拒食症の診断基準とチェック方法。こんな症状があれば受診を考えよう

拒食症は、太ることへの恐怖から食事の量が極端に減ってしまう疾患です。極端に食事量が減れば、健康を維持することが出来なくなり、心身に様々な支障を来たすようになります。

拒食症は出来る限り早くに正しく診断を受け、適切な治療を始めることが大切です。発症から受診までの日が長いほど治りが悪くなることが指摘されており、早めに受診するという行動は、それ自体が拒食症の治療経過を良くする行動の1つになります。

ではどんな症状が認められたら拒食症の可能性があり、受診を検討した方が良いのでしょうか。

今日は拒食症(神経性食思不振症)の診断基準を紹介させていただきます。

1.拒食症の診断基準とは

疾患にはそれぞれ診断基準というものがあります。

診断基準とは「この症状を満たしたら、その疾患だと診断できるよ」というもので、私たち医師は基本的にはこの診断基準にのっとって疾患の診断を行っています。

精神科領域では世界保健機関(WHO)が公表しているICD-10、そしてアメリカ精神医学会(APA)が公表しているDSM-5の2つの診断基準が主に用いられていますが、診断基準の内容は公表している団体によって多少の違いがあります。

拒食症の診断基準として、ここではDSM-5の診断基準を紹介します。まずは原文のまま紹介し、その後に詳しく説明します。

【神経性やせ症/神経性無食欲症】

A.必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子供または青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。

B.有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。

C.自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

(DSM-5の診断基準より)

以上A.B.C.を満たした場合、診断基準的には神経性無食欲症(いわゆる拒食症)の診断を満たすことになります。

診断基準というのは非常に難しく書かれているため、なかなか内容が分かりにくいものです。

1つずつ、詳しく説明していきます。

2.拒食症の診断基準の説明

では診断基準の内容をもう少しかみ砕いて紹介していきましょう。

Ⅰ.低体重

A.必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子供または青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。

拒食症では、太ることへの過剰な恐怖から食事の量が極端に減ります。その結果、健康を保つために最低限必要だと考えられる体重をも下回ってしまいます。

では拒食症が疑われる体重というのは、どれくらいの体重を指すのでしょうか。適正体重の下限を下回っている事が1つの目安になります。

適正体重はBMI(Body Mass Index)で簡単に計算できます。BMIは自分の身長と体重が分かれば計算でき、その計算式は、

BMI=体重(kg)/身長(m)2

となります。

BMIは18.5以上~25未満が「適正」です。18.5未満であれば「痩せ」、25以上であれば「肥満」になります。

例えば、身長170cm、体重60kgの方のBMIは、60/1.72=20.76で、これは適正内の体重という事になるでしょう。

拒食症の方は食事を十分に食べていないわけですので、みなさん「痩せ」の基準に入ります。痩せの程度も強い方が多く、目安として、

BMI 17以上 軽度
BMI 16台 中等度
BMI 15台 重度
BMI 15未満 最重度

と体重によって重症度の目安が設けられています。

Ⅱ.肥満恐怖

B.有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。

ただ体重が低いだけで拒食症となるわけではありません。

拒食症の方の根本的な症状は体重の低下や食事を食べないことではありません。根本にあるのは「太る事への異常な恐怖(肥満恐怖)」であり、食事を食べないことも体重を落とす行為も、この肥満恐怖によって生じている二次的な症状なのです。

若い女性であれば誰でも太ることに対して恐怖を感じるものですが、拒食症の方の肥満恐怖というのはこのような正常内の「太りたくない」「痩せたい」という恐怖とは異質のものです。通常の「太りたくない」「痩せたい」という気持ちには限度があります。そのため一般的にみて十分に「スリム」「細い」という体型になれば、それ以上痩せることはしません。

しかし拒食症では、その限度が破綻しています。

一般的にみれば十分に痩せている、あるいは不健康そうな外見になるほど痩せすぎていても、まだ「痩せなければいけない」「太るのが怖い」と考え、更に痩せようと行動を続けるのです。拒食症では、健康を害する程度にまで体重が落ちていても、

  • 更に食事の制限を続ける
  • 痩せるための運動を続ける
  • 更に痩せるために下剤をたくさん飲む
  • 更に痩せるために食べた物を吐こうとする

という限度を超えた行動が認められます。

Ⅲ.ボディーイメージのゆがみ、病識の欠如

C.自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

一般的に考えれば、体重を落としすぎることは危険な事です。多くの方はこれを理解しており、だからこそダイエットをしても限度があります。

しかし拒食症の方では、この考え方が破綻しています。

もちろん拒食症の方も体重を落としすぎる事が危険なことだというのは、知識としては理解しています。しかし「痩せすぎは危険」という意識よりも、「太る事が怖い」という意識が勝ってしまっているのです。これにより「痩せすぎは危険」という知識が追いやられてしまい、どんどんと痩せようとしてしまいます。

拒食症の方は病識(自分が病気だという認識)が乏しい印象を受けます。自分が危険なほど痩せているのに、「この身体の状態は危険である」と考えることが出来なくなってしまっているのです。

また肥満恐怖への過度なとらわれから、自己のボディーイメージが歪んでしまっていることもあります。一般的には十分に痩せている体型であっても、鏡で自分の姿をみて「まだまだ太っている」「もっと痩せなければ」と認識してしまうのです。これは「太ることが怖い」という恐怖によって、自己の体型を客観的に評価できなくなってしまっていると考えられます。

このような拒食症の方の考え方の背景には自尊心や自己評価が低いことが挙げられます。様々な理由によって自己評価が低下していると、「体重を落とさない自分には価値がない」「自分は何もできないのだからダイエットくらいは成功させないといけない」と考えてしまい、その結果として体重を落とすという行為に歯止めがきかなくなってしまうのです。

3.このような症状があったら受診を考えよう

拒食症(神経性無食欲症)の診断基準について紹介しました。

では、具体的にどのような状態であれば病院受診を検討した方が良いのでしょうか。

上記の診断基準に当てはまると感じるのであれば、早めに受診していただきたいのですが、受診する1つの目安として、

  • 精神的な理由によってBMIが適正外に低くなっていて
  • それで本人が困っている
  • あるいは本人が困っていなくても周囲から見て、このままだと今後本人に大きな不利益があると考えられる

ような場合は、一度病院を受診した方が良いでしょう。このような場合、それを放置し続けていると状況がより悪化してしまう可能性が高いため、早い段階で適切な対策を始める必要があります。

ちなみに拒食症の方は病識が欠如している事も多いため、受診時に本人が受診に賛成しているかどうかは重要になってきます。

診察をしていると、本人は「何も困ってない!」「私は拒食症なんかではない!」と受診を拒否しているのに、周囲が心配して無理矢理本人を病院に連れてくるというケースがあります。このような場合、受診自体は良いのですが、そのまま強制的に治療を始めてはいけません。本人自身が治療に同意していない状態で無理矢理治療をしようとしても、しっかりと行えるわけがありません。

まずはこのままの食生活が続くと、自分自身が困る事になってしまうという事を分かってもらうことが大切です。これには時間がかかりますが、辛抱強く周囲の人や主治医が説明を続けていくしかありません。よほどの緊急事態を除いて、決して無理矢理治療を始めてはいけません。

拒食症の方の多くは、知識としては「栄養不足が続けば心身が壊れてしまう」という事は分かっています。ただ太ることへの恐怖が強すぎるあまり、痩せることの危険性が見えなくなってしまっているのです。そのため、それを辛抱強く説明していけば少しずつ治療をすることへの理解を示してくれることも少なくありません。そうなった段階で初めて、本人が受け入れられる範囲での治療を始めていくべきです。

「自分が拒食症かもしれない」と薄々感じていても、そこから病院を受診してくれる方というのは多くはありません。その理由は、「病院に行ったら無理矢理食べさせられる」「入院させられて、無理矢理栄養を流し込まれる」と考えてしまうからです。

拒食症の方が一番怖いのは「太ること」です。なのに治療が「太らせること」なのであれば、当然受診などしたくないわけです。

しかしその認識は間違いです。

私たち医療者が拒食症の方にしたい事は「太らせること」ではないのです。私たちがしたいのは、健康的な範囲内でのダイエットにとどめて頂くことなのです。太ることがイヤだという人を太らせるつもりなどありません。

痩せていても、それが心身に悪影響がないのであれば放っておいても良いでしょう。しかし痩せすぎていれば、エネルギー不足によって必要な活動が出来なくなってしまったり、免疫力の低下によって重篤な感染症にかかりやすくなってしまったりという患者さんへの不利益があるわけです。

その不利益が生じない程度の体重にして、その方にとって安全に生きていける体重にしてもらいたいだけなのです。

私たちは無理矢理食べさせることは出来る限りしません。患者さんの人生に不利益が生じないようにサポートさせて頂くのが私たち医療者の役割です。痩せすぎるという事は患者さんにとってデメリットも大きいことを分かっていただき、適度に痩せていて、心身も健康に保てるような程度の体重を一緒に目指していきたいのです。

拒食症の方は治療への抵抗から、重篤な状態になっていても医療機関を受診しない方が少なくありませんが、一方で発症から受診までの期間が短いほど経過は良好となることも分かっています。そのため、出来るだけ早い段階で病院を受診していただければと思います。

医療機関を「私を太らせようとする敵」だと考えるのではなく、「健康的な生活を送るための方法を一緒に考えていくところ」と考えてみてください。