適応障害(Adjustment Disorders)は、ある環境・ストレス因に対して適応が出来ずに様々な症状が出現してしまう疾患です。
適応障害は精神疾患の中でもちょっと特殊な疾患であり、その本質は「環境に適応できない事」にあります。そのためお薬を使って治るような類の疾患ではないように感じられます。
しかし現状としては適応障害の治療としてお薬が処方される事は珍しくありません。
適応障害にお薬は有効なのでしょうか。またどんな場合にお薬が検討されるのでしょうか。
今日は適応障害とお薬についてみてみたいと思います。
1.基本的には適応障害にお薬は使わない
適応障害の治療に、基本的にはお薬は用いません。
何故ならば、適応障害の本質は「ある環境に適応できないこと」にあり、特定の症状が問題となるわけではないからです。
お薬は基本的には症状を改善させるために用います。「眠れない」という症状を改善させるために睡眠薬が用いられ、「不安だ」という症状を改善させるために抗不安薬が用いられ、「落ち込む」という症状に対して抗うつ剤が用いられます。
もし仮に適応障害に対するお薬があるのだとしたら、「このお薬を飲めば、その環境に適応できますよ」というものでなければいけませんが、そんなものはあるはずもありません。
「どうしてもあの職場の価値観になじめなかったけど、このお薬を飲んだらなじめるようになった!」
「どうしてもあの常識が受け入れられなかったけど、このお薬を飲んだら納得できた!」
なんてことはありませんよね。その人の価値観や常識というのがお薬で変わるわけがありませんし、変わってしまったら非常に怖いことです。
つまり適応障害は原則として、お薬で治療する疾患ではないのです。
適応障害の治療において大切なのは、適応できない事に対してどのようなアプローチしていくかという事であり、これはお薬で改善できることではありません。
2.対症療法としてお薬が使われることはある
適応障害は、原則としては治療にお薬を使う疾患ではありません。
しかし、そうは言っても現状としてはお薬を補助的に使わざるを得ないこともあります。
ではどのような時にお薬が検討されるのでしょうか。
適応障害におけるお薬というのは「原則使うものではないけれど、一時的に使うメリットの方が上回る場合に、止むを得ず選択される治療法」になります。
その一例を挙げると、
- うつ病など他の精神疾患への進展の可能性が高い場合
- 症状の苦痛があまりに強く、お薬を使ってでも和らげてあげた方が良い場合
などがお薬を検討する状況になります。
適応障害を発症すると、ストレスによって様々な症状が出現します。
適応できない環境から離れれば、その症状は自然と改善してくるものなのですが、現状として「すぐには環境から離れられない」という事もあります。
例えば、職場で適応障害を起こしたからといって、すぐに休職が出来ないというケースは現状では少なくありません。いくら医療的には「今すぐ休職が必要です」と言っても、職場の都合的に「あと1カ月は出てもらわないと困る」とい言われ、本人も「中途半端な状態で休職に入るとみんなに迷惑がかかるから、あと1カ月だけやって整理をつけたい」と言う場合、仕方なく休職を延期せざるを得ないこともあります。
この場合、そのまま様子を見ていたら、症状がどんどん悪化していき、二次的にうつ病や不安障害などの他の精神障害を発症してしまうリスクがあります。
そういう場合に、
「では一時的に睡眠薬を使って、これ以上悪化しないようにしましょう」
「では、仕事に出ている間は抗うつ剤を服用しておきましょう」
と対症療法的にお薬を用いることはあります。
このように現状としては適応障害に対して補助的にお薬を用いることもあり、これはある程度仕方のない面もあります。
しかし、「適応障害はお薬で治すものではない」という原則は忘れないようにし、お薬は必要な期間に限って使用する事に留め、漫然と飲み続けないように注意する必要があります。
3.適応障害で使われるお薬とは
適応障害に対して効くお薬というのはありませんが、症状があまりにつらい場合は、お薬を用いることがあります。
適応障害におけるお薬は、症状を抑える目的で使う対症療法的なものであり、適応障害の根本を治すものではありません。
適応障害で生じる症状は多岐に渡るため、その症状に応じたお薬が適宜選択されます。
一例を挙げると、
- 眠れないようであれば睡眠薬
- 不安や恐怖が強いようであれば抗不安薬
- 落ち込み・不安が続くようであれば抗うつ剤
などが用いられます。
4.適応障害はどのように治療するのか
適応障害は基本的にはお薬を用いるものではありません。では、どのような治療法で改善させていくべきなのでしょうか。
適応障害の治療法については「適応障害はどのように治療するのか」で詳しく説明していますが、適応障害というのは「環境に適応できないこと」が原因になりますから、治療の方針は2つしかありません。
それは、
- その環境に適応できるようにする治療
- その環境から離れるようにする治療
のどちらかになります。どちらが良いかは、患者さん個々によって異なります(両方を並行して行うこともあります)。
例えば職場が異動となり、異動先で適応障害となった場合、
- その職場が治療にどこまで理解・協力してくれるのか(休職や配置転換など)
- 治療すれば価値観の溝が埋まりそうだと考えられるか
- 患者さんの希望
などを考慮しながら、どちらを選択することが最良なのかを決めていきます。
環境に適応できるように治療した方が良い場合は、休職や制限勤務などをしながら、精神療法(カウンセリングなど)を行い、患者さんのストレス対処能力を高めたり、どのように考えたら職場の価値観に歩み寄ることが出来るかといった考え方の見直しを治療者と考えていきます。
環境から離れるように治療する場合は、職場と協力しながら配置転換などを検討してもらいます。