エビリファイ錠(アリピプラゾール)の効果と特徴

エビリファイ錠(一般名:アリピプラゾール)は2006年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。副作用の少ない第2世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に属します。

エビリファイは統合失調症の治療薬として開発されたお薬ですが、そのユニークな作用機序から統合失調症以外でも様々な精神疾患に用いられており、現在では双極性障害やうつ病(他の治療薬で不十分であった場合に限る)への適応も取得しているお薬です。

ここではエビリファイの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているおくすりなのかを紹介していきます。

1.エビリファイの効果と特徴

エビリファイはどんな特徴を持った抗精神病薬なのでしょうか。まずはその特徴を紹介します。

【良い特徴】

  • 他の第2世代と全く違う作用機序を持つ(第3世代と呼ばれることも)
  • 副作用が全体的に少なめ
  • 陰性症状の改善、抗うつ効果などにも優れる

【悪い特徴】

  • 副作用の中でアカシジアはやや多め
  • 鎮静する力に乏しい

エビリファイの一番の特徴は、他の抗精神病薬と全く異なった作用機序を持っているという点です。

エビリファイ以外の抗精神病薬は全て、ドーパミンを遮断(ブロック)するのが主なはたらきです。統合失調症は、脳のドーパミンが出過ぎることが一因だと考えられています(ドーパミン仮説)。そのため、ドーパミンをブロックすれば治るはず、というのが今までの抗精神病薬の作用機序なのです。

ドーパミンが作用するドーパミン受容体にフタをして、ドーパミンを寄せ付けなくするようなイメージですね。

しかしお薬でドーパミン受容体にフタをしてしまうと、ドーパミンを必要以上にブロックしすぎてしまうこともあります。ドーパミンは多すぎるのはもちろん問題なのですが、少なすぎても今後は別の問題が生じてしまいます。

ドーパミンが少なくなりすぎる病気にはパーキンソン病がありますが、抗精神病薬でドーパミンをブロックしすぎてしまうと、パーキンソン病のような神経症状の副作用を起こしてしまう事があります。手が震えたり、表情が固くなったり、歩行が小刻みになったり・・・、これは錐体外路症状(EPS)と呼ばれる副作用です。抗精神病薬は、ドーパミンをブロックしすぎることで錐体外路症状を起こしてしまう可能性があるのです。

これらに対してエビリファイの画期的なところは、ユニークな作用機序によってドーパミンをちょうどいい具合に調整できる点です。エビリファイはドーパン安定薬(ドーパミン・システム・スタビライザー:DSS)とも呼ばれています。つまりドーパミンをブロックするのではなく、適量に調整するというはたらきを持っているのです。

この新しい作用からエビリファイは、第三世代の非定型抗精神病薬と呼ばれることもあります。

エビリファイは他の抗精神病薬と違って無理矢理ドーパミンを押さえつけないため、穏やかに効いて副作用が全体的に少なくなっている点も大きなメリットになります。また、ドーパミン受容体とセロトニン受容体以外の受容体には作用しにくいため、これも副作用軽減に役立っています。

錐体外路症状や高プロラクチン血症(プロラクチンというホルモンが増えてしまう)、その他抗精神病薬で特に問題となるような、眠気や体重増加が少ないのは、エビリファイの大きなメリットであり、患者さんもとても助かるものでしょう。

エビリファイのデメリット はと言うと、穏やかに効く分、鎮静する力に欠ける事が挙げられます。

例えば、幻覚や妄想で興奮状態になっている患者さんに対して、鎮静力の優れる抗精神病薬を投与すると、比較的速やかに鎮静されます。しかしエビリファイは良い意味でも悪い意味でも穏やかに効くため、強力に鎮静をかける力は弱いのです。そのため、暴力的になっている方や興奮して怒りっぽくなっている患者さんの症状を速やかに取りたい時には、不向きのお薬となります。

また、ドーパミンをブロックしすぎることで生じる錐体外路症状は基本的には少ないのですが、その中でもアカシジア(静座不能症)はやや多めです。アカシジアは、足がムズムズして動かさずにはいられなくなってしまう症状で、これが出現するとゆっくり座ったり寝たりすることが困難となり、常に歩き回るようになってしまいます。

エビリファイのアカシジアの特徴は、特に投与初期に多く認められ、また低用量でも認められると言う事があります。お薬の副作用は普通、少ない量だと起こりにくく量を増やせば増えてくるというものが多いのですが、エビリファイのアカシジアは低用量でも認められるし、反対に高用量にしても悪化しなかったり逆に改善することもあります。

*錐体外路症状(EPS)・・・薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状が生じる。

2.エビリファイの作用機序

抗精神病薬はドーパミンはたらきを遮断(ブロック)するのが主なはたらきです。具体的にはドーパミンが作用する部位である「ドーパミン受容体」をブロックすることで、ドーパミンがはたらけないようにします。どの抗精神病薬もこのはたらきを持っています。

統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されることが原因だという説があり、これは「ドーパミン仮説」と呼ばれています。ほとんどの抗精神病薬はこのドーパミン仮説に基づき、ドーパミンの放出量を抑えるはたらきを持ちます。

しかしエビリファイは抗精神病薬の中で唯一、ドーパミンをブロックするのではなくドーパミン量が適正になるように調整するといった作用を持ちます。つまり、ドーパミン量が過剰な時にはブロックし、ドーパミン量が少なすぎる時には反対にドーパミンの分泌を促すというはたらきを持っているのです。

これは非常に画期的な作用機序です。

なぜこんなことが可能なのでしょうか。

ちょっと専門的な話になりますが、エビリファイはドーパミンを出す神経のシナプス前部という部分のドーパミン受容体には作動薬としてはたらく一方で、ドーパミンを受け取る神経のシナプス後部という部分のドーパミン受容体では、ドーパミンが多いと遮断薬としてはたらいてドーパミンが少なければ作動薬としてはたらくという非常に面白い作用をするからです。

その他にエビリファイは、

・セロトニン1A受容体作動・・・抗うつ作用
・セロトニン2A受容体遮断作用・・・錐体外路症状の改善、陰性症状の改善

などのはたらきを持っています。

また、他の抗精神病薬は、これらの作用以外にもヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、アセチルコリン受容体など様々な受容体に作用しますが、エビリファイはドーパミン受容体と一部のセロトニン受容体のみに選択的に作用します。

そのため、余計な副作用が出にくいのです。他の抗精神病薬は、様々な受容体にも作用してしまいますが、これは

・ヒスタミン1受容体のブロック:体重増加、眠気
・アドレナリン受容体のブロック:ふらつき、性機能障害
・アセチルコリン受容体:口渇、便秘、尿閉

などを起こすため、主に副作用として患者さんを困らせてしまいます。

しかしエビリファイはDSSという種類に属し、ドーパミン受容体・セロトニン受容体に対する選択性が高いため、これらの副作用が起こりにくいのです。

これは「副作用が少ない」と良い反面で、抗ヒスタミン作用がないため、眠気や鎮静が起こらず、興奮している患者さんには効果が乏しかったりというデメリットにもなることもあります。

3.エビリファイの適応疾患

添付文書にはエビリファイの適応疾患として、

統合失調症
双極性障害における躁症状の改善
うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)

が挙げられています。

臨床現場でも添付文書の通り、統合失調症、双極性障害(躁うつ病)、うつ病の3疾患に主に用いられます。

エビリファイは、脳のドーパミン量が多すぎる時は少なくしてくれ、ドーパミン量が少なすぎる時には多くしてくれるため、非常に使い勝手が広く、様々な疾患に用いることが出来るのです。

統合失調症はドーパミンの過剰がひとつの原因である、という仮説を先ほどお話しましたが、統合失調症にエビリファイを使えば、適正になるようにドーパミン量を少なくしてくれます。双極性障害の躁状態も、ドーパミンが多すぎることがひとつの原因であると言われているため、統合失調症と同じくエビリファイを使う事で、ドーパミン量を適正に抑えてくれます。

反対に、うつ病はモノアミン(セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミン)が少ないことがひとつの原因だと考えられているため、エビリファイを使えば、適正になるようにドーパミン量を増やしてくれます。またセロトニン1A受容体遮断作用も抗うつ効果を発揮するため、これもうつ病の改善に役立つと考えられます。

ただし、うつ病・うつ状態に関しては、治療薬として第1選択薬ではありません。まずは抗うつ剤などのスタンダードなお薬を使用し、それでも効果不十分な場合に限り、エビリファイを上乗せあるいは変更ということが認められています。

4.抗精神病薬の中でのエビリファイの位置づけ

抗精神病薬には多くの種類があります。その中でエビリファイはどのような位置づけになっているのでしょうか。

まず、抗精神病薬は大きく「第1世代」と「第2世代」に分けることができます。第1世代というのは「定型」とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。第2世代というのは「非定型」とも呼ばれており、最近の抗精神病薬を指します。

第1世代として代表的なものは、セレネース(一般名:ハロペリドール)やコントミン(一般名:クロルプロマジン)などです。これらは1950年代頃から使われている古いおくすりで、強力な効果を持ちますが、副作用も強力です。

特に錐体外路症状と呼ばれる神経症状の出現頻度が多く、これは当時大きな問題となっていました。また、悪性症候群や重篤な不整脈など命に関わる副作用が起こってしまうこともあり、これもまた大きな問題でした。

そこで、副作用の改善を目的に開発されたのが第2世代です。第2世代は第1世代と同程度の効果を保ちながら、標的部位への精度を高めることで副作用が少なくすることに成功したお薬です。

第2世代として代表的なものが、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)であるリスパダール(一般名:リスペリドン)やMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれるジプレキサ(一般名:オランザピン)、DSS(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などです。

現在では、まずは副作用の少ない第2世代から使用することがほとんどであり、第1世代を使う頻度は少なくなっています。第1世代が使われるのは、第2世代がどうしても効かないなど、やむをえないケースに限られます。

非定型の中の位置づけですが、SDA、MARTA、DSSそれぞれの特徴として、

SDA
【該当薬物】リスパダール、ロナセン、ルーラン
【メリット】幻覚・妄想を抑える力に優れる
【デメリット】錐体外路症状、高プロラクチン血症が多め(定型よりは少ない)

MARTA
【該当薬物】ジプレキサ、セロクエル、(クロザピン)
【メリット】幻覚妄想を抑える力はやや落ちるが、鎮静効果、催眠効果、抗うつ効果などに優れる
【デメリット】太りやすい、眠気が出やすい、血糖が上がるため糖尿病の人には使えない

DSS
【該当薬物】エビリファイ
【メリット】上記2つに比べると穏やかな効きだが、副作用も全体的に少ない
【デメリット】アカシジアがやや多め

といったことが挙げられます。

(*クロザピンは効果が強力である代わりに重篤な副作用が起こる可能性があるお薬のため、特定の施設でしか処方できません。)

エビリファイは唯一のDSSに属します。DSSはDopamine System Stabilizerの略で、ドーパミン量を安定させるお薬という意味になります。また、DPA(Dopamine Partial Agonist:ドーパミン部分作動薬)と呼ばれる事もあります。ドーパミンが多い時は減らして少ない時は増やすと、部分的に作用するという意味になります。

DSS以外の抗精神病薬は全て、ドーパミン受容体をブロックすることが主なはたらきです。しかし、DSSはドーパミン量を適正化するお薬ということで、他の抗精神病薬とは作用機序が異なります。そのため、DSSは第3世代の抗精神病薬とよばれる事もあります。

5.エビリファイが向いている人は?

エビリファイの効果の特徴をもう一度みてみましょう

【良い特徴】

  • 他の第2世代と全く違う作用機序を持つ(第3世代と呼ばれることも)
  • 副作用が全体的に少なめ

【悪い特徴】

  • 副作用の中でアカシジアはやや多め
  • 鎮静する力に乏しい

でした。

他の抗精神病薬と異なる作用機序を持つユニークなお薬であることと、良い意味でも悪い意味でも穏やかに効くため、鎮静する力が乏しいのが特徴です。

そのため、エビリファイは、

  • 鎮静をかけずに治した方が良い方(不穏、興奮、攻撃性などが少ない)
  • 他の抗精神病薬では効果が乏しかった方
  • 他の抗精神病薬は副作用で使えなかった方

などに向いているお薬だと思われます。

穏やかに効くエビリファイは、他の抗精神病薬がお薬で無理矢理病気を抑え込んでいるような印象を受けるのに対して、自然とゆっくり病気を治していくような印象を持ちます。そのため、最終的には第一線でバリバリ働けるくらい復帰したい、などの活動性の高い目標を持っている方にもおすすめしやすいお薬です。鎮静がかかりにくいという事はお薬でボーッとしたり眠くなったりしにくいという事だからです。

ただし、どのお薬にも一長一短あります。どんな場合でもエビリファイが必ず良いとは言えません。自分にどのお薬が合っているのかは主治医とよく相談して、慎重に判断してください。

6.エビリファイの名前の由来

最後に豆知識になりますが、エビリファイは何で「エビリファイ」という名称になったのかをお話します。

エビリファイは正式には、アビリファイ(Abilify)という名称でした。実際にアメリカなどではAbilifyとして発売されており、「アビリファイ」と呼ばれています。

これはAbility(能力)にfy(にする)を付けたもので、患者さんの能力の可能性を示しているそうです

日本では、アビリファイと似た名前の薬物(恐らくアビリットのこと)があったため、混同を避けるために「エビリファイ」として発売されたという経緯があります。

(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のエビリファイ錠とは異なることをご了承下さい)