セパゾンの効果と特徴【医師が教える抗不安薬のすべて】

セパゾン(一般名:クロキサゾラム)は、1974年から発売されている抗不安薬です。

セパゾン錠(錠剤)・セパゾン散(粉薬)といった剤型があります。

抗不安薬とは、不安を和らげる作用を持つお薬の事です。不安を和らげて精神を安定させるという意味から、「安定剤」「精神安定剤」と呼ばれる事もあります。

抗不安薬には多くの種類があり、それぞれ強さや作用時間・付加作用などに違いがあります。不安をお薬で抑える時は闇雲に抗不安薬を選ぶのではなく、それぞれの特徴を理解した上で選択すると、しっかりと症状を抑えてあげる事が可能になります。

セパゾンはというと、抗不安薬の中でも不安を和らげる作用がしっかりとあり、かつ眠気やふらつきといった副作用が少なめという、バランスの取れた抗不安薬になります。上手く使えば患者さんの不安を和らげるのにとても役立つお薬となります。

ここではセパゾンの効果や特徴、他の抗不安薬との違いなどを紹介させて頂きます。

1.セパゾンの特徴

まずはセパゾンというお薬の全体像について簡単に紹介します。

セパゾンは抗不安薬になり、抗不安薬の中でも「ベンゾジアゼピン系」に分類されます。

現在、発売されている抗不安薬のほとんどはベンゾジアゼピン系になり、セパゾンもその1つです。ではこのベンゾジアゼピン系というお薬はどういったお薬なのでしょうか。

ベンゾジアゼピン系には、脳の抑制性の神経に存在するGABA-A受容体を刺激します。それによって、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
  • 催眠作用(眠くする)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

という4つの作用を発揮するお薬になります。

抑制性の神経というのは、脳や中枢神経のはたらきを鎮静・リラックスさせる方向に向かわせる神経です。抑制性の神経が活性化すると心身はリラックス状態になり、上記の4つの作用が得られるのです。

ベンゾジアゼピン系に属するお薬はすべてこの4つの作用を持っていますが、それぞれの作用の強さというのはお薬によって異なります。

セパゾンもこの4つの作用を持っています。そして、セパゾンのこの4つの作用のそれぞれの強さは、

  • 抗不安作用はやや強め
  • 筋弛緩作用は弱い
  • 催眠作用は弱い
  • 抗けいれん作用は弱い

となります(個人差があるため、あくまで目安です)。

セパゾンはベンゾジアゼピン系が持つ4つの作用は有しているものの、抗不安作用に比較的特化しており、その他の作用は弱い抗不安薬になります。

そのため、不安をしっかり押さえつつ、その他の作用はいらないようなケースに適しています。

ベンゾジアゼピン系には多くの種類があります。それぞれ特徴は異なり、抗不安作用に特化しているもの、催眠作用が特に強いものなど、お薬によって作用の強さにはかたよりがあります。

その中でセパゾンはというと、4つの作用のうち抗不安作用が強めで他の作用が弱いため、抗不安作用だけが欲しい時に向いているお薬になります。

例えば筋弛緩作用は筋肉の緊張をほぐす事で肩こりや頭痛などの改善が得られますが、一方でふらつきや転倒の原因にもなります。催眠作用は眠りを改善させる可能性がある一方で日中の眠気や集中力低下の原因になります。

こういった作用はいらないから、不安だけを抑えたいという時には適しているのです。

ただしセパゾンは個人差が特に出やすいお薬だと感じます。これは何故だかは分からないのですが、基本的に筋弛緩作用や催眠作用は弱いのですが、人によっては強く出てしまい、ふらつきや眠気で困ってしまうケースもあります。

どのお薬にも効きに個人差はあります。しかし中でもセパゾンは個人差が特に強く出るように感じられます。このためセパゾンは好き嫌いが非常に分かれるお薬で「すごく良い薬」という方もいれば、「副作用がきつくてダメ」という方もいます。

セパゾンは作用時間も中くらいの抗不安薬になります。服薬後、約2~4時間で血中濃度は最大となり、半減期は約11~21時間ほどと報告されています。半減期とはお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間のことで、お薬の作用時間とある程度相関する値です。

半減期と作用時間は完全に一致するものではありませんが、ある程度の参考にはなる値です。半減期から考えるとセパゾンは1日1回の服薬では1日を通して効果が持続しないため、1日3回に分けて服薬する事となっています。

また、セパゾンの意外な作用として「悪夢を軽減させる」という報告があります。理由は不明ですが、確かに悪夢に対してセパゾンはある程度の効果があると感じます。

そもそも悪夢もその原因が明確に解明されているわけではないため、全ての悪夢にセパゾンが効くという事は出来ません。しかし効果があるケースもあるのは事実であり、セパゾンは悪夢による苦痛を和らげるために処方されることもあります。

以上からセパゾンの特徴をまとめると次のような事が挙げられます。

【セパゾンの特徴】

  • 抗不安作用は強め
  • 個人差はあるが不安を和らげる以外の効果はあまり期待できない
  • 抗不安作用以外は弱いため、眠気やふらつきなども生じにくい
  • 悪夢を改善させる可能性がある
  • 1日1回の服薬では効果が持続せず、1日複数回に分けて服用する必要がある

セパゾンは、抗不安作用に比較的特化した抗不安薬だと言えます。そのため、不安症状のみを抑えたい方には向いているお薬と言えます。

 

2.セパゾンの抗不安作用の強さはどのくらいか

抗不安薬には、たくさんの種類があります。

同じ抗不安薬であっても、お薬によって強さや薬効の長さはそれぞれ異なります。そのため、症状の出方や程度によって、その方に最適な抗不安薬というのは異なってきます。

では抗不安薬の中でセパゾンの強さはどのくらいなのでしょうか。

セパゾンは、不安を改善する作用(抗不安作用)はやや強めです。

主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較するとおおむね下図のようになります。

抗不安薬作用時間(半減期)抗不安作用
グランダキシン短い(1時間未満)
リーゼ短い(約6時間)
デパス短い(約6時間)+++
ソラナックス/コンスタン普通(約14時間)++
ワイパックス普通(約12時間)+++
レキソタン/セニラン普通(約20時間)+++
セパゾン普通(11-21時間)++
セレナール長い(約56時間)
バランス/コントール長い(10-24時間)
セルシン/ホリゾン長い(約50時間)++
リボトリール/ランドセン長い(約27時間)+++
メイラックス非常に長い(60-200時間)++
レスタス非常に長い(約190時間)+++

セパゾンは不安を抑える力は強めのお薬です。そのため中等度~高度の不安に対して用いられることが多いお薬になります。

3.セパゾンを使う疾患は

セパゾンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。

セパゾンの添付文書にはその適応疾患として、

〇 神経症における不安・緊張・抑うつ・強迫・恐怖・睡眠障害
〇 心身症(消化器疾患、循環器疾患、更年期障害、自律神経失調症)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ
〇 術前の不安除去

と記載されています。

難しい病名がたくさん書かれているため分かりにくいですね。簡潔に言えば「様々な疾患の不安・緊張・恐怖を和らげるために用いられる」という認識で良いと思います。

神経症とは昔の病名です。現在の病名でいうならば「不安障害」が該当するでしょう。これは不安が病的に高まっている疾患群の事でパニック障害や社会不安障害、全般性不安障害、恐怖症などが該当します。

心身症とは、身体に異常が生じているのだけど、その原因は主に「こころ」にある疾患群の事です。例えば食生活が悪くて胃潰瘍になるのは心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になるのは心身症になります。同じように喫煙が原因で血圧が上がるのは心身症ではありませんが、ストレスで血圧が上がってしまうのは心身症になります。

このような疾患に対してセパゾンは用いられます。

ちなみに健常な人であっても、生きていればある程度の不安は生じるものですが、そういった「正常範囲内の不安」にはセパゾンは用いません。正常範囲内の不安にセパゾンを使っても効果は得られますが、このような正常な反応に対してお薬を使っても副作用などのデメリットの方が大きいと考えられるため、用いられません。

不安感があり、医師が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断された場合にセパゾンなどの抗不安薬が用いられます。

疾患で言えば、やはりパニック障害や社交不安障害などの不安障害圏の疾患や、強迫性障害などの疾患によく用いられます。また、うつ病や統合失調症などで不安が強い場合も補助的に用いられることがあります。

 

4.セパゾンが向いている人は?

セパゾンはどのような方に向いている抗不安薬なのでしょうか。

セパゾンはベンゾジアゼピン系が持つ4つの作用のうち、抗不安作用に比較的特化したお薬です。

抗不安作用は強めですが、他の作用が弱いという特徴を持ちますので、不安症状のみを抑えたいという方には良いお薬だと考えられます。余計な作用が少ないのはセパゾンの良いところです。

しかし抗不安作用は強めであるため、軽度の不安症状に使ってしまうと耐性・依存性形成のリスクが高くなってしまいます。

セパゾンに限らずすべてのベンゾジアゼピン系には耐性・依存性があります。そして耐性・依存性は作用の強い抗不安薬ほど生じやすくなります。

【耐性】
お薬の服用を続ける事で心身がお薬に慣れてきてしまい、徐々にお薬の効きが悪くなってきてしまうこと。耐性が形成されると同じ効果を得るためにはより多くの量が必要となるため、服薬量がどんどんと増えていってしまう。

【依存性】
お薬の服用を続ける事でそのお薬に心身が頼り切ってしまうようになること。依存性が形成されると、そのお薬を飲まないと落ち着かなかったり、イライラしたりするようになる。依存性が形成されてから無理に断薬しようとすると、こころが不安定になったり、ふるえ・発汗・しびれなどの離脱症状が出現してしまうことがある。

そのため、不安がそこまで強度ではないような方は、まずはもう少し抗不安作用の弱い抗不安薬から試し、それでも効果不十分である場合にセパゾンを検討した方が安全でしょう。

もちろん不安の強さによっては最初からセパゾンを使う事もありますが、作用の強いお薬というのはそれだけ頼ってしまいやすく依存しやすい傾向があるという事は覚えておかなければいけません。

5.セパゾンの作用機序

セパゾンはどのような機序によって不安を和らげてくれるのでしょうか。

セパゾンは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬です。セパゾンに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。

ベンゾジアゼピン系は抑制性の神経に存在するGABA受容体を刺激することでGABA受容体の作用を増強します。これによって抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用という4つの作用を発揮します。

ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用が特に強いものは「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼ばれ、セパゾンもその1つになります。

ちなみにベンゾジアゼピン系のうち、特に催眠作用が強いものは「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼ばれます。

ベンゾジアゼピン系のお薬には、基本的には4つの作用が全てあります。しかしそれぞれの強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。

セパゾンはというと、

  • やや強めの抗不安作用
  • 弱い筋弛緩作用
  • 弱い催眠作用
  • 弱い抗けいれん作用

を有しています。