森田療法とはどのような治療法で、どんな人に向いている治療法なのか

森田療法は神経症に対する治療法の1つで、主に不安を和らげるための治療法になります。

神経症というのは昔に使われていた病名ですが、これは現在ではパニック障害や社交不安障害、全般性不安障害、恐怖症といった不安障害や強迫性障害などの疾患が該当します。また性格的に不安を強く感じやすい方(心配性や神経質、完璧主義の方など)にも効果が期待できます。

森田療法についてしっかりと学びたいという方は、独学ではなく精神科医や臨床心理士などの専門家に相談し、専門家と一緒に学んでいくことをお勧めします。

しかし「まずは森田療法がどういった治療法なのか知りたい」という方に向け、ここでは森田療法がどのような治療法なのかを、出来るだけ分かりやすく説明させて頂きます。

1.森田療法とは

森田療法とは、森田正馬(もりた まさたけ)という日本の精神科医が提唱した精神療法の1つです。

主に神経症(現在で言う「不安障害」)の方が持つ、不安へのとらわれに焦点を当て、そこから脱却するための方法として森田療法を確立しました。

森田療法の基本的な考え方は、不安を異物として除去するのではなく、それも自分の心の一部なのだと認めることです。不安は異物ではなく自分の一部なのだから、それを無理して除去しようとするのではなく、その存在を受け入れた上で、前に進んでいこうという事を目指す治療法になります。

そのように出来るようにするには自分の思考をどう変えていけばいいのかを森田療法は教えてくれます。

森田療法は主に神経症(不安障害)の治療として生まれた治療法ですが、その効果は神経症の方のみに限定されません。日常における正常範囲内の不安を上手に対処していく方法としても有用ですし、うつ病の方にも役立つ考え方になります。

不安に振り回されてしまう方は、ぜひ森田療法を知って頂き、不安とどのように向き合っていけば良いのかを学んでいただければ幸いです。

2.どのような方が受けるべき治療法なのか

森田療法はどのような方に向いている治療法なのでしょうか。

疾患としては、

  • 神経症(パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害、種々の恐怖症)
  • 強迫性障害
  • 自律神経失調症、心身症

といった方に有用です。

また、

  • うつ病
  • 不眠症

なども不安が根本にあるケースは少なくないため、これらの改善にも効果が期待できます。

性格傾向としては、

  • 心配性
  • 神経質
  • 完璧主義
  • こだわりが強い

という方は、特に森田療法が効果が得られる可能性が高いでしょう。

森田氏は、神経症を発症しやすい性格傾向を「ヒポコンドリー性基調」と呼んでいます。ギリシア語でヒポというのは「下」という意味で、コンドルというのは「胸のあたりの肋骨」という意味です。ヒポコンドリーというのは胸の下(心窩部)という意味になります。

不安が強まると胸の下あたりが苦しくなる感覚に襲われることがありませんか?このような状態になりやすい方を森田氏はヒポコンドリー性基調と呼んだのです。これは上記のような心配性、神経質、完璧主義、こだわりの強い性格の方が当てはまります。

病気にまでは至っていなかったとしても、上記のように不安を溜め込みやすい性格傾向を持っている方にも森田療法は有効です。

3.森田療法が考える不安の悪循環

森田療法はどのような方法で不安を和らげていくのでしょうか。

それを知るためには、まずは不安がどのような原因で生まれてきて私たちを苦しめるのかを考えてみましょう。

Ⅰ.不安は「生の欲望」から生じる

森田療法では、不安が何故生じるのかというと、それは「より良く生きたい」という気持ちがあるからだと考えます。

例えば社交不安障害や対人恐怖症の方では、人前で不安が高まり過ぎてしまって動悸がひどくなったり、めまいがしたり、頭が真っ白になってしまったりといった症状が出てしまいます。本人はこのような症状によって非常に苦しみ、ひどい場合では人前に一切出れなくなってしまう事もあります。

では、なぜこのような症状が生じてしまうのでしょうか。

それは「他者からの評価に対する恐れ」が不安を生み出していると考えられています。

一見すると「人前」という状況に不安を感じているようにも見えますが、その理由をより深く見ていくと、

「周囲の人から変だと思われたらどうしよう」
「大勢の人がいる前で恥をかきたくない」

という「他者からの評価に対する恐れ」の気持ちが過度に強まっており、その結果として不安が生み出されているのです。

つまり逆に考えれば、不安が強い人というのは「人から良く見られたい」「人から良い評価を受けたい」という欲望が人一倍強いのだとも言えます。

このような強い欲望があるからこそ、強く他者を意識してしまい不安が生み出されてしまうのです。

そして、このような「より良く生きたい」という気持ちを森田療法では「生の欲望」と呼びます。

不安が強い方というのは、一見すると前向きな気持ちが低いようにも見えてしまいますが、その根本には「より良く生きたい」という前向きな「生の欲望」が人一倍あるのです。

Ⅱ.「かくあるべし」というとらわれが不安を悪化させる

不安が強い方というのは、「より良く生きたい」という生の欲望が人一倍強い傾向があります。

これは良いことです。「よりよく生きたい」「人から良い評価を受けたい」という気持ちは、集団生活・社会生活を円滑に営んでいく上でとても大切な考え方です。

しかしこの欲望が過剰になってしまうと、時として生活に支障が生じてしまう事もあります。

不安が強い方というのは、性格傾向として、

  • 完璧主義
  • こだわりが強い
  • 自分に厳しい

という方が多くいらっしゃいます。このような方は生の欲望から、よりよく生きるために自分への理想を高く掲げすぎてしまい、それが苦しみを生み出してしまうことがあるのです。

当たり前ですが、人は完璧にはなれません。しかしこのような方々は、完璧な自分を目標としてしまいます。「自分はこうでなければいけない(かくあるべし)」という現実的には困難な目標にとらわれてしまい、それからはずれる自分を許せなくなってしまいます。

すると、理想の自分と現実の自分の間に大きな差が生まれてしまい、不安を生み出してしまうのです。

例えば、「自分は人前で堂々と大きな声で発表できなければならない」という目標を持ってしまうと、人前で緊張してどもってしまったり震えてしまう自分は許せない自分になってしまいます。しかし実際は、人前で緊張するのは人として当たり前の現象です。人前で全く緊張しない人などいないでしょう。

人前で全く緊張しない事などは不可能なのに、全く緊張しない完璧な自分を求めてしまうと、これはおかしなことになります。現実の自分を受け入れられなくなります。

人前で緊張するという当たり前の現象が生じているだけなのに、そんな自分を「弱い人間だ」「恥ずかしいやつだ」と考えてしまい、人前に出ることに対して過度に不安になってしまい、人前を避けるようになってしまうのです。

Ⅲ.精神相互作用も不安を悪化させる

不安というのは、非常にやっかいな性質を持っています。

それは消そうとすればするほど、かえって不安が強くなるという性質です。

例えば人前で発表する時は「はっきり大きな声で話さなければ」と考え、はっきり話せるように自分の声に意識を集中します。しかし実際は、自分の声に意識を向ければ向けるほど声は震えてしまいます。同じように「ドキドキしないようにしなくては」と考え、自分の鼓動を抑えるように意識を向けても、実際は自分の鼓動に意識を向ければ向けるほど動悸は激しくなってしまいます。

このように「不安症状を抑えよう」と意識すればするほどかえって症状が強まる不安の性質を「精神相互作用」と呼びます。

なぜこのような事が起こるのでhそうか。

不安症状を消そうとすればするほど、かえってその不安症状に意識が集中します。すると、その不安症状をより強く認識する事でより不安になってしまうのです。

4.森田療法はどのようにして不安を軽減させるのか

森田療法が考える不安の悪循環についてみてきました。

不安が強い方というのは、生の欲望が強く、それによって理想を高く掲げすぎてしまい、不安が高まりやすくなってしまいます。更に不安は「精神相互作用」という性質を持つため、生じた不安を消そうとすればするほど悪化していってしまうのです。

ではこのような不安の悪循環をどのように断ち切ればいいのでしょうか。

森田療法が考える具体的な治療法について紹介します。

なお森田療法の実際のやり方は、入院療法と外来療法で詳細は異なりますが、ここでは両者を厳密に分けず、おおまかに森田療法とはどのような治療法なのかをいうことを説明していきます。

Ⅰ.森田療法で大切な概念

一般的に「病気」というのは身体にとって「異物」です。そのため病気の治療というのは、その異物を除去することが目的となります。

例えば肺炎という病気は、私たちの体内に細菌といった「異物」が侵入することで発症します。肺炎を治療は抗生剤などを使って細菌を除去することになります。

これと同じように考えると、神経症(不安障害)という病気は、私たちのこころに「不安」という異物が発生するために生じているという事になります。抗うつ剤や抗不安薬は、この異物である不安を除去するために投与されます。

しかし森田療法では、「不安」という感情は正常な自分の中から生じているものであり、異物ではないと考えます。

誰だって生きていれば不安を感じることはあり、その不安の全てが病気なわけではありません。

神経症(不安障害)における不安も、この正常内の不安と連続しているものなのです。その不安も私たちの中から生まれたものであり異物ではないのです。異物ではなくて自分の一部なのだから、除去しようという発想がそもそも間違っていると考えるわけです。

不安という感情は異物ではないため、そもそも完全に除去することは不可能だという事にまずは気付く必要があります。

不安を無理矢理消すことは出来ません。となればすべきことは不安を消すことに必死になるのではなく、その不安は除去できるものではないと「受け入れる」ことです。

Ⅱ.不安の背後にある生の欲望に気付く

不安にとらわれてしまうと、不安にばかり目がいってしまいます。

しかし不安が生まれる背景には、実は「生の欲望」があるのです。より良く生きたいという気持ちが人一倍強く、その葛藤から不安が生まれているのです。

この生の欲望は前向きなエネルギーであり、このエネルギーを治療の原動力にしていくことが、森田療法では大切な考えになります。

例えば人前で過度に不安になってしまうのは、「人から良い評価を受けたい」「人から良く思われたい」という前向きな気持ちがあるからなのです。この前向きな気持ちが自分にあるのだと気付き、「ならば人から良い評価を受けられるように出来る努力をしてみよう」という気持ちを生み出していくのです。

Ⅲ.精神相互作用・とらわれの機序を理解する

不安で苦しんでいる方は、不安が持つ独特の悪循環に嵌ってしまっています。

それは「精神相互作用」と「とらわれ」です。

精神相互作用は、「不安症状を抑えよう」と意識すればするほどかえって症状が強まる不安の性質のことです。また不安が強い方は、自分の目標を高く設定してそれにこだわり過ぎてしまい、その結果自分を苦しめて不安を悪化させている事が多々あります。

このような不安が悪化している機序を理解することは、とても大切なことです。

この機序を理解すると、

「不安は消そうとすればするほど悪化する」
「自分で不安を生み出してしまっている」

という事に気付けます。

すると新たな不安を生み出したり、不安をどんどんと増悪させることを防ぐことができます。

Ⅳ.不安は「あるがまま」にしておく

森田療法でもっとも大切な考え方は、「あるがまま」というものです。

神経症(不安障害)の方は、ある行動をしようとしたときに、不安が生まれてしまい行動が出来なくなってしまいます。

例えばパニック障害では、「電車に乗りたい」と行動しようとしても、「パニック発作が起こったらどうしよう」という不安が生まれ、電車を避けてしまいます。社交不安障害では、「人と会話したい」と行動しようとしても、「赤面してしまったらどうしよう」といった不安が生まれ、人を避けてしまいます。

この時、実は2つの気持ちがぶつかりあっています。

・「電車に乗りたい」「人と会話したい」という目的に向かいたい気持ち
・「パニック発作が起こったらどうしよう」「赤面してしまったらどうしよう」という不安な気持ち

このうち、前者は「より良く生きたい」という生の欲望です。そして後者はそこから生まれてしまった不安になります。

正常内の不安では、目的に向かいたい気持ちが勝つために行動することが出来ます。しかし神経症(不安障害)の方では不安が勝ってしまう事で、本来であればしたい行動が出来なくなってしまうのです。

この状態を打破するためには、不安を消せばいいことが分かります。しかし不安というのは消そうとすればするほどむしろ強まるという精神相互作用があります。「人前で緊張しないようにしよう」と思えば思うほど、かえって意識してしまい緊張が高まってしまうのです。

では不安にどう対処すればいいのでしょうか。

不安には精神相互作用という特徴がある以上、そこに注意を向けるのはかえって逆効果です。そのため森田療法では、不安な気持ちを敢えて消そうとしません。不安な気持ちはそのままにしておきます。これを「あるがまま」と呼びます。

不安な気持ちを「あるがまま」に置いておき、目的本位の行動(目的に向かう行動)にのみ焦点を当てていくのです。

結果としてそれが不安を悪化させず、軽減させる一番の近道になるのです。

Ⅴ.、生の欲望に目を向け、目的本位の行動をしていく

不安は意識すればするほど悪化し、とらわれればとらわれるほど悪化します。そのため、あるがままにしておく事が最善であり、こうしておけば悪化はしません。

しかしそれだけでは悪化はしなくても改善は得られません。

では不安の改善のためにはどのように考えていけばいいかというと、「生の欲望」という自分の中にある前向きなエネルギーに目を向けることになります。

先ほどの例でいえば、「人と会話したい」という前向きなエネルギー(生の欲望)と、赤面してしまったらどうしよう」という逃避の気持ち(不安)のうち、後者を「あるがまま」にしておき、前者に注目します。

「自分には人と会話したいという気持ちがあるのだ」という事に気付き、その気持ちを大切にして、「人と会話する事」に少しずつ挑戦していきます。

最初は失敗するかもしれません。しかし前向きなエネルギーが自分にある事に気付けば、挑戦を続けていくうちに成功する頻度が少しずつ増えてきます。

成功する頻度が増えれば自信がつき、苦手な状況にも安心感を持って挑むことが出来るようになります。成功体験を積み、安心を増やしていくと、「あるがまま」にしていた不安は少しずつ小さくなっていくのです。