グランダキシンが効くめまいと、めまいへの作用機序とは?

グランダキシンは1986年に発売された自律神経調整薬です。自律神経調整薬というのは聞き慣れない名称ですが、グランダキシンはベンゾジアゼピン系に属するお薬であるため、基本的にはベンゾジアゼピン系抗不安薬(不安を和らげるお薬)と同様の作用を持つお薬になります。

グランダキシンは、穏やかな効果と少ない副作用が特徴のお薬です。そのマイルドな作用から、精神科・心療内科のみならず、内科や産婦人科・整形外科など多くの科で処方されます。

グランダキシンは自律神経のバランスを調整するはたらきがあるため、「めまい」を改善させる目的で処方されることもあります。しかしグランダキシンの適応に「めまい」とは書いていないため、「なぜめまいに対してグランダキシンを処方されたのかが分からない」と戸惑ってしまう患者さんもいらっしゃいます。

グランダキシンはめまいを改善する効果は見込めるお薬ですが、全てのめまいに対して効果があるわけではありません。今日はグランダキシンがどんなめまいに対して効くのか、そして何故めまいに効くのかについてお話ししたいと思います。

1.グランダキシンはどのような作用を持つお薬なのか?

まずはグランダキシンがどんなお薬なのかを見てみましょう。

グランダキシンは自律神経調整薬と呼ばれており、自律神経のバランスの崩れを改善させるはたらきを持ちます。具体的には、自律神経系の高位中枢である視床下部に作用し、交感神経(興奮の神経)と副交感神経(リラックスの神経)のバランスを改善すると考えられています。また中枢のみならず、末梢においても交感神経の興奮を抑えるはたらきがあると言われています。

また、グランダキシンはベンゾジアゼピン系に属するため、

・抗不安作用(不安をやらわげる)
・筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
・催眠作用(眠くする)
・抗けいれん作用(けいれんを抑える)

といった作用を持っており、これも気持ちをリラックスさせるはたらきにつながります。

グランダキシンはこのように、自律神経のバランスを整えたり、不安や緊張を和らげる作用があるお薬なのです。

めまいに処方されることがあるお薬ですが、めまいに特化した「めまい止め薬」というわけではありません。

2.一般的なめまい止めとグランダキシンの違い

グランダキシンの作用を紹介しましたが、対して一般的なめまい止め薬はどんな作用をするのかを見てみましょう。

めまい止めにもいくつかの種類がありますが、基本的にめまい止めは、内耳(蝸牛や前庭、三半規管からなる器官)に作用することでめまいを改善します。内耳は、主に平衡感覚をつかさどっている器官であるため、ここが障害されるとめまいを生じるからです。

めまいに対してよく処方されるお薬として、

・メリスロン(一般名:ベタヒスチンメシル)
・セファドール(一般名:ジフェニドール)
・トラベルミン(一般名:ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン)

などがあります。これらはどのように作用するのでしょうか。

メリスロンは、平衡感覚をつかさどると考えられている内耳の血管を広げることで、内耳の血流を増やし、また内耳に溜まったリンパ水腫を除去するはたらきがあります。また脳血流を増やすことによって、めまいを改善する作用もあります。

セファドールも、脳の椎骨動脈を広げることで脳血流を増やし、めまいを改善させます。また前庭神経(内耳に作用する神経のひとつで平衡感覚に関わっている)の異常な興奮を抑えるはたらきもあり、これもめまい改善に役立ちます。

トラベルミンは内耳や嘔吐中枢に作用し、これらの部位の興奮を抑えることでめまいや吐き気を抑えます。

このように一般的なめまい止めは、めまいの原因となる内耳に作用するのです。内耳は平衡感覚をつかさどっており、ここのバランスが崩れるとめまいが生じます。つまり内耳のはたらきを改善させると、めまいの改善が期待できます。

対して、グランダキシンは正確に言うと「めまい止め」ではありません。グランダキシンは自律神経調整薬であり、自律神経のはたらきを整えるはたらきがあります。その結果として自律神経のバランス異常で生じているめまいには効果があるということで、内耳を狙って作用するお薬ではなく、めまいに特化したお薬ではありません。

グランダキシンは、自律神経のバランスが崩れて生じていると判断されるめまいには効果があります。めまいの中には、自律神経のバランスが崩れたことで内耳の血流が落ちてしまい、めまいを生じることもあるため、このようなケースではグランダキシンは効果が得られる可能性があります。

グランダキシンはめまいに処方されることは少なくありませんが、あくまでも自律神経のバランスを改善させる結果としてめまいも改善してくれるという事で、めまいに特化した「めまい止め」ではないということです。

3.めまいの分類

めまいは、中枢性めまいと末梢性めまいがあります。

中枢性めまいは、脳の障害で生じます。代表的なものとして小脳梗塞があります。脳の中でも小脳は「バランス感覚」「平衡感覚」に深くかかわっているため、ここが障害されるとめまいが生じるのです。

小脳梗塞は脳梗塞の一つであり、早急に治療をする必要がある緊急疾患です。この場合、グランダキシンなどで改善をはかることは不可能です。もちろん、メリスロンやセファドール、トラベルミンなどといった内耳にはたらくめまい止めも効果はありません。

そもそも小脳の血管が詰まってしまったことで、小脳が障害されてめまいが生じているわけですから、自律神経や内耳を改善させても根本の解決になっておらず、血管の詰まりを早急に取らないといけません。具体的には、血栓を溶かすお薬などで治療を行います。

末梢性めまいは、内耳に原因があります。内耳は平衡感覚をつかさどる器官なので、ここが障害されるとめまいが生じます。末梢性めまいに対しては先ほど紹介した内耳の血流を上げるお薬を使ったり、体操によって耳石を正しい位置に戻してあげることによって改善がはかれます。

グランダキシンは、中枢性めまいには用いることはできません。末梢性めまいには、効果が期待できることもあります。末梢性めまいの中で、自律神経のバランス異常が主な原因だと判断されるめまいには効果が期待できます。