精神疾患にかかってしまい精神的に優れない状態が続くと、日常生活が十分に送れなくなってしまったり、仕事が出来ずに生きていくために必要なお金を稼げなくなってしまう事があります。
このようにこころの病気が原因で生活に支障が生じてしまっている方に対して、社会的な援助を行う制度として「精神障害者保健福祉手帳」があります。
精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患によって生活に一定の支障が生じてしまっている方に交付されるものです。この手帳は、持っている人が精神疾患によってやむを得ず生活に制限が生じている事を証明し、またそれを社会的に援助するサービスを受ける事を可能にします。
精神的につらい日々を送っていて、交付に該当する方にはぜひ取得するようにしましょう。
ここでは精神障害者保健福祉手帳はどのような方が対象となる制度で、取得するとどのようなサービスを受ける事が出来るのか、また手帳を取得するためにはどのような手順を踏めばいいのかなどを紹介させていただきます。
目次
1.精神障害者保健福祉手帳とは
まずは「精神障害者保健福祉手帳」とはどういったものなのかを説明します。
この手帳の本来の役割は、
「この手帳を持っている方は、精神障害によって生活に一定の支障が生じています」
という事を公的に証明するものです。
統合失調症、うつ病、双極性障害、発達障害などの精神障害は「疾患」であり、本人に非がなくても一定の割合で発症してしまうものです。そして発症してしまうと、普通の生活を送る事が困難になってしまったり、思うように仕事が出来ず、生活するためのお金が得られなくなってしまう事があります。
このような状態になってしまうと、その人は大きな不利益を抱えて生きていく事になります。たまたま疾患が発症してしまったがために、自分は何も悪くないのに不利な人生を送る事になってしまうのです。
このような状態にある方に対して社会的に一定の援助を行う事は、皆が平等に生きていくために必要な事です。
このような考えから生まれたのが精神障害者保健福祉手帳です。
つまり精神障害者保健福祉手帳は、
- 本人が精神障害によって生活に一定の制限が生じている事を証明する
- 生活を援助するために社会的サービスを提供する
という役割を持つものなのです。
2.どのような精神疾患が対象となるのか
精神障害者保健福祉手帳はどのような精神疾患であれば取得できるのでしょうか。
実は精神障害者保健福祉手帳は病名によって交付できるかどうかが決まるものではありません。
そもそもの前提として「精神疾患と診断されている」事は必要ですが、重要なのは病名より、その精神疾患によって「生活に一定の支障が生じているのかどうか」という点になります。
そもそも、この手帳の趣旨は「生活に一定の支障が生じている精神疾患の方を社会的に援助しよう」というものです。その趣旨にのっとれば、病名だけで判断するのはおかしい事は明らかです。
「あなたの精神症状は生活に大きな支障が出ているみたいだけど、〇〇病だから援助しませんね」となるのはおかしいですよね。
精神障害者保健福祉手帳は精神疾患にかかっている方であり、生活に一定の支障が生じている方であればすべての方が対象となります。
具体的な病名を挙げるとすれば、
- 統合失調症
- 双極性障害(躁うつ病)
- うつ病
- パニック障害
- 社会不安障害
- 全般性不安障害
- 強迫性霜害
- 外傷性ストレス障害(PTSD)
- 発達障害(アスペルガー症候群など)
- 高次脳機能障害
- てんかん
- 依存症
- パーソナリティ障害
- 摂食障害(過食症、拒食症など)
など、ほとんどの精神疾患が対象疾患として挙げられます。
しかし繰り返しますが大切なのは病名ではなく、その疾患によって「生活に一定の支障が生じているか」という点になります。
3.精神障害者保健福祉手帳の等級について
精神障害者保健福祉手帳には等級があります。
一言に「生活に一定の支障が生じている」といっても、患者さんの状態によってその程度には大きな幅があります。
生活に少しの制限が生じているくらいの軽症の方と、自力での生活が全く不能になっている重症の方を同列に扱って同じサービスを提供するのでは、あまりに実態にそぐわない制度になってしまいます。
精神障害者保健福祉手帳では、生活にどのくらいの支障が生じているかで「1級」、「2級」、「3級」と3段階の等級が設けられています。
最も援助が必要な重症の方が1級になり、援助の程度が軽くても大丈夫な軽症の方が3級になります。そして級によって、得られるサービスにも違いがあります。
1級、2級、3級のおおよその定義は次のようになっています。
1級 | 自力で日常生活を送る事が不能 |
2級 | 日常生活を送るのに著しい制限を受けている |
3級 | 日常生活を送るのに一定の制限を受けている |
4.精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービス
精神障害者保健福祉手帳を交付してもらうと、どのような社会的援助が受けられるようになるのでしょうか。
精神障害者保健福祉手帳で受けられる援助内容は、手帳の等級によって異なります。またその人が住んでいる地域によっても多少異なりますが、大きく分けると、
- 税金面での控除・減額
- 公共交通機関の割引
- その他料金の割引
の3つがあります。
1つずつ紹介していきます。
Ⅰ.税金面での控除・減額
精神障害者保健福祉手帳を持っていると、様々な税金の控除・減税を受ける事が出来ます。
具体的な例を挙げると、
- 所得税
- 住民税
- 相続税
- 自動車税
などなど、様々な税金が本来支払う額よりも減税されたり、あるいは控除されます。
なお等級によって減税・控除となる税金が異なったり、減税の率が異なるものもあります。
Ⅱ.各種交通機関の割引
精神障害者保健福祉手帳を持っていると、バスや電車といった公共交通機関を割引料金で乗る事が出来る場合があります。
これは地域や交通機関によって異なり、全く割引がないものもあります。自分の住んでいる地域での各種交通機関が割引となっているかは、役所に問い合わせたり、その交通機関を運営している会社のサイトを見ることで確認できます。
比較的割引が行われている交通機関には「バス」があります。バスは多くの地域で割引料金で乗車する事ができます。ただし高速バスや長距離バスなどは別で、割引にならない事がほとんどです。
電車は割引を行っている鉄道会社もありますが、大手のJRなどでは割引は行われていませんので注意が必要です。
また飛行機も割引はされません。高速道路も原則割引は行なわれていません。
タクシーは地域によっては割引を受けられる事があります。
Ⅲ.その他料金の割引
その他、地域によっては、
- 携帯電話料金
- 水道料金
- NHK放送受信料
- 映画館の入場料
- 遊園地の入場料
が割引される事があります。
ただしこれも地域や会社によって異なりますので、事前に確認しておいた方が良いでしょう。
5.自分が精神障害者保健福祉手帳を取得できるかを知るには
自分が精神障害者保健福祉手帳を交付してもらえるのかどうかは、どのように判断すればいいでしょうか。
精神障害者保健福祉手帳は精神科医が申請の診断書を書き、精神保健福祉センターという公的機関がそれを受理して交付に該当するのか、該当するのであれば級はどれくらいなのかを判定します。
書類を書くのは医師ですが、判定は精神保健福祉センターが行いますので、実際にその人が精神障害者保健福祉手帳の交付になるのかは、精神保健福祉センターでないと分かりません。
しかし精神障害者保健福祉手帳の申請診断書を書き慣れている精神科医は、だいたいどのくらいの程度の精神状態であれば何級くらいが交付されるのかというのを分かっています。
そのため、自分が精神障害者保健福祉手帳の交付に該当するのかどうかを知りたい場合は、まずは精神科の主治医に自分の今の状態で精神障害者保健福祉手帳を取得できるかどうかを聞くのが良いでしょう。ある程度精度の高い回答が得られるはずです。
交付のポイントとなるのは、
- 精神疾患の診断がされている事
- 精神疾患によって、生活に一定の制限が生じている事
という点になります。
精神疾患があって、それによって日常生活に何らかの支障が生じている状態が続いているのであれば交付される可能性は高いでしょう。
また注意点として精神障害者保健福祉手帳の申請診断書は、精神疾患を初診した日から6か月以上経たないと発行できない決まりとなっています。
そのため、主治医に初めて見てもらってから6か月は診察を続けて頂かないと取得する事は不可能です。
これは精神障害者保健福祉手帳で減税・割引される分というのは税金から賄われるものである以上、安易に交付すべきものではないからです。もちろん必要な方には利用して頂きたい制度なのですが、一方で本来は該当しない方がどんどん交付されてしまうようでは困ります。
精神科医が患者さんの現状や今後の見通しを把握し、「生活に一定の支障が生じているのか」という事をしっかりと判定するには半年くらいはかかるであろうという考えの元、「初診から半年以上経過してから申請が可能」という制限が設けられています。
転院して、転院先で初めて精神障害者保健福祉手帳を申請する場合は、その転院先を初めて初診した日から6か月以上経っている事が必要です。そのため転院したけども6か月は待てないという場合は、転院前の先生にお願いして書いてもらうしかありません。
6.精神障害者保健福祉手帳の申請方法
精神障害者保健福祉手帳を交付してもらうには、具体的にどのような手続きを踏めばいいのでしょうか。
おおまかな手順について紹介します。
Ⅰ.主治医に精神障害者保健福祉手帳の適用が確認する
自分の精神状態が精神障害者保健福祉手帳の交付に該当する程度なのかは、精神科医の主治医に聞けばある程度は分かります。
精神障害者保健福祉手帳を希望する場合、まずは主治医に自分が該当する条件を満たしているのかを聞いてみましょう。
Ⅱ.申請用紙を入手する
次に精神障害者保健福祉手帳の申請書類を入手しましょう。
主治医から精神障害者保健福祉手帳に該当すると言われたら、申請の診断書を書いてもらう必要があります。
申請の診断書は、簡単に入手する事ができます。
市役所や精神保健福祉センターでももらえますし、精神科クリニックで用意してあるところもあります。また近年では市役所のサイトにアクセスすれば様式をダウンロードする事もできますので自分で印刷しても構いません。
いずれの方法で入手しても問題ありません。
Ⅲ.主治医に申請診断書に記入してもらう
精神障害者保健福祉手帳の申請の診断書を精神科の主治医に渡し、記入してもらいましょう。
申請用紙には氏名・住所・生年月日・年齢などといった個人情報から、病名や症状、投薬内容、経過などの病気の詳細についても記載しなければいけません。また現在の精神状態が生活にどのくらいの支障をきたしているのか、社会的にどのくらいの援助が必要な状態なのかも医学的見地から記入します。
これは基本的にはその方を6か月以上診察している主治医が記載するものになります。そのため申請用紙を主治医に渡し、記入してもらう必要があります。
忙しい先生だと記載までに時間を頂くこともありますが、通常は早ければ即日、遅くとも1~2週間程度で記載してくれます。完成したら患者さんが病院に取りにきても構いませんし、なかなかすぐには来れないという場合は郵送させていただくこともあります。
医者側の立場でお話すると、作成自体は10分程度で終わるものになります。しかし診察中に作成してしまうと次の患者さんを待たせてしまうことになるため、患者さんが多い時は診察時には書かず、その日の診察が終わってからまとめて書くようにしている先生が多いと思います。
実はこのような医師が書かないといけない書類というのは結構多く、1つ1つの書類は短時間で書き終わるものであっても書類が溜まっていると時間が必要になることがあります。そのため、状況によっては1〜2週間頂くこともあるのです。
Ⅳ.申請用紙を役所に持っていく
面倒ですが、申請用紙を役所の窓口まで持っていきましょう。
申請する窓口は各市役所によって異なりますが、
- 障害福祉課
- 保健福祉課
などが多いようです。
Ⅴ.手帳が届けば使用できる
1~2カ月ほど経つと、精神保健福祉センターから精神障害者保健福祉手帳が送られています(送られてくる期間は目安で差があります)。
あとはサービスを受けるときに手帳を提示すれば、各種サービスを受ける事ができます。
なお、精神障害者保健福祉手帳は2年に1回更新が必要になります。
また交付の可否や等級について納得がいかない場合は、主治医にお願いして再度申請する事も可能です。
ただし同じような内容が記載されている診断書を何度申請しても、やはり同じ結果になってしまいますので、申請を続ければ取れるというものではありません。
交付できるかの可否は感覚的に判断されているわけではなく、判定の根拠がしっかりと定められており、判定員の方々はその判定基準に沿って厳密に判定しています。そのため同じ内容の申請診断書であれば何度申請しても結果は同じになります。
逆に申請した時の精神状態と現在の精神状態が大きく異なり、記載内容が異なってくるようであれば再申請によって結果が変わる事は十分考えられます。