統合失調症で出現する幻聴とその対処法

統合失調症は特徴的な症状を呈する疾患ですが、中でも「幻覚(特に幻聴)」は代表的な症状の1つです。

精神症状といっても「落ち込み」や「不安」などは、誰でも多少は経験したことがあるため理解を得られやすい症状です。しかし「幻聴」となると経験したことがない方がほとんどでしょうから、どのような症状で患者さんはどう感じているのか、なかなかイメージできない方も多いと思います。

今日は統合失調症で生じる幻覚(幻聴)について、どのような幻聴が認められるのか、本人や周囲はどう対処すればいいのかなどについてみていきましょう。

1.幻覚・幻聴とは何か?

「幻聴」は「本来であれば聞こえるはずのないものが聞こえる」現象で、統合失調症で認められる代表的な症状の1つになります。

統合失調症の症状は大きく分けると、

・陽性症状
・陰性症状

がありますが、幻聴はこのうち「陽性症状」に含まれる症状になります。

【陽性症状】

統合失調症の特徴的な症状の1つで、「本来はないものがあるように感じる症状」の総称。「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」妄想などがある。

ちなみに幻覚と幻聴って何が違うのでしょうか?

「幻覚」なんて言葉は日常ではまず使われませんから、この違いってあまり知られていないのですが、厳密に言うと幻覚は幻聴を含んだより広い概念になります。

幻覚というのは、「本来であれば、ないはずの知覚を体験する」症状の事で、幻の知覚全てを含みます。

幻覚には、

・幻視(本来ないはずのものが見える)
・幻聴(本来聞こえないものが聞こえる)
・幻臭(本来臭わないものが臭う)
・幻味(本来感じないはずの味を感じる)

などがあり、知覚に関する「幻の感覚」は全て幻覚に含まれます。つまり、幻聴は幻覚に含まれる概念になります。

ちなみに統合失調症では幻覚が生じますが、その内容は「幻聴」である事がほとんどです。

幻視や幻臭などが絶対に生じないわけではありませんが、統合失調症で認められることは稀です。

2.統合失調症で出現しやすい幻聴とは

統合失調症で生じる幻覚には「幻聴」が多いというお話をしました。

幻聴にも、様々なタイプがあります。その中で統合失調症ではどのような幻聴が生じやすいのでしょうか。

同じ統合失調症の患者さんでも、人によって様々なタイプの幻聴が生じますが、中でも出現する頻度が高い幻聴というものがあります。

ここでは、統合失調症の方で認めることの多い幻聴をいくつか紹介します。

Ⅰ.対話性幻聴(問いかけと応答の幻聴)

対話性幻聴というのは、幻聴同士が会話をしているものです。

幻聴の中にも2人の人がいて、例えばAという幻聴とBという幻聴が話し合っている(問いかけと応答をしている)ような幻聴です。自分以外の2人がいるように感じられるため三人称幻聴と呼ばれることもあります。

幻聴同士が対話している内容は、患者さん当人にとっては不快な内容であることがほとんどです。

例えば、

幻聴A:「○○(患者さんの名前)は悪人だな」
幻聴B:「本当にそうだ。あいつは生きている価値がない人間だ」

といった内容なのです。

初発の統合失調症の場合、患者さん本人はこれを「幻」だとは思いませんから、しばしば「噂話をされている」「近所で悪口を言われている」と判断してしまい、被害妄想に進展することがあります。

また、「幻聴が本人に話しかけてきて、本人がそれに答える」という問いかけと応答の幻聴もあり、これは二人称幻聴と呼ばれます。二人称幻聴において、患者さんが幻聴に答えていると、周囲からは一人でブツブツ独り言と言っているように見えます。これは統合失調症の症状である「独語」として現れることもあります。

三人称幻聴も二人称幻聴も、どちらも統合失調症で認められる幻聴になります。

幻聴の内容は、本人にとって良くない内容がほとんどです。しかし、稀に「ほめたり」「はげます」タイプの幻聴であることもあるようです。

Ⅱ.注釈性幻聴、命令性幻聴

患者さんの行動に対して、「注釈」するような幻聴を注釈性幻聴と呼び、これも統合失調症で認められることがあります。患者さんの言動を幻聴が実況解説するような感じになります。

「今、服を着替えているな」
「今から電車に乗るな」

と患者さんの行動を事細かに実況してくるため、「盗撮されている」「監視されている」という妄想に進展することもあります。

また、患者さんに対して「命令」するような幻聴もあります。これは命令性幻聴と呼ばれますが、命令する内容は大概患者さんによって良くないことです。

例えば、

「線路に飛び込め」
「自分をナイフで傷付けろ」

などといった内容で、この命令性幻聴によって自傷をしてしまう患者さんもいます 。

Ⅲ.要素性幻聴

今まで紹介した幻聴は「人の声」の幻聴でしたが、要素性幻聴は、「物音」の幻聴になります。

例えば、

・ドアの閉まる音がする
・時計の針の音がする

といったものです。

要素性幻聴は、それが幻聴なのかどうかが判断しにくい幻聴になります。もしかしたら本当にドアが閉まっていたのかもしれませんし、「非日常感」に乏しいのです。

要素性幻聴は、統合失調症でも認められる幻聴ですが、上記2つと比べると出現する頻度は低めです。また統合失調以外の疾患でも出現することがあり、自閉症スペクトラム障害の方や解離性障害の方にも認めることがあります。

Ⅳ.考想化声

「考想化声」とは「自分の考えや想ったことが声になって聞こえる」というものです。

考想化声は正確な定義では幻聴には入らず「思考の障害」に分類されるのですが、「自分の思った事が声になって聞こえる」という事ですから、幻聴と考えることもできます。

自分の中で考えていたことが、誰かの声として聞こえるため、「自分の考えが抜き取られている」「自分の考えが周りに漏れている」と考えてしまうようになります。

3.統合失調症で幻聴が生じた時の対処法

幻聴が生じた時、最初からそれを「幻聴だ」と認識できる人はまずいません。周囲にとっては「そんなことありえない」「それは幻聴に違いない」というものであっても、患者さん本人の中では、それは「幻(まぼろし)」ではなく、現実として認識されています。

あらかじめ統合失調症について精通している人が、統合失調症をたまたま発症したのであれば、「これは幻聴かもしれない」と気付くかもしれませんが、これは非常に稀なケースでしょう。

そのため幻聴が出現して、それによって様々な弊害が出てくるようであれば、まず最初はお薬を使って幻聴を改善させてあげるという方法が一般的です。なるべくお薬を使わずに治せればいいのですが、現実的には他に有効な方法は乏しいのが現状です。薬を服薬して幻聴が消失していけば、「あれは幻だったのだ」と患者さんも自ら気付くようになります。

初めて幻聴が出現した場合は、周囲の患者さんに対する対応も重要になってきます。「そんなことありえないよ」と言いたくなりますが、「それは幻聴だよ」と否定しない方が良く、あまり幻聴には触れずに接する方がいいでしょう。幻聴そのものには触れず、それに対して「つらい思いをしている」という点を共感して、寄り添ってあげるというのが一番安全な接し方になります。

例えば、「○○が俺の事を『殺す』って言っているんだ!」と訴えてきたとしましょう。それが明らかに幻聴であったとしても、

「そんなわけないでしょ。それは幻聴だよ」

と否定するのは逆効果です。かといって、まったく無視してしまえば、患者さんは怒ってしまうでしょう。無視したり否定すれば、「お前もグルなんだな」と妄想が悪化してしまう可能性もあります。

そのため幻聴に対する周囲の対応としては、

「私がそばにいるから大丈夫だからね」
「何があっても私は味方だよ」

と幻聴そのものにはあまり触れず、患者さん自身のつらい気持ちに焦点を当て、そこを共感するという方法が最良です。もちろんこれで「100%うまくいく」とは言えませんが、この方法が一番患者さんが落ち着いてくれる確率が高いと感じます。

しっかりと話に耳を傾け、「この人は自分の味方なのだ」と感じてもらい、何とか医療機関につなげてください。初めて出現した幻聴に対しては、「それは幻聴だ」という説得をするのではなく、このようにお薬の力を借りる必要があります。

しかし治療が始まって病識(自分が病気なんだという自覚)が芽生えてきたら、幻聴を幻聴だと認識するような訓練も必要になってきます。というのも、いくらお薬を使っても幻聴が100%は消えないケースも少なくないからです。

この場合、幻聴を100%消すことを目指してどんどんお薬を増やしていくよりも、幻聴を幻聴だと認識できるような訓練をして、「幻聴は聞こえるけど、あまり気にならないよ」と思える状態にした方が良いのです。

統合失調症のお薬は強力なものも少なくありません。普通の人が服薬すれば、1日中眠りこけてしまうこともあります。そのようなお薬をどんどん増やせば、副作用で動けなくなってしまいます。いくら幻聴が消えたとしても、その代償としてお薬の副作用で1日中寝たきりになってしまっては意味がありません。

幻聴も何度が経験すると、その患者さんにおける幻聴の特徴のようなものが見えてきます。

「この声の時は幻聴だ」
「この声の聞こえ方は幻聴だ」
「こういう話し方をするのは大抵幻聴なのだ」

と感覚がつかめてくればしめたものです。「これは幻聴なんだ。気にする必要はない」と受け流してしまいましょう。幻聴にとらわれないようになると、幻聴自体が軽減してくるケースもあります。

また、どうしても幻聴を受け流せない場合は、主治医と相談の上でお薬の量を増やすのも方法です。