平成26年3月より、痛み止めの湿布である「モーラステープ」が 妊娠後期の女性に使用できなくなりました(使用禁忌)。妊娠後期はお腹が大きくなってくるため、腰やひざに負担がかかりやすく、痛み止めの湿布や塗り薬を使いたくなることがあります。
今までは医師が必要と判断すれば使うことができましたが、今後は使うことができません。現在妊娠中の方、今後妊娠する可能性がある方は十分注意してください。
なぜ、モーラステープが妊娠後期の女性に使用禁忌となったのでしょうか。
通達には次のように書かれています。
文中に出てくる「ケトプロフェン」とはモーラスの一般名のことです。
モーラスと同じ意味と考えて読んでください。
ケトプロフェンのテープ剤を妊娠後期の女性に使用し、胎児に動脈管収縮が発現した国内症例が集積
したこと、またケトプロフェンのテープ剤を妊娠中期の女性に使用し、羊水過少が発現した国内症例
が報告されたことから、専門委員の意見も踏まえた調査の結果、ケトプロフェンのテープ剤及び他の
剤形において改訂することが適切と判断した。
妊娠後期の女性がモーラステープを使用した際に、
お腹の赤ちゃんの動脈管収縮が生じた例、母体の羊水過小が生じた例が数例報告されたことが理由です。
(いずれも胎児の死亡にまでは至っていません)
モーラステープはNSAIDSというタイプの鎮痛剤です。
以前からNSAIDSの飲み薬は「動脈管収縮」を起こすために妊娠後期の女性には禁忌でした。
(ロキソニン、ボルタレンなど)
しかし湿布は「飲み薬ほどは胎児に影響しないだろう」と考えられ、禁忌にまではなっていませんでした。
実際、いずれも死亡例にまでは至っていないため、飲み薬と比べると湿布の安全性は
高いのかもしれません。それでもやはり使わない方が無難だという判断がなされました。
自分に何かあるだけならまだしも、これから大きな未来がある赤ちゃんへの影響ですから、
個人的にはこの判断は妥当だと考えます。
自分が湿布を貼った事が原因で赤ちゃんに重篤な悪影響が出てしまったとしたら、
一生後悔することになってしまうでしょう。
「動脈管」と言うのは、赤ちゃんがお腹の中にいる時にだけ空いている管のことです。
詳しい説明は省きますが、赤ちゃんはへその緒を通じて母親から酸素をもらっているため、
母体内にいるときは、肺で呼吸する必要がありません。
そのため、肺に血液を送らないで済むように開いているのが動脈管なのです。
したがって動脈管は、生まれて12時間くらいすると自然と閉じます。
この動脈管が出生前に閉じてしまうと問題です。
赤ちゃんが酸素をうまく受け取れなくなってしまい、胎児死亡を起こすこともあります。
今回、モーラステープが禁忌になった理由となる症例は次のようなものでした。
<直近3 年度の国内副作用症例の集積状況【転帰死亡症例】>
- 胎児動脈管収縮関連症例
ケトプロフェン(テープ剤)2 例 【死亡0 例】- 羊水過少
ケトプロフェン(テープ剤)1 例 【死亡0 例】
幸い、いずれも死亡までは至っていませんが、2例の動脈管収縮と、1例の羊水過小が
モーラステープが原因で起こってしまったようです。
ケトプロフェン(モーラス)には湿布のほか、塗り薬もあります。
当然ながら、これらも今後、妊娠後期には「禁忌」となります。
具体的には、
- エパテックゲル、エパテックローション、エパテッククリーム(ゼリア新薬工業株式会社)
- セクターゲル、セクターローション、セクタークリーム(久光製薬株式会社)
- ミルタックスパップ(ニプロパッチ株式会社)
- モーラスパップ(久光製薬株式会社)
などです。
モーラス以外のNSAIDSの湿布や塗り薬に関しては、現時点では
「他の非ステロイド性消炎鎮痛剤の外皮用剤を妊娠後期の女性に使用し、
胎児動脈管収縮が起きたとの報告があるため、慎重に使用すること」
という記載にとどまっていますが、作用機序が似ている事を考えると、
赤ちゃんへの影響が心配な方は使用しない方がいいでしょう。
妊婦にも比較的安全な鎮痛剤には「アセトアミノフェン」があります。
NSAIDSほどの強さはないものの、動脈管収縮を起こす頻度もほとんどなく、
安全性の高い鎮痛剤です。
どうしても痛みがつらい妊婦の方は、産婦人科医と相談し、
アセトアミノフェンなどを処方してもらう方が安全でしょう。