アスペルガー症候群は自閉症スペクトラム障害(発達障害)に属する概念で、主な症状には「人付き合いが苦手」「コミュニケーションが苦手」というものが挙げられます。
しかし人付き合いが苦手だとは言っても、全く人と接さずに生きていくことは出来ません。
人付き合いが苦手な場合、無理して広い交友関係を持つ必要はありません。しかし家族や配偶者、恋人といった自分にとって重要な他者とは生きていく以上、絶対に接していく必要があります。
このような、自分にとって重要な人と接していく場合、できる限り良好な関係を築きたいものです。
アスペルガー症候群の方が、対人関係が苦手だというのは事実です。しかし、だからといってどんなに工夫しても人間関係がうまくいかないというわけではありません。自分でも工夫し、そして可能であれば相手にも工夫してもらう事で良好な人間関係を作ることは十分に可能です。
今日は家族、恋人、親友などの重要な他者と良好な関係を築くためにはどのような工夫があるのかを考えてみましょう。
1.アスペルガー症候群の対人関係の問題
まずはアスペルガー症候群では、どのような対人関係の問題が生じるのかをみてみましょう。
アスペルガー症候群の方は対人関係がうまく構築出来ないことが多いのですが、より詳しくみていくと、
- 言語的なコミュニケーションは出来るが、行間を読んだり空気を読む事が苦手
- アイコンタクトなどの非言語的なコミュニケーションが苦手
- 気持ちを分かち合うことが苦手
- 相手の立場に立って相手の気持ちを理解する事が苦手
などといった特徴を持ちます。もちろん、これらの症状はアスペルガー症候群の中でも個人差が大きくあります。
このような特徴から、どういった事に気を付けてコミュニケーションをとっていけばいいのかを考えていきましょう。
2.アスペルガー症候群の方が対人関係で気を付ける事
アスペルガー症候群の方は、大切な人と長く良好な人間関係を保つためにはどのような事に注意したらいいのでしょうか。
Ⅰ.具体的に話してもらう
アスペルガー症候群の方は曖昧な表現が苦手になります。
そのため、相手には具体的に明確に話してもらうことが非常に重要になります。相手の話が抽象的でよく分からなければ、「それってどういう事なの?」と自分にとって理解できるように確認をしましょう。
確認する事に対して「ウザイと思われたらどうしよう」「怒られたらどうしよう」と感じるかもしれませんが、不適切に理解してしまってあとでトラブルになった方がもっとイヤな思いをします。
大切なのは、ただしつこく聞きたいだけなのではなく、「あなたと今後も仲良くしたいから、確認したい」という気持ちも伝えることです。相手との関係性を良好に保つための質問であることを伝えれば、相手もイヤな顔をせずに答えてくれるでしょう。
Ⅱ.生活上のルールを具体的に決めよう
家族が集団で日常生活を行う時、お互いが不快な思いをしないようにルールが設けられていることが一般的です。このルールははっきりと文章などで示されているものではなく、生活をしていく中で皆が何となく感じている「暗黙の了解」となっていることがほとんどです。
誰かが口に出さずとも、「お風呂は◯◯が一番最初に入る」「夕ご飯は必ず家族全員で食べる」などといった暗黙のルールとでも言うべきものは、どの家庭にもあるものです。
通常は、わざわざ文章化しなくても「暗黙の了解」として上手く回るのですが、アスペルガー症候群の方がいる場合はそうもいきません。
アスペルガー症候群の方は「暗黙のルール」や「場の雰囲気」というあいまいなものが苦手です。そのため、生活におけるルールは具体的に明示する必要があります。最初は面倒かもしれませんが、その方がお互いストレスのない生活が送れます。
Ⅲ.相手を傷付けたら、その理由を聞く
アスペルガー症候群の方は、その症状の特徴として、悪意がなくても人の気分を害してしまったり傷つけてしまうことがあります。
相手が不機嫌になったり、不快な感情を示して来たら、その理由を聞きましょう。理由は言葉としてはっきり聞かなければいけません。言葉としてはっきり聞く事が出来れば、次からは同じような結果にならないような工夫が可能となるからです。
相手の立場にたって理解することが苦手だとしでも、「こういう事をすると◯◯さんはイヤがる」ということが知識として理解できれば、今後同じようなことを防止することは十分に可能です。
これから長く一緒に暮らしていく人ですから、出来るだけ仲良くやっていきたいし、相手を傷付けたくはないですよね。なので、その時は多少大変でも、理由をしっかりと理解し、再発防止に努めましょう。
Ⅳ.他にも相談できる場所を
重要な他者との関係性を良好に保つためには、第三者の協力も欠かせません。
自分ひとりで考えても分からないこともあります。そのため、定期的に困りごとについて相談できる環境を作っておきましょう。
医療機関で主治医やカウンセラーなどの医療者に相談するという方法もありますし、アスペルガー症候群の方やその家族が集まる会に定期的に参加するという方法もあります。福祉サービスなどを利用して、そこで相談しても良いでしょう。
何か人間関係のトラブルがあった時、自分一人ではいくら考えても原因が分からないことはあります。そこで理由が分からず、「また相手を不快にさせてしまった…」と落ち込んで終わってしまうのはとてももったいないことです。
次に活かせるようにするため、相談相手の存在は必要です。
3.アスペルガー症候群の周囲の方が気を付けたい接し方
アスペルガー症候群の方と一緒に過ごしている方が、アスペルガー症候群の方とうまくやっていくためにはどんな事に気を付ければいいでしょうか。
Ⅰ.症状なんだと諦める
諦める、と書くとなんだか悪い言い方のように聞こえてしまいますが、これは
「悪気があってやっているわけではない」
「症状のひとつなんだ」
とあきらめの気持ちを持つことです。
コミュミケーションがうまく伝わらなかった時、「どうしてこんなに真剣に話してるのに分かってくれないの!」とつい怒りたくなってしまいます。これは当然の感情なのですが、アスペルガー症候群の方は、「分かろうとしていない」のではなく「分からない」のだという事を理解しなければいけません。
そこに悪意はなく、アスペルガー症候群の方は真剣に向き合った上でそれでも「分からない」ことがあるのです。
コミュニケーション能力は適切なトレーニングによってある程度は改善しますが、普通の人と同じ程度までコミュニケーション能力が改善しないことが多く、これは仕方のないことです。
生まれつき足に障害の持っている方は、「なんで普通に歩けないの?」と叱る人はいません。生まれつき耳の聞こえない人に「どうして聞こえないの!?」と叱っても意味がないことは明らかです。アスペルガー症候群もこういった障害と同じくコミュニケーション能力が低くなってしまっているのです。
コミュニケーション能力という目に見えない部分の障害のため、なかなか理解されにくいのですが、このような認識を持って接する方がうまくいきます。
「仕方がない事なんだ」と良い意味であきらめることで、気持ちは大分楽になります。
Ⅱ.問題と思われる言動は、具体的に指摘する
アスペルガー症候群の方とコミュニケーションを取っていると、どうしてもストレスを感じることがあります。
しかしそれは悪意あってストレスを与えているわけではありませんし、アスペルガー症候群の方は「ストレスを感じさせたい」などとは当然考えていません。そのため、問題と思われる言動があった場合は、指摘してあげる事が本人のためにもなるし周囲のためにもなります。
ただし伝え方は工夫しなくてはいけません。
まずい伝え方としては感情的に怒ってしまったり、雰囲気で伝えようとしてしまう事です。
「信じられない!」「もういや!」など抽象的な怒り方をしてしまうと、アスペルガー症候群の方は「なぜ相手が怒っているのが分からない」ため、どうしていいのか分からなくなり、ただ「自分は相手を傷付けてしまうダメな人間なんだ」と自己評価が低下するだけで終わってしまいます。
「こういった発言をされると私はこのような気持ちになってしまうからつらいんだよ」など、なるべく具体的に指摘してあげるのが良いでしょう。
Ⅲ.第三者に相談できる体制を
「アスペルガー症候群の特性として仕方がないのだ」と頭では分かっていても、コミュニケーションが思うように出来ないとどうしてもストレスが溜まってしまいます。
しかしそのストレスを怒りとしてアスペルガー症候群の方に向けるのは良い方法とはいえません。
ストレスをどんどん溜めずに吐き出したり解決したりできるように、定期的に相談できる第三者がいる事が理想的です。
それは誰でも構わないのですが、できればアスペルガー症候群についてある程度理解してくれる人の方が良いでしょう。例えば同じアスペルガー症候群の家族や恋人を持っている人であったり、精神科医やカウンセラーであったり、福祉サービスの担当者でもよいでしょう。
定期的に相談できるというのは安心感につながり、それだけでも余裕を持って穏やかに接することができるようになります。