ロフラゼプ酸エチルは、1989年から発売されている「メイラックス」という抗不安薬のジェネリック医薬品になります。
そのためロフラゼプ酸エチルはメイラックスとほぼ同じお薬で、その効果・効能・副作用などの特徴もほぼ同じになります。
抗不安薬は「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれており、主に不安感を和らげる作用に優れるお薬の事です。
抗不安薬にもたくさんの種類があり、それぞれ強さや作用時間をはじめ、様々な違いがあります。その中で自分にもっとも適している抗不安薬を選んでいくことが大切です。
抗不安薬の中でロフラゼプ酸エチルはどのような特徴を持ったお薬なのでしょうか。
今日はロフラゼプ酸エチルの効果や特徴、また他の抗不安薬との違いなどを紹介していきます。
目次
1.ロフラゼプ酸エチルの特徴
まずはロフラゼプ酸エチルの全体的な特徴を紹介します。
ロフラゼプ酸エチルは抗不安薬という種類のお薬になります。現在用いられている抗不安薬は、ほとんどが「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるものです。そして、ロフラゼプ酸エチルもベンゾジアゼピン系になります。
ベンゾジアゼピン系には、
- 不安を和らげる作用(抗不安作用)
- 筋肉の緊張をほぐす作用(筋弛緩作用)
- 眠くさせる作用(催眠作用)
- けいれんを抑える作用(抗けいれん作用)
という4つの作用があります。
ベンゾジアゼピン系のお薬は全てこの4つの作用がありますが、それぞれの強さはベンゾジアゼピン系の各薬剤によって異なります。そして、ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用に特に優れるものは「抗不安薬」と呼ばれています。
ロフラゼプ酸エチルはベンゾジアゼピン系抗不安薬ですので不安を和らげる作用に優れます。しかしそれ以外の作用も有しています。
具体的にロフラゼプ酸エチルのそれぞれの作用の強さを見ると、
- やや強めの抗不安作用
- 軽度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
といった各作用の強さを持ちます(個人差もあり、あくまでも目安になります)。
ロフラゼプ酸エチルは、抗不安作用は「やや強め」です。そのため、中等度~重度の不安の改善のために多く用いられます。また筋弛緩作用や催眠作用も持っているため、筋肉をリラックスさせたり眠りを導いたりという作用も期待できます。
またロフラゼプ酸エチルのもう1つの特徴として「作用時間が極めて長い事」が挙げられます。他の抗不安薬と比べて、ロフラゼプ酸エチルの作用時間はかなり長めになります。作用時間を知る1つの目安となる値に「半減期」があります。半減期はそのお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、そのお薬の作用時間の長さを知る1つの目安になる値です。
ロフラゼプ酸エチルは半減期が約122時間であり、これは他の抗不安薬と比べても極めて長い数値となります。これは薬効が122時間という事ではありませんが、長時間作用するという事には間違いありません。
作用時間の長さは、1日を通して長く効果を発揮してくれるというメリットもあります。また長く効くお薬の方が耐性や依存性が生じにくいため、ロフラゼプ酸エチルはベンゾジアゼピン系抗不安薬の中では耐性・依存性を起こしにくいお薬であり、これも大きなメリットになります。一方で長く効いてしまうという事は、催眠作用による眠気や筋弛緩作用によるふらつきが日中にも出てしまいやすいというデメリットにもなります。
効果もしっかりしており、1回の服薬で1日以上しっかりと効いてくれますが、副作用も1日を通して続いてしまうデメリットもあるのがロフラゼプ酸エチルの特徴になります。特に日中の眠気、ふらつき、転倒などには注意する必要があります。
最後にロフラゼプ酸エチルの長所と短所を挙げると次のようなことが言えます。
【長所】
- 長く効く(半減期122時間)ため、服薬回数が少なくて済む
- 抗不安作用がそれなりに強い
- ゆっくり効くため依存性が低く、離脱症状も起こしにくい
【短所】
- 長く効くため、眠気が日中に持ち越しやすい
- 数日は身体から抜けないため、お薬が合わなかった時はつらい
2.抗不安作用の強さ -他剤との比較-
抗不安薬には、多くの種類があります。
それぞれ強さや作用時間などの特徴が異なるため、患者さんの状態によってどの抗不安薬を処方するかは異なってきます。
抗不安薬の中でロフラゼプ酸エチルの「強さ」というのはどのくらいの位置づけになるのでしょうか。
ロフラゼプ酸エチルの抗不安作用(不安を和らげる作用)は、抗不安薬の中では「やや強め」という位置付けです。
主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下図のようになります。ロフラゼプ酸エチルは「メイラックス」のジェネリックになりますので、下図では「メイラックス」の欄と同じだと考えて下さい。なお、お薬の効果には個人差がありますので、あくまで目安としてご覧下さい。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
3.ロフラゼプ酸エチルを使う疾患は?
ロフラゼプ酸エチルの適応疾患を添付文書を見ると、
○ 神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
○ 心身症(胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
と書かれています。
添付文書には難しく書かれていますが、ざっくりいうと、様々な原因で生じる不安を和らげるために使用するという認識で良いでしょう。不安感が強く出現しており、それが正常範囲内を超えていて、「治療の必要がある」「生活に様々な支障が出ている」という場合に適応となります。
ちなみに健常な人にも不安はありますが、このような「正常範囲内の不安」に用いる事は推奨されていません。
抗不安薬を飲めば正常範囲内の不安であっても、それを和らげることは出来るでしょう。しかし、健常者に使ってしまうと得られるメリット(不安が改善する)よりもデメリット(依存性などの副作用)の方が大きいため、総合的に考えると使用すべきではないのです。
不安感があり、専門家が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断した場合のみ、ロフラゼプ酸エチルなどの抗不安薬が検討されます。
疾患で言えば、パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏、強迫性障害などの疾患に用いる機会が多いです。また、うつ病や統合失調症などで不安が強い場合も補助的に使用されることがあります。
4.ロフラゼプ酸エチルが向いている人は?
ロフラゼプ酸エチルの特徴は、2つあります。
- 長く効く事
- 依存性が少ない事
です。
これがロフラゼプ酸エチルの代表的な特徴であり、この特徴を生かしたい時にロフラゼプ酸エチルは検討されます。
ここから考えると、
- 服薬回数をなるべく少なくしたい方(飲み忘れが多い方など)
- 抗不安薬の使用がどうしても長期になってしまう方
などには良い適応になると思われます。
抗不安薬は、1日2回や1日3回など、複数回に分けて飲まないと安定した効果が得られないものがほとんどです。
ちゃんと忘れずに飲めるのであれば問題ありませんが、ついつい飲み忘れてしまう方であったり、職場や学校など人目があるところではなかなか飲めない、という方は、1日1回のロフラゼプ酸エチルは良い適応になります。
ロフラゼプ酸エチルは多少眠くなるため、眠前や夕食後に服用することが多いのですが、それで1日以上効果が続いてくれるのは助かりますよね。
また、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安薬にはどれも依存性があります。そのため使用は出来る限り短期間にとどめるべきなのですが、病状によってはどうしても長期間の服用をせざるを得ない場合もあります。
やむを得ず長期間の使用になってしまう場合は、依存形成を出来る限り防ぐため、ベンゾジアゼピン系の中でも依存性がなるべく低いものを選ぶという事は大切です。
ロフラゼプ酸エチルに依存性がないわけではありませんが、他のベンゾジアゼピン系と比べるとその程度は少ないと言えます。そのため、ベンゾジアゼピン系の使用が長期に渡る場合は、ロフラゼプ酸エチルに切り替えるのは、依存形成の確率を低くするために有効な方法です。
ただし、これはあくまでも一般論であり、例外も多々あります。上記に示した例以外でも、「あなたのような症状の場合はロフラゼプ酸エチルを使った方がいいでしょう」と主治医が判断するケースもあるでしょう。
実際にロフラゼプ酸エチルを使うべきかどうかはは主治医とよく相談して判断して下さい。
5.ロフラゼプ酸エチルの作用機序
ロフラゼプ酸エチルは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬です。ロフラゼプ酸エチルに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。
ではこのベンゾジアゼピン系というお薬はどのような機序によって不安を軽減させているのでしょうか。
ベンゾジアゼピン系は、脳にある抑制系の神経に存在するGABA受容体という部位に結合することで、GABA受容体の作用を増強します。それによって、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
- 催眠作用(眠くさせる)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
を発揮します。
更に具体的に見ると、GABA受容体の中でもGABA-A受容体というところにある「ベンゾジアゼピン結合部位」という部位に結合することで上記の作用を発揮します。
ベンゾジアゼピン系は全てこの4つの作用がありますが、ベンゾジアゼピン系のうち抗不安作用が特に強いものを「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼びます。
ロフラゼプ酸エチルも4つの作用全てを有していますが、特に抗不安作用に優れるため、「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」に属しています。
そして、そのそれぞれの強さは
- やや強めの抗不安作用
- 軽度の筋弛緩作用
- 中等度の催眠作用
- 中等度の抗けいれん作用
となっています。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち、催眠効果が特に強いもののことです。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの効果が全てあります。ただ、それぞれの強さはおくすりによって違いがあり、抗不安効果は強いけど、抗けいれん効果は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安効果は弱いけど、催眠効果が強いベンゾジアゼピン系もあります。
6.ジェネリック医薬品の効能は本当に先発品と同じなのか
ロフラゼプ酸エチルは、先発品である「メイラックス」のジェネリック医薬品になります。
安価なジェネリック医薬品があるのは嬉しい事ですが、一方で「ジェネリック医薬品は本当に先発品と同じ効果なの?」と心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ジェネリック医薬品に対して、
「安い分、質が悪いのでは」
「やっぱり正規品(先発品)の方が安心なのではないか」
と感じる方は少なくありません。
ジェネリックの利点は「値段が安い」ところですが、「正規品か、安い後発品かどっちにしましょうか」と聞かれれば、「安いという事は質に何か問題があるのかも」と考えてしまうのは普通でしょう。
しかし、基本的に正規品(先発品)とジェネリック(後発品)は同じ効果だと考えて問題ありません。
その理由は同じ主成分を用いていることと、ジェネリックも発売に当たって試験があるからです。ジェネリックは発売するに当たって、「これは先発品と同じような効果を示すお薬です」ということを証明した試験を行わないといけません。
これを「生物学的同等性試験」と呼びますが、このような試験結果や発売するジェネリック医薬品についての詳細を厚生労働省に提出し、合格をもらわないと発売はできないのです。
そのため、基本的にはジェネリックであっても先発品と同等の効果が得られると考えてよいでしょう。
しかし臨床をしていると、
「ジェネリックに変えてから調子が悪い」
「ジェネリックの効きが先発品と違う気がする」
という事がたまにあります。
精神科のお薬は、「気持ち」に作用するためはっきりと分かりにくいところもありますが、例えば降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリックなどでも「ジェネリックに変えたら、血圧が下がらなくなってきた」などと、明らかに先発品と差が出てしまうこともあります。
なぜこのような事が起こるのでしょうか。
これは、先発品とジェネリックは基本的には同じ成分を用いておおよそ同じ薬効を示すことが試験で確認されてはいるけども、100%同じものではないからです。
先発品とジェネリック医薬品は、生物学的同等性試験によって、同じ薬効を示すことが確認されています。しかし「100%全く同じじゃないと合格しない」という試験ではなく、効果に影響ないほどのある程度の誤差は許容されます。この誤差が人によっては明らかな差として出てしまうことがあります。
また先発品とジェネリックは、「主成分」は同じです。しかし主成分は同じでも添加物は異なる場合があります。その製薬会社それぞれで、患者さんの飲み心地を考えて、添加物を工夫している場合もあるのです。
この添加物が人によって合わなかったりすると、お薬をジェネリックに変えたら調子が悪くなったりしてしまう可能性があります。
このため、「先発品とジェネリックは基本的には同じ効果だけども、微妙な違いはある」、というのがより正確な表現になります。
ジェネリックに変更したら明らかに調子がおかしくなるというケースは、臨床では多く経験することはありません。しかし全く無いわけではなく、確かに時々あります。そのため、そのような場合は無理してジェネリックを続けるのではなく、他のジェネリックにするか、先発品に戻してもらうようにしましょう。
ちなみに、「ジェネリックは安い分、質が悪いのでは?」と心配される方がいますが、これは基本的には誤解になります。ジェネリックが安いのは質が悪いからではなく、巨額の研究・開発費がかかっていない分が引かれているのです。
新薬を開発するのには莫大なお金がかかるそうです。製薬会社に聞くところによると数百億、数千億というお金がかかるそうです。先発品が高いのは、このような巨額の研究・開発費が乗せられているのです。
一方でジェネリックは研究・開発はする必要がありません。その分が安くなっているわけで、決して成分の質が悪いから安くなっているのではありません。