リボトリール(一般名:クロナゼパム)は抗てんかん薬と呼ばれていますが、不安を和らげる作用も持っており、精神科領域では抗不安薬としても用いられています。
リボトリールは抑制系の神経伝達物質であるGABA(ɤアミノ酪酸)の作用を強めることで、心身をリラックスさせてくれます。しかしリラックスするということは、同時に眠気をきたしてしまうことでもあります。
少々の眠気であればまだ良いのですが、強い眠気が生じて生活に支障を来たすようでは問題です。
今日ははリボトリールで眠気が生じる理由や、その対処法について考えていきます。
1.リボトリールでなぜ眠気が生じるのか
なぜリボトリールを飲むと眠気が生じることがあるのでしょうか。その理由を知るために、まずはリボトリールの作用について見てみましょう。
リボトリールは「ベンゾジアゼピン系」という種類に分類されるお薬になります。ベンゾジアゼピン系は、脳のGABA-A受容体という部位を刺激し、GABA(ɤアミノ酪酸)の作用を強めることが主なはたらきです。
GABA-A受容体は「抑制系受容体」と呼ばれており、この受容体が刺激されると脳や身体のはたらきが抑制される方向に向かい、具体的には次の4つの作用が認められることが知られています。
- 抗不安作用(不安を和らげリラックスさせる)
- 催眠作用(眠くする)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張を和らげる)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
リボトリールに限らずベンゾジアゼピン系のお薬は全て、基本的にこの4つの作用を持っています(作用の強さはそれぞれの薬によって異なります)。
そしてベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用に優れるものは「抗不安薬」と呼ばれ、催眠作用に優れるものは「睡眠薬」と呼ばれ、筋弛緩作用に優れるものは「筋弛緩薬」と呼ばれ、抗けいれん作用に優れるものは「抗てんかん薬」と呼ばれています。
リボトリールはベンゾジアゼピン系の中で、特に抗けいれん作用に優れるために「抗てんかん薬」と呼ばれています。しかし、その他の抗不安作用や筋弛緩作用・催眠作用もあるのです。
GABA-A受容体を刺激することで、抗けいれん作用だけでなく、催眠作用も生じます。
そして、この催眠作用により眠気が生じるのです。
つまり、眠気の副作用はベンゾジアゼピン系であれば程度の差はあれ、どのお薬でも生じえるということです。
リボトリールの4つの作用のそれぞれの強さは、
- 強い抗不安作用
- 強い催眠作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 強い抗けいれん作用
となっています(あくまで目安であり、個人差があります)。
リボトリールは強い催眠作用も持っているため、患者さんによってはリボトリールを服用することで眠気を生じてしまうのです。
2.各抗不安薬で生じる眠気の比較
ベンゾジアゼピン系のお薬は全て「催眠作用」を持っているため、眠気を起こす可能性があります。しかし、眠気の起こしやすさはお薬によって異なります。
具体的にそれぞれのお薬でどのくらい眠気が生じるのかを表したのが、次の表にになります。
【抗不安薬名】 | 【抗不安作用/作用時間】 | 【眠気】 |
---|---|---|
リーゼ | + / 6時間 | ± |
デパス | +++ / 6時間 | +++ |
ソラナックス/コンスタン | ++ / 14時間 | ++ |
ワイパックス | +++ / 12時間 | ++ |
レキソタン/セニラン | +++ / 20時間 | ++ |
セパゾン | ++ / 11-21時間 | ++ |
セレナール | + / 56時間 | + |
バランス/コントール | + / 10-24時間 | + |
セルシン/ホリゾン | ++ / 50時間 | +++ |
リボトリール/ランドセン | +++ / 27時間 | +++ |
メイラックス | ++ / 60-200時間 | + |
レスタス | +++ / 190時間 | ++ |
(お薬の効きには個人差がありますので、必ず表の通りになるわけではありません。この表は、あくまでも目安としてご覧ください)
基本的には、作用(不安を和らげる強さ)が強いほど、副作用(眠気など)も多くなる傾向があります。
リボトリールは眠気の程度もそれなりに強いことが分かります。
3.リボトリールで眠気が生じたときの5つの対処法
リボトリールを服薬していて、眠気が出てしまうことがあります。ちょっとの眠気であれば良いのですが、生活に支障が生じるほどの眠気が出てしまった場合は、なんらかの対処を行う必要が出てきます。
リボトリールで困るくらいの眠気が出てしまった場合は、どうすればいいでしょうか。よく用いられている対処法を紹介します。なお、これらの対処法は決して独断で行わないで下さい。必ず主治医と相談の上で行ってください。
Ⅰ.様子をみてみる
あらゆる副作用に言えることなのですが「少し様子をみてみる」というのは有効な方法です。
特に内服を始めてまだ間もないのであれば、身体がまだお薬に慣れていないために副作用が強く出てしまう場合があります。この場合は、1~2週間程度様子をみてみると、お薬が身体になじんでくるため、副作用も徐々に軽くなってくることがあります。
なんとか耐えられる程度の眠気なのであれば、もう少し様子をみてみるのも良いでしょう。
Ⅱ.服薬量を減らす
内服する量を減らせば、眠気の程度は軽くなります。
服薬量が減れば効果も弱くなってしまいますが、副作用で困っている場合は検討すべき方法の1つになります。
副作用が強く出すぎている場合、「薬の量が多すぎる」という可能性があります。この場合はお薬の量を減らした方が適量になるため、良い結果をもたらします。
服薬量が今の自分にとっての適正量なのか、定期的に主治医と相談し、服薬量の見直しを行いましょう。
Ⅲ.服薬時間を変えてみる
服薬する時間を変えれば、眠気が起こる時間をずらすことができます。
例えば、リボトリール1mgを1日2回朝夕食後に服薬していたとします(2mg/日)。この状態で、日中に眠気が出てしまって困っているようであれば、リボトリールの服薬を1回にまとめてみてもよいかもしれません。例えば2mgを1日1回眠前に服薬する、などです。
リボトリールは半減期が約27時間と長いため、人によっては1日1回の服用でも十分に効果を感じられることもあります。そのため、眠気で困るようであれば眠前1回にまとめて服薬するという方法を主治医に相談してみても良いかもしれません。
(半減期:お薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間の事で、お薬の作用時間を知る目安の1つになる値)
Ⅳ.抗不安薬の種類を変えてみる
精神科のお薬は、効果や副作用の個人差が大きくあります。患者さんとお薬の相性というのは軽視できるものではなく、「お薬の種類を変えたら病気が改善してきた」という事はしばしば経験します。
リボトリールの眠気がひどい場合、リボトリールがあまり合っていないという可能性もありますので、あまりに困るようなら種類を変えてみるのも手です。
一例ですが、同程度の抗不安作用を持つものを挙げると、
- ワイパックス : 半減期12時間、効果強い
- レキソタン/セニラン : 半減期20時間、効果強い
- レスタス : 半減期190時間、効果強い
(リボトリール:半減期:27時間、効果強い)
などがあります。
ただし、不安に対してまったく同じように効くわけではありません。また、どの抗不安薬にも眠くなる作用はありますので、主治医とよく相談して変えるお薬は慎重に選びましょう。
Ⅴ.睡眠を見直す
意外と見落としがちなのですが、根本の睡眠に問題がないのかを見直し忘れてはいけません。睡眠の質が悪ければ、日中の眠気が悪化してしまうのは当然です。
例えば、最近毎日夜更かしをしているのだとしたら、日中に眠いのは当たり前ですよね。
この場合、リボトリールの副作用で眠気が出たというよりは、元々睡眠不足であったのがリボトリールの服用を始めたことで問題が表面化したという判断をすべきです。そのため、対処法はリボトリールをどうこうするではなく、まずは睡眠の改善になります。
お薬を飲み始めて不調を感じると、つい「薬のせい!」と考えてしまいがちですが、「他の原因は本当にないのか?」という視点は必ず持つようにしましょう。
患者さんのお話を聞いていて、よく認めるのが、
- 実は最近、睡眠時間が少ない
- うるさい、明るいなど寝室の環境が悪い
- ベッドに入ってからマンガを読んだりスマホをいじっている
- 寝る前にお酒を飲んでいる
- 寝る前に食べ物を摂取している
などがあります。
睡眠の質を悪くしてしまう原因があるのであれば、まずはそちらの改善を優先してみてください。