精神科のおくすり(睡眠薬・抗不安薬)の依存性はどれくらい強いのか?

アルコール、睡眠薬などの依存性の強さ比較

精神科のおくすりは、しばしば「依存」が問題になります。

「依存」と言うと、麻薬や覚せい剤をイメージする方は多いかもしれません。そう考えると依存って何だか怖いものだと感じてしまいます。

「依存が怖いからおくすりは飲みたくありません!」と精神科のおくすりを拒否する患者さんも実際にいらっしゃいます。

しかし、依存性のある物質というのは意外と身近にもあります。例えばコーヒーなどに含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチン、それにアルコールなども依存性があることが知られています。

「カフェイン中毒が怖いからコーヒーは飲みません!」「アルコール依存が心配だから飲み会は欠席します!」こんなことを言う人はいないでしょう。同じ依存性のある物質でも、これらは普段何気なく摂取しています。

ではこれらの依存性の強さってどのくらいなのでしょうか。精神科のおくすりの依存性は、他の依存性物質と比べて強いのでしょうか、それとも弱いのでしょうか。

今日は精神科のおくすり(主に睡眠薬・抗不安薬)の依存性の強さについて、他の依存性物質と比較しながら考えてみましょう。

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1.依存性物質にはどんなものがあるか

依存性のある物質は、実はたくさんあります。

ここでは、

Ⅰ.身近にあって誰でも使用できるもの
Ⅱ.医師などの許可のもと、使用できるもの
Ⅲ.違法であり、使用できないもの

に分けて依存性物質を紹介してみましょう。

Ⅰ.身近にあって誰でも使用できるもの

カフェイン、ニコチン、アルコールなどが挙げられます。

カフェインは、コーヒーに含まれていることで有名ですが、紅茶や日本茶、チョコレートなどにも含まれています。コーラなどの清涼飲料水にも含まれているものがあります。

中枢神経を興奮させることによる覚醒作用が有名で「眠気ざましにコーヒーを飲む」などのように眠気を取るために服用されることが多い物質です。他にも強心作用や利尿作用、脂肪燃焼作用などがあると言われています。

ニコチンは、主にタバコに含まれる物質です。ニコチン性アセチルコリン受容体を介して様々な神経に作用します。覚醒作用、鎮静効果をはじめ悪心・嘔吐・めまいなども引き起こします。

また、ニコチンの代謝物には発がん性があると言われており、喫煙は癌の原因になります。

アルコールはお酒に含まれます。その作用機序は全ては解明されていませんが、中枢神経系を抑制させることで催眠作用や抗不安作用を生じます。

少量の摂取であれば、理性をつかさどる大脳皮質を抑制して、気が大きくなったり陽気になりますが、多く摂取すると脳の他の部分も抑制してしまい、ふらつき・転倒を起こしたり、意識レベルを低下させたりすることもあります。

これらの物質は大量に摂取すれば危険ですが、適量摂取であればメリットもあるため、法的な規制はなく、各人の判断のもと自由に入手できるようになっています(タバコ、アルコールは成人のみ入手できます)。

カフェインは適量の摂取であれば、集中力が上がり眠気も取れます。アルコールも適量なら、人間関係を円滑にするツールになり得ますよね。

Ⅱ.医師などの許可のもと、使用できるもの

バルビツール系、ベンゾジアゼピン系薬物、メチルフェニデートなどが該当します。また、一部の麻薬(モルヒネ)なども医薬品として使用することがあります。

バルビツール系は1950年代ころから使用され始めた睡眠薬です。GABA-A受容体を増強することが主な作用機序です。強力な催眠作用があり、不眠に非常によく効きますが副作用も強いことが問題でした。大量に服薬すると致死的になることもあり、依存性も強いと言われています。そのため、現在ではほとんど用いられていません。

ベンゾジアゼピン系は、バルビツール系に代わって使われるようになった睡眠薬・抗不安薬です。バルビツール系と同じくGABA-A受容体を増強することが主な作用機序です。バルビツール系ほどは強く効かないものの、まずまずの効果があって副作用も少なく安全性の高いおくすりです。現在でもよく使われています。

ベンゾジアゼピン系も、バルビツール系ほどではないものの依存性があることが知られています。

メチルフェニデートは、ADHD(注意欠陥性多動性障害)やナルコレプシーの治療薬に使われます。中枢神経刺激薬と言われ、覚醒作用があります。俗にいう「覚せい剤」であるアンフェタミンの類似物質です。覚せい剤に近いため、依存性も強く、医師の処方のもとでのみ使用できます。

モルヒネはアヘン類に属する麻薬の一種です。癌の痛みを抑えるために医師が処方することもありますが、ここではⅢで説明させていただきます。

Ⅲ.違法であり、使用できないもの

違法薬物は年々増えており、すべてを挙げるとキリがないため、代表的なものを紹介します。

有名なものでいうと、

大麻(マリファナ)、コカイン、アヘン類(モルヒネ、ヘロイン、コデインなど)

などがあります。

大麻(マリファナ)は麻に含まれるカンナビノイドが主成分です。多幸感、鎮痛作用、食欲増進などを認め、日本では違法薬物に指定されていますが、海外ではタバコと同じ嗜好品として合法的に入手できる国もあります。依存性はあるものの、強くはないと言われています。

コカインはコカの葉から採れるアルカロイドです。中枢神経刺激作用による覚醒レベル上昇、多幸感、疲労感・空腹感の減少、幻覚などが得られますが、大量投与でけいれんや中枢神経抑制による呼吸筋麻痺がおこり、死に至ることもあります。依存性の強さも問題となっています。

アヘン類はケシの実から抽出されるアルカロイドが主成分です。多幸感や鎮痛作用を得られる一方で、依存性や毒性が強く、致死量も低いため世界的に規制されている薬物です。モルヒネなど一部のアヘン類は、癌患者の痛みを取るために医師の指示のもとで使われることもあります。

2.各依存性物質の依存性の強さ

様々な依存性物質をみてきました。これら依存性物質の依存性の強さは、計ることができるのでしょうか。

同じ依存性物質を同じ量使っても、依存になる人もいればならない人もいます。個体差も大きいため、依存性を数値化としてみることは困難です。

しかし依存性の強さを数値化する試みとして、依存研究で有名な柳田先生が行った研究があります。先生は、アカゲザルというサルの血管にカテーテルを入れ、サルがレバーを押すたびに、薬物がサルの血管に入るような装置を作りました。

この装置では最初は1回レバーを押せば薬物が注入されますが、次は2回押さないといけません。更にその次は4回、8回、16回・・・、と押さなくては薬物は注入されず、薬物がだんだん出にくくなる仕組みになっています。

この時、それぞれの薬物欲しさにサルは最終的に何回までレバーを押すのか、を調べたのがこの研究になります。その回数が多いほど依存性が強いと言える、というわけです。

結果は次のようになりました。

依存性物質レバーを押した回数
カフェイン100回
ニコチン800~1600回
アルコール1600~6400回
ペンタゾシン3200~6400回
ジアゼパム(ベンゾジアゼペン系)950~3200回
モルヒネ1600~6400回
アンフェタミン2690~4530回
コカイン6400~12800回
モルヒネ(身体依存)6400~12800回

(柳田知司.1983より)

この結果を見ると、規制されていない嗜好品(カフェイン、ニコチン、アルコール)の依存性は低いことが分かります。カフェインよりニコチンやアルコールの方が依存性は高く、タバコやお酒が未成年で禁止されているのはこの依存性の高さも理由なのでしょう。

嗜好品の中では、アルコールの依存性は高いと言えます。確かにアルコール依存症はしばしば問題となっていますので納得できる結果です。

しかし世の中の大多数の人は飲酒をしますが依存性にはなっていません。つまり、このレベルの依存性物質でも節度を持って付き合えば依存の危険はそこまで高くはないのです。

睡眠薬・抗不安薬などで用いられるベンゾジアゼピン系薬物の依存性は、アルコールと同じか、若干少ないという結果になっています。

バルビツール系は、この結果には記載されていませんが、ベンゾジアゼピン系より一段階高いと考えていいでしょう。危険性はそれなりにあると分かります。

麻薬のコカイン・モルヒネなどは依存性がかなり高いことも分かります。またこれらの物質は致死量が低いことが問題です。依存になると絶えずその物質を求めるため、次第に服用量が増えていきますが、大量に摂取すると死亡してしまうこともあるため、これらは非常に危険です。絶対に手を出してはいけません。

なお、この研究はサルを対象にした実験であり、人間を対象にしたものではないこと、レバーを押す回数という間接的な指標で依存性を計測していることから、ヒトにおける依存性を正確に反映したものとは言えません。

依存性の強さをみるための指標となるものですが、あくまでも目安としてみてください。

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3.ベンゾジアゼピン系はアルコールよりも安全!?

この研究結果からは、ベンゾジアゼピン系薬物とアルコールの依存の危険性は同程度、と言うことができます。

精神科の診療をしていると、ベンゾジアゼピン系薬物を過剰に拒否する方が時々いらっしゃいます。理由は「依存が怖いから」です。しかしそんな方でも、アルコールは楽しく飲んでいたりします。

これって不思議ですよね。ベンゾジアゼピン系薬物の依存が怖いと拒否するのであれば、同程度の依存性を持つアルコールも拒否すべきですが、現実はそんな状況はほとんど目にしません。アルコールは規制されていないものだから安全なものだろう、ベンゾジアゼピン系は精神科の薬物だから危険なものだろう、という偏見で判断してしまっているのです。

もちろん、おくすりは使わないに越したことはありません。ベンゾジアゼピン系を使わずに治るのであればそれが一番です。

でも、主治医が「あなたはベンゾジアゼピン系を使った方が総合的な治療のメリットが大きいですよ」と言うのであれば、過剰に拒否するのではなく、ぜひ前向きに検討してみてください。

依存性がある精神科のおくすりは怖いと感じるかもしれません。でも、必要な期間だけ、必要な量のみを専門家の指示のもとで使用すればそこまで危険なものではないのです。

少なくとも前述の研究では、依存性の強さに関して言えばアルコールと同じかやや弱いくらいという結果になっています。アルコールと同じで、適度な量・適切な期間にとどめて使用すれば、大きな問題は起こらないことの方が多いのです。

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