精神科・心療内科にはデイケアが併設されているところがあります。また医療機関以外でも保健所などが精神科デイケアを行っていることもあります。
精神科デイケアは、患者さんに日中に来ていただき、様々な活動を行いながら疾患の治療を促していく場です。
精神科デイケアは上手に利用すれば、病気の治りをよりスムーズにしてくれます。
では具体的にデイケアに参加することにはどんな目的があって、どのような効果が得られるのでしょうか。
精神科デイケアの目的と得られる効果についてみてみましょう。
1.精神科デイケアとは?
精神科デイケアとは、精神科病院やメンタルクリニックで行われている外来治療のひとつになります。また医療機関以外に保健所などが運営している精神科デイケアもあるようです。
デイケアでは、数十人ほどの患者さんに集まってもらい、集団活動をしたりプログラムに参加したりしてもらうことで、社会機能の回復の手助けをしていきます。
デイケア参加の適応は、主治医によってなされます。なので、「○○病の患者さんには適応があって、××病の患者さんには適応がない」と病名によって適応が決まるものではありません。
基本的には精神疾患の患者さんであって、主治医がデイケア参加が有用だと判断すれば、参加することが可能です。
精神科デイケアは、特に統合失調症の患者さんには欠かせない治療の一つであり、陰性症状の改善、社会機能の回復に対して効果が望めます。実際、参加している利用者さんの約7割が統合失調症の方だと報告されています。
もちろんそれ以外の精神疾患に対しても有効で、例えばうつ病や双極性障害、アルコール依存症の方の生活リズム改善や社会機能回復などに対しても効果が望めます。
2.精神科デイケアってどんなところ?
精神科デイケアに興味はあるけども、どんなことをするのか分からないし不安だと感じている方もいらっしゃると思います。
細かいスケジュールやプログラムは各デイケアによって異なるため、詳しくは希望するデイケアに直接問い合わせて頂きたいのですが、ここでは一般的な精神科デイケアの一日はだいたいこういった感じだよ、というのを紹介します。
開始は9時~10時が多いようです。なるべく遅刻をしないよう、定時までにデイケア施設に来てもらいます。
開始時刻となったら、まずは利用者全員で朝のミーティングを行います。今日の予定を確認したり、何かイベントがある場合は係を決めたり、その進行具合を報告したりします。
その後は午前のプログラムが始まります。プログラムは曜日によって様々であり、授業のようなものから、習字、カードゲーム、散歩、ヨガなどのスポーツ、箱折りなどの軽作業、テーマを決めてメンバー同士の話し合いなどなど多岐に渡ります。
12時ごろになると昼食です。昼食時間と休憩時間で約1時間ほどあります。
13時ごろになると、午後のプログラムが始まります。午前と同じく、行われるプログラムは曜日によって様々です。
15時~16時ごろになると終了で、帰りのミーティングをして、帰宅します。
1日の精神科デイケアの実施時間は標準として6時間と定められているため、どこの精神科デイケアでもだいたい同じようなスケジュールでしょう。
利用者さんを疾患別にみると、おおむね
・統合失調症 70%
・気分障害(うつ病、双極性障害) 10%
・アルコール依存症 5%
・その他 15%
という報告があります。ただし、デイケアの特色によって参加している利用者さんが異なるため、どのデイケアでも必ずこうような割合になっているわけではありません。
3.精神科デイケアの目的と得られる7つの効果
どのような目的で精神科デイケアに参加し、どのような効果を狙うのか。
それは患者さんによってそれぞれ異なります。そのため、デイケアで得られる効果というのも一概に言うことは出来ません。
しかしデイケアを利用することで得られるであろう効果というものを、私が感じるところも含めてですが紹介させていただきます。
Ⅰ.生活リズムの安定
精神科デイケアに定期的に参加するようになると、同じ時間帯に同じ場所に行かなくてはいけませんので、生活リズムが安定するようになります。
どこのデイケアも、だいたい朝9時くらいから始まり夕方15~16時くらいに終わります。
定期的にこの時間帯をデイケアで過ごすということは、仕事や学校に行くのと同じように生活リズムが固定することになり、生活リズムの安定につながります。
精神疾患の経過において、生活リズムを安定させることは非常に重要です。
精神疾患の経過を悪くするものとして、生活リズムの不規則さが挙げられます。例えば昼夜逆転の生活が続いていたり、寝る時間が毎日バラバラであったりすれば、体内時計のバランスも崩れてしまい、精神状態も不安定になります。
特に精神疾患は、生活リズムが乱れやすい症状が多いため、生活リズムの安定を維持する努力はとりわけ重要になります。
例えば統合失調症では、陰性症状によって自宅にこもりがちとなり、生活リズムが崩れることがよくみられます。またうつ病でも、抑うつ気分から自宅に引きこもったりしてしまい生活リズムが滅茶苦茶になってしまうことは珍しいことではありません。
このように生活リズムが不安定になってしまうと、お薬だけの治療では限界があります。少しずつでも外へ出る・行動するという生活習慣の是正をしなければ病気が良くならなくなってしまいますが、これが実際にはとても難しいのです。
デイケアに参加すると生活リズムが安定するため、これは生活リズム不安定による症状の悪化を防ぐ大きな役割を果たしてくれるのです。
Ⅱ.居場所がある・仲間がいる安心感
精神疾患の治療に専念していると、仕事や学業を休まなくてはいけないこともあり、どうしても社会から疎遠になってしまいます。
これが長く続くと、「どこにも自分の居場所がない」という疎外感・孤独感を感じるようになってしまいます。このような感情は精神状態を不安定にします。
精神科デイケアは、患者さんに居場所を提供することで、「自分はここに居ていいのだ」という安心感を与えてくれます。
また同じような境遇で治療を頑張っている方とも定期的に接する機会が持てるため、「苦しいのは自分だけではないんだ」「同じ悩みを持っている人がいるんだ」と感じることができ、これも安心感や勇気を与えてくれます。
これらは一人で自宅に引きこもっているだけでは得られないものであり、デイケアに参加することで得られる大きなメリットです。
Ⅲ.医療者に相談しやすい
精神科デイケアには、精神科医を始め、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど様々な職種の医療関係者がいます。
デイケアに参加するたびに、これらの医療職者に相談できるというのは精神科デイケアの大きなメリットです。
医療者に相談する機会として診察がありますが、診察は多くても週に1回であり、患者さんによっては2週間に1回、月に1回だったりすることもあります。限られた診察時間の中で、相談の時間を十分に取るというのは現実的には難しいところがあります。
定期的に精神科デイケアに参加していると、医療者とも頻繁に接するため、病気に対する小さな不安でも相談しやすい環境を作れます。
これは患者さんの安心にもなりますし、病気が再発・悪化した時などには早期発見にもつながります。
Ⅳ.対人コミュニケーションの訓練
精神疾患発症の原因として、対人関係におけるストレスというのは少なくありません。
人間は社会の中で生きる動物であり、生きていく以上、人とコミュニケーションを取ることは避けられません。対人関係を円滑にするスキルを習得することは、精神状態を安定させるためにとても重要なことなのです。
しかし統合失調症やうつ病などの精神疾患にかかると、自宅に引きこもりがちになったりして人と接することが減ってしまうことも多く、対人スキルを学ぶ機会が得にくいという現状があります。
デイケアでは、他利用者さんとコミュニケーションを取っていく中で、対人関係を円滑に行うスキルを習得することができます。
また他利用者さんとの対人関係がうまくいかなかったり、トラブルになってしまったときも、その場に医療スタッフがいるため、相談しやすく、その場で問題点を修正しやすいというのもデイケアの大きなメリットです。
Ⅴ.社会技能の獲得
デイケアではそこまで高度な作業を行うわけではありませんが、時にはかんたんな作業を行うこともあります。
これは患者さんに社会生活に必要な技能を獲得してもらう良いリハビリになります。
デイケアの作業で社会技能が上がってくれば、更に社会技能の獲得を目指して作業所に通所したり、就労支援センターに通所したりとステップアップを目指していくことも可能です。
Ⅵ.社会復帰の準備になる
精神疾患の治療のために、会社を休職していたり学校を休学している場合、病気が良くなってきたからといって、いきなり職場や学校に戻るのは負荷が高すぎることがあります。
復帰する際は、負荷の軽いものから挑戦して段階的に負荷を上げていった方が成功率が高くなります。
そのため、まずは精神科デイケアに参加していただき、徐々に慣れていってから職場や学校に復帰すると、スムーズに復帰できることがあります。
デイケアは社会復帰の練習として利用することができます。
デイケアによっては、個別に「リワーク(復職支援プログラム)」を提供しているところもあります。
Ⅶ.家族の負担が減る
家族の中の誰かが精神疾患にかかってしまうと、残された家族はそのサポートをしなくてはいけません。
家族の方は一生懸命、サポートしてくださるのですが、精神疾患の治療は他の疾患と比べて長期にわたるため、時には家族の方も疲弊してしまいます。
病気だと頭では分かっていても、なかなか良くならない患者さんと毎日顔をあわせているとストレスが溜まっていき、家族関係が悪化してしまうこともあります。
患者さんが定期的に精神科デイケアに通うことは、家族と患者さんはほどよい距離を保つために一役買ってくれます。
患者さんが精神科デイケアに通い始めたことで、家族にも気持ちの余裕が生まれ、「今までよりも優しく接することが出来るようになりました」とおっしゃってくれたご家族の方もいらっしゃいます。
4.デイケアの問題点
このように精神疾患の患者さんのリハビリに有効なデイケアですが、問題点がないわけではありません。
あまり悪い話はしたくはないのですが、医療者としてデイケアを見ていて、利用者さんに注意して頂きたい問題点を紹介します。
Ⅰ.対人トラブル
様々な方と知り合え、仲良くなれるのはデイケアの魅力の1つです。同じ境遇の患者さんに出会えれば親近感も沸きますし、自分の気持ちを分かってもらえるため安心もできるでしょう。
これはとてもいい事なのですが、中には距離を縮めすぎてしまってトラブルになってしまうケースがあります。
デイケア中の対人トラブルであればまだ良いのです。その場にいる医療スタッフが適切に仲裁し、今後の対人関係を良好にするためのアドバイスを行えます。
問題は、デイケアで仲良くなったのを機にプライベートでも会うようになり、そこでトラブルになってしまうケースです。中でも一番複雑になってしまうのは異性関係のトラブルです。
デイケア中にこっそり連絡先を交換し、その後はプライベートで会うようになり、最初は仲良くしていたんだけど、だんだんと付きまとわれたりしてしまいトラブルになってしまう、ということもあります。
異性関係では、仲の良いうちはまだ問題となりませんが、仲たがいしてしまうとその後はお互いがデイケアに参加しずらくなります。治療のために行っているデイケアなのに、本質ではない異性トラブルで参加できなくなってしまうのでは本末転倒になってしまいます。
多くのデイケアでは、患者さんと個人的に連絡を取り合うのは推奨はしていません。それはプライベートな問題に関しては医療として介入できないため、何かあったときに助けてあげることができないからです。
対人トラブルにならないために注意していただきたいことは、仲良くなった利用者さんであっても、連絡先は安易に教えないことです。プライベートで遊ぶ友達を作りにきたのではなく、治療にきたのだという本質を忘れないようにしましょう。
また、トラブルになりそうな時は早めに医療スタッフに相談するようにしましょう。
Ⅱ.派閥を作ってしまう
全てのデイケアがそうだというわけではありませんが、デイケア歴が長い方を中心に派閥が出来てしまうことがあります。
これ自体は一概に悪いことではありませんが、それに伴い、新しい利用者が参加しづらい雰囲気が作られてしまうことがあり、これは時に問題となります。
仲の良いグループがあるのは全然問題のないことですが、新しい利用者さんが参加しずらい雰囲気を作っていないか、時々は振り返ってみましょう。
また新しくデイケアを利用する方も、いきなりデイケアに入所するのではなく、事前に見学などをしてデイケアの雰囲気が自分に合いそうかどうかしっかりと確認するようにしましょう。
5.通院先にデイケアがない場合は
デイケアに興味がある、通ってみたい。でも通院先のクリニックにはデイケアが併設されていないということがあります。
デイケアはある程度大きい精神科病院であればほぼ確実にありますし、最近ではクリニックでも併設しているところも増えてきました。
しかし全てのメンタルクリニックに精神科デイケアが併設されているわけではありません。
デイケアが併設されていないクリニックに通院している場合、デイケアの利用はあきらめるしかないのでしょうか。
実は、通院先と別の運営母体のデイケアであっても、入所することが可能なことがあります。通院先のクリニックにデイケアがない場合は、そういったデイケアを探し、主治医に紹介状を書いてもらえば、今の通院先を変えることなく、デイケアへの通所も行うことが可能です。
6.デイケアっていくらかかるの?
デイケアを利用するためには、どれくらいの料金がかかるのでしょうか。
基本的にデイケアというのは治療の一環という位置づけですので、病院の診察と同じく各種健康保険が適応されます。
平成26年度の精神科デイケアの保険点数は、
●小規模なもの 640点(利用1年以上は590点)
●大規模なもの 750点(利用1年以上は700点)
となっています。保険点数は1点で10円の計算になりますから、小規模だと1日6400円、大規模だと1日7500円という事になります。
これだけ聞くと高額に感じられますが、一般的な医療費三割負担で考えると、小規模だと1日1920円、大規模でも1日2250円になります。
更に自立支援医療を受けている方は、それも適応されます。自立支援医療下で1割負担になると、小規模だと1日640円、大規模だと1日750円と、だいぶ安価で利用することが可能になります(更に自立支援医療は、所得額によって上限額が設けられています)。
ただし、実際の利用料はここから大幅には外れませんが、デイケアやその患者さんによって算定できる保険点数に多少違いがあるため、実際の料金にも若干の違いがあります。正確な料金は利用を検討しているデイケアに直接問い合わせて見てください。
また小規模か大規模かは参加している利用者数や、医療スタッフ数によって決まります。参加しようと考えているデイケアが小規模になるのか大規模になるのかは、直接デイケアに問い合わせてください。