レキソタン錠(一般名:ブロマゼパム)は1977年から発売されているお薬で、「抗不安薬」に属するお薬になります。
抗不安薬は文字通り、不安を和らげる作用を持つお薬の事で、「安定剤」「精神安定剤」と呼ばれる事もあります。
レキソタンは強い抗不安作用を持つため、とても頼りになる抗不安薬ではありますが、一方で強力であるため副作用にも注意が必要なお薬になります。
ここではレキソタンの効果や特徴、また他の抗不安薬との比較などを紹介させて頂きます。
1.レキソタンの特徴
まずはレキソタンというお薬の特徴についてみてみましょう。
レキソタンは「ベンゾジアゼピン系」に属するお薬になります。現在使われている抗不安薬はほとんどがベンゾジアゼピン系であり、レキソタンもそのひとつです。
ベンゾジアゼピン系には、
- 抗不安作用(不安を和らげる作用)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす作用)
- 催眠作用(眠くなる作用)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える作用)
という4つの作用を持つことが知られています。
それぞれの強さは抗不安薬によって異なりますが、レキソタンはと言うと、
- 強い抗不安作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
を持っています(個人差もありますので、あくまで目安になります)。
レキソタンの最大の特徴は強力な抗不安作用です。
「レキソタンが抗不安薬の中で最強」「レキソタンが一番効く」と評価する医師・患者さんも少なくありません。レキソタンの抗不安作用は強く、不安が強い患者さんにおいて非常に頼れるお薬となります。
また即効性に優れるのもレキソタンが支持される理由の1つです。レキソタンは服薬後約1時間で血中濃度が最大となり、これは抗不安薬の中でも速い部類に入ります。体感的には服薬して15分~20分くらいで効果を感じられるため、「いざという時にすぐに使えるお薬」としても重宝します。
しかし効果が強いという事は副作用も出やすいという事で、副作用には注意が必要なお薬でもあります。
具体的には、
- 筋弛緩作用によってふらつきや転倒が生じる
- 催眠作用によって眠気、倦怠感、集中力低下、物忘れが生じる
などといった副作用が生じる可能性があります。
また「耐性」「依存性」の副作用もしばしば問題となります。
【耐性】
お薬の服薬を続けていくうちに、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。
【依存性】
お薬の服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。
ベンゾジアゼピン系のお薬はすべて耐性・依存性がありますが、効果が強いお薬ほど耐性・依存性も生じやすい事が分かっています。
レキソタンは効果が強いため、つい頼ってしまいやすいお薬です。そのため安易な服用を続けてしまい、その結果として耐性・依存性が生じてしまう危険性があります。
特に大量の服薬や長期の服薬を続けていると耐性・依存性が形成されやすくなってしまうため注意が必要です。耐性・依存性を生じさせないためにもお薬の量はなるべく少量・短期間になるようにし、漫然と飲み続けないようにしなければいけません。必ず医師の指示を守って、決められた量の内服にとどめることが非常に大切です。
以上からレキソタンの特徴として次のようなことが挙げられます。
【良い特徴】
- 強力な抗不安作用
- 筋弛緩作用により、肩こりや筋緊張性の頭痛にも効果がある
- 速効性に優れる
【悪い特徴】
- 眠気やふらつきが強め
- 耐性・依存形成もやや多め
「効果が強くて頼れるお薬だけど、副作用にも注意が必要」
ざっくりとした表現ですが、これがレキソタンの特徴になります。
2.レキソタンの強さはどのくらいか-他剤との比較-
抗不安薬には、たくさんの種類があります。
それぞれ強さや作用時間が異なるため、医師は患者さんの状態によって最適な抗不安薬を選んでいきます。抗不安薬の中で、レキソタンを使うのはどのような場合が適しているのでしょうか。
主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下図のようになります。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
ここからも分かるように、抗不安薬の中でもレキソタンの抗不安作用(不安を和らげる作用)は強力です。また即効性にも優れ、服薬後1時間で血中濃度は最大に達します。
強い抗不安作用を持つレキソタンは、他の抗不安薬では効果が不十分である方や不安が強い方に用いられるお薬になります。
また即効性があることから、定期的に服薬する飲み方の他、不安が強まった時に頓服として飲むという飲み方も適したお薬になります。
3.レキソタンはどのような疾患に使うのか
レキソタンはどのような疾患に対して用いられるのでしょうか。
レキソタンの適応疾患を添付文書を見ると、
●神経症における不安・緊張・抑うつ及び強迫・恐怖
●うつ病における不安・緊張
●心身症(高血圧症、消化器疾患、自律神経失調症)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ及び睡眠障害
●麻酔前投薬
添付文書には難しい用語で書かれていますが、ざっくりいうと不安や恐怖・強迫を和らげるために使用するという認識で良いでしょう。
具体的には、不安感が強く、それが正常なレベルを超えていて生活に様々な支障が出ている場合に用いられます。また恐怖や強迫が強く、同様に様々な支障が出ている場合にも使われます(強迫:自分でもおかしい事だと分かっているのに、特定の観念や行為にとらわれてしまう事)。
ちなみに正常な方にも多少の不安はあることが普通ですが、そのような「正常範囲内の不安」に用いる事はありません。
正常範囲内の不安にも抗不安薬は効果はあります。確かに不安は軽減するでしょう。しかし健常者に使ってしまうと、不安を和らげるメリットよりも依存などの副作用のデメリットの方が大きいため、総合的に考えると使用すべきではないのです。
不安感があり、医師が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断された場合はレキソタンなどの抗不安薬が使われます。
疾患で言えば、パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏、強迫性障害などの不安・恐怖が出る疾患には良く用いられます。また、うつ病や統合失調症などでも不安が強い場合は補助的に使用されることがあります。
4.レキソタンが向いている人は?
レキソタンの最大の特徴は「強力な抗不安作用」です。しかし効果が強い分、副作用も強く出てしまう可能性のあるお薬です。
そのため「不安感がとても強く、他の抗不安薬では不十分な方」が使うべきお薬になります。
その強力な抗不安作用から、一番最初に用いるというよりは、他の抗不安薬を使っても効きが不十分な時、「もう少し強いものを」という時に候補に挙がる抗不安薬です。
副作用として催眠作用による眠気、筋弛緩作用によるふらつきや転倒の可能性があるため、特に高齢者に使う際には、細心の注意を払う必要があります。なるべく低用量からはじめるようにしましょう。
ただし、これはあくまでも一般論であり例外も多々あります。医師が診察した結果、「これは最初からレキソタンを用いた方がよい」というケースもあるし、高齢者にレキソタンを使わざるを得ない事もあります。このあたりは主治医とよく相談し、主治医の指示に従うようお願いいたします。
また、レキソタンは即効性に優れるという特徴があります。飲んでから血中濃度が最大になるまで薬物動態的には約1時間であり、これは抗不安薬の中でも速い方になります。
参考までに、よく使われる抗不安薬の最高血中濃度到達時間をみてみると、
- ワイパックス:2時間
- ソラナックス:2時間
- セルシン :1時間
- デパス :3時間
となっており、レキソタンが即効性に特に優れるのが分かると思います。臨床的な体感としては内服後15~20分もすれば効果が感じられます。
そのため不安なイベントや緊張するイベントの前に飲むといった頓服的な使い方もできます。ただし半減期(お薬の作用時間の目安となる値)は20時間とやや長めであるため、注意が必要です。即効性はあるんだけど、その後もある程度長く効き続けてしまうため、頓服として使う場合は、本当にレキソタンで合っているのか、主治医とよく相談して決めましょう。
レキソタンは「患者さん受け」は良いお薬です。飲めば強力な抗不安作用によって辛かった不安症状が和らぐわけですから「先生が出してくれたお薬のおかげで良くなりました!」と感謝されます。このように短期的に見ればレキソタンは良いお薬です。
しかしだからといって安易に処方して良いお薬ではありません。私たち医師の立場から言うと、むしろ「やむを得ない場合に限り処方するお薬」になります。
長期的に見ると、レキソタンに慣れてしまうとレキソタンが無くなった途端に強い不安感に襲われるようになります。レキソタンは抗不安作用が強いため、効果が切れた時の反動も大きいためです。こうなると、レキソタンを手放せなくなってしまいます。これはレキソタンに依存しているという事になります。このように強い効果を持つ抗不安薬は依存しやすい傾向があるのです。
また耐性が生じて必要なレキソタンの量がどんどん増えてしまうとやっかいです。レキソタンは最強クラスの抗不安作用を持つため、レキソタンも効かなくなってしまうと、次の手がなくなってしまうのです。こうなってしまうと「どの抗不安薬も効かない」という状態になってしまい、患者さんは非常に苦しい思いをすることになります。
レキソタンは強い抗不安作用を持つため、使いどころを間違えなければ患者さんを大きく助けてくれるお薬なのは間違いありません。しかし安易に処方・服薬しないように注意は必要です。
5.レキソタンの作用機序
レキソタンは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬です。レキソタンに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。
ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体という部位に作用することで、先ほど説明した抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用を発揮します。
ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安効果が特に強いものが「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼ばれ、レキソタンもそのひとつになります。
レキソタンは、先ほども書きましたが、
- 強い抗不安効作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
を持っています。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち、特に催眠作用が強いものを「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼びますす。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの効果が全てあります。ただ、それぞれの強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。
それぞれお薬の特徴をしっかりと理解し、自分に合ったお薬を選択することが良い治療のためには大切です。