グランダキシンは自律神経調整薬というお薬で、主に自律神経症状の改善に効果を示します。
グランダキシンは構造的にはベンゾジアゼピン系に属しています。ベンゾジアゼピン系には依存性があることが知られていますが、グランダキシンにも依存性はあるのでしょうか。
どんなお薬にも副作用がありますが、その中でも依存は注意すべき副作用の一つです。そのため依存性のあるお薬を服薬している場合は、そのことをしっかりと理解しながら、正しく服薬をする必要があります。
今日はグランダキシンの依存性について説明します。
1.グランダキシンに依存性はあるのか
ベンゾジアゼピン系には全て依存性があることが知られていますが、依存形成のしやすさはお薬によってそれぞれ違います。
グランダキシンもベンゾジアゼピン系に属するお薬ですが、依存性はあるのでしょうか。
結論から言うとグランダキシンの依存性は、「極めて低く、ほぼ認めない程度」だと言えます。
ベンゾジアゼピン系のお薬は全て依存性があります。グランダキシンも構造的にはベンゾジアゼピン系ですので、依存性はあります。
しかし依存性の強さは同じベンゾジアゼピン系でもそれぞれ異なります。一般的に効果が強いほど依存性も強くなると考えられています。また、半減期が短いほど依存になりやすくなることも指摘されています。
半減期とは、お薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間のことで、作用時間の目安の一つとして使われています。半減期が短いと薬効が短いため血中濃度の変動が大きくなり、つい何度も服用してしまいやすくなるのです。
グランダキシンは半減期は1時間未満と非常に短いのですが、効果が非常に穏やかであるため依存はほとんど形成しません。
実際グランダキシンの安全性試験では、グランダキシンの依存性について次のように記載されています。
更年期障害並びに卵巣欠落症状の患者10例を対象にグランダキシン 錠50(50mg)を1回1錠、1日3回、4~8週間投与し、本剤の依存性を依存性調査票を用いて検討した。その結果、依存性に関連すると考えら れる所見はなく、グランダキシン錠50が依存性を生じる可能性は考えにくいと結論された。
わずか10名を対象とした試験ですので、これだけで判断することはできませんが、臨床的な印象としても、他の抗不安薬と比べてグランダキシンの依存性は極めて低いと感じます。グランダキシンに依存状態になってしまった患者さんはほとんど経験したことがありません。
2.依存ってなに?
そもそも「依存」ってどんな状態の事を言うのでしょうか。
依存というのは、その物質(ここではグランダキシンのこと)が無いと落ち着かなくなってしまい、常にその物質を求めてしまう状態です。
アルコール依存であれば、アルコールが無いと落ち着かず常に飲酒してしまう状態、ゲーム依存だったら、ゲームをしていないと落ち着かずにゲームが手放せなくなってしまう状態のことです。
つまり、グランダキシンの依存とは、グランダキシンに頼り切ってしまい、手放せず、いつまでたっても服薬を止められない状態のことです。
ベンゾジアゼピン系依存の生じやすさは、
- 効果が強いほど生じやすい
- 半減期(=お薬の作用時間の目安)が短いほど生じやすい
- 服薬期間が長いほど生じやすい
- 服薬している量が多いほど生じやすい
と言われています。
効果が強いと、「効いている!」という感覚が得やすいので、つい頼ってしまいやすくなり、依存しやすくもなります。
半減期が短いとお薬がすぐに身体から抜けてしまうので服薬する回数が多くなり、これもまた依存しやすい原因となります。
また、飲んでいる期間・量が多ければ多いほど、身体がどんどんお薬に慣れきっていくため、依存に至りやすいのです。
グランダキシンはというと、半減期は短いものの、効果が非常に弱いため、依存になることは非常に稀です。
3.依存にならないために気を付ける事
グランダキシンは依存を形成する危険性はほとんどないお薬です。そのため、基本的には依存の心配はしなくてもいいでしょう。
しかし依存性がゼロかというとそうではありません。ベンゾジアゼピン系である以上、依存性はわずかながらあるのです。万が一にもグランダキシンで依存にならないために、服用している患者さんが出来ることはあるのでしょうか。
アルコール依存の方が、アルコールをやめるのはかなり大変です。何とかやめれたとしても、多くの方はしばらく経つとまたアルコールを飲んでしまいます。一度依存になってしまうと、そこから抜け出すのはかなりの労力を要するのです。そのため、依存になってから焦るのではなく、「依存にならないように注意する」という予防が何よりも大切になります。
依存にならないためには、どんなことに気を付ければいいでしょうか。
先ほど、依存になりやすい特徴をお話ししましたね。
復習すると、
- 効果が強いほど生じやすい
- 半減期(=お薬の作用時間の目安)が短いほど生じやすい
- 服薬期間が長いほど生じやすい
- 服薬している量が多いほど生じやすい
でした。
これと反対のことを意識すれば、依存は生じにくくなると言えます。つまり、
- 効果が弱い抗不安薬を選択する
- 半減期が長い抗不安薬を選択する
- 服薬期間はなるべく短くなるようにする
- 服薬量をなるべく少なくなるようにする
ということです。
グランダキシンは他の抗不安薬と比べると、強さは「最弱」と言ってもいいので、1.はそこまで意識する必要はないでしょう。またグランダキシンは半減期は短いのですが、同じくらいの効果のお薬で作用時間の長いものはないため、2.も工夫できることはありません。
グランダキシンの依存において大切なのは3.と4.です。
ひとつずつ、詳しく説明しましょう。
Ⅰ.服薬期間はなるべく短くなるようにする
ベンゾジアゼピン系は漫然と飲み続けてはいけません。
ベンゾジアゼピン系は1か月で依存性が形成される、と指摘する専門家もいます。もちろん種類や量によるので一概には言えませんが、長期間飲めば依存形成が生じやすくなるのは間違いありません。
病気の症状がつらく、お薬が必要だと判断される期間に服薬をするのは問題ありません。この期間は、病気の症状を取ってあげるメリットと依存形成のデメリットを天秤にかけて
メリットの方が大きいと判断されれば、服薬はすべきです。
しかし、良くなっているのにいつまでも「なんとなく」「やめるのも不安だから」という理由で服薬を続けるのは注意です。
基本的にベンゾジアゼピン系は、ずっと飲むものではありません。症状が特につらい期間だけ服薬する「一時的な補助薬」だという認識を持ちましょう。
症状や病気が改善してきたら定期的に主治医と「量を減らせないだろうか?」と検討してください。
Ⅱ.服薬量をなるべく少なくなるようにする
苦しい症状があると、ついつい「症状を取りたい!」とたくさんのお薬を飲みたくなります。しかし、服薬量が多ければそれだけ依存になりやすくなります。
服薬量は、必ず主治医が指定した量を守ってください。医師は依存性のリスクも常に念頭に置きながら服薬量を決めています。それを勝手に2倍飲んだり3倍飲んだりすれば、急速に依存が形成されてしまいます。
また、症状や病気が改善してきたら定期的に「お薬の量を減らせないだろうか?」と検討してみてください。
4.依存を過剰に怖がらないで下さい
「グランダキシンはほとんど依存性のないお薬です。しかしベンゾジアゼピン系ですので、わずかな依存性はあります。」
このように説明すると「ちょっとでも依存性があるなんて怖い!」「そんなお薬は飲みたくありません」と訴える患者さんも時々いらっしゃいます。
ベンゾジアゼピン系の依存は社会問題にもなっており、しばしば新聞などのメディアでも取り上げられています。そのためか、最近は依存性のあるお薬を怖がって、「依存が怖いから精神科のお薬は一切飲みたくありません!」と言う方もいらっしゃいます。
もちろんお薬を飲まないで治るのであれば、飲まないに越したことはありません。しかし、診察した医師が「お薬を使った方が良い」と判断する状態なのであれば服薬は前向きに検討してみてください。
服薬した方が総合的なメリットは高い、と判断したから主治医はそのお薬の服薬を勧めたのです。
精神科のお薬を飲むと絶対に依存になると怖がる人がいますが、そんなことはありません。むしろ、医師の指示通りの量を、決められた期間だけ服薬していただけであれば、依存にならない人の方が圧倒的に多いのです。グランダキシンは依存性が非常に低いですので尚更です。
依存になるのは、医師の指示を守らずに
- 勝手に量を調節してしまう
- 医師が減薬を勧めても、「薬をやめるのが不安」と現状維持を希望する
- 定期的に来院せず、服薬も飲んだり飲まなかったりバラバラ
などの方がほとんどです。
依存形成を起こす身近な物質にアルコールがありますが、「アルコール依存になるのが怖いから、飲み会は欠席します!」という人はいないと思います。
アルコールに依存性があることは多くの方が知っているはずですが、なぜアルコールは怖がらないのでしょうか?
それは、アルコールは依存にはなる可能性がある物質だけど、適度な飲酒を心掛けていれば、依存になることなどないからです。そしてほとんどの人は節度を持った飲酒が出来ており、依存になりません。
アルコール依存になるのは、
- 度を越した飲酒をし続ける人
- 周囲や医師が「飲酒を控えて」とアドバイスしても聞かない人
ですよね。
アルコールだって、ベンゾジアゼピン系だってその点は同じです。
アルコールは依存なんて気にせず飲むのに、抗不安薬になると「依存になる!」と過剰に怖がるのは、私たち専門家から見るとなんだか不思議に感じます。
アルコールと一般的なベンゾジアゼピン系抗不安薬のどちらが依存性が強いか、というのは研究によって様々な結果が出ていますが、おおむねの印象としては「ほぼ同等か、アルコールの方が若干強い」と思われます。グランダキシンとアルコールでしたら、間違いなくアルコールの方が依存性は強いでしょう。
また、他にもコーヒーに含まれるカフェインやタバコに含まれるニコチンにも依存性が報告されています。依存性が心配であれば、コーヒーは一切飲むべきではありませんが、そんな理由でコーヒーを飲まないという方は見たことがありませんよね。依存性がある物質でも、依存性が低いものであって、摂取量も適量にとどまっているのであればそこまで心配する必要はないことが分かります。
もちろんお薬を飲まないに越したことはないのですが、必要がある期間はしっかりと内服することも大切です。
そして専門家である医師の指示をも守って、必要な期間・必要な量だけ服薬するのであれば、「依存性がある」というだけで過剰に怖がるものではありません。