統合失調症は遺伝するのか【医師が教える統合失調症のすべて】

統合失調症は、100人に1人(1%)に発症する疾患で、珍しい疾患ではありません。

統合失調症を発症する原因は、まだ明確に解明されているわけではありません。ある特定の1つの原因があるというわけではなく、複数の原因が重なった結果発症すると考えられています。

そして統合失調症を発症する原因の1つとして「遺伝」があります。

今日は統合失調症と遺伝の関係についてみていきましょう。

1.遺伝の影響は比較的大きい

統合失調症を発症する原因として、遺伝の影響というのは小さくありません。

もちろん「親が統合失調症だと自分も必ず統合失調症になる」という事はありませんが、「統合失調症の家族歴がある人は、そうでない人に比べて統合失調症になりやすい」というのは残念ながら事実になります。

うつ病や不安障害といった精神疾患と比べると、統合失調症の発症原因として「遺伝」の占める割合は大きくなります。

では、具体的に統合失調症の発症に遺伝はどの程度関わっているのでしょうか。一般的に、統合失調症を発症する確率は1%(100人に1人)前後だと考えられていますが、統合失調症の方を持つ家系の場合、どのくらいの頻度で発症するのでしょうか。

これに対しては調査が行われており、おおよそ、

・親の片方が統合失調症であった場合、子供が統合失調症を発症する確率は10%(10人に1人)
・両親がともに統合失調症であった場合、子供が統合失調症になる確率は40%

と報告されています。

ここから、統合失調症発症に遺伝が少なからず関わっている事が分かります。

また、遺伝の影響がどれくらいあるのかを調べるためには「双子」で比較すると分かりやすいため、統合失調症においても双子間で比較した調査も行われています。

具体的には、一卵性双生児(双子間の遺伝子が100%同じ)と二卵性双生児(双子間の遺伝子が50%同じ)で比較を行うのです。

一般的に一卵性双生児は双子間で遺伝子が100%同じです。そのため、遺伝の影響が大きい疾患であれば片方が発症すればもう片方も発症することになります。対して二卵性双生児は双子間では遺伝子は50%程度しか共有していないと考えられています。そのため、片方が発症したとしてももう片方が発症する可能性は一卵性と比べると低くなります。

一卵性双生児と二卵性双生児の発症一致率を調べることで、

・一卵性の発症一致率の方が高ければ、遺伝的要素が大きい
・両者の発症一致率が変わらなければ、遺伝以外の要素(環境・心理的な要素など)が大きい

という事が分かります。

双子間での一致率を調査すると、おおむね次のようになっています。

・二卵性双生児の一致率は15%
・一卵性双生児の一致率は50%

ここから、やはり統合失調症は遺伝の影響が少なくないことが分かります。

また一卵性双生児の中でも、「一緒に育てられた一卵性双生児」と、「別々に育てられた一卵性双生児」で発症率が同じだという報告もあります。これは統合失調症の発症に、環境要因よりも遺伝の影響が大きいことを示しています。

2.統合失調症の原因は遺伝が全てではない

「統合失調症の発症は遺伝の影響が大きい」

こう聞くと、統合失調症の親を持つ方や、統合失調症の家系の方は怖くなってしまうかもしれません。

確かに統合失調症の家族歴がある場合、そうでない方と比べると統合失調症発症リスクが高くなるのは事実です。数々の調査でも報告されていることですし、精神科医として統合失調症をみている実感としても感じることです。

統合失調症の家系の方は、この事実があるから絶望するのではなく、この事実が分かっているという事を武器にして、元に今できる工夫をしていきましょう。

しかし、「統合失調症の発症は遺伝が全て」という事ではありません。

先ほどの調査結果に、「一卵性双生児の一致率は50%」という報告がありました。これは、一卵性双生児の片方の子が統合失調症を発症してしまった場合、もう片方の子も50%の確率で統合失調症になってしまうという事です。

しかしこの一卵性双生児は、2人ともほぼ100%同じ遺伝子を持っているはずです。遺伝子が同じ2人なのに、必ず両者に発症するわけではなく半数の例では発症しないのです。つまり遺伝の影響は少なくはありませんが、遺伝が全てではないのです。統合失調症の家族歴があるからといって、必ず発症するものではありません。

統合失調症の原因にはいくつかの要因が指摘されています。その中には

・自分の工夫次第で避けることのできるもの
・自分がいくら工夫しても変えられないもの

があります。

遺伝は後者であり、自分がどんなに生活を工夫しても避けることはできません。しかし、自分の工夫次第で避ける事の出来るものもあるわけです。例えば原因の1つと言われている「ストレス」「環境」などは自分の工夫次第で改善する事が可能です。

統合失調症の家族歴を持つ方は、なるべく発症しないように、

・ストレスと上手に付き合えるように工夫していく
・ストレスが過剰にならない環境を意識する

といった工夫をしていくことで、統合失調症の発症の確率を低くすることができるでしょう。

統合失調症は、「早期に治療を開始すること」「治療を継続して再発させないこと」がとても大切で、これが出来れば健常者とほぼ変わりのない生活を送ることが可能です。反対に発見が遅れてしまったり、何度も再発を繰り返していくと、症状も悪化しやすいですし、治りも悪くなりにくいと考えられます。そのため、あらかじめ「自分は統合失調症になるリスクが普通の人よりは高いらしい」という事を知っておくことは意味のあることです。

自分だけでなく他の家族についても同様で、家族でお互いに早めに発見できる体制を作っておくことも有用です。そうすれば万が一発症してしまったとしてもすぐに治療を導入することができ、普通とほとんど変わらない生活を送り続けることができます。

「自分に統合失調症発症のリスクがある」と考えると、ついその事実から目をそらしてしまいたくなります。良い事実とはいえないため、否定したくなる気持ちは十分分かります。しかしせっかく医学が進歩して統合失調症と遺伝の関係がここまで分かってきているのですから、この事実に対して目をつぶるのではなく、この知識を武器にして自分の人生に生かしていくことを考えていきましょう。

3.統合失調症の発症は複数の遺伝子が関わっている

統合失調症は、遺伝的な要素もある疾患だという事をお話しました。

しかし、実際の臨床で統合失調症の患者さんの治療に携わっていると、遺伝的な要素が見受けられない患者さんの方が圧倒的に多いことが分かります。統合失調症患者さんの60-80%の方は家族や親族に統合失調症の患者さんがいない、という報告もあります。

これはどういう事でしょうか。

統合失調症は、遺伝の要素もある疾患にはなりますが、原因となる遺伝子は1つではなくたくさんあると考えられています。そして、そのたくさんの原因遺伝子の中の一定以上を持ってしまった場合に発症する可能性が高くなるのでしょう。

例えば、10個の原因遺伝子を持っていたら統合失調症を発症してしまうと仮定しましょう。両親がそれぞれ5個ずつしか持っていなかったとしたら、両親には発症しません。しかし子供にその5個ずつが受け継がれてしまった場合は、子供には原因遺伝子が10個存在することになりますから、発症してしまう可能性が高くなる、という事です。