過眠症は不眠症と同じく睡眠障害の1つですが、不眠症ほど知られていません。
「眠れない日が続いている」となれば不眠症だと考え病院に足を運ぶ方は多いですが、「日中いつも眠いな」「十分な時間寝ているのに眠った気がしないな」と感じていても、それが病気だとは考えない方も多いのではないでしょうか。
このように過眠症は「ただ気が緩んでるだけ」「ちょっと疲れているだけ」と見過ごされてしまいがちで、「自分は過眠症ではないか」と気付きにくいため診断・治療が遅れてしまう事が少なくありません。
では過眠症はどのような症状があったら疑えばよいのでしょうか。
ここでは「このような症状があったら過眠症の可能性がありますので、病院を受診してみてください」という指標になるようなチェック方法を紹介していきたいと思います。
1.過眠症の3徴候でチェックしてみる
まず簡単にチェックする方法として、過眠症を疑う3徴候を紹介します。
次の3つを満たしている場合は過眠症を疑ってください。
- 十分な睡眠時間(おおよそ7時間以上)を取っている
- 日中に強い眠気を感じる(実際に寝てしまう事もある)
- 日中の眠気によって生活に支障が生じている
この3つを満たした状態が続いている場合は、一度精神科で専門家に相談した方が良いでしょう。
まず過眠症は「十分な睡眠時間を取っているにも関わらず問題が生じている」というのが大前提です。そもそも睡眠時間が少なくて日中に眠いのであれば、それはただの寝不足であり病気ではありません。しっかりと睡眠のための時間を確保しているのだけど、十分に疲労が取れていないという事が重要です。
「十分な睡眠時間」がどのくらいかというのは人それぞれですが、1つの目安として「約7時間以上」と考えるのが良いでしょう。
人によっては7時間以下でも十分な睡眠時間となる方もいますが、7時間はほとんどの人にとって十分な睡眠時間になります。そのため、7時間以上睡眠時間を確保しても日中に強い眠気が出る場合は、睡眠中に何らかの問題があると考えられます。
また過眠症と判断するためには、ただ日中に眠気があるだけでは不十分です。日中の眠気が日常生活に支障を及ぼす程度である必要があります。
「昼間にちょっと眠い」というくらいであれば、それは正常範囲内の眠気でも生じる程度です。
過眠症は日中に強い眠気を感じており、それによって
- 学校や仕事へ遅刻が増えている
- 作業の集中力が落ち、ミスが増えている
などといった生活への支障が生じている場合、これは過眠症の可能性が高くなります。
この3つを満たす場合は一度精神科を受診し、専門家に相談してみる事をおすすめします。
2.過眠症の診断基準でチェックしてみる
過眠症は睡眠障害の1つに位置付けられており、診断基準があります。
精神科医は精神疾患を疑った時、必ず「診断基準を満たすか」という事を考え、それを診断の根拠の1つとします。過眠症においても同様で、過眠症の診断基準を満たしているかを考えながら診断は行われます。
診断基準は、ただ書いてある事に本人が「当てはまっている」と感じただけで診断できるものではありません。精神疾患のプロ(精神科医)が、精神医学的に見てその項目を満たしているかを判断する必要があるため、一般の人が読んだからといってそのまま過眠症の診断が出来るものではありません。
しかし診断基準を詳しく知る事で、自分が過眠症の可能性が高いのかどうかを理解できるようになりますので、過眠症の診断基準をおおまかに知っておく事は意味のあることです。
過眠症の診断基準を紹介します。
【過眠障害 DSM-5診断基準】
A.主な睡眠時間帯が少なくとも7時間持続するにもかかわらず、過剰な眠気(過眠)の訴えがあり、少なくとも以下の症状のうち1つを有する。
(1)同じ日のうちに、繰り返す睡眠期間がある、または睡眠に陥る。
(2)1日9時間以上の長い睡眠エピソードがあっても回復感がない(すなわち、爽快感がない)。
(3)急な覚醒後、十分に覚醒を維持するのが困難である。B.その過眠は、少なくとも1時間に3回起き、3ヵ月間以上認められる。
C.その過眠は、意味のある苦痛、または認知的、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を伴っている。
D.その過眠は、他の睡眠障害(例:ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、概日リズム睡眠-覚醒障害、または睡眠時随伴症)ではうまく説明されず、その経過中にだけ起こるものではない。
E.その過眠は、物質(例:乱用薬物、医薬品)の生理学的作用によるものではない。
F.併存する精神疾患や医学的疾患では、顕著な過眠の訴えを十分に説明できない。
以上、AからFまでを全て満たした場合、過眠症と診断されます。
診断基準は難しく書かれているため、これだけだと分かりにくいですね。1つずつ詳しく見ていきましょう。
Ⅰ.十分な睡眠時間を取っていても、日中に眠い
A.主な睡眠時間帯が少なくとも7時間持続するにもかかわらず、過剰な眠気(過眠)の訴えがあり、少なくとも以下の症状のうち1つを有する。
(1)同じ日のうちに、繰り返す睡眠期間がある、または睡眠に陥る。
(2)1日9時間以上の長い睡眠エピソードがあっても回復感がない(すなわち、爽快感がない)。
(3)急な覚醒後、十分に覚醒を維持するのが困難である。
過眠症では、睡眠時間が十分(少なくとも7時間)であるにも関わらず、日中に過剰な眠気があります。
「過剰な眠気」だけだとどうしても主観的な症状になってしまうため、客観的な所見として、
(1)1日に何度も眠ってしまう
(2)9時間以上寝ても「疲れが取れた感じ」「すっきりした目覚め」が得られない
(3)寝ている時に急に起こされると、もうろうとした状態になってしまう
のいずれか1つの所見を認める必要があります。
Ⅱ.過眠症状が一定期間続いている
B.その過眠は、少なくとも1週間に3回起き、3ヵ月間以上認められる。
1日や2日過眠があっただけでは、それは極度に疲れた時に一時的に生じた正常な反応かもしれません。
過眠症と診断されるには、過眠が一定期間続いている必要があります。
「一定期間」の目安として、診断基準では3か月とされています。また過眠は週に3回以上生じていなければいけません。
Ⅲ.生活に支障が生じている
C.その過眠は、意味のある苦痛、または認知的、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を伴っている。
過眠があっても、それで生活に大きな支障をきたしていなければ何も問題はなく、病気とは言えません。
過眠症と診断するためには、過眠によって「日常生活に支障が出ている」事が大切です。
すなわち、
- 過眠によって集中力が落ちて仕事で重大なミスをしてしまう(認知的障害)
- 過眠で遅刻が多くて他者から信頼を得られなくなってしまう(社会的障害)
- 過眠で遅刻・仕事の遅れなどが出てしまい同僚に迷惑をかけている(職業的障害)
などを認める必要があります。
Ⅳ.他の疾患による過眠ではない
D.その過眠は、他の睡眠障害(例:ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、概日リズム睡眠-覚醒障害、または睡眠時随伴症)ではうまく説明されず、その経過中にだけ起こるものではない。
E.その過眠は、物質(例:乱用薬物、医薬品)の生理学的作用によるものではない。
F.併存する精神疾患や医学的疾患では、顕著な過眠の訴えを十分に説明できない。
これは医師でなければ判断が難しい項目です。
この項目で言いたいのは「他の疾患で過眠が生じているわけではない」という事です。他の疾患の症状として過眠が出ているのであれば、それは過眠症ではなくその疾患が原因になります。
「他の疾患」として、
- ナルコレプシー
- 呼吸関連睡眠障害
- 概日リズム睡眠-覚醒障害
- 睡眠時随伴症
などが挙げられています。
なお、ナルコレプシーは過眠症の1つと考える事もありますが、DSM-5という診断基準では過眠症とは別の疾患として扱っています。
また、
- お薬の副作用によって生じている過眠(薬剤性過眠症)
- 他の精神疾患によって生じている過眠(非定型うつ病など)
- 他の医学的疾患によって生じている過眠(甲状腺疾患や尿毒症など)
でない事も確認する必要があります。
3.過眠症のチェックテスト
過眠症の診断は医師の診察によってなされますが、診断に補助的な役割を持つものとして、質問紙検査があります。
質問紙検査は、紙に書いてある質問に患者さんが答えていき、点数を出す事で過眠症の疑いの強さを推測するもので、過眠症かどうかを判断するために役立ちます。
過眠症で用いられる質問紙検査には、
- エプワース眠気尺度(ESS)
- スタンフォード眠気尺度(SSS)
- 関西学院眠気尺度(KSS)
- カロリンスカ眠気尺度(KSS)
などがあります。
それぞれ長所・短所があり、一概にどれを用いるのが良いと言えるものではありませんが、ここでは一番有名な「エプワース眠気尺度」を紹介します。
【エプワース眠気尺度(ESS)】
次の状況でどのくらい眠ってしまいやすいか答えてください。自分で判断できない場合は、家族などにも協力してもらって解答してください。
[jazzy form=”ess”]
【ESS結果判定】
11点以上 過眠症の疑いあり