アスペルガー症候群の「3つ組の障害」とその他認められる症状

アスペルガー症候群は自閉症スペクトラム障害に属する概念であり、知能に低下は認めないものの、主に対人関係やコミュニケーションを苦手とする特性を持ちます。

アスペルガー症候群は近年広く知られるようになってきており、その症状についても少しずつ理解されるようになってきました。

しかし「コミュニケーションが苦手」「空気が読めない」という代表的な症状のみしか理解されていない事が少なくありません。もちろんこれらの症状も重要なのですが、それ以外にもアスペルガー症候群の方に認める症状はあります。

症状を詳しく知る事は、アスペルガー症候群の方との良い付き合い方を知るために大切なことです。また、アスペルガー症候群の方本人にとっても、自分の特性をふり返ることができ、これからの人生において上手に工夫できるようになるきっかけにもなります。

今日はアスペルガー症候群の方によく見られる症状について紹介します。

1.アスペルガー症候群の中核症状、「3つ組の障害」

アスペルガー症候群には、特徴的な3つの症状があります。これは「3つ組の障害」と呼ばれることもあります。「3つ組の障害」というのは、自閉症スペクトラム障害という概念を提唱したWingというイギリスの精神科医が発表したものです。

まずはアスペルガー症候群に特徴的な3つ組の障害についてみてみましょう。

Ⅰ.社会性の障害

対人関係の障害とも言えます。かんたんにいうと、適切な仲間関係を作ることが苦手であり、そのために学校や職場などの社会的な生活になじめないという症状になります。

アスペルガー症候群の方は、共感したり「気持ちを分かち合う」ことが苦手であり、「相手の立場になって考えてみる」という事も不得意であるため、対人関係がうまくいかない事が多く、孤立しやすい傾向があります。

診断基準などでは「社会性の質的な障害」と書かれており、「質的」の意味がよく分からないという質問を時々いただきます。

質というのは、「『量』ではなく『質』に問題が生じている」という意味になります。

つまり対人関係が「多い」「少ない」といった量に問題があるわけではありません。アスペルガー症候群の方は「対人関係を避ける」「孤独が好き」と誤解されますが、そうではありません。障害の本質は「量」ではないのです。

対人関係の「質」、つまり対人関係能力の低さがあるという事です。「対人関係を避ける」「孤独を好む」という対人関係の量が少なくなるのは、対人関係の質の障害によって生じた、二次的な結果に過ぎません。

Ⅱ.コミュニケーションの障害

コミュニケーションというのは、Ⅰ.の「対人関係の障害」とも重複する点がありますが、この項目で主に重視するのは「意志伝達」が上手に行えないという事になります。

知識として「言葉」の理解は正常なのですが、用語を定義通りにしか使用できないことが多く、冗談や皮肉、例えなどの意味を理解することが苦手になります。

特に苦手なのが「非言語的」なコミュニケーションです。その場の雰囲気を読んだりといったことが苦手で、またアイコンタクトや身振り手振りによるコミュニケーションも苦手です。

また、後述の「こだわり」とも関連しますが、コミュニケーションの仕方も自分のやり方にこだわってしまう事があり、他の人から見たら回りくどかったり分かりにくいコミュニケーションを取ってしまう事もあります。

Ⅲ.想像性の障害

想像性というのは、自分とは異なる立場になった事を想像する能力の事です。

アスペルガー症候群の方はこれが苦手になります。

「相手の立場になって考える」という事が難しいため、相手の気持ちを理解できず、これがしばしばトラブルの原因となります。

また子供の時には、「ごっご遊び」が出来ないという症状がみられることがあります。例えば「お花屋さんごっこ」「お医者さんごっこ」などをしようとしても、お花屋さんやお医者さんの立場になって考えて行動することができないのです。

2.その他アスペルガー症候群に認められる症状

先ほど紹介した三つ組の障害は、アスペルガー症候群の方に多く認められる症状です。

しかしそれ以外にも、特徴的な症状がいくつかあります。代表的なものを紹介します。

Ⅰ.こだわりや常同行動

興味が特定のものに著しく偏っていたり、他者から見たら理解できないほどのこだわりを認めることがあります。

これは特定の分野の知識が突出して高くなるという「良い特徴」となることもあります。実際、歴史上の著明な学者・研究者にはアスペルガー症候群だと考えられる人が少なくありません。

しかし反対に、一般的に考えると不合理であったり非効率的だと思われる行動ややり方にこだわり続けてしまう事もあります。

・明らかに遠い経路なのに、その経路を通らないと気が済まない
・食事前に特定の儀式を行わないと気が済まない

などを認めることがあります。

Ⅱ.感覚過敏性

アスペルガー症候群の方は、感覚の過敏性が認められることがあります。

過敏性は様々な感覚に生じます。聴覚が過敏であったり、触覚が過敏であったり、味覚が過敏であったりと様々です。

聴覚過敏では、普通の人が気にならないような音でも耳障りに感じてしまい、特定の場所にいることが苦痛になってしまったりと日常生活に支障を来たすことがあります。

触覚の過敏では、特定の服の「肌触りが不快」などと感じてしまい、服の着心地に対して普通の人には理解できないようなこだわりを認めることがあります。

味覚の過敏から、好き嫌いが非常に多くなるという事もあります。

また、「乗り物酔いしやすい」「お薬が効きやすく、副作用が出やすい」などの過敏性が認められることもあります。

Ⅲ.不器用

アスペルガー症候群の方の中には、運動神経が悪かったり、不器用であったりすることがあります。

アスペルガー症候群の方は、バランス感覚・平衡機能に関係する小脳の体積が少ないなどの脳所見が認められることがあり、これが関係している可能性が指摘されています。

Ⅳ.切り替えが苦手

アスペルガー症候群の方は、複数の作業を同時に行うことが苦手です。

複数の作業を行うためには、ある作業を行って、即座に頭を切り替えて別の作業に移らないといけません。アスペルガー症候群の方はこれが苦手であるため、複数の作業を同時並行しなくてはいけなくなると、パニックになってしまうことがあります。

Ⅴ.タイムスリップ現象

強い感情を引き起こす出来事がきっかけとなって「過去の記憶がくっきりと思い出される」という自閉症スペクトラム障害の方にみられる現象です。「フラッシュバック」と呼ばれることもあります。

自閉症スペクトラム障害の中でも、知能が高いアスペルガー症候群などに多いと言われています。自分が記憶している過去の記憶が思い出されるだけでなく、例えば1歳時の記憶など自分の顕在的な記憶上にない記憶までもが思い出されることがあります。

突然このようなタイムスリップ現象が生じると、当人はパニックになってしまいます。また突然おかしくなるため、周囲も「幻覚が見えているのではないか」「妄想が出現しているのではないか」と誤解しやすく、しばしば「統合失調症」や「PTSD」と誤診される原因となります。

Ⅵ.幻覚・妄想

アスペルガー症候群でも幻覚や妄想が出現することがあります。

幻覚・妄想を来たす疾患として代表的なものに「統合失調症」がありますが、統合失調症との違いは、

  • 幻覚や妄想の内容がどんどんと発展していくことは少ない
  • 反応性の幻覚・妄想がが多い

などの特徴が指摘されています。

統合失調症の妄想は、内容が関連付けられてどんどんと進展していく傾向があります。

例えば、「周囲が自分の悪口を言っている」⇒「盗聴器などで監視されているのではないか」⇒「悪の組織などに狙われているのではないか」などです。

しかしアスペルガー症候群の妄想は、「周囲が自分の悪口を言っている」と妄想的になっていても、その妄想がどんどんと進展していく事はあまりありません。また妄想が出現するのも「過去にいじめの経験があり、それと似たような状況になったから出現したのだろう」と理解しやすく、なんらかのストレスに対して反応性に出現する事が多いようです。

そのため、アスペルガー症候群で生じる妄想は、統合失調症などで生じる妄想とは別のものだと考えられています。しかし必ずこのような幻覚・妄想となるわけではなく、統合失調症との鑑別が難しい例もあります。