リボトリール錠(一般名:クロナゼパム)は1981年に発売された抗てんかん薬・抗不安薬です。
抗てんかん薬は主にてんかん発作による痙攣(けいれん)を抑えるお薬になります。また抗不安薬というのは、不安を鎮めて気持ちを落ち着かせる作用を持つお薬です。
リボトリールはベンゾジアゼピン系というお薬に属します。この系統のお薬は、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張を和らげる)
- 催眠作用(眠くする)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
といった作用を持っていることが知られています。
リボトリールは特に抗けいれん作用に優れるため抗てんかん薬と呼ばれる事もありますが、ベンゾジアゼピン系であり基本的にはベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパス、ソラナックス、ワイパックスなど)と同系統のお薬になります。
そのため、てんかんを抑える作用はもちろんのこと、他のベンゾジアゼピン系と同様に不安を和らげたり、筋肉の緊張をとったり、眠りを導いたりといった作用も期待できます。またリボトリールはレストレスレッグ症候群やレム睡眠運動障害などへの効果も認め、その用途は多岐に渡るお薬になります。
ここではリボトリールの効果や特徴、また他のベンゾジアゼピン系との比較などを紹介していきます。なお、このサイトはメンタルヘルス系のサイトになりますので、「抗てんかん薬」としてのリボトリールの作用よりも、抗不安薬としてのリボトリールの作用について中心的に書かせていただきます。
1.リボトリールの特徴
まずはリボトリールの全体的な特徴をかんたんに紹介します。
リボトリールは、
・強い抗不安作用
・中等度の筋弛緩作用
・強い催眠作用
・強い抗けいれん作用
を持つお薬になります。
リボトリールをはじめとしたベンゾジアゼピン系のお薬には、
- 抗不安作用(不安を取る作用)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす作用)
- 催眠作用(眠りに導く作用)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える作用)
の4つの作用があります。
ベンゾジアゼピン系のお薬は全て、この4つの作用を持っています。
4つの作用それぞれの強さはお薬によって異なるため、患者さんの症状に応じて適切なベンゾジアゼピン系が処方されます。
同じベンゾジアゼピン系でも、特に抗不安作用が優れるベンゾジアゼピン系は「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼ばれ、特に催眠作用に優れるベンゾジアゼピン系は「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼ばれ、また特に抗けいれん作用に優れるお薬は「(ベンゾジアゼピン系)抗てんかん薬」、筋弛緩作用に優れるお薬は「(ベンゾジアゼピン系)筋弛緩薬」と呼ばれます。
リボトリールはというと、4つの作用それぞれの強さを表すと上記のようになります(個人差があるため、あくまで目安です)。
リボトリールは抗けいれん作用が強いため「抗てんかん薬」と呼ばれており、てんかんのお薬のようなイメージもありますが、実はそれ以外の作用もしっかりとあるお薬です。そのため、てんかんの患者さんのみならず、
- 不安が強い方(不安障害、うつ病など)
- 眠りに問題がある方(不眠症、レストレスレッグ症候群、REM睡眠行動障害など)
- 筋肉の緊張による痛み(頭痛・肩こりなど)がひどい方
にも用いられることがあります(このような使い方は保険適応ではないため「適応外処方」になります)。
一方で催眠作用や筋弛緩作用がしっかりしている分、眠気やふらつき・転倒の副作用にも注意が必要です。
またベンゾジアゼピン系に共通する副作用として「依存性」が挙げられます。長期間・大量にベンゾジアゼピン系の服用を続けてしまうと、心身が徐々にベンゾジアゼピン系に依存してしまい、お薬をやめる事が困難となっていく事があり、リボトリールも例外ではありません。
依存性は、作用が強く、半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)の短いベンゾジアゼピン系ほど生じやすい傾向があります。
リボトリールは全体的に作用は強いお薬なのですが、半減期が27時間程度と長いため、依存性はそこまで強くありません。
以上からリボトリールは次のような特徴を持つお薬だという事ができます。
【良い特徴】
【悪い特徴】
|
リボトリールの特徴を簡単に言うと、「効果が強いわりに副作用が少なめのベンゾジアゼピン系」だとお薬だと言えます。
ここだけ見ると、理想的な抗不安薬のように見えます。ただし保険適応的にはてんかんにしか適応がないため、うつ病や不安障害などの精神疾患に用いる場合は、「適応外処方」という事になります。「適応外処方」は「医師がやむを得ないと判断した時」に限って認められる処方ですので、気軽に行える処方ではありません。
リボトリールは不安に対しても良いお薬ですが、不安改善にリボトリールがそこまで普及していないのは、この「適応外」である点も大きく影響していると思われます。
また、他のベンゾジアゼピン系と比べると依存性は少なめですが、だからといって依存性がないわけではありません。ベンゾジアゼピン系は全て依存のリスクがあるため、定期的に主治医と服薬量の相談し、必要な量だけの服薬にとどめるようにしてください。
2.リボトリールの抗不安作用の強さ
リボトリールの不安を抑える作用(抗不安作用)はどのくらいの強さなのでしょうか。また他のベンゾジアゼピン系と比べてどの程度の位置づけなのでしょうか。
抗不安薬には、たくさんの種類があります。それぞれ強さや作用時間が異なるため、医師は患者さんの症状を診て、どの抗不安薬を処方するかを決定します。
他の抗不安薬と比べると、リボトリールの抗不安作用(不安を和らげる力)は「強い」と言えます。
主な抗不安薬の抗不安作用を比較すると下図のようになります。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
リボトリールは抗不安薬の中でも不安を取る力が強いお薬だということが分かります。なお、お薬の効きは個人差も大きいため、この表はあくまでも目安に過ぎないことはご了承下さい。
3.リボトリールは使われるのはどんな疾患か
リボトリールはどのような疾患に使われるのでしょうか。添付文書を見ると、適応疾患としては次のように書かれています。
・小型(運動)発作〔ミオクロニー発作、失立(無動)発作、点頭てんかん(幼児けい縮発作、BNSけいれんなど)〕
・精神運動発作
・自律神経発作
リボトリールは「抗てんかん薬」という位置づけのお薬であるため、その保険適応はてんかん発作・けいれん発作が主になっています。特にミオクロニー発作(筋肉の瞬間的なピクつき)に対して用いられます。他のてんかんに対しても用いられますが、他の抗てんかん薬が無効であった場合の二番手として検討されることの多いお薬になります。
しかし精神科領域においては、てんかん以外の疾患に用いることが多くあります。
リボトリールには抗けいれん作用以外も、強い抗不安作用を持っているため、不安障害などで不安が高まっている患者さんに効果があります。
そのためパニック障害や社会不安障害などの不安障害の方に対して、不安軽減の目的でリボトリールを用いることがあります。またうつ病でも不安が高まって経過に影響を与えているケースではリボトリールを投与することで不安軽減をはかることもあります。
ちなみに正常な人にでも不安や緊張はあるものですが、そのような「正常範囲内の不安・緊張」には用いません。抗不安薬は正常範囲内の不安にも効果は認めますが、健常者に使っても副作用などのデメリットの方が大きいからです。不安感があり、医師が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断された場合にリボトリールなどの抗不安薬が使われます。
また、リボトリールのちょっと意外な使い方として、
- レストレスレッグ症候群(むずむず脚症候群)
- REM睡眠行動障害
に対して有効であり、これらの疾患の治療薬としても用いられます。
【レストレスレッグ症候群(むずむず脚症候群)】
主に脚が「むずむず」して、じっとしていられなくなる症候群。特に安静時に起きやすく、また夕方から夜に悪化する事が多ため、患者さんの生活に大きな支障を来たしてしまう。睡眠が障害されることで、日中の疲労感や集中力低下・意欲低下などにつながってしまう。
原因は明確には特定されていないが、ドーパミン作動薬やクロナゼパム(商品名:リボトリール)が有効である事が知られている。
【レム睡眠行動障害】
レム睡眠の時に、まるで起きているかのように身体を激しく動かす障害。特に高齢者・男性に多い。患者さんは夢(特に悪夢)をみている事が多く、それで身体を激しく動かしてしまう。
通常はレム睡眠時は身体は眠っているため、夢をみても身体は大きくは動かないはずであるが、レム睡眠行動障害では何らかの異常によって身体が動いてしまう。これによって転倒したり、他者を殴ってしまったりという問題が生じる。
治療薬としてはクロナゼパム(商品名:リボトリール)が良く効く。
リボトリールの催眠作用や筋弛緩作用を利用して、
- 不眠に対して
- 筋肉の緊張で生じている頭痛・肩こりに対して
用いることがないわけではありませんが、これは他により適したベンゾジアゼピン系があるため、用いられる頻度は多くはありません。
4.リボトリールが向いている人は?
抗不安薬としてリボトリールをみると「効果は強く、その割に副作用は多くはない」といったお薬で、優秀なバランスを持ったお薬です。
しかし作用時間が長いため(半減期:約27時間)、細かく薬効を調整するのが難しく、その点は注意が必要です。例えば、頓服として使用する場合、服薬してから約2時間で血中濃度は最高に達しますが、その後も長くお薬は身体に残るため、ふらつきや眠気などの副作用には注意しなくてはいけません。
また、保険適応上は精神疾患(不安障害やうつ病など)に対しての適応がないため、精神疾患に用いる場合は「適応外処方」という形になります。
適応外処方は、「保険適応ではないけども、医師がみて効果があると判断されるためやむを得ず用いる」という方法になります。この理由から医師側としてはリボトリールは精神疾患に対しては最初からは処方しにくいお薬で、「適応外処方をせざるを得なかった」という理由が必要になります。
つまり、「別のお薬を使ったけども効きが悪かったためリボトリールを使った」などといった理由がないと処方しにくく、他のベンゾジアゼピン系抗不安薬では効果が不十分であった場合に検討される事の多いお薬なのです。
5.リボトリールの作用機序
リボトリールは「ベンゾジアゼピン系」という種類に属するお薬です。
ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体という部位に作用することで、
- 抗不安作用
- 筋弛緩作用
- 催眠作用
- 抗けいれん作用
といった4つの作用を発揮します。
GABA受容体は抑制系の受容体であり、活性化すると身体を鎮静させる方向にはたらくため、上記の作用が得られます。
ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用が特に強いものが「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」になります。リボトリールは、抗不安作用も強いため「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」と呼んでも良いのですが、抗けいれん作用も強いため一般的には「ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬」と呼ばれています。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち催眠作用が特に強いもののことです。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの作用を全て持っています。ただし、それぞれの作用の強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど、抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど、催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。
リボトリールは、先ほども書いた通り、
- 強い抗不安作用
- 中等度の筋弛緩作用
- 強い催眠作用
- 強い抗けいれん作用
を持っています。