不安障害とはどのような疾患なのか

不安が異常に高まってしまい、生活に様々な支障をきたすようになる状態は不安障害と呼ばれます。

以前は「神経症」「不安神経症」などと呼ばれていました。また最近では「障害」という用語が患者さんへの誤解・偏見につながるという配慮から「不安症」と呼ばれることもあります。

不安障害は非常に広い疾患を含んでおり、その位置づけを正しく理解できていない方も少なくありません。例えば「ある病院では不安障害と言われて、別の病院ではパニック障害と言われました。私は一体どちらの疾患なのですか?」という質問をいただくこともあります。

では不安障害とはどのような疾患なのでしょうか。

ここでは不安障害について詳しく説明させていただきます。

1.不安障害とはどのような疾患なのか

精神科で診察を受けると、医師から「不安障害です」と診断される事があります。

この不安障害ってどのような疾患なのでしょうか。

不安障害というのは、過剰な不安・恐怖によって本人が苦しんでいたり生活に支障をきたすような疾患の総称になります。

不安障害は大きな概念であり、不安障害の中にはいくつかの疾患が含まれています。

具体的には、

  • パニック障害
  • 社会不安障害
  • 全般性不安障害
  • 恐怖症(閉所恐怖症、高所恐怖症など)

などがあり、これら「不安」が原因で生じている疾患すべてを総合したのが「不安障害」という概念です。

つまり冒頭の「私は不安障害なのかパニック障害なのかどっちなのですか?」という質問に対する答えは、「不安障害の中にある、パニック障害という疾患」ということになり、不安障害でもありパニック障害でもあるということになります。

不安障害には「○○不安障害」という疾患と「○○恐怖症」という疾患があり、不安だけでなく恐怖も対象となっていますが、不安と恐怖には実は違いがあります。

両者は一見似たような意味を持つ用語ですが、正確に言うと、

  • 不安は、漠然とした特定の対象がない恐れの感情
  • 恐怖は、はっきりとした外的対象のある恐れの感情

を意味します。

例えば社会不安障害は、「社会」という非常に広い概念に対する恐れが生じているため、不安障害(不安症)という名称が入ります。

対して閉所恐怖症というのは「閉所」という特定の状況に恐れを感じているため恐怖症という名称が入るのです。

ちなみに近年では不安障害の事を「不安症」と呼ぶこともありますが、「不安障害」と「不安症」は同じ意味です。「障害」という用語は、重篤で治らない疾患など誤解されたり、偏見につながる事から最近は「不安症」と呼ぶことが推奨されています。

不安障害(不安症)は、不安・恐怖の異常な高まりによって、精神的に苦しみ、生活にも支障をきたすような疾患の総称なのです。

2.不安障害のそれぞれの疾患の説明

不安障害の中にはいくつかの疾患があります。

ここでは代表的な不安障害について、それぞれの疾患についてかんたんに紹介させて頂きます。

Ⅰ.パニック障害(パニック症)

パニック発作が突然生じる疾患です。

パニック発作とは、急激に

  • めまい
  • 動悸
  • 胸痛
  • 呼吸苦
  • 発汗
  • 震え
  • 意識を失うような恐怖
  • このまま死んでしまうのではという恐怖

といった自律神経症状が生じます。パニック発作は不安が高まるような状況(閉鎖空間や逃げ出せない場所など)で生じやすい傾向がありますが、安静時に突然生じることもあります。

パニック発作が突然生じるような生活になると、「またパニック発作が起こったらどうしよう」という不安から、必要な活動ができなくなります。重症の場合は、パニック発作が生じる恐怖から一切外出できなくなってしまうこともあります。

Ⅱ.社会不安障害(社交不安障害・社交不安症・社交恐怖)

他者からの注目を浴びるかもしれない状況に対して、恥をかいてしまうのではないかと強く恐れてしまう疾患です。

具体的には、

  • 人前での発表
  • 目上の人との会話
  • 人前での食事(会食)

などの状況に強い恐怖を感じるため、このような状況を避けるか、強いストレスを受け続けながらそのような状況を耐える生活を送るようになります。

症状が強くなると、仕事などの社会活動に参加できなくなったり、人と会うのが怖くて自宅から外出できなくなってしまうこともあります。

Ⅲ.全般性不安障害(全般不安症)

様々な出来事や活動についての過剰な不安が長期間続く疾患です。

単なる心配性とは異なり、全般性不安障害ではこれらの不安によって生活に様々な支障が出てしまいます。

症状は慢性的に続き、数か月以上持続します。

全般性不安障害は「不安が強い性格の人」と、病気ではなく性格傾向の1つだと誤解されてしまうことがありますが、両者は異なるものです。

心配症というのは性格の一つであり、正常範囲内のものです。人よりも不安・心配は強めではありますが、それで生活に大きな支障を来たすことはありません。しかし全般性不安障害の場合は、過剰な不安によって仕事が出来なくなったり、ほとんど眠れなくなってしまったりと生活に支障が現れてしまいます。

Ⅳ.恐怖症(限局性恐怖症)

特定の対象・状況に対してのみ、過剰に恐怖を感じる疾患です。

恐怖症には非常に多くの種類があります。比較的良く知られているものとしては、

  • 高所恐怖症(高い状況に過剰な恐怖を感じる)
  • 閉所恐怖症(閉所に過剰な恐怖を感じる)
  • 嘔吐恐怖症(自分や他者が吐く事に過剰な恐怖を感じる)
  • 先端恐怖症(鋭いもの・尖ったものに過剰な恐怖を感じる)
  • 対人恐怖症(人に対して過剰に恐怖を感じる)
  • 男性恐怖症・女性恐怖症(男性・女性に対して過剰に恐怖を感じる)
  • 動物恐怖症(特定の動物に対して過剰に恐怖を感じる)
  • 集合体恐怖症(ブツブツしたものに対して過剰に恐怖を感じる)

などがあります。