原因がはっきりと見つからない身体の不調に対して、しばしば「自律神経失調症」という診断名が付く事があります。
何だか最近胃腸の調子が悪い・・・
頭が重い感じが取れない・・・
このような症状が続くため病院で検査をしても何も異常がない・・・。そういえば最近ストレスが多かったと医師に伝えると、「自律神経のバランスが崩れたことによる自律神経失調症の可能性が高いですね」と言われたりします。
自律神経は全身に分布する神経ですので、それが失調してしまうと非常に多岐に渡る症状が出現します。また「自律神経」という見えにくい部位に異常が生じる病気であるため、自律神経失調症の全体像というのは非常にぼんやりとしています。
「自律神経失調症」と診断名が下されると「そうなのかな」と納得してしまいますが、そもそも自律神経失調症というのはどのような病気でどのような原因で生じるものなのか分かっているでしょうか。
原因が分からなければ正しい対策を取る事が出来ません。そして正しい対策を取れないと正しい治療が行えません。あいまいな部分の多い病気だからこそ、この病気について正しく知る事はとても大切です。
今日は自律神経失調症が生じる原因について紹介します。
1.自律神経失調症って何?
まずはじめに、自律神経失調症とはどんな病気なのかをお話しします。
自律神経失調症は文字通り、「自律神経」のバランスが「失調している(崩れている・乱れている)」状態です。
では自律神経とは一体なんでしょうか。
私たちの身体には全身に「自律神経」という神経が張り巡らされており、自律神経は臓器や血管を自動的に適切な状態に保ってくれるというはたらきがあります。
例えば私たちは、自分で意識しなくても心臓が勝手に動いてくれています。これは自律神経が自動的にはたらいてくれるためです。また、それだけでなくリラックスしている時は心拍数は遅くなり、運動したり興奮している時は心拍数は自動的に早くなります。これもリラックスしている時は全身に多くの血液を送る必要がない、運動している時は全身に多くの血液が必要だ、という事を自律神経が自動的に判断し、適切に心臓のはたらきを調整しているのです。
自律神経は、より詳しく見ると「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経に分かれます。
交感神経は緊張・興奮の神経です。主に日中に活性化している神経で、身体を覚醒モードにし、バリバリ活動できるような状態を作ります。具体的には交感神経が活性化すると呼吸や脈拍は早くなり、血圧は上がります。
副交感神経はリラックスの神経です。主に夜間に活性化している神経で、身体をリラックスモードにし、ゆっくりと休めるような状態を作ります。具体的には副交感神経が活性化すると呼吸や脈拍はゆっくりになり、血圧も下がります。
自律神経は交感神経と副交感神経が絶妙なバランスを保つことで、その場その場で最適になるように身体の状態を保っているのです。
この交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうのが自律神経失調症です。
自律神経は自動的にはたらいてくれる非常にありがたい神経なのですが、一方で自分で意識的に調節する事ができません。例えば自分の心臓の拍動を「止めよう!」と意識しても止める事は出来ませんよね。
そのため自律神経のバランスが崩れてしまうと、そのバランスを自分の思い通りに戻す事は難しく、私たちを苦しめる事になってしまいます。
自律神経のバランスが乱れると、本来バリバリ活動しなくてはいけない時に交感神経が活性化しなかったり、反対に本来ゆったりすべきはずの時間に交感神経が活性化してしまったりといった事が生じます。
例えば日中に交感神経が活性化しないと、
- 集中力低下
- 眠気・倦怠感
などが生じるでしょう。
また夜間など本来ゆったりすべき時に副交感神経が活性化せず、交感神経が活性化してしまうと
- 頭痛
- 不眠
- 動悸
- イライラ
などが生じるでしょう。
このように自律神経のバランスが崩れる事で様々な症状を生じるのが「自律神経失調症」です。
2.自律神経失調症は昔の病名?
ちなみに自律神経失調症は、近年では徐々に使われなくなっている名称です。
その理由として自律神経失調症は、自律神経が失調している状態であれば全てが該当してしまうため、幅広い病気が対象となってしまうからです。
例えば、呼吸器系の自律神経のバランスが崩れて過呼吸が出やすくなってしまうのも、消化器の自律神経のバランスが崩れて下痢や腹痛が生じやすくなってしまうのも、どちらも自律神経失調症と言えますが、症状が出る臓器がこのように大きく異なる2つに対して同じ病名でひとくくりにしてしまうのはあまりに乱暴です。
現在では前者は「過呼吸症候群(過換気症候群)」、後者は「過敏性腸症候群(IBS)」と呼ぶ事が多く、それぞれ治療法も異なります。
また自律神経失調症は、非常に多彩な症状が認められるため、原因が分からない症状に対して「自律神経失調症でしょう」と医師がゴミ箱的な診断で使ってしまいやすいという特徴もあり、これもあまり良い事とは言えません。
近年では例え自律神経が失調している結果として生じている病態であっても、安易に「自律神経失調症」と付ける事はせず、この診断名はやむを得ない場合に付けることが多くなっています。
やむを得ない場合とは、例えば病名がまだはっきりしないけど、診断書を出してあげないとその患者さんに不利益があるような場合などです。この場合は、とりあえず暫定的に「自律神経失調症」とすることで、決して患者さんの気のせいや甘えではなく、病気の症状で生じているのだという事を証明してあげる事が出来ます。
3.自律神経失調症の原因(改善できるもの)
自律神経失調症の原因、つまり自律神経のバランスを乱してしまう原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
自律神経失調症の原因は大きく分けると2つに分ける事が出来ます。
それは「自分の工夫によってある程度改善できる原因」と「改善が困難な原因」です。
この2つに分ける意味は、自分の自律神経失調症の原因を調べる時、その原因が改善する余地のあるものなのかを知った方が効率良く治す事が出来るからです。
改善の困難な原因を一生懸命治そうとするよりも、まずは改善が簡単な原因から治した方が労力少なく、早く治ります。
ではまずは改善できる原因についてみてみましょう。
Ⅰ.ストレス
自律神経失調症の一番大きな原因というのは「ストレス」です。
ストレスというのは心身が不快に感じる刺激すべてが該当します。不快な刺激を受けると、その刺激に抵抗するために交感神経が活性化します。その不快な刺激が短期間であれば問題ありませんが、長期間受け続ければ交感神経が常に活性化するような状態になり、本来であれば副交感神経が活性化しなければいけない時にも活性化できなくなります。
すると次第に交感神経と副交感神経のバランスが乱れ始めます。さらに「リラックス」「休憩」の神経である副交感神経が活性化できないと心身は休めないわけですから、疲労がどんどん蓄積し、衰弱してしまいます。
不快な刺激としてもっとも多いのは精神的なストレスになります。
例えば職場の人間関係が列圧で精神をすり減らし続けていれば、常に交感神経を活性化させて緊張していないといけず、自律神経はいずれ失調してしまいます。
またオーバーワーク(過重労働)もストレスとして多い原因です。オーバーワークによって交感神経を活性化させ続けてしまうと、自律神経は乱れ始めます。
その他身体が不快に感じるような刺激、例えば室温が高い/低い環境に長時間いたり、騒音がひどい場所に長時間いたりする事も自律神経の不調につながります。
また病気によって闘病生活が長期化しているような場合も心身が大きなストレスを受けるため、徐々に自律神経のバランスが乱れていきます。
Ⅱ.不規則な生活習慣
自律神経を乱すもう1つの原因として「不規則な生活習慣」があります。
私たちの身体には体内時計が備わっており、1日24時間のリズムで規則正しく生活する前提で身体ははたらいています。
先ほど日中は主に交感神経が活性化して、夜間は主に副交感神経が活性化するとお話しました。これも体内時計にのっとったリズムです。
しかし夜遅くまで起きている、朝遅くまで寝ているなどといった生活リズムの不整があると、本来交感神経が活性化すべきときに活性化できなくなったり、副交感神経が活性化すべきときに活性化できなくなります。このような生活を続けていると、次第に自律神経が混乱し、バランスが崩れてしまうのです。
4.自律神経失調症の原因(改善が難しいもの)
自律神経失調症の2大原因として、
- ストレス
- 不規則な生活習慣
をお話ししました。これらは自分自身の工夫である程度改善できる原因ですので、まずはこれらの原因から改善していくべきです。
次に改善は困難であるものの、自律神経失調症の原因となるものをお話しします。
Ⅰ.体質
生まれ持った素因として、自律神経失調症になりやすい体質を持つ方もいらっしゃいます。
「天気が悪い日は頭痛や耳鳴りがすることが多い」
「季節の変わり目は調子が悪くなる事が多い」
といった方は、自律神経が過敏である可能性が高く、普通の方よりも容易に自律神経のバランスを崩れやすいと言えます。
また、人によって自律神経のバランスが崩れやすい臓器・器官にも違いがあります。
ストレスを受けると胃腸(胃痛や吐き気など)に異変が生じやすいという人もいれば、ストレスを受けると心臓(動悸や胸痛など)に異変が生じやすいという人もいます。
これはあくまでも生まれ持った素因であり、決して「精神力が弱い」「未熟」だという事ではありません。
Ⅱ.性別
性別としてみると男性よりも女性の方が自律神経失調症にかかりやすい傾向があります。
その理由としては女性ホルモンの影響が指摘されています。女性は月経(生理)や更年期障害など、男性にはないイベントによって心身の不調を起こしやすいため、自律神経のバランスも乱しやすいのです。
Ⅲ.性格
性格も自律神経失調症に影響を与えます。
特に自律神経失調症となりやすいのは、「ストレスを溜め込みやすい性格」です。
具体的には、
- 几帳面、完璧主義
- 神経質
- 無理をしやすい
- 感情を溜め込みやすい
といった傾向のある方です。このような性格の方はストレスを溜め込みやすく、それによって自律神経のバランスを崩しやすいと言われています。
反対に
- マイペース
- あまり深く悩まない
- 感情を自由に表現する
といった方は自律神経失調症にはなりにくいようです。
Ⅳ.遺伝はするの?
自律神経失調症は遺伝するのでしょうか。
実際、自律神経失調症は同じ家系で多く認める印象もあります。
基本的に自律神経失調症という病気に遺伝性はないと考えられています。
しかし
- 自律神経が過敏であるという体質
- ストレスを溜め込みやすい性格
などは遺伝する事があり、これによって間接的に自律神経失調症も遺伝してしまう事はあります。