エビリファイは統合失調症、双極性障害、うつ病・うつ状態など幅広い疾患に対して用いられているお薬です。
全体的に副作用も少なく、安全性の高さに定評のあるエビリファイですが、他の抗精神病薬と比べてアカシジアという副作用は多いと言われています。
エビリファイは本当にアカシジアが多いのでしょうか。また、エビリファイでアカシジアが生じた時、どのように対処すれば良いでしょうか。
エビリファイとアカシジアについてお話します。
1.アカシジアとはどんな副作用か
エビリファイとアカシジアの関係についてお話する前に、そもそもアカシジアという副作用がどういったものなのかを説明します。あまり聞き慣れない用語だと思いますのでイメージも沸きにくいと思います。
アカシジアは「静座不能症」とも呼ばれており、足がむずむずしてじっとしていられなくなるというお薬の副作用です。
足が落ち着かないため、常に貧乏ゆすりのように足を動かしたり、足踏みを繰り返したり、ウロウロと歩き回ってしまうということが見られます。また、この足の落ち着かなさに伴い、不安、焦り、イライラ、そわそわ、不眠などの精神症状が出現することもあります。
抗精神病薬(統合失調症の治療薬)で認められる事が多く、特に昔のお薬である第1世代抗精神病薬で高率に認められます。
精神的な症状も出現するため、精神疾患の症状のひとつだと判断されてしまう事もありますが、これはお薬の副作用なので注意が必要です。アカシジアが出現しているのに、「これは精神疾患の症状だ」と誤解してしまうと、更に増薬する事になり、むずむず・そわそわ・イライラは更に悪化してしまうからです。
精神症状なのかアカシジアという副作用なのかは、精神科医がしっかりと診察を行えば多くの症例で適切に鑑別できますので、アカシジアのような副作用が出て場合はすぐに主治医に相談することが大切です。
お薬の開始時期と症状の出現時期の関係も鑑別の参考になります。アカシジアの多くは投薬・増薬をして数日以内に出現するため、あるお薬を始めてから症状が出たのであればアカシジアの可能性が高くなります。またアカシジアは「足がむずむずする」「身体がそわそわする」という身体症状が主であるのに対して、精神症状であれば「気持ちがそわそわする」という精神症状が主であるのも両者の違いになります。
足のむずむずやそわそわが出現したら我慢せず、すぐに主治医に相談して適切な対処を取ってもらいましょう。
アカシジアの原因は、以前はお薬がドーパミン受容体を遮断しすぎてしまうために生じる錐体外路症状のひとつだと考えられていました。アカシジアがドーパミンを遮断する作用の強い第1世代抗精神病薬で多く認められたからです。
しかしドーパミン遮断による副作用を少なくした第2世代抗精神病薬においてもアカシジアはまずまずの頻度で認められること、ドーパミン遮断をほとんどしない抗うつ剤の一部でもアカシジアを認めることが分かってきました。
そのため現在では、アカシジアの原因はドーパミン受容体の遮断も一つの原因ではあるけれども、それ以外にも原因があるのではないかと考えられています。ドーパミン以外の原因として、GABA (ɤアミノ酪酸)の機能低下やノルアドレナリン機能の亢進などが提唱されていますが、まだ明確な原因は特定されていません。
2.エビリファイでアカシジアは本当に多いのか?
アカシジアはどの抗精神病薬にも生じる可能性のある副作用です。そのため、エビリファイだけで注意すべき副作用というわけではありません。
アカシジアの副作用は第1世代抗精神病薬で多く認められます。第1世代とは、古い抗精神病薬の事で、クロルプロマジン(商品名コントミン)やハロペリドール(商品名セレネース)などが該当します。第1世代はアカシジアの頻度が多いだけでなく、アカシジアの程度も強いことが特徴です。
近年は、第1世代抗精神病薬を改良し、副作用を軽減させた第2世代抗精神病薬が使われることが多いのですが、アカシジアは第2世代抗精神病薬でもまずまず認められます。
第2世代とは比較的新しい抗精神病薬の事で、リスペリドン(商品名リスパダール)やオランザピン(商品名ジプレキサ)、アリピプラゾール(商品名エビリファイ)などがあります。第2世代でもアカシジアは生じますが、第1世代と比べれば頻度は少なく程度も弱めです。
第2世代の抗精神病薬には、
【SDA(セロトニン・ドーパミン遮断薬)】
商品名:リスパダール、ロナセン、ルーラン、インヴェガ
【MARTA(多元受容体作動抗精神病薬)】
商品名:ジプレキサ、セロクエル
【DSS(ドーパミン・システム・スタビライザー)】
商品名:エビリファイ
の3種類がありますが、この中でアカシジアの発生頻度はと言うと、
DSS>SDA>MARTA
となっており、DSSで多めで、次にSDAでやや多く、MARTAでは少なくなっています。
実際に添付文書に記載されているアカシジアの発生頻度を比較してみると、
リスパダール:4.95%
ジプレキサ:3.13%
エビリファイ:統合失調症11.71%、双極性障害:30.21%、うつ病・うつ状態28.05%
セレネース:5%以上
コントミン:5%以上
と記載されており、確かにエビリファイのアカシジアの発生頻度は多いようです。
ちなみにこの比較を見ると、エビリファイがセレネース・コントミンよりもアカシジアが多いような印象も受けますが、臨床の実感としてはそれはありません。やはり第1世代の方が多いと思われます。
また、統合失調症以外の疾患にエビリファイを使用するとかなりの高確率でアカシジア出現することも分かります。双極性障害やうつ病など、統合失調症以外の疾患に対してエビリファイを使用する場合は、特にアカシジアに注意して使用しなければいけません。
3.アカシジアが生じた時の対処法
アカシジアはお薬の副作用ですので、その対処を薬の専門家でない方が独断で行うことは大変に危険です。アカシジアの対処を行う場合は必ず主治医に相談し、主治医の指示に従ってください。
アカシジアが出現した時に、一般的に取られる対処法を紹介します。
Ⅰ.主治医に必ず報告する
当然の事ですが、主治医への報告を必ずしましょう。
足がむずむずして苦しいのに我慢を続けていると、気分も不安定になり病気の経過も悪くしてしまいます。また、副作用がイヤだからと勝手にお薬を減薬・断薬してしまうと、病気が再発してしまう可能性があります。
主治医に報告し、適切な対処を取ってもらうことが、一番安全なのです。
アカシジアはお薬の副作用ですので、適切に対処をすれば改善させる事が可能です。必ず主治医に相談し、指示を仰いでください。
Ⅱ.程度が軽ければ様子を見る事もある
アカシジアの程度が軽く、さしあたっては様子を見れそうな程度であれば、1~2週間ほど様子を見ることもあります。
様子を見ていく中で、身体がお薬に慣れてきて、アカシジアの症状が徐々に軽くなってくることがあるからです。特にアカシジアの副作用は投与初期で多く、数か月経てば自然と消失していく事が珍しくないため、様子を見るという方法は有効です。
ただし、あくまでも様子を見れそうなくらい軽いアカシジアであった場合に限ります。患者さんが苦しいのに、無理矢理様子を見させるという事はありません。
Ⅲ.減薬・変薬を考える
病状的に可能であれば、減薬を検討します。低用量でアカシジアが出てしまうこともありますが、減薬をすれば改善が得られるケースもあります。ただし、病気の状態によっては減薬が難しいこともあり、その時は別の方法を取ることになります。
また、アカシジアは急な増薬で生じる傾向があるため、減薬後に今後は時間をかけてゆっくりと再増量を行えば、アカシジアが出現しない事もあります。
お薬の種類を変える(変薬)も有効な方法です。エビリファイはアカシジアの頻度が多めのお薬であるため、SDAやMARTAに変更することで、改善させる事が可能になります。ただし、どのお薬にも一長一短があるため、アカシジアだけにとらわれるのではなく、総合的にみてどのお薬が最適なのかを判断する事が大切です。
Ⅲ.副作用止めのお薬でアカシジアを抑える
エビリファイでアカシジアが出てつらい。でもエビリファイは効果も感じているのでお薬を変えたり、減薬したりはしたくない。
このような場合は、アカシジアを抑えるお薬を使う事もあります。アカシジアへの有効性が確認されているお薬はいくつかありますので、自分に最適なものを主治医に選んでもらいましょう。
アカシジアは数か月ほど経つと自然と改善している事も多いため、これら副作用止めのお薬は漫然と使い続けてはいけません。必ず、数か月置きには「副作用止めを減らせないか?」という検討するようにしましょう。
【抗コリン薬】
抗コリン薬は、元々はパーキンソン病の治療薬です。抗コリン薬は、アセチルコリン神経の活性を抑制する作用を持ちます。抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がります。するとドーパミン濃度が増えるため、アカシジアの改善に効果があると考えられています。
ビペリデン(商品名アキネトン)やプロフェナミン(商品名パーキン)、トキヘキシフェニジル(商品名アーテン)などがあります。
ただし、お薬によって起こった副作用をお薬で治す、というのはあまり推奨されている方法ではありません。お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。
【ベンゾジアゼピン系抗不安薬】
GABA受容体の作用を増強する事で抗不安作用・筋弛緩作用などをもたらし、アカシジアの改善に効果を示します。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬にはたくさんの種類がありますが、クロナゼパム(商品名リボトリール)、ジアゼパム(商品名セルシン)、ロラゼパム(商品名ワイパックス)などが良く用いられます。
ベンゾジアゼピン系は依存性・耐性がありますので、長期連用する事は推奨されません。必ず定期的に減薬できないかの検討を行いましょう。
【β遮断薬】
β遮断薬は、元々は血圧を下げたり、心不全に対して使われるような循環器系のお薬です。アドレナリン受容体の中のβ受容体を遮断(ブロック)する作用を持ちます。β遮断薬も、アカシジアへの有効性が確認されており、用いられる事があります。
β遮断薬にもたくさんの種類がありますが、主にプロプラノロール(商品名インデラル)が脂溶性であり脳内への移行が良いためよく用いられるようです。
β遮断薬は、使用禁忌である疾患がありますので、使用の際は既往歴を主治医に報告し忘れないように気を付けてください。一例を挙げると、喘息や血圧が低すぎる方、徐脈の方、重度の閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害の方では投与出来ない事があります。