私たちの身体には体内時計が備わっています。
この体内時計が正常に作動していると、適切な生体リズムが作られます。私たちは社会において24時間を1サイクルとして活動していますが、これは体内時計がそのようなリズムを作ってくれているからなのです。毎日同じ時間に起きて、同じ時間に職場や学校に行き、同じ時間に眠ることが出来るのは、体内時計のおかげです。
反対に、何らかの理由で体内時計のリズムが崩れてしまうと、夜に眠りたいのに眠れなくなったり、日中に集中したいのに眠気が強くなったりと、生活に様々な支障をきたすようになります。
体内時計はホルモンや神経など様々なものによって調整されています。しかし、中でも体内時計の調節に一番重要な要素は「光」だと考えられています。光を浴びることによって体内時計が適切に調整され、その結果私たちは規則正しく生活できているのです。
この体内時計と光の仕組みが分かると、良い睡眠を得るためのヒントを得ることが出来ます。
眠れなくて悩んでいる方、あるいは日中に眠気が強いという方は、体内時計が不調になっている可能性があります。
今日は体内時計を正常に作動させるために効果的な光の浴び方について考えてみましょう。
1.光と体内時計の関係
体内時計は光によって調整されることが知られています。
では体内時計と光は具体的にはどのような関係があるのでしょうか。
基本的には光は、私たちの脳に2つのはたらきをもたらします。
それは、
- 脳を覚醒させる
- 体内時計を変化させる
という2つのはたらきです。
まず、光には脳を覚醒させるはたらきがあります。
「朝日を浴びて目が覚めた」「夜に明るい部屋に居たら眠れなくなってしまった」という経験は誰でもあるでしょう。「光を浴びると覚醒する」というのは自身の経験として納得しやすいのではないでしょうか。
しかし光のはたらきはそれだけではありません。
実はもう1つの重要なはたらきとして、光は体内時計を早めたり遅らせたりするはたらきがあります。そして早めるか遅らせるかは、光を浴びる時間帯によって異なってきます。
早朝~朝にかけて光を浴びると、体内時計が前進します。
反対に夕方~深夜にかけて光を浴びると、体内時計が後退します。
この事実を知っていると、意識的に体内時計を調節できるようになります。それはつまり、規則正しい生活を得られやすくなるという事です。
1日の長さは24時間と決まっていますが、実は私たちの体内時計は約25時間のサイクルだと言われています。つまり、体内時計だけに従って毎日を生活してしまうと、毎日1時間ずつずれていってしまうのです。なのになぜ、多くの方が1日24時間単位で生活できているかというと、朝日を浴びることによって毎日体内時計を前進させているからなのです。
2.体内時計に影響を与える光の種類とは
光と生体リズムの関係をお話ししました。光は脳を覚醒させたり、体内時計に影響を与え、私たちの生活リズムに大きく関係しています。
しかし実は全ての光が同じように生体リズムに影響を与えるわけではありません。
光は波長によって分けられます。そして、その種類によって作用は異なるのです。
体内時計との関係で重要な光は、可視光線の中でもっとも波長が短い「青白光」です。これはいわゆる「ブルーライト」と呼ばれる光です。
青白光は波長が短いため、可視光線の中で強いエネルギーを持っています。そのためブルーライトは眼球の奥にある網膜にまで届き、網膜に存在する「光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)」を刺激します。ipRGCは体内時計の調整に関わっている細胞であり、これにより体内時計に影響を及ぼします。
つまり、光の中でも特に青白光(ブルーライト)が脳の覚醒と体内時計の調整に強く影響しているという事です。
ブルーライトは太陽光にも含まれていますが、それ以外にも人工的な光にも多く含まれています。具体的には、蛍光灯(特にLED)、テレビ、ゲーム機、スマートフォンなどの液晶画面から多く発されています。このような光も覚醒と体内時計の調整に影響を与えているという事です。
反対に波長の長い光である赤色や黄色の光は、このような作用が少ないことが分かっています。
3.体内時計を整える光の浴び方とは
光は体内時計の調節に大きな役割を果たしています。
という事は光と体内時計の関係を正しく理解すれば、夜にぐっすり眠り、日中に集中して活動し、規則正しい生活を送れるという事です。
光と体内時計の関係についてお話してきましたが、具体的にどうすれば体内時計を安定させ、規則正しく毎日を送ることが出来るのかを考えてみましょう。
Ⅰ.朝日を浴びる
まず一番大切なのは朝日を浴びることです。
朝日を浴びる目的は2つあります。
それは、
- 光の刺激によって脳を覚醒させること
- 約25時間周期の体内時計を約1時間前進させること
です。
光は脳を刺激し、覚醒させるはたらきがあります。朝に光を浴びることで覚醒度・集中力が上がり、日中に効率よく活動できるようになります。日中に集中すれば心身も疲労するため、夜も質の良い睡眠を得やすくなります。
また、先ほども説明したように早朝~朝の光は体内時計を前進させるはたらきがあります。これによって約25時間サイクルの体内時計を1時間前進させ、24時間周期の毎日に合わせることが出来るのです。
天気の良い日に朝日を浴びるのはもちろんですが、天気が悪い日でも、光はある程度は発されていますのでやはり朝は外に出て光を浴びることが大切です。
理論的には太陽光でなくて、青白光でも良いという事になりますが、日常で使うような蛍光灯やテレビなどから発される光の照度は太陽光と比べると極めて弱いため、力不足になってしまいます。何も浴びないよりは室内で青白光を浴びる方が良いでしょうが、やはりベストは太陽光を浴びることです。
参考までに太陽光はどんなに天気が悪くても10,000ルクスはあります。一方で室内の蛍光灯の光などはどんなに明るくても500ルクス程度だそうです。
Ⅱ.日中も日の光をなるべく浴びる
日中も出来るだけ、日の光は浴びた方が良いでしょう。
日中に光を浴びても体内時計を前進させたり後退させたりする作用はありません。そのため、光を浴びたからといって体内時計が前進しすぎてしまうという心配はいりません。日中に光を浴びることは、単に覚醒度を上げるという作用になります。
多くの方は日中に集中すべき作業をしていますので、日中の覚醒度が上がるのは良いことです。このような日中の覚醒度の上昇は夜間の睡眠の質を上げてくれることが分かっています。
Ⅲ.夕日は浴びすぎない
夕方に光を浴びると、体内時計が多少後退してしまいます。という事は、体内リズムだけを考えれば、夕日は長くは浴びすぎない方が良いことが分かります。
もちろん夕日を全く浴びてはいけないというわけではありません。現実的に夕方に外に出なくてはいけない人もいるでしょう。
そのため夕日を強く、長時間浴びるのは避けるという程度で良いでしょう。
Ⅳ.夜は青白光を避ける
夜間~深夜の青白光は、体内時計を大きく後退させるはたらきがあります。
夜は太陽光は出ていませんので、問題となるのは人工的な光になります。夜間は蛍光灯やテレビ、スマートフォンなどから発されるブルーライトはなるべく浴びるべきではないでしょう。
太陽光と比べると、これらから発される光の照度がいくら弱いとは言っても、夜間(特に遅い時間)のブルーライトの暴露は、体内時計を大きく後退させますので、弱い光であっても影響してしまいます。
全くテレビをみない、まったくスマートフォンに触らない、というのは現実的ではないかもしれませんが、
- 夜は部屋の明かりはLED灯ではなく白熱灯にする
- テレビやスマートフォンは就寝の2時間前までにする
- 夜にテレビを見る時はブルーライトカットの眼鏡をかける
など、工夫できる範囲で工夫をすることが大切です。
このようなちょっとした工夫を続けるだけでも体内時計が適切に調節され、夜にぐっすりと眠り、日中はしっかりと覚醒するという生活が得られるようになります。