モディオダール錠(一般名:モダフィニル)は2007年より販売されているナルコレプシー治療薬です。
ナルコレプシーは過眠症の1つで、オレキシンという脳を覚醒させる物質が不足する事により、日中の耐えがたい眠気が生じます。
「ちょっと眠い」という程度ではありません。会話中などでも発作のように睡眠に入ってしまう事もあるため、転倒や事故などに至る可能性もあり、放置していると危険な症状です。
モディオダールは脳の覚醒レベルを上げる事で日中の病的な眠気を改善させるお薬になります。
ナルコレプシーの治療薬の中には依存性や乱用のリスクがあるお薬もありますが、モディオダールは比較的穏やかに効き、依存性も低く安全性に優れるお薬になります。
このモディオダールという薬はどのような特徴を持ったお薬で、どのような人に向いているお薬なのでしょうか。
ここではモディオダールの効果や特徴についてお話していきます。
1.モディオダールの特徴
まず最初にモディオダールの特徴について、ざっくりと紹介します。
- 覚醒作用は穏やか
- 依存性が低い
- 薬効が長い
モディオダールはナルコレプシーに対して薬物療法を行う際に、まず最初に検討されるお薬になります。
その理由として安全性の高さが挙げられます。
ナルコレプシーは、覚醒物質(オレキシン)が少なくなっている事で脳の意識レベルが病的に下がっています。そのため脳を覚醒させるお薬が有効になります。
このような脳の覚醒レベルを上げるお薬は「精神刺激薬」と呼ばれますが、このようなお薬はいわゆる「覚せい剤」と似た作用を持ちます。
覚せい剤には強い依存性と乱用リスクがあります。これはニュースなどで多くの方がご存知でしょう。医薬品である精神刺激薬は適正に使う限りは覚せい剤ほどの危険はありませんが、似た作用を持つため、少なからずそのようなリスクはあるのです。
しかしモディオダールはナルコレプシー治療薬の中では安全性が高く、依存性・乱用リスクの低いお薬です。
依存や乱用には「ドーパミン」が関係していると考えられています。ドーパミンは楽しみや快楽に関係している物質で、正常な脳の活動に必要な物質ではあるものの、過剰に分泌されれば快楽を求めるあまりに依存・乱用を引き起こす可能性があります。
ほとんどのナルコレプシー治療薬は脳のドーパミン分泌を増やす作用があります。これは覚醒レベルを上げてくれる効果がしっかりとある一方で、依存・乱用リスクも高くなります。
モディオダールもドーパミン系に多少作用します。しかしその作用は穏やかであり、またドーパミン以外にもヒスタミンやGABA神経にも作用する事で覚醒度を上げているため、相対的に依存・乱用リスクが低くなっています。
ドーパミンに強力に作用するお薬と比べるとモディオダールは効果の面では劣りますが、安全性を重視して治療していきたい時にまず候補に挙がるお薬なのです。
モディオダールは危険な副作用の多いお薬ではありませんが、生じやすい副作用はいくつかあります。特に多いものとして、頭痛が挙げられます。その他、不眠、動悸や吐き気、不安なども報告があります。
これらはいずれもモディオダールが脳を覚醒させる作用を持つために生じる副作用です。脳を覚醒させるという事はある程度興奮状態に誘導するという事です。脳がこのような状態になると頭痛や動悸、吐き気が生じてしまうのです。
正常な方でも緊張・興奮状態になるとドキドキしたり吐き気が生じたり頭が痛くなる事があるでしょう。これを人工的に誘導しているのがモディオダールなのです。
2.モディオダールの作用機序
ナルコレプシーは、脳のオレキシンの欠乏が一因だと考えられています。オレキシンというのは脳を覚醒させる物質の1つです。
ちなみに睡眠薬に「オレキシン受容体拮抗薬」というものがあります。これはオレキシンのはたらきをブロックする事で眠らせるといった作用機序を持ちます。
オレキシンをブロックするお薬が睡眠薬として使われているという事からも、オレキシンが覚醒に関係している事が分かります。
オレキシンが欠乏してしまうと、日中の耐えがたいほど強い眠気に襲われます。すると、仕事中や会話中などの「普通であれば寝る事のない状況」でもストンと眠ってしまうことがあります。これは「睡眠発作」と呼ばれ、転倒や交通事故による受傷などの危険がある症状です。
また、日中の過剰な眠気から夜間に熟眠障害(深い眠りが取れない)が生じる事もあり、これによって日中の眠気が更に悪化していきます。
このようなナルコレプシーの症状を改善するのがモディオダールです。ではモディオダールはどのようにナルコレプシーを改善させてくれるのでしょうか。
モディオダールは、脳を覚醒させる物質を増やす作用があります。具体的には、
- ドーパミン
- ヒスタミン
- GABA
などに作用する事で、オレキシン欠乏による覚醒レベルの低下に対抗します。
ドーパミンは楽しみ・快楽に関与する物質ですが、脳の覚醒にも関わっています。モディオダールはドーパミンに作用しますが、直接作用するのではなくGABA神経を介して間接的にドーパミン量を増やします。
この間接的な作用によって、覚醒させる力は弱まるものの依存が形成されにくくなっています。
また同じく脳の覚醒に関係する「ヒスタミン」の分泌を増やす作用もあります。
ヒスタミンには脳を覚醒させる以外にも様々な作用がありますが、例えば花粉症(アレルギー性鼻炎)に使われるお薬も「抗ヒスタミン薬」と呼ばれ、ヒスタミンのはたらきをブロックする作用を持ちます。
花粉症のお薬はアレルギー症状を抑えるだけでなく、服用すると眠くなる傾向があります。これはヒスタミンのはたらきをブロックした結果、アレルギー症状が治まるだけでなく、脳の覚醒レベルが落ちたためです。
ここからヒスタミンは脳の覚醒にも関わっており、ヒスタミンをブロックすると覚醒レベルが下がる事が分かります。つまり、ヒスタミンの分泌を増やせば覚醒レベルが上がるという事です。
GABAというのは「γアミノ酪酸」という物質の事です。GABAは脳神経をリラックスさせる作用があり、不安を和らげたり、眠くしたり、筋肉の緊張をほぐすような作用があります。
例えば睡眠薬や抗不安薬として用いられているベンゾジアゼピン系というお薬はGABAを増強させるはたらきがあります。GABAを増強する事で、抗不安作用(不安を和らげる)、催眠作用(眠くする)を得ているのです。
そしてGABAを増強すると眠くなるという事は、GABAを減らせば眠くなりにくくなる事が推測できます。
モディオダールはGABA神経のはたらきを抑制する作用があり、これも眠気を生じにくくさせてくれるのです。
モディオダールはこのような複合的な作用によって依存・乱用リスクを少なくしつつ、穏やかに覚醒レベルを上げてくれるお薬になります。
3.モディオダールの適応疾患
モディオダールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。
モディオダールの適応疾患として添付文書には、
下記疾患に伴う日中の過度の眠気
〇 ナルコレプシー
〇 持続陽圧呼吸(CPAP)療法等による気道閉塞に対する治療を実施中の閉塞性睡眠時無呼吸症候群
が記載されています。
モディオダールは過眠症の治療薬であり、基本的にはナルコレプシーに使われます。またそれ以外にも同じく過眠症状を引き起こす閉塞性睡眠時無呼吸症候群(SAS)の方にも用いられます。
モディオダールはナルコレプシーに対して有効なお薬の1つですが、注意点として日中の眠気の改善以外の作用は乏しい事は知っておかないといけません。
モディオダールは脳の覚醒レベルを上げるお薬ですので、日中の眠気は起こしにくくしますが、ナルコレプシーは日中の眠気以外にも様々な症状がある事が知られています。
例えば、
- 情動脱力発作(笑ったり泣いたり怒ったりすると力が抜けてしまう)
- 入眠時幻覚(寝入りばなに幻覚が生じる)
- 睡眠麻痺(金縛りが生じる)
- 熟眠障害(夜に深い眠りが取れない)
などもナルコレプシーに特徴的な症状です。
しかし、これらの症状に対しては残念ながらモディオダールは十分な効果は得られません(モディオダールのみならず、他のナルコレプシー治療薬でも同様です)。
これらの症状はREM(レム)睡眠の異常によって生じると考えられています。そのためレム睡眠に作用するお薬が有効で、具体的には一部の抗うつ剤や睡眠薬などが用いられます。
睡眠時無呼吸症候群というのは、何らかの原因で夜間の睡眠時に呼吸が一時弱まったり止まってしまう疾患です。原因によって中枢性(脳に原因がある)と閉塞性(肥満などで気道が狭くなって起こる)があります。
睡眠中に無呼吸が多いと、しっかりと眠れていないため、日中に強い眠気を生じる事になります。
治療として睡眠時にCPAPを呼ばれるマスクを装着する事があります。これは、呼吸が止まった時にそれを感知して人工的に呼吸を補助してくれる装置になります。
モディオダールはCPAPなどで治療中の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方で、CPAPによる治療のみでは日中の眠気が十分に改善しないような方にも適応があります。
4.モディオダールの強さ
モディオダールはどの程度の強さを持つお薬なのでしょうか。
モディオダールはナルコレプシーなどの過眠症に使われるお薬になるため、脳を覚醒させる作用に対して強さという事で考えてみましょう。
モディオダールの覚醒作用は、ナルコレプシー治療薬の中では弱い部類に入ります。しかし効果が弱いのは悪い事ではありません。
ナルコレプシー治療薬は「精神刺激薬」とも呼ばれます。これは脳を刺激する事で覚醒レベルを上げるお薬の事です。
強力な精神刺激薬は「覚せい剤」とほぼ同等です。覚せい剤は脳を過覚醒状態にしますが、その危険性(依存や乱用リスク)は大きな社会問題となっており、覚醒レベルを高める作用は強ければ強いほど良いというものでない事は明らかです。
モディオダール以外のナルコレプシー治療薬には、
- コンサータ(一般名:メチルフェニデート)
- ベタナミン(一般名:ペモリン)
などがあります。
これらはいずれもモディオダールよりも覚醒作用は強いのですが、その分依存・乱用リスクも高くなります。
そのためモディオダールでは効果不十分な症例にも効果が期待できる一方で、副作用にも注意が必要です。
覚醒作用の強いお薬、弱いお薬のどちらにも一長一短があります。主治医とよく相談し、自分に合ったお薬を選ぶようにしましょう。
5.モディオダールが向いている人は?
モディオダールはどのような方に向いているお薬でしょうか。
モディオダールの特徴をおさらいすると、
- 覚醒作用は穏やか
- 依存性が低い
- 薬効が長い
といったものがありました。
安全性に優れるモディオダールは、お薬による治療が必要なナルコレプシー患者さんにおいて、まず最初に用いるお薬として適しています。
お薬は安全性の高いものから始めることが原則となるため、まずは安全性の高いモディオダールなどのお薬から開始し、それでも効果が不十分である場合はコンサータ、ベタナミンなどの強い覚醒作用を持つ精神刺激薬を試すのが良いでしょう。
6.モディオダールの導入例
モディオダールはどのように使っていくお薬なのでしょうか。
モディオダールは成人では1日200mgを朝に1回服用します。
モディオダールは100mg錠になりますので、1日1回朝に2錠服用する事になります。朝に服用する事となっているのは、モディオダールが脳の覚醒レベルを上げるお薬だからです。夕方に投与してしまうと夜に眠れなくなってしまうため、これから脳が活動する朝に投与するのが望ましいのです。
また服用は食前でも食後でも食間でもいつでも構いません。モディオダールは食事の影響を受けにくい事が分かっています。
服用初期は特に副作用が生じやすいため、注意が必要です。副作用が心配な方は、主治医と相談の上で副作用がなるべく軽くなるように100mgなどの少量から開始し、徐々に増やして言ってもいいでしょう。
投与初期の副作用として特に多いのが頭痛です。また口喝(口の渇き)や消化器系の副作用(吐き気、腹痛、下痢)や動悸なども認められます。また不眠や不安(落ち着きがなくなる)といった副作用も生じる事があります。
これはモディオダールが身体を覚醒状態にするために生じます。皆さんもすごく集中したり脳がいつもよりも覚醒している時というのは、このような症状が生じやすいという経験があると思います。
副作用は程度が軽ければ少しの期間様子をみてみるのも手です。身体がお薬に慣れるにつれて、副作用も軽減していくことがあるためです。副作用がつらければ、お薬の種類を変えるか、より少ない量から再開し少しずつお薬を慣らしていきます。
モディオダールの維持量は明確には決まっておらず、年齢・症状によって適宜調整されますが、最大でも300mg/日までになります。
効果発現は早く、即日~1週間である程度の効果を感じられます。