拒食症は主に若い女性に発症し、精神的な理由によって必要な食事をとれなくなってしまう疾患です。
正式な名称としては「神経性無食欲症」「神経性食欲不振症」などと呼ばれます。
拒食症の症状は、表面的には「食事が取れない」「食事を食べたくない」というものになります。しかし、だからといって食事を取らせれば治るような簡単なものではありません。むしろ無理矢理食事を取らせてしまうと、治療者への反感から経過はより悪化してしまうでしょう。
拒食症の方の「食べれない」「食べたくない」という表面的な症状の根本には、どのような思考があるのかをいうところまで理解してはじめて治療のための対策が見えてくるのです。
この根本にある気持ちは、実は患者さんも自分自身でも気付いていないという事が少なくありません。
拒食症で悩んでいる方はまずは自分の症状と、それを作り上げている思考について深く見直してみましょう。
今日は拒食症の方に認められる症状について詳しくお話しします。
1.拒食症の症状の特徴
拒食症の方の症状は、その名の通り「食事を食べないこと」です。これが拒食症の主な症状であることは間違いありません。
しかし間違えてはいけないのは、この「食べない」という症状はあくまでも表面的な症状に過ぎないということです。
ここを間違ってしまうと、「じゃあ入院させて強制的に食事をとらせればいいのだ」という安易な治療論になってしまいます。実際、このような治療法はひと昔前までは行われていました。
無理矢理食事を食べさせれば確かに一時的には体重は増えます。しかしこのような表面的な治療だと多くの方がすぐに再発してしまいます。また「私の気持ちを理解してくれずに無理矢理太らされた」という気持ちから、その後の治療への拒否が強まってしまうこととなり、長期的に見れば良い方法とは言えません。
拒食症の症状について理解する時、表面的な「食べない」という症状だけをみるのではなく、「どのような考えがあって食べないのか」という症状の根底にあるものを見落とさないことが重要です。
そしてこれは患者さん本人も気付いていないことがあるため、どのような考えが自分の症状を作っているのかを患者さん自身もしっかりと見直していくことが大切になります。
拒食症の方の「食べない」は、身体的な不調による「食べれない」ではありません。精神的な理由からの「食べたくない」「食べるのが怖い」「食べてはいけない(と考えている)」というものが根本にあることによる「食べない」なのです。
では、なぜ「食べたくない」のかというと、
- 肥満への過度な恐怖(肥満恐怖)
- 自己のボディイメージの歪み(一般的に見れば痩せていても、太っていると錯覚している)
- 自己評価の低下(自分は痩せないと価値がないと考えてしまう)
などが主な原因として挙げられます。
このような原因を見ると、拒食症の方が食事を食べないのは、食事自体に恐怖を感じているわけではなく、「太る事」に恐怖を感じているのだと言うことが分かります。
そのため拒食症の方は「食べない」以外にも、太らないための方法、痩せるための行動を過剰に行う傾向があります。
例えば、
- 痩せるために過剰に活動する(過活動)
- 痩せるために下剤を乱用する(下剤乱用)
- 痩せるために嘔吐する(自己誘発性嘔吐)
といった症状が見られます。
しかし本来、食事というものは生きていく上で欠かせない栄養源です。必要なものを摂取しない期間が続けば、いずれ重篤な問題が生じるのは明らかです。
必要が栄養が取れないと、
- 無気力
- 集中力低下
- 抑うつ
- 不安の増悪
- イライラ
などの精神症状、そして
- 低体温
- 無月経
- 徐脈、不整脈
- 電解質異常(カリウム低下など)
- 骨粗しょう症
などの身体症状が出現します。
更に栄養失調状態となれば最悪の場合、命に関わることもあります。低栄養、ばい菌に抵抗する力の低下などによって死亡してしまうこともあります。拒食症の死亡率は6~7%とも言われており、これは極めて高い値です。
このように拒食症の方の症状というのは、
- 「太りたくない」という気持ちから来る過剰な食生活や行動
- その結果栄養不良になって生じる精神・身体症状
があるのです。
2.拒食症の症状(根本にあるもの)
拒食症では、「食事量が少ない」という症状が続きます。
しかし食事量が少なくなったらそれだけで拒食症だというわけではありません。いわゆる「ダイエット」も食事量が減りますがダイエットをすることは別に病気ではありません。
拒食症の方の食事量というのは、健常な日常生活を送っていく上で最低限必要な栄養摂取を下回っている状態になります。
具体的には、
正常の下限を下回る体重で、子供または青年の場合は、期待される最低体重を下回る
と診断基準の1つであるDSM-5では定義されています。
なぜこのような食事量の低下という症状が現れるのかというと、背景には次のような認識のゆがみが認められます。
Ⅰ.肥満恐怖
拒食症の方は、太ることに対する異常な恐怖を持っています。
若い女性の方であれば太ることは誰でもイヤだと思いますが、拒食症の場合はそれとは異質な「恐怖」を持っています。そのため、一般的に見れば十分に低い体重であっても「太るのが怖い」と考え、さらに食事制限を続けようとします。
太ることへの恐怖から、カロリーを厳密に計算し、一日に何度も体重計に乗り、わずかに上昇しているだけでも恐怖を感じて下剤を飲んだり、口に指を突っ込んで吐いたりしてしまう方もいらっしゃいます。
Ⅱ.自己のボディーイメージの歪み
拒食症の方は、自身のボディーイメージが歪んでとらえられてしまっています。
客観的に見れば、「痩せている」「痩せすぎ」と評価されるような体型であっても、「自分は太っている」と認識してしまっているのです。
ボディーイメージのゆがみは、
- 頬
- 二の腕
- 太もも
などの部位に対して特に生じやすい傾向があります。「まだ二の腕がたるんでいるから」「太ももが太いのがイヤで仕方ない」などと考え、更に体重を落とそうとします。
この自己のボディーイメージの歪みは他者がいくら「太ってないよ」と説得してもなかなか修正されません。他者からみると妄想的なレベルにまで自己体型への評価が歪んでしまっていることもあります。
このように認識が歪んでしまう背景には、
- 太っていることでバカにされたりからかわれた辛い過去の体験
- 自己評価、自尊心の低さ
などがあると考えられています。
3.拒食症の症状(急性期)
拒食症の方に認める症状は、どれも体重を落とすために行われています。「食べる量が減る」という症状も体重を落とすための方法の1つなのです。
食事量の低下以外も、根本にある「太るのが怖い」「私はまだ太っている」というとらわれから、次のような行動を繰り返してしまうことがあります。
Ⅰ.自己誘発性嘔吐
食べ物を吐いたり、あるいは下剤の乱用で排泄したりすることもあります。
太りたくないという気持ちから、自ら手に指を突っ込んで嘔吐することを繰り返していると、指に特徴的な「吐きだこ」が出来ることもあります。これは吐く時に反射的に指をかんでしまうことがあるためです。
また吐く事を続けていると、胃酸が歯を溶かしてしまうため、歯がボロボロになってしまうこともあります。
Ⅱ.過活動
拒食症の方は、痩せていて体調が悪そうな外見ですが、実際は非常によく活動をします。
非常に痩せているのに、セカセカと動き回ったり、運動などを行ってさらに体重を落とそうとします。
Ⅲ.自傷・問題行動
ストレスを解消する1つの方法として拒食が出現していることがあります。
自分の力だけではどうにもならないようなストレス因があったとき、拒食症の方は「体重を落とす」という自分の力だけで達成できるような行動を行うことで達成感や満足感を得て、自我を保とうとすることがあります。
となると、このようなストレス解消法は拒食という行動以外にも出現することがあります。
具体的には、時々認められるのが自傷です。いわゆる「リストカット」などが行われることもあります。また万引きなどといった社会的な問題行動が認められることもあります。
4.拒食症の症状(慢性期)
必要な栄養を取れない時期が長期間続けば、心身のあらゆるところに支障が出てきます。
特に身体的には、栄養失調により身体が弱っていくため、時に重篤な症状を引き起こしてしまう事もあります。
Ⅰ.精神症状
栄養が足りない状態が続けば、脳へも十分な栄養が届かなくなります。すると、
- 無気力
- 集中力低下
- 抑うつ
- 不安の増悪
- イライラ
などの精神症状が出現します。
拒食症から二次的にうつ病や不安障害になってしまうこともあります。
Ⅱ.重篤な身体症状
拒食によって栄養が足りない状態が続けば、健康な身体を保つことも出来なくなります。
低栄養状態によって、
- 低体温
- 無月経
- 徐脈、不整脈
- 電解質異常(カリウム低下など)
- 骨粗しょう症
などの身体症状が出現することもあります。
一番怖いのは、栄養失調や免疫力の低下によって命に関わるような状態になってしまうことです。実際、拒食症から栄養失調になってしまい、感染症に罹患して死亡してしまうということは十分に可能性のある話です。
拒食症の方の治療は基本的には無理矢理食事を摂取させることはしませんが、このような命に関わるほどに栄養状態が低下している場合は、そのまま様子をみていると死亡という最悪の結果になってしまうこともありえます。このような場合は、やむを得ず入院していただいて、生命維持に必要な栄養を摂取していただくこともあります。