ノバミン(一般名:プロクロルペラジンマレイン酸塩)は1957年から発売されている抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。
抗精神病薬は、古い第1世代と比較的新しい第2世代に分けられます。全体的に見れば第2世代の方が効果と安全性のバランスが良いため、現在では主に第2世代が使われています。
ノバミンは第1世代に属する古い抗精神病薬です。古いお薬で副作用も多いため、現在では積極的に用いられる事は少なく、限られた症例にのみ使われるお薬です。
ここではノバミンの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているお薬なのかを紹介していきます。
1.ノバミンの特徴
まずはノバミンの特徴を紹介します。
ノバミンは第1世代抗精神病薬であり、副作用に注意が必要なお薬です。幻覚や妄想を抑える作用はしっかりしていますが、錐体外路症状や抗プロラクチン血症といった副作用をはじめ、眠気、体重増加などの副作用のリスクも少なくありません。
吐き気を抑える作用に優れるため、現在では統合失調症の治療薬としてよりも、抗がん剤や麻薬の副作用で生じる吐き気を抑える「吐き気止め」として使用されています。
ノバミンは抗精神病薬です。抗精神病薬は主に統合失調症の治療に用いられるお薬の事で、基本的には脳のドーパミンのはたらきをブロックする作用を持つお薬になります。
これは統合失調症は、脳のドーパミンのはたらきが過剰になってしまっていることが一因だと考えられているからです(ドーパミン仮説)。
抗精神病薬は古い第1世代抗精神病薬と比較的新しい第2世代抗精神病薬に分けられます。
第1世代は古い抗精神病薬で効果はしっかりしているけども副作用も多く、重篤な副作用が生じるリスクもあります。また、統合失調症の陽性症状には効くものの、陰性症状にあまり効かないというデメリットがあります。
【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。
【陰性症状】
本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下してこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。
第2世代は比較的新しい抗精神病薬で、効果がしっかりしているわりに副作用が軽減されており、重篤な副作用のリスクも少なくなっています。また、陽性症状のみならず陰性症状にも多少効果があるというメリットもあります。しかし第1世代と比べると、体重増加や糖尿病増悪などメタボリックな副作用が多いのがデメリットです。
全体的に見れば第2世代の方が効果と安全性のバランスに優れるため、統合失調症の治療を行う際にはまずは第2世代から用いるのが一般的です。
この中でノバミンは第1世代の抗精神病薬に属しますが、第1世代は更にフェノチアジン系とブチロフェノン系に分けられます。
フェノチアジン系はドーパミン以外にも様々な受容体に作用するという特徴があります。そのため幻覚や妄想といった統合失調症に特徴的な症状を抑える作用はそこまで強くないのですが、付加的な作用(睡眠の改善や興奮の抑制など)が多く得られます。またドーパミンをブロックしすぎる事による副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症など)も少なくなっています。
【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンが少なくなりすぎる事で、ふるえやしびれ、手足が勝手に動いてしまうなどの神経症状が生じる。
【高プロラクチン血症】
ドーパミンが少なくなることで乳汁を出すホルモンであるプロラクチンが増えてしまい、胸の張りや乳汁分泌が生じてしまう副作用。プロラクチン高値が続くと、乳がんや骨粗しょう症なども発症しやすくなる。
ブチロフェノン系はドーパミンに集中的に作用するという特徴があります。そのため幻覚や妄想には良く効きますが、付加的な作用が得にくく、またドーパミンをブロックしすぎる事による錐体外路症状・高プロラクチン血症などが出やすいお薬になります。
この中でノバミンは第1世代抗精神病薬でありフェノチアジン系の抗精神病薬に属します。
ノバミンもドーパミン仮説に基づき、脳のドーパミンのはたらきをブロックするはたらきを持ちます。フェノチアジン系の特徴の通り、ドーパミン以外にも様々な受容体をブロックしてくれるお薬になります。
そのため幻覚妄想を改善させるだけでなく、睡眠や食欲・活動性なども改善する事が期待できます。一方で様々な作用を持つため、錐体外路症状や高プロラクチン血症、眠気、体重増加といった副作用も少なくありません。
ドーパミン以外の主な作用としては、
- ノルアドレナリンをブロックする事による穏やかな鎮静
- セロトニンをブロックする事による陰性症状の改善
- ヒスタミンをブロックする事による睡眠改善、食欲改善
などが挙げられます。
ノルアドレナリンは血圧や意欲に関係しているため、これをブロックする事で穏やかに鎮静をかける事が出来ます。
セロトニンは自閉や無気力といった陰性症状に関係しているため、これをブロックする事で陰性症状を改善させ、活力を高める事が出来ます。ノバミンのような第1世代は基本的には陰性症状への効果は乏しいのですが、ノバミンは第1世代の中では陰性症状への効果が若干期待できるお薬になります。
ヒスタミンは覚醒や食欲に関わっている物質です。そのため、ヒスタミンをブロックすると睡眠改善や食欲改善が得られます。これは良い作用となる可能性もありますが、日中の眠気や体重増加といった副作用となってしまう事もあります。
一方で他のフェノチアジン系に見られる、
- アセチルコリンをブロックする作用
はそこまで強くはありません。
アセチルコリンはブロックされると抗コリン症状と呼ばれる副作用が出現します。抗コリン症状には口渇(口の渇き)や尿閉(尿が出にくくなる)、便秘などがあります。ノバミンはこれらの副作用の頻度は多くはありません。
また精神科領域以外の作用として、めまいや吐き気の改善も期待できるという特徴があります。これはノバミンが延髄にある嘔吐に関係する中枢をブロックするためだと考えられています。ここから、抗がん剤や麻薬の副作用で吐き気がひどい時などに用いられる事もあります。
実際、ノバミンは現在では統合失調症で用いられる事は少なくなっているため、現在ではむしろこのような「吐き気止め」として処方される事の方が多くなっています。
ノバミンは第1世代ですので副作用には注意が必要です。錐体外路症状や高プロラクチン血症をはじめ、眠気、体重増加、ふらつきなどが生じうる可能性があります。ただし抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉など)はあまり生じません(絶対に生じないわけではありません)。
更にノバミンのような第1世代の抗精神病薬は、時に重篤な副作用を起こすリスクがある事も忘れてはいけません。重篤な不整脈(心室細動、心室頻拍など)や悪性症候群、麻痺性イレウスなど、命に関わるような副作用が生じることがあり、これが第1世代があまり使われなくなってきた一番の理由になります。
第1世代抗精神病薬であるノバミンは、現在ではその副作用の問題から処方される頻度は多くはなく、何らかの理由で第2世代が使えない時などに限って用いられるお薬になります。
第2世代で似たような作用を持つものには、
- ジプレキサ(一般名:オランザピン)
- セロクエル(一般名:クエチアピン)
などのMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)があり、現在ではノバミンの適応となるような症例では、まずはMARTAが用いられることが一般的です。
以上から、ノバミンの特徴として次のような事が挙げられます。
【良い特徴】
- 第1世代の中では抗コリン作用は少なめ
- 吐き気を抑える作用に優れる
【悪い特徴】
- 第1世代であるため、重篤な不整脈や悪性症候群など命に関わる副作用も起こり得る
- 錐体外路症状、抗プロラクチン血症、眠気、体重増加などがまずまずの頻度で生じる
- 副作用が多い第1世代であるため、現在ではあまり用いられない
2.ノバミンの作用機序
抗精神病薬はドーパミンのはたらきをブロックするのが主なはたらきです。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されて起こるという「ドーパミン仮説」に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを抑える作用を持ちます。
ノバミンは抗精神病薬の中でも、「フェノチアジン系」という種類に属します。
フェノチアジン系には、ノバミン以外にも、
- コントミン(一般名:クロルプロマジン)
- レボトミン・ヒルナミン(一般名:レボメプロマジン)
- ピーゼットシー(一般名:ペルフェナジン)
- フルメジン(一般名:フルフェナジン)
などがあります。
フェノチアジン系は全体的に、様々な受容体に作用して特に鎮静力に優れるという特徴があります。そのため、統合失調症の治療薬として用いられる他、興奮症状の鎮静や不眠の改善などに用いられることもあります。しかし多くの受容体に作用するという事は、多くの余計な作用が出やすいという事でもあり、眠気やふらつきや抗コリン症状(口渇・便秘・尿閉など)、体重増加、血圧低下などの副作用が時に問題となります。
ノバミンも他のフェノチアジン系と同様の作用が生じます。
ノバミンでは、
- ドーパミンをブロックする事による幻覚・妄想の改善
- ノルアドレナリンをブロックする事による穏やかな鎮静
- セロトニンをブロックする事による陰性症状の改善
- ヒスタミンをブロックする事による睡眠改善、食欲改善
といった効果が期待できます。
ちなみにノバミンのような第1世代抗精神病薬は統合失調症の陽性症状には非常に有効ですが、陰性症状や認知機能障害はむしろ悪化させてしまうリスクもあると言われています(特に高用量を使用している場合)。
【認知機能障害】
認知(自分の外の物事を認識すること)に関係する能力に障害を来たすことで、情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認めること。
ノバミンは第1世代の中では陰性症状に効果がわずかに期待できるお薬にはなりますが、反対に悪化させてしまう可能性もありますので慎重に症状を見ていかなければいけません。
そのため近年ではノバミンはあまり用いられておらず、ノバミンを用いるような症例に対しては、第2世代抗精神病薬が用いられます。第2世代の中でも特にMARTAという種類の抗精神病薬がノバミンと比較的作用が似ているため、用いられます。
MARTA(Multi Acting Receptor Targeted Antipsychotics:多元受容体作用抗精神病薬) は、1990年頃より発売され始めた比較的新しいお薬で、その名の通り多くの受容体を遮断する作用に優れるお薬のことです。
具体的には、
- ジプレキサ(一般名:オランザピン)
- セロクエル(一般名:クエチアピン)
などがあります。
MARTAとフェノチアジン系はまったく同じ作用機序を持つお薬ではありませんが、共に多くの受容体をブロックする作用に優れ、鎮静力があるという点では似た特徴を持っています。更にフェノチアジン系と比べたMARTAの利点として
- 全体的に副作用が少ない
- 命の関わるような重篤な副作用が少ない
- 陰性症状にも効果が期待できる
というメリットがあります。
一方でデメリットとしては、
- 体重増加や糖尿病悪化などメタボリックな副作用が多い
という点があります。
全体的にはノバミンのようなフェノチアジン系よりもMARTAの方が安全性は高いため、現在ではまずはMARTAを用いることが多くなっており、ノバミンなどの第1世代が検討されるのは、第2世代では効果が不十分な場合など、やむを得ないケースに限られます。
3.ノバミンの適応疾患
添付文書にはノバミンの適応疾患として、
・統合失調症
・術前・術後等の悪心・嘔吐
が挙げられています。
現在の臨床現場での主な用途は、抗がん剤や麻薬を服用しているがん患者さんへの「吐き気止め」として用いられています。
これらのお薬は副作用で「吐き気」が高頻度で生じます。その吐き気を抑える目的でノバミンが用いられる事があるのです。
もちろん統合失調症に用いられる事もありますが、第1世代であるノバミンは現在では統合失調症治療において第1選択として用いられるお薬ではなく、統合失調症に処方される頻度は多くはありません。
4.抗精神病薬の中でのノバミンの位置づけ
抗精神病薬には多くの種類があります。その中でノバミンはどのような位置づけになっているのでしょうか。
まず、抗精神病薬は大きく「第1世代」と「第2世代」に分けることができます。第1世代というのは定型とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。第2世代というのは非定型とも呼ばれており、比較的最近の抗精神病薬を指します。
第1世代として代表的なものは、セレネース(一般名:ハロペリドール)やコントミン(一般名:クロルプロマジン)などです。ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)もここに属します。これらは1950年代頃から使われている古いお薬で、強力な効果を持ちますが、副作用も強力だという難点があります。
特に錐体外路症状(EPS)と呼ばれる神経症状の出現頻度が多く、これは当時から大きな問題となっていました。また、悪性症候群や重篤な不整脈など命に関わる副作用が起こってしまうこともありました。
そこで、副作用の改善を目的に開発されたのが第2世代です。第2世代は第1世代と同程度の効果を保ちながら、標的部位への精度を高めることで副作用が少なくなっているという利点があります。また、ドーパミン以外の受容体にも作用することで、陰性症状や認知機能障害の改善効果も期待できます。
第2世代として代表的なものが、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)であるリスパダール(一般名:リスペリドン)やMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれるジプレキサ(一般名:オランザピン)、DSS(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などです。
現在では、まずは副作用の少ない第2世代から使用することがほとんどであり、第1世代を使う頻度は少なくなっています。第1世代が使われるのは、第2世代がどうしても効かないなど、やむをえないケースに限られます。
ノバミンの抗精神病薬の中での位置づけは、
- 第1世代であり重篤な副作用に注意
- 副作用の多さから、現在では最初から使う事はないお薬
- EPSや抗プロラクチン血症をはじめ、眠気、体重増加、ふらつきなどにも注意
- 第1世代の中では抗コリン作用は少なめ
- 吐き気を抑える作用に優れる
といったところです。
統合失調症のお薬としてみれば「昔のお薬」であり、現在では「今のお薬が効かない場合に限って使用を検討されるお薬」という位置づけになります。
ただし吐き気を抑える作用に優れるため、現在ではしばしば吐き気止めとして用いられる事があります。
5.ノバミンの使い方
ノバミンはどのように使うのでしょうか。ノバミンの使用方法は、
通常、成人には1日5~20mgを分割経口投与する。
精神科領域において用いる場合には、通常、成人1日15~45mgを分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
と記載されています。
効きには個人差もありますが、副作用に注意が必要な第1世代ですので少量から始めていく事をお勧めします。最初から高用量は使わないようにしましょう。
6.ノバミンが向いている人は?
ノバミンの特徴をもう一度みてみましょう。
- 第1世代であり重篤な副作用に注意
- 副作用の多さから、現在では最初から使う事はないお薬
- EPSや抗プロラクチン血症をはじめ、眠気、体重増加、ふらつきなどにも注意
- 第1世代の中では抗コリン作用は少なめ
- 吐き気を抑える作用に優れる
といった特徴を持つことが挙げらました。
ノバミンは古い第1世代に属するお薬ですので、現在では最初から使われる事はありません。
ノバミンを使うのは、
- 第2世代がどうしても使えないケース
- 第2世代では効果が不十分なケース
などに限られるでしょう。
昔であればノバミンの使用を検討された症例は、現在ではまずは作用機序が比較的似ているMARTA(セロクエル、ジプレキサなど)が検討されます。
第2世代が何らかの理由で使えない場合で、
- 抗コリン症状を起こしたくない患者さん
- 陰性症状が主体の患者さん
- 吐き気も認める患者さん
などには適したお薬となります。