テグレトール(一般名:カルバマゼピン)は気分安定薬という種類のお薬で1966年から発売されています。
気分安定薬は主に気分の波を安定させるはたらきがあります。具体的には双極性障害(躁うつ病)の治療に用いられ、気分の高揚を抑えたり、気分の落ち込みを持ち上げたりする作用が確認されています。
テグレトールは副作用には一定の注意が必要なお薬です。副作用の頻度も多く、また稀ではありますが重篤な副作用が生じる事もあるため慎重に用いる必要があります。
ここではテグレトールの副作用やその対処法について紹介していきます。
1.テグレトールの副作用の特徴
テグレトールの副作用にはどのような特徴があるのでしょうか。
テグレトールは双極性障害の治療薬として非常に頼れるお薬ですが、一方で副作用にも注意が必要なお薬です。
テグレトールの副作用について注意すべきポイントを最初に紹介します。
- 他の気分安定薬よりも副作用が多め
- 重篤な副作用が生じる事があるため全身状態に注意し、定期的に血液検査を行う必要がある
- 相互作用するお薬が多いため、併用薬に注意する必要がある
- 催奇形性がある
テグレトールを服用する際は、副作用についてこの4つのポイントを覚えておく必要があります。
テグレトールは副作用が非常に多いお薬ではありません。しかし他の気分安定薬と比べると相対的にみれば副作用は多めです。
副作用の内容は多岐にわたりますが、代表的なものを紹介すると、
- 眠気
- めまい、ふらつき
- 倦怠感、脱力感
- 発疹
- 頭痛
- 口喝(口の渇き)
- 肝機能障害(AST、ALT上昇)
などが挙げられます。主に鎮静系(眠くなる)副作用が目立ち、それによってめまい、ふらつき、脱力、倦怠感などが生じます。また肝臓に負担がかかる事があり、血液検査で肝酵素の上昇が認められる事があります。
次にテグレトールは頻度は稀ではあるものの、重篤な副作用が生じる可能性があり、この点は細心の注意が必要です。重篤な副作用は最悪の場合、命を失う事もあります。そのため絶対に生じさせないように気を付ける必要があります。
重篤な副作用もいくつかありますが、特に注意すべきものに、
- 重症薬疹
- 血球減少症
が挙げられます。
重症薬疹は全身に発疹が出現し、高熱、意識障害なども生じます。また血球減少症では、赤血球(全身に酸素を届けるはたらきを持つ)、白血球(ばい菌をやっつけるはたらきを持つ)、血小板(傷から血液が漏れるのを止めるはたらきを持つ)といった血球が著明に減少してしまう事で様々な問題が生じます。
またテグレトールは相互作用するお薬が多いため、併用薬にも注意が必要です。テグレトール以外にも内科など他院でお薬をもらっているような方は、必ず受診するすべての科の医師にテグレトールを服用している事は伝える必要があります。
最後にテグレトールには催奇形性があります。催奇形性とは妊婦さんが服用してしまうと、赤ちゃんに奇形が生じる可能性が上がってしまうという事です。気分安定薬は催奇形性を持つものが多く、テグレトールもその1つになります。
そのため妊婦さんや妊娠する可能性がある方はテグレトールの服用は望ましくありません。
2.テグレトールで生じる重篤な副作用と対処法
テグレトールの副作用でもっとも注意すべきなのが、重篤な副作用です。重篤な副作用は最悪の場合、命に関わる事もある副作用になります。生じる頻度は稀ではありますが、重篤な副作用が生じないよう、細心の注意を払う必要があります。
テグレトールで重篤な副作用を起こさないようにするためには、
- テグレトールでどのような重篤な副作用が生じうるのかを知る
- その兆候を知り、まず取るべき対処法を理解しておく
事が大切です。
それぞれについ、説明します。
Ⅰ.重症薬疹
重症薬疹はテグレトールの副作用の中でも、もっとも注意すべきものになります。
より専門的な病名としては、
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN:Toxic Epidermal Necrolysis)
- 皮膚粘膜眼症候群 (SJS:Stevens-Johnson症候群)
- 急性汎発性発疹性膿疱症
などと呼ばれます。
これら重症薬疹は発疹が全身に広がります。表皮のバリア機能が失われ、ばい菌に感染しやすくなり、また水分も失われるため非常に重篤な状態になります。
重症薬疹は、
- テグレトールの服用初期(3か月以内)に多い
- 最初は皮膚や粘膜の軽度の発疹から始まる事が多い
- 発熱、咽頭痛、目の充血などを伴う事が多い
といった特徴があります。
このような徴候を認めた場合は、すぐに主治医に相談し、原則としてテグレトールの服用を中止するようにしましょう。
Ⅱ.血球減少症
テグレトールは、
- 赤血球(全身に酸素を届けるはたらきを持つ)
- 白血球(ばい菌をやっつけるはたらきを持つ)
- 血小板(傷から血液が漏れるのを止めるはたらきを持つ)
といった血球の数を減少させてしまう事があります。
赤血球が減少すれば貧血となり、全身に十分な酸素を送れなくなってしまいます。その結果、めまい、ふらつきや倦怠感などが生じます。
白血球が減少すれば、ばい菌と闘う力がなくなってしまいます。その結果、すぐにばい菌に感染するようになってしまい、また感染後になかなか治らなかったり、大したことのない病原菌の感染でも重篤な状態になってしまいやすくなります。
血小板が減少すれば、傷が出来た時に出血が止まらなくなってしまいます。その結果、出血多量になってしまいやすくなり、またちょっと身体をぶつけただけでも出血してしまうようになります。
これらの副作用に対しては定期的に血液検査を行い、血球減少が生じていないかを確認する必要があります。そして明らかな減少が認められる場合にはテグレトールは中止をする必要があります(軽度の減少の場合は慎重に経過観察とすることもあります)。
また服用者自身も上記のような血球減少で認められる症状を理解し、そのような徴候を認めたらすぐに主治医に相談する事も大切です。
Ⅲ.その他重篤な副作用
テグレトールで特に注意すべき重篤な副作用は、上記の2つになります。
しかしそれ以外の重篤な副作用が生じる事も稀ながらあります。
代表的なものとして、
- 肝機能障害
- 急性腎不全
- 間質性肺炎
- 心不全
などがあります。
テグレトールによって、肝臓・腎臓・肺・心臓といった臓器がダメージを受けてしまう事で生じます。
このような副作用に対する対処法もやはり定期的に血液検査やレントゲン検査を行い、副作用の徴候が出ていないかを確認する事です。そしてその徴候がある場合はテグレトールを減量したり場合によっては中止する必要があります。
3.テグレトールで生じる各副作用と対処法
次に、テグレトールで生じる一般的な副作用とその対応法について紹介します。
テグレトールで生じうる副作用は非常に多くありますが、そのすべてを羅列だけしてもみなさんの役には立ちませんので、ここでは代表的な副作用とその対処法を紹介します。
テグレトールで生じる主な副作用としては、
- 眠気
- めまい、ふらつき
- 倦怠感、脱力感
- 発疹
- 頭痛
- 口喝(口の渇き)
などがあります。
詳しく見ていきましょう。
Ⅰ.鎮静作用
眠気やめまい・ふらつき、倦怠感、脱力感などはテグレトールの鎮静作用によって生じます。テグレトールは双極性障害の躁状態や、統合失調症の興奮状態に適応がある事からも分かるように、興奮した脳神経を鎮静させるはたらきに優れます。
これが時に眠気やめまいといった副作用となって現れる事があるのです。
テグレトールでこれらの副作用が生じた場合はどのように対処すればいいでしょうか。
まずテグレトールの服用をはじめたばかりであり、副作用の程度がそこまで重くないのであれば様子を見てみるのも手です。なぜならばこれらの副作用は服用を続けていくことで「慣れてくる」事があるためです。
数週間から1,2か月服用を続けると、次第に眠気が弱まってきた、という事も十分あり得ます。
どうしても副作用がつらい場合は、
- 服用回数を増やす
- 服用を夕食後や就寝前にする
など、服用方法を工夫してみる事も有効です。例えばテグレトールを1日600mg服用するとしても、朝に1回600mg服用するのと、朝と夕に300mgずつ分けて服用するのとでは、後者の方が感じる副作用の程度は小さくなります。
また鎮静系の副作用は、夜眠っている時に生じてしまえば問題ありませんので、服用時間を夜にずらすという方法も有効です。
服用方法の工夫でも対処できない場合は、
- テグレトールの減量をする
- 他の気分安定薬に変更する
という方法をとります。
テグレトールを減量できるかどうかは今の状態によりますので、主治医とよく相談して判断する必要があります。場合によっては減量してしまうと副作用は軽くなるけど治療効果が不十分になってしまうという事もあります。この場合はこの方法は取れません。
テグレトールから別の気分安定薬に変更するという方法もあります。気分安定薬はテグレトール以外にもいくつかの種類がありますし、双極性障害の治療薬には気分安定薬以外にも抗精神病薬もあります。
これらのお薬の中から、今の自分の合っていそうなものを主治医を相談しながら選び、変薬するのも方法の1つです。
Ⅱ.発疹
テグレトールは副作用で発疹が生じる事もあります。
軽度の発疹にとどまることもあるのですが、上記「重篤な副作用」の重症薬疹の可能性が否定できない場合は原則としてテグレトールを中止した方が良いでしょう。
いずれにせよ、発疹が出現した場合は主治医にすぐ相談して指示を仰ぐ必要があります。
Ⅲ.頭痛
テグレトールは脳神経に作用するお薬です。基本的には神経の興奮を抑えるため、痛みを抑える方向にはたらくのですが、時に副作用として頭痛が生じてしまう事もあります。
テグレトールで頭痛が生じた場合、重い頭痛が続く事は多くはありませんので、まずは様子を見てみる事をお勧めします。場合によっては一時的に鎮痛剤などを用いて様子をみても良いでしょう。
大半のケースでは頭痛は自然と落ち着いてくるでしょう。
頭痛が続くようであったり、強い頭痛が認められる場合はテグレトールの減量あるいは中止して別のお薬に切り替える必要があります。
Ⅳ.抗コリン作用
テグレトールは「抗コリン作用」という作用があります。
これはアセチルコリンという物質のはたらきをブロックする作用の事です。
抗コリン作用では、
- 口喝(口の渇き)
- 尿閉(尿が出にくくなる)
- 便秘
などといった副作用が生じます。
テグレトールの抗コリン作用は強くはないため、これらの症状も強く出る事は多くはありません。
そのため様子を見れる程度の抗コリン作用であれば、まずは様子を見てみる事をお勧めします。あまりに症状が強いようでしたらやはりテグレトールの減量あるいは中止して別のお薬に切り替える必要があります。
4.テグレトールと相互作用するお薬と量の調節
テグレトールは相互作用するお薬が多くあるため、注意が必要です。
お薬の相互作用は医師であれば知っている事ですので、基本的には処方した医師に任せていただければ良いのですが、複数の医師から処方を受けている場合だと、患者さんが医師にお互いで処方されているお薬を伝えないといけません。
テグレトールが相互作用する代表的なお薬を紹介します。
- 一部の抗真菌薬(水虫など真菌をやっつけるためのお薬)
- 一部のED(勃起不全)治療薬
- 一部のエイズ治療薬
- 一部の気分安定薬
- 一部の吐き気止め
- 一部の抗精神病薬
- 利尿剤
- 一部の結核治療薬
- 一部の胃薬
- 一部の抗生物質
- 一部の抗不整脈薬
- 一部の抗てんかん薬
- 一部の抗うつ剤
- 一部の気管支拡張薬
- 一部の抗不安薬・睡眠薬
- 一部の抗認知症薬
- 一部の降圧剤
- 一部のステロイド
- 一部の女性ホルモン薬
- 一部の抗凝固薬
- 一部の抗悪性腫瘍薬
- 一部の脂質異常症治療薬
などなど、非常に多岐にわたります。
必ずしもこれらのお薬とテグレトール併用できないわけではありませんが、併用する際はお互いのお薬の量の調整が必要になる事があります。
5.テグレトールの催奇形性
テグレトールには催奇形性が報告されています。これは妊娠中の方が服用すると赤ちゃんに奇形が発生するリスクが高くなるという事です。
このためテグレトールは妊婦さんが服用する事は基本的に推奨されていません。また急な妊娠の可能性がある方も服用は慎重に考える必要があります。
テグレトールによる奇形の報告として多いのが「二部脊椎」です。
脊椎は背骨にある神経とその通り道の事です。二分脊椎は、普通であれば作られる脊椎の一部が正常に形成されない奇形です。軽度であれば大きな症状が出ずに気付かれないこともありますが、神経の一部の欠損により何らかの神経症状を伴うことも多くあります。
神経は妊娠初期に作られます。そのため、妊娠初期にテグレトールを服薬していると二分脊椎の発生率は高くなります。また気分安定薬であるデパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)も二部脊椎を生じる可能性があるお薬であり、デパケンとテグレトールを併用していると更にリスクは高まります。
欠損する神経の部位によって生じる症状は様々ですが、
- 運動障害:身体の動きの一部が低下する。例えば手足が動かしにくかったり
- 感覚障害:身体の感覚の一部が低下する。例えば触っても分からなかったり
- 自律神経障害:排便や排尿などがうまくできなくなってしまう
などの症状が認められます。
二部脊椎以外にも、
- 発育障害
- 口蓋裂
- 口唇裂
- 心室中隔欠損
- 尿道下裂
などの奇形の報告もあります。
赤ちゃんに奇形が発症してしまった場合、発症してしまったら手術などを行う他に対処法はありません。そのため発症させないような予防が何よりも大切になります。
一番大切な事は急な妊娠を避ける事です。急な妊娠となるとテグレトールを中止するのが遅れてしまったり、また精神状態によっては急にテグレトールを中止できないような状況に陥り、「自分の精神状態を取るか赤ちゃんの奇形リスクを取るか」といった2択を迫られる事になります。
また妊娠を予定する場合は、原則としてテグレトールは中止すべきです。催奇形性のない気分安定薬としてはラミクタール(一般名:ラモトリギン)がありますので、もし変薬が可能であれば主治医と相談の上でラミクタールに変えるのも手でしょう。
やむを得ずテグレトールを継続したまま妊娠となる際は、葉酸の投与が二部脊椎の発症リスクを下げるという報告があり、葉酸を併用するのも有用です。
またテグレトールの量を出来るだけ少ない量に減量することも大切です。テグレトールの量が少なければ少ないほど、奇形発生リスクも低下するためです。