる神経症状。手足のふるえやムズムズ、不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)などが生じる。

【高プロラクチン血症】
脳のドーパミンをブロックすることでプロラクチンというホルモンが増えてしまう事。プロラクチンは本来は産後の女性が乳汁を出すだめに分泌されるホルモンであり、これが通常の方に生じると乳房の張りや乳汁分泌などが生じ、長期的には性機能障害や骨粗しょう症、乳がんなどのリスクとなる。

第1世代の中でこれらの副作用にもっとも注意すべきなのはブチロフェノン系(セレネース、トロペロン、インプロメンなど)になりますが、クレミンが属するイミノジベンジル系もそれに次いで注意が必要です。

一方で抗精神病薬の中には、ドーパミン受容体以外(ムスカリンやヒスタミン、アドレナリンなど)にも作用するものもありますが、クレミンはドーパミン・セロトニン以外にはあまり作用しないため、これらへの作用が原因で生じる作用や副作用はあまり起こしません。

具体的に見ると、

  • ムスカリン受容体のブロック:口渇・便秘・尿閉など
  • ヒスタミン受容体のブロック:眠気、体重増加など

は多くはありません。

またクレミンをはじめとした第1世代の一番の問題は、「命に関わるような副作用が生じる可能性がある」点です。

具体的には、

  • 悪性症候群
  • 重篤な不整脈(心室細動、心室頻拍)
  • 麻痺性イレウス
  • 無顆粒球症

など、命に関わるような副作用の報告が稀ながらあり、特に高用量を服用していると生じやすくなります。これらの理由から第1世代は現在では積極的には投与されなくなっており、まずは安全性の高い第2世代抗精神病薬が用いられる事となっています。

以上から、クレミンの副作用の特徴として、次のような事が挙げられます。

  1. 古い第1世代であり、全体的に副作用は多め
  2. 命に関わるような副作用の報告もある
  3. ドーパミンを遮断しすぎることで、ドーパミン欠乏の副作用がやや起こりやすい(錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症など)
  4. 気分を持ち上げる事で不穏・興奮状態を引き起こす事がある
  5. その他の受容体には影響しにくいため、その他の副作用は少なめ(体重増加や口渇・便秘、眠気など)
  6. 副作用の問題から、現在では第1選択として使われる薬ではない

2.クレミンの副作用

それでは、クレミンの副作用をそれぞれみていきましょう。

なお一般的な対処法なども記載しますが、これらの対処法は独断では行わないでください。必ず主治医と相談の上、主治医の指示に基づいて慎重に行ってください。

Ⅰ.錐体外路症状(EPS)

統合失調症は脳のドーパミンが過剰になってしまう事が一因だと考えられています。そしてクレミンのような抗精神病薬はドーパミンのはたらきを抑える事で症状を改善させます。

しかしドーパミンのはたらきを抑えすぎてしまう事で生じてしまうのが、錐体外路症状です。

クレミンは錐体外路症状を比較的起こしやすいお薬だと言えます。その理由はドーパミンをブロックする作用が強めであるからです。

同じ第1世代の抗精神病薬である「ブチロフェノン系」ほどではありませんが、それに次ぐ強さを有しています。

錐体外路症状では多くの症状が認められますが、

  • 振戦(手先のふるえ)
  • 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
  • アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
  • ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう)

などの神経症状が代表的です。

これらは直接命に関わる症状ではないものの、患者さんにとっては非常に苦痛な症状です。クレミンがドーパミン受容体をブロックしすぎることで生じる副作用のため、特に高用量のクレミンを服用している場合に起きやすい傾向があります。

これらの副作用が生じた場合は、まずはクレミンの減薬、あるいは副作用の少ない第2世代への変薬が試みられます。

また、抗コリン薬と呼ばれる錐体外路症状を改善させる作用を持つお薬もあります。抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がります。するとドーパミン濃度が増えるため、錐体外路症状を改善させてくれるのです。

具体的には、

  • ビペリデン(商品名:アキネトン)
  • プロフェナミン(商品名:パーキン)
  • トキヘキシフェニジル(商品名:アーテン)

などが錐体外路症状によく用いられる抗コリン薬として挙げられます。

ただし、お薬によって生じた副作用をお薬で治す、というのはあまり良い方法ではありません。お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。

Ⅱ.高プロラクチン血症

高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出るプロラクチンというホルモンの量が多くなってしまうという副作用です。

この原因は、クレミンが脳下垂体のドーパミン受容体もブロックしてしまうためです。ドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまうのです

ドーパミンを強めにブロックするクレミンは、この副作用を起こす頻度もやや多いと言えます。

プロラクチンは、本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンです。授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。これがプロラクチンの作用になります。

高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。また男性であれば、勃起障害などが生じることもあります。

問題はこれだけではありません。一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。

そのため、高プロラクチン血症を発見したら放置せずに速やかに治療することが望まれます。

クレミンで高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてクレミンを中止する必要があります。中止し、必要があれば第2世代などの別の抗精神病薬に変更しましょう。

Ⅲ.不穏・興奮

第1世代抗精神病薬の中でのクレミンならではの特徴としては、「賦活作用」が挙げられます。

これは気分を高める作用です。クレミンのような賦活作用を持つ向精神薬は、患者さんの間では「アッパー系」とも呼ばれています。

賦活作用は、

  • 統合失調症の陰性症状
  • うつ病の抑うつ症状

などに用いる事でこれらの症状を改善させる事が期待できます。

しかし一方で気分も変にハイにしてしまう事もあり、

  • 不安
  • 興奮
  • 不穏
  • 焦り
  • 不眠

などが生じる事もあります。

またこれらの症状から派生して、

  • 暴言・暴力
  • 自傷行動
  • 自殺企図

などに発展する事もあります。

賦活作用は精神状態が不安定であってり、不安・焦燥が強い時に安易に使うと生じやすい事が経験的に知られています。

Ⅳ.重篤な不整脈

稀ですがクレミンのような第1世代は重篤な不整脈を起こすことがあります。

不整脈といっても、大きな問題がない程度のものであればまだ良いのですが、時に心室頻拍などの命に関わるような不整脈を生じることがあるのです。

服薬量が多いと起こしやすいため、服薬量は最小限になるように注意を払わないといけません。

特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です。これを放置していると致命的な不整脈(心室細動やトルサード・ド・ポアンツ)を起こす可能性があります。

抗精神病薬を使う際は定期的に心電図検査を行い、QT延長を見逃さないようにしないといけません。そしてQT延長が認められた場合は、速やかに減薬あるいは変薬が必要です。

Ⅴ.悪性症候群

悪性症候群も頻度は稀であるものの、発症してしまった際は命に関わる可能性もある副作用です。

悪性症候群では、

  • 高熱
  • 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
  • 錐体外路症状(筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなる)
  • 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
  • 横紋筋融解(筋肉が破壊されることによる筋肉痛)

などが突然生じます。

その原因は明確に解明されてはいませんが、ドーパミンが関係すると考えられているため、ドーパミンに強く作用するクレミンは悪性症候群に注意すべきお薬の1つだと言えます。

特にドーパミン系のお薬の増薬・減薬時に生じやすいため、増薬・減薬は少しずつ慎重に行う必要があります。

悪性症候群は命に関わる可能性もある重篤な副作用であるため、悪性症候群が疑われたら原則入院とし、十分な点滴やダントロレンというお薬の投与などを行う必要があります。

Ⅵ.ふらつき

クレミンは時にふらつきを起こすことがあります。

ふらつきが生じる機序はいくつかあります。お薬の作用でアドレナリン受容体がブロックされると血圧が下がってしまうため、ふらつきの原因となります。

またヒスタミン受容体がブロックされると眠気が生じてふらつくこともあります。

しかしクレミンは、ヒスタミン受容体への作用は少ないお薬ですのでこれらの副作用の頻度は多くはありません。

クレミンによるふらつきの副作用がひどい時は、減薬・あるいは変薬を行います。

ふらつきはお薬で改善させるという方法もあります。特に血圧低下によって生じているふらつきであれば昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)が有効です。しかし血圧を上げるお薬ですので、高血圧の方などは使用する際に注意が必要です。

Ⅶ.体重増加(太る)

体重増加の副作用もクレミンでは多くはありません。

体重増加は精神科のお薬の多くに認められる副作用ですが、その原因はお薬が主にヒスタミン受容体、セロトニン2C受容体をブロックするためだと考えられています。

クレミンはヒスタミン受容体、セロトニン2C受容体にあまり作用しませんので、体重増加の頻度も多くはありません。

しかし、長期間服薬を続けていればクレミンでも徐々に体重増加は生じてしまう事は十分に考えられます。

クレミンで体重増加が生じた時、まず見直すべきは生活習慣の改善です。食生活の偏りや運動不足など、太りやすい習慣がある場合は、まずそちらを是正することで体重の軽減ははかれないかを見ます。

それでも難しい場合は、減薬あるいは変薬です。

現在はクレミンのような第1世代よりも、全体的には副作用が少ない第2世代を使うように推奨されていますが、体重増加の副作用に限って言えば、クレミンよりも第2世代の方が生じやすいことがあります。

第2世代の中でもMARTA(ジプレキサ、セロクエル)などは体重増加の頻度が多いため、体重増加に限って言えば、MARTA以外のお薬が好ましいかもしれません。具体的には、エビリファイ(アリピプラゾール)、ロナセン(ブロナンセリン)、ルーラン(ペロスピロン)辺りが体重増加は比較的起こしにくいと考えられています。

Ⅷ.口渇、便秘(抗コリン作用)

抗コリン作用というのは、アセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる、抗精神病薬の副作用です。抗コリン作用は、お薬がアセチルコリン受容体に結合してしまうことで生じます。

口渇や便秘が代表的ですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。

クレミンの抗コリン作用は弱めであり、これらの副作用の頻度は少なめです。

抗コリン作用への対応策としては

  • クレミンを減量する
  • 他の抗精神病薬(第2世代)に変更する
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する

などの方法があります。

抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、

などが用いられます。

Ⅸ.眠気

眠気は、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。他にもアドレナリン受容体やセロトニン2受容体なども多少関与している考えられています。

クレミンはヒスタミン受容体への影響は少ないのですが、セロトニンへの作用が多少あるため、これによって鎮静がかかり眠気が生じる事があります。

眠気の副作用に対しては、まずは睡眠環境の見直しから行います。睡眠時間がしっかりとれているのか、睡眠の質を下げるようなことをしていないか、などを改めて見直しましょう。

寝床でスマホをいじってる、寝る前にタバコを吸っている、寝る前にアルコールを飲んでいる。

こういった習慣を持っている人は少なくありません。思い当たる原因がある場合は、まずはその習慣を治しましょう。

それでも改善が無い場合は、可能であればおくすりの減薬や変薬が検討されます。しかしどの抗精神病薬でも眠気は起きるため、変薬は慎重に行われます。また、どうしても減薬できない場合はやむを得ず多少の眠気と付き合っていきながら生活せざるを得ないこともあります。

3.他の抗精神病薬とクレミンの副作用比較

クレミンの副作用を見てきましたが、他の抗精神病薬との比較をしてみましょう。

まずは代表的な抗精神病薬の副作用頻度一覧を紹介します。

抗精神病薬EPS、高PRL体重増加ふらつき性機能障害眠気抗コリン作用
コントミン++++++++++++++++++++++
セレネース++++++++++++++
リスパダール++++++++++±
インヴェガ++++++±
ロナセン+++±±±±+
ルーラン++++++±
ジプレキサ+++++++++++++++++
セロクエル++++++++++++++
エビリファイ++±++±±

*EPS・・・錐体外路症状
*高PRL・・・高プロラクチン血症
*抗コリン作用・・・口渇、便秘など

次に第1世代の副作用頻度一覧を紹介します。

抗精神病薬EPS、高PRL体重増加ふらつき性機能障害眠気抗コリン作用
コントミン++++++++++++++++++++++
セレネース++++++++++++++
ヒルナミン/レボトミン+++++++++++++++++++++++

上記にはクレミンの副作用は書いていませんが、同じイミノジベンジル系である「クロフェクトン」とほぼ同じだと考えて頂いて良いでしょう。

第1世代であるため、全体的な副作用は多めです。ドーパミンをブロックする作用が強いためEPS(錐体外路症状)や高プロラクチン血症の頻度も少なくありません。

その他の副作用は少ないのですが、イミノジベンジル系ならではの副作用としての「不穏・興奮」やそこから派生しうる「暴力・自傷行為」などには注意が必要です。

また第1世代の副作用で忘れてはいけないのが「命の関わるような重篤な副作用を生じるリスクがある」という点です。

そのため、現在では第1世代はできる限り処方しないようになっています。