ブチロフェノン系抗精神病薬は「抗精神病薬」に属するお薬の一種です。抗精神病薬とは主に統合失調症の治療に用いられるお薬の事で、ドーパミンのはたらきをブロックする作用を持つお薬の総称です。
抗精神病薬は1950年頃から使われている古い第1世代(定型)と、1990年頃から使われるようになった比較的新しい第2世代(非定型)に分けられます。
このうちブチロフェノン系は第1世代に属し、1960年ごろから使われるようになった抗精神病薬になります。古いお薬であり、今となっては副作用の多さが目立ちます。
現在では、より副作用の少ない抗精神病薬(第2世代)がたくさん発売されているため、古いブチロフェノン系が使われる事はあまりありません。しかし中には第2世代がうまく効かないような患者さんもいらっしゃり、そのような方に対してブチロフェノン系は現在でも用いられる事があります。
ブチロフェノン系は古いお薬で副作用も多く、安易に使えるお薬ではありません。しかし長い歴史と実績を持っており、苦しんでいる患者さんの助けになる可能性を秘めた、頼れるお薬の1つです。
ブチロフェノン系はどのような特徴を持つ抗精神病薬なのでしょうか。また使用に際してはどのような事に注意すればいいのでしょうか。
ここではブチロフェノン系抗精神病薬の特徴について紹介していきます。
目次
1.抗精神病薬の歴史と分類
ブチロフェノン系抗精神病薬について詳しく理解するために、まずは「抗精神病薬」について正しく理解しておく必要があります。
抗精神病薬というのはどのようなお薬で、どのような歴史があり、現在ではどのようなお薬が発売されているのかという事をしっかりと理解しておくと、その中でのブチロフェノン系の位置づけがよく分かるようになります。
抗精神病薬とは、主に統合失調症の治療に使われるお薬の総称です。
元々、抗精神病薬は「精神病」に対する治療薬という意味で名づけられました。
「精神病」という病名は昔の医療用語で現在ではほとんど使われていませんが、「幻覚や妄想といった症状をきたしている状態」を当時は「精神病」と呼んでいました。
本来見えないものが見えるようになったり(幻視)、本来聞こえないものが聞こえるようになったり(幻聴)、一般的な常識で考えれば明らかにありえない事を信じ込んでいる(妄想)ような症状をきたしてしまった人に対して、医学が発展していなかった当時は「精神がおかしくなってしまったのだ」と考えられ、「精神の病気」=「精神病」と呼ばれていたのです。
幻覚や妄想は主に統合失調症で生じますが、それ以外にも、
- 双極性障害
- うつ病
- 不安障害、強迫性障害
などの精神疾患で生じる事もあります。
原疾患がどのような疾患であれ、幻覚・妄想をきたす状態は精神病と呼ばれ、精神病を改善させる効果を発揮するのが抗精神病薬なのです。
なので正確に言うと抗精神病薬というのは「精神病を治療するお薬」になるのですが、精神病という概念が今はあまり使われていない事と、精神病の多くは統合失調症である事から「主に統合失調症の治療に使われるお薬」という認識で良いでしょう。
抗精神病薬にもいくつかの種類がありますが、共通しているのはどれも「脳のドーパミンのはたらきをブロックする」作用を持っている事です。これはブチロフェノン系に限らず全ての抗精神病薬に共通する特徴です。
統合失調症の原因の一つとして、脳のドーパミンが過剰に分泌されてしまっている事が指摘されています(ドーパミン仮説)。
ここから統合失調症を治療するためにはドーパミンのはたらきをブロックすれば良いという考えが生まれました。この考えに基づき、すべての抗精神病薬は基本的にはドーパミンのはたらきをブロックする作用を持っているのです。
抗精神病薬を大きく分類すると、1950年ごろから使われている古い第1世代抗精神病薬と、1990年ごろから使われている比較的新しい第2世代抗精神病薬に分けられます。
第1世代は古い抗精神病薬で、現在ではあまり使われることはありません。「フェノチアジン系」と呼ばれるドーパミン以外にも様々な受容体をブロックする作用に優れるお薬と、「ブチロフェノン系」と呼ばれるドーパミンのみを選択的にブロックする作用に優れるお薬があります。
第1世代はドーパミンをブロックする事で、主に統合失調症の急性期に生じる陽性症状を改善する作用に優れます。
【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。
しかし、第1世代は統合失調症の慢性期に認められる陰性症状や認知機能障害にはほとんど効きず、むしろこれらの症状に関しては悪化させてしまう事もあります。
【陰性症状】
本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下してこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。
【認知機能障害】
認知(自分の外の物事を認識すること)に関係する能力に障害を来たすことで、情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認めること。
統合失調症は急性期は陽性症状が目立つのですが、疾患の経過全体を見れば陰性症状・認知機能障害と付き合っていく期間の方が長いため、これらの症状に効果がないというのは問題でした。
また第1世代は古いお薬で精度が低いため、副作用の頻度も多く認められました。更に問題であったのが、
- 悪性症候群(高熱、筋破壊で死に至ることもある危険な副作用)
- 心室細動・心室頻拍(命に関わることもある重篤な不整脈)
- 麻痺性イレウス(腸がまったく動かなくなってしまう副作用)
など、頻度は稀ながらも重篤な副作用が生じる危険もありました。
そのため、効果の改善と副作用の軽減のために開発されたのが、第2世代抗精神病薬です。
第2世代は1990年頃より使われるようになった比較的新しい抗精神病薬で、現在の統合失調症治療の主流となっている治療薬です。全体的に第1世代よりも精度が高くなっており、副作用が少なく統合失調症を治療することが出来ます。
またドーパミンのみならずセロトニンのはたらきをブロックする事で、統合失調症の陽性症状を改善させるのはもちろんの事、陰性症状や認知機能障害もある程度改善させてくれます。
第2世代には、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)と呼ばれるドーパミンのみを選択的にブロックする作用に優れるお薬、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれる様々な受容体をブロックする作用に優れるお薬、DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)あるいはDPA(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるドーパミンの量を適量に調節する作用に優れるお薬などがあります。
2.ブチロフェノン系の特徴
ブチロフェノン系はどのような特徴を持っている抗精神病薬なのでしょうか。
ブチロフェノン系にもいくつかのお薬がありますが、どれもある程度は共通した特徴を持っています。
まずブチロフェノン系は第1世代抗精神病薬に属します。
第1世代抗精神病薬の特徴として、
- 陽性症状を改善させる作用に優れる
- 陰性症状や認知機能障害には効果がないかむしろ悪化させる
- 全体的に副作用が多い
- 稀に命に関わるような重篤な副作用が生じる
という特徴がありました。
第1世代は、近年主に用いられる第2世代と比べて、陽性症状は改善させる力は遜色ありません。しかし陰性症状や認知機能障害を改善させない(むしろ悪化させる事がある)事、そして副作用が多いという問題があります。
次に第1世代の中でのブチロフェノン系の特徴を見てみましょう。
ブチロフェノン系の特徴として、
- ドーパミン受容体に集中的に作用する
- ドーパミン過剰によって生じる症状(幻覚・妄想)を抑える作用に優れる
- ドーパミン不足によって生じる副作用の頻度が多い
- その他の受容体に作用しにくいため、それによって生じる副作用は少ない
といった事が挙げられます。
第1世代は主に「フェノチアジン系」と「ブチロフェノン系」の2つに分けられます。
簡単に言うと、フェノチアジン系はドーパミン以外にも様々な受容体に作用するお薬です。そのため陽性症状を改善させる以外にも様々な効果・副作用が生じやすく、またドーパミンだけを強くブロックしないため、ドーパミン欠乏の副作用を起こしにくいという特徴があります。
対してブチロフェノン系はドーパミンを集中的に狙うお薬です。そのため陽性症状を改善させる作用はとても強力ですが、ドーパミンをブロックしすぎてドーパミン欠乏の副作用を生じさせやいという特徴があります。またそれ以外の受容体にほとんど作用しないため、陽性症状改善以外の効果・副作用は少なくなります。
より具体的に見ていくとブチロフェノン系は、ドーパミンを強力にブロックする事で、幻覚妄想といった陽性症状(ドーパミン過剰で生じる症状)を強力に改善させます。一方でドーパミンをブロックしすぎてしまう事で、ドーパミン欠乏によって生じる副作用である錐体外路症状や高プロラクチン血症などを起こしやすくなります。
【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンのブロックによって生じる神経症状。手足のふるえやムズムズ、不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)などが生じる。
【高プロラクチン血症】
脳のドーパミンをブロックすることでプロラクチンというホルモンが増えてしまう事。プロラクチンは本来は産後の女性が乳汁を出すだめに分泌されるホルモンであり、これが通常の方に生じると乳房の張りや乳汁分泌などが生じ、長期的には性機能障害や骨粗しょう症、乳がんなどのリスクとなる。
フェノチアジン系はドーパミン以外にも、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、ムスカリン受容体にも作用し、これによって、
- ヒスタミン受容体がブロックされると眠気や食欲亢進が生じる
- アドレナリン受容体がブロックされるとふらつきや鎮静が生じる
- ムスカリン受容体がブロックされると抗コリン症状(口喝、便秘、尿閉など)が生じる
といった効果や副作用が生じます。これは不眠改善、興奮抑制、食欲改善などの良い作用となるものもありますが、体重増加やふらつき、倦怠感などの悪い作用となる事もあります。
ブチロフェノン系はこれらの受容体にあまり作用しないため、このような付加的な作用は得にくくなります。
以上からブチロフェノン系の特徴をまとめると、次の事が挙げられます。
- 副作用の多い第1世代であり、現在ではあまり用いられない
- 陰性症状や認知機能障害を改善させる作用はない(むしろ悪化させる事もある)
- 時に重篤な副作用が生じるリスクがある
- ドーパミン受容体に集中的に作用する
- ドーパミン過剰によって生じる症状(幻覚・妄想)を抑える作用に優れる
- ドーパミン不足によって生じる副作用の頻度が多い(錐体外路症状、高プロラクチン血症など)
- その他の受容体に作用しにくいため、それによって生じる副作用は少ない
3.ブチロフェノン系にはどのようなお薬があるのか
ブチロフェノン系抗精神病薬は現在ではあまり用いられていないものの、第2世代が誕生する前までは統合失調症治療の主力選手の1つでした。
そのため、今でもいくつかのお薬が発売されており、患者さんによっては慎重に使用される事があります。
主なブチロフェノン系抗精神病薬について、1つずつ詳しく見ていきましょう。
Ⅰ.セレネース
セレネース(一般名:ハロペリドール)は1964年に発売されたもっとも古いブチロフェノン系抗精神病薬です。
幻覚・妄想といった陽性症状を抑える作用に非常に優れるため、現在でも難治性の統合失調症の方に使われる事があります。
ただし、その分ドーパミン欠乏による錐体外路症状、高プロラクチン血症の副作用も生じやすいため、注意が必要になります。
幻覚・妄想といった陽性症状に鋭く効くセレネースは、第2世代では効果不十分であり、幻覚・妄想が顕著な方に向いているお薬となります。
Ⅱ.プロピタン
プロピタン(一般名:ピパンペロン塩酸塩)は1965年に発売されたブチロフェノン抗精神病薬です。
プロピタンもブチロフェノン系ですので、幻覚妄想を抑える作用に優れるのですが、ブチロフェノン系の中では効きが穏やかなお薬になります。
効果も穏やかで幻覚・妄想をマイルドに抑えてくれます。また副作用も穏やかになり、高齢者や体力が低下している方がブチロフェノン系を使わざるを得ない時にも比較的使用しやすいお薬になります。
幻覚・妄想を主としながらも、ブチロフェノン系の副作用が強力に出てしまうと困るような方に使われる事があります。
Ⅲ.トロペロン
トロペロン(一般名:チミペロン)は1984年に発売されたブチロフェノン系抗精神病薬です。
トロペロンもブチロフェノン系の特徴通り、ドーパミンをブロックする作用が強力で、幻覚・妄想といった陽性症状を改善させる作用に優れます。
更にブチロフェノン系の中では新しい部類に入るため、若干第2世代に近い特徴を持っており、陰性症状に多少効果が認められる可能性があります。これはトロペロンがドーパミンの他、多少ですがセロトニンをブロックする作用も持つためです。
ドーパミンとセロトニンを選択的にブロックする抗精神病薬というと、第2世代のSDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)があります。
トロペロンは第1世代ですが、ややSDAよりの抗精神病薬と言えるでしょう。
またトロペロンはメタンフェタミンやアポモルフィンという覚醒系物質をブロックする作用があり、これによって鎮静作用が期待できますので、興奮状態の方や易怒性の強い方(怒りっぽくなっている方)にも適しています。
Ⅳ.インプロメン
インプロメン(一般名:ブロムペリドール)は1986年に発売されたブチロフェノン系抗精神病薬です。
インプロメンはセレネース(一般名:ハロペリドール)の改良薬になります。特徴はセレネースと似ていて、幻覚・妄想といった陽性症状を抑える作用に非常に優れます。
具体的にセレネースをどう改良したのかというと、セレネースと比べてより即効性に優れ、より持続力があるお薬となっています。
多くのブチロフェノン系が1日数回に分けて服用する必要がありますが、インプロメンは作用時間が長いため1日1回の服用となります。
統合失調症は病識(自分が病気だという認識)がない方が多いため、服用に手間がかかるお薬だと、服用をやめてしまう患者さんは少なくありません。このような方には1日に1回で済むお薬が適しています。
また、ゆっくり長く効く分、若干ですがセレネースと比べると副作用も軽減されています。
4.ブチロフェノン系はどのような機序で効果を発揮するのか
ブチロフェノン系抗精神病薬はどのような作用機序を持っているのでしょうか。
ブチロフェノン系の主な作用機序は、脳神経においてドーパミン受容体をブロックする事で、ドーパミンのはたらきを抑える事です。
抗精神病薬はドーパミンのはたらきをブロックするのが主なはたらきです。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されて起こるという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを抑える作用を持ちます。
抗精神病薬の中でもブチロフェノン系は、集中的にドーパミンのみをブロックする作用に優れ、その他の受容体にはあまり作用しません。
例えばフェノチアジン系などの他の抗精神病薬は、
- ドーパミンをブロックする事による幻覚・妄想の改善
- セロトニンをブロックする事による陰性症状の改善、性機能の低下
- ヒスタミンをブロックする事による催眠、食欲亢進
- ノルアドレナリンをブロックする事による鎮静
- アセチルコリンをブロックする事による口喝、便秘など
といった様々な作用が得られますが、ブチロフェノン系は1番目のドーパミンをブロックする作用が主になり、その他の作用はほとんどないか、極めて弱くなります。
そのため、幻覚・妄想といった陽性症状のみをしっかりと改善させたい場合に適しています。
5.ブチロフェノン系が効果を認める疾患は
ブチロフェノン系は抗精神病薬に分類されるため、主に統合失調症に対して使用されるお薬です。しかしそれ以外の疾患に用いられる事もあります。
ブチロフェノン系が効果を認める疾患について紹介します。
Ⅰ.統合失調症
統合失調症は、脳神経からドーパミンが過剰に分泌されてしまう事で幻覚や妄想といった陽性症状、無為・自閉・感情平板化といった陰性症状が生じる疾患です。
少なくともドーパミンが過剰になっている事が一因だと考えられているため、ドーパミンのはたらきをブロックする抗精神病薬が効果を示します。
統合失調症の治療薬としては、現在では第2世代抗精神病薬を用いる事がほとんどですが、何らかの理由により第2世代が使用できない時、ブチロフェノン系抗精神病薬が検討される事もあります。
陽性症状の改善に優れますので、幻覚・妄想といった陽性症状が前景に立っている統合失調症に適しています。
Ⅱ.双極性障害
双極性障害(いわゆる躁うつ病)にブチロフェノン系抗精神病薬が用いられることもあります。
双極性障害にうち、主に躁状態では、幻覚や妄想といった精神病症状が認められる事があり、これはドーパミンが一因となっている事が指摘されています。
このような場合、ドーパミンをブロックする作用に優れるブチロフェノン系は効果があります。
ただし現在では安全性の高い第2世代の抗精神病薬からまず用いられる事が一般的です。
Ⅲ.うつ病
うつ病に対しては、抗うつ剤が用いられるのが一般的です。
しかしうつ病でも幻覚や妄想といった精神病症状を伴う事があり、このような精神病症状を伴ううつ病にはドーパミンをブロックする作用に優れるブチロフェノン系が効果が期待できます。
ただし本来はうつ病に使うお薬ではありませんので、安易に使用すべきではなく、使用は有益性があると判断される場合に限られます。
また、うつ病においても現在では安全性の高い第2世代の抗精神病薬からまず用いられる事が一般的です。
Ⅳ.不安障害(不安症)
パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害や恐怖症など、「不安」や「恐怖」が原因となっている疾患にもブチロフェノン系が使われる事があります。
これらの疾患は総称して「不安障害(不安症)」と呼ばれます。
不安障害に対して不安を改善させるお薬は基本的には「抗うつ剤」になり、ブチロフェノン系は不安を改善させるために用いられるわけではありません。
不安が顕著に悪化すると、幻覚・妄想といった精神病症状が認められる事があり、このような場合は精神病症状を抑えてあげた方が不安も改善すると考えられるため、ブチロフェノン系が用いられる事があります。
ただし現在では安全性の高い第2世代の抗精神病薬からまず用いられる事が一般的です。
6.ブチロフェノン系以外の抗精神病薬について
ブチロフェノン系抗精神病薬以外にも抗精神病薬にはいくつかの種類があります。
ブチロフェノン系以外の抗精神病薬にはどのようなものがあるのでしょうか。
それ以外の抗精神病薬の特徴について簡単に紹介します。
Ⅰ.フェノチアジン系
フェノチアジン系もブチロフェノン系と同じく、第一世代の抗精神病薬です。
その歴史はブチロフェノン系より古く、1950年頃から使われるようになった最古の抗精神病薬です。
古いお薬であるため、ブチロフェノン系と同じく全体的に副作用が多い傾向があります。
またブチロフェノン系と同様に、
- 悪性症候群
- 麻痺性イレウス
- 重篤な不整脈
などの重篤な副作用が生じうる可能性もあります。
ブチロフェノン系との違いは、フェノチアジン系はドーパミン以外にも様々な受容体に作用するのに対し、ブチロフェノン系は比較的ドーパミン受容体に集中的に作用するという点です。
そのため、フェノチアジン系は、幻覚妄想といった陽性症状を抑える作用以外にも様々な作用が期待できます。一方で様々な副作用のリスクもあります。
具体的には、
- ヒスタミン受容体がブロックされると眠気や食欲亢進が生じる
- アドレナリン受容体がブロックされるとふらつきや鎮静が生じる
- ムスカリン受容体がブロックされると抗コリン症状(口喝、便秘、尿閉など)が生じる
などがあります。
一方でドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症)などは、ブチロフェノン系と比べると少なめです。
ドーパミン以外の様々な受容体に作用するため、睡眠の改善や興奮の鎮静、食欲の改善などを狙って投与される事があります。
代表的なフェノチアジン系には、
- コントミン(一般名:クロルプロマジン)
- ヒルナミン・レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
- フルメジン(一般名:フルフェナジン)
- ピーゼットシ一・トリラホン(一般名:ペルフェナジン)
- ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
- ニューレプチル(一般名:プロペリシアジン)
などがあります。
Ⅱ.SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)は第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。
その名の通り、主に、
- ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
- セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)
といった作用を持ちます。
SDAは第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。
また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状や認知機能障害にも多少効果を発揮します。
第2世代の中では、セロトニン受容体とドーパミン受容体に集中的に作用するため、ブチロフェノン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。
代表的なSDAには、
- リスパダール(一般名:リスペリドン)
- ロナセン(一般名:ブロナンセリン)
- ルーラン(一般名:ペロスピロン)
などがあります。
Ⅲ.MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)
MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)も第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。
その名の通り、様々な受容体に作用し、
- ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
- セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)
- ヒスタミンをブロックする事による催眠、食欲亢進
- ノルアドレナリンをブロックする事による穏やかな鎮静
といった効果が期待できます。
MARTAも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。
また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。
第2世代の中でも、様々な受容体に幅広く作用するため、フェノチアジン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。
代表的なMARTAには、
- ジプレキサ(一般名:オランザピン)
- セロクエル(一般名:クエチアピン)
- シクレスト(一般名:アセナピン)
- クロザリル(一般名:クロザピン)
などがあります。
Ⅳ.DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)
DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)はDPA(ドーパミン部分作動薬)とも呼ばれ、第2世代抗精神病薬に属するお薬です。2006年頃から使われるようになりました。
DSSは「ドーパミンの量を適切に調整する」という作用を持ちます。
強制的にドーパミンをブロックするわけではないため、ドーパミンをブロックしすぎる事による副作用なども少なく、安全性に優れるお薬です。
DSSも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクは少なくなっています。
統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。
代表的なDSSには、
- エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)
があります。