偏頭痛を効果的に予防する方法や有効な予防薬について

偏頭痛はとてもつらいものです。頭痛があるだけでもつらいのに、その頭痛のせいで仕事や生活にも大きな支障を来してしまいます。

そのため偏頭痛の頻度があまりに多い場合は、頭痛が起こらないようば予防策を講じる必要があります。

偏頭痛を予防するためにはどのような方法があるのでしょうか。

今日は偏頭痛の予防するために気を付けるべきことや、有効な予防薬についてお話します。

1.まずは原因に応じた対策を

(ここは「偏頭痛の治療」と似た内容になります)

偏頭痛は、様々な原因で生じます。原因がはっきりと特定できないこともありますが、偏頭痛の70~80%は原因があると言われているため、出来る限り原因を突き止めることは重要なことです。原因が分かれば、それを避けるだけで偏頭痛の予防になるからです。

偏頭痛(片頭痛)の原因」という記事で偏頭痛が生じやすい原因についてお話しました。

それは、

【精神的な要因】

● 精神的ストレス
● 不眠や過眠など睡眠の異常
● 疲労
● 生理などのホルモンバランスの変化

【環境要因】

● 天候や気圧の変化
● 温度変化
● まぶしい光
● 音(騒音)
● 臭い

【食事や嗜好品】

● 空腹
● 喫煙
● アルコール
● カフェイン
● チーズ
● ナッツ
●柑橘系(ミカン、レモンなど)
● チョコレート
● 経口避妊薬(ピル)などの薬

などです。

これらのうち、自分の偏頭痛の原因として当てはまりそうなものがあれば、まずはそれを避けることが一番の予防策となります。

例えば、睡眠不足が続いた時に偏頭痛が起こりやすいのであれば、まずは睡眠をしっかり取るように生活を工夫しましょう。喫煙をすると偏頭痛が悪化しやすいのであれば、まずはタバコを減らすことが何よりの予防です。

またアルコールや食べ物が原因であれば、それらはなるべく摂取を避けるようにしましょう。

中には、それが原因だと分かってはいても避けられないものもあります。例えば「仕事による精神的ストレスが原因」と分かってはいても、仕事を急に辞めるわけにはいきません。このように原因が分かっていても予防できあいこともあるのですが、それでも避けられる範囲で避けることを工夫してみることは大切なことです。

仕事中に適度に休憩を入れるようにする、仕事でイヤなことがあったらその分休日にストレス発散をする、信頼できる上司にストレス源について相談する、など何らかの対策を探してみましょう。

2.規則正しい生活

(ここも「偏頭痛の治療」と似た内容になります)

先ほど書いた、偏頭痛が生じやすい原因を見てみると、生活習慣の乱れは大きなウエイトを占めていることに気づきます。

多くの疾患の予防に、「規則正しい生活」は欠かせないものですが、偏頭痛も同じなのです。

ということは、偏頭痛を予防したいのであれば、規則正しい生活は欠かせないということになります。

● しっかりご飯を食べて
● しっかり寝る
● ストレスは抱え込まない
● 適度に運動をする
● アルコール、タバコはなるべく控える

このような、一般的に健康的と言われるような生活はやはり良いのです。偏頭痛予防にももちろん効果的ですので、規則正しい生活を心がけて下さい。

3.偏頭痛に有効な予防薬

偏頭痛の治療に使われるお薬は、2種類に分けられます。

● 偏頭痛発作が起きた時に頭痛を鎮める、頭痛止め
● 偏頭痛が起こらないように予防する、予防薬

この2つです。

頭痛発作を鎮める頭痛止めについては、「偏頭痛(片頭痛)の治し方と治療法。偏頭痛はどのように治すのか」で詳しく書いていますので、こちらをご覧下さい。

この記事では、2番目の偏頭痛が起こらないように予防する予防薬についてお話しします。

偏頭痛が起こるのが年に1回など、少ない頻度の頭痛発作なのであれば予防は必要ないかもしれません。頭痛が起きた時に頭痛止めを飲むだけで事足ります。しかし、偏頭痛の頻度が多い場合は、予防薬を定期的に服薬する必要が出てきます。

ひとつの目安として、

● 偏頭痛発作が月に2回以上ある
● 偏頭痛が日常・社会生活に支障を来している

これに該当する場合では、予防薬を定期的に飲むことが検討されます。

偏頭痛の予防には、実に様々なお薬が使われています。

● 抗てんかん薬(てんかんやけいれん発作を抑えるお薬)
● β遮断薬(血圧を下げたり、心臓を保護するお薬)
● 抗うつ剤

など、一見すると全く異なる疾患に使われるお薬が偏頭痛の予防薬として有効なのです。

これらがなぜ偏頭痛を予防するのかについては、実はどれもその機序は明確には解明されていません。しかしどれも偏頭痛の予防に効果的であることが確認されています。

どのお薬にもそれぞれメリット・デメリットがあり、どれも作用機序が異なるお薬ですので、どれを使うかは主治医をよく相談して決めていく必要があります。

偏頭痛の予防薬をひとつずつ詳しく紹介していきます。

Ⅰ.抗てんかん薬

てんかん発作を予防するお薬の一部は、偏頭痛の予防にも有効であることが分かっています。

なぜ効くのかは解明されていませんが、抗てんかん薬には脳神経の興奮を抑える作用があるため、その神経保護作用が偏頭痛の発症をも予防するのではないかとも考えられています。

具体的には、次の2つが偏頭痛の予防に特に有効であることが分かっています。

● バルプロ酸(商品名:デパケン)
● トピラマート(商品名:トピナ)

抗てんかん薬は、奇形発生率を上げるという報告がありますので、妊娠中の方は原則禁忌(使用不可)です。

Ⅱ.β遮断薬

β遮断薬は、アドレナリンβ受容体をブロックすることで、血圧を下げたり、心拍数を落としたりするはたらきを持ち、主に血圧を下げたり不整脈を抑えたり、心臓を保護する目的で投与されるお薬です。

しかし血圧や心臓に対する作用だけではなく、β遮断薬の一部は偏頭痛の予防にも有効であることが分かっています。

β遮断薬にも色々な種類があるのですが、偏頭痛に効果があるのはISA(内因性交感神経刺激作用)を持たないβ遮断薬のみです。

具体的には、

● プロプラノロール(商品名:インデラル)
● メトプロロール(商品名:ロプレソール)
● アテノロール(商品名:テノーミン)
●ナドロール(商品名:ナディック)

などが・片頭痛の予防薬として有効です。

β遮断薬は、使用禁忌である疾患がいくつかありますので注意しなければいけません。代表的な禁忌疾患には、気管支喘息、異型狭心症、徐脈、低血圧、末梢循環障害、褐色細胞腫などがあります(細かくはお薬によって異なりますので、主治医に確認してください)。

また、偏頭痛発作の治療薬であるトリプタン製剤の中の「リザトリプタン(商品名:マクサルト)」との併用も出来ませんので気を付けてください。

しかし反対に妊娠している方には比較的使いやすいお薬です。

Ⅲ.抗うつ剤(三環系抗うつ剤)

一部の抗うつ剤も、偏頭痛の予防に効果があることが分かっています。

抗うつ剤によって、偏頭痛の予防効果があるものもあればないものもあるため、抗うつ剤であればどれでも良いわけではありません。

抗うつ剤が偏頭痛を予防する理由も不明です。抗うつ剤がノルアドレナリンの濃度を増やすためではないかと考えられていますが、偏頭痛予防に効果のない抗うつ剤もあることから、これだけでは説明がつきません。

ちなみにノルアドレナリンは、痛みを感じにくくさせる作用があることが知られています。

具体的に使われる抗うつ剤というのは、

● アミトリプチン(商品名:トリプタノール)
● ノルトリプチン(商品名:ノリトレン)
● イミプラミン(商品名:トフラニール)

などの三環系抗うつ剤が多く、三環系抗うつ剤は偏頭痛予防に特に有効です。

しかし三環系抗うつ剤は昔のお薬であるため副作用が強く、そのため最近では

● パロキセチン(商品名:パキシル)
● デュロキセチン(商品名:サインバルタ)

などの新規抗うつ剤が用いられることもあります。

しかし偏頭痛の予防効果を見れば、三環系抗うつ剤の方が高い印象があります。

Ⅳ.その他の治療薬

● 抗てんかん薬
● β遮断薬
● 三環系抗うつ剤

この3つが偏頭痛の3大予防薬であり、基本的にはこの3つのどれかが使用されます。しかし、これら以外にも偏頭痛に有効な予防薬はいくつかあります。

基本的には3大予防薬が効果が乏しい、あるいは使えない場合に検討されます。代表的なものを紹介します。

【カルシウム拮抗薬】

カルシウム拮抗薬は、一般的には降圧剤(血圧を下げるお薬)として使われています。一部のカルシウム拮抗薬は、偏頭痛予防に有効です。

カルシウム拮抗薬が偏頭痛を予防する機序についても、詳しいことは解明されていません。

● ロメリジン(商品名:ミグシス)
● ベラパミル(商品名:ワソラン)

などが用いられます。

カルシウム拮抗薬も、妊婦の方には原則禁忌になります。

【ACEi/ARB】

ACEi(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)も、一般的には血圧を下げるお薬として使われていますが、偏頭痛の予防に有効であることも知られています。

● カンデサルタン(商品名:ディオバン)
● リシノプリル(商品名:ロンゲス)

などが用いられます。

ACEi、ARBも、妊婦の方には原則禁忌です。

【エルゴタミン製剤】

エルゴタミン製剤は、偏頭痛発作の時の頭痛止めとしても使用されるお薬ですが、予防薬としても有効です。

しかし、偏頭痛発作で良く使用されるトリプタン製剤と併用禁忌(一緒に使えない)であること、昔のお薬であり副作用が多めであることから、現在ではあまり使われていません。

● ジヒドロエルゴタミン(商品名:ジヒデルゴット)
● エルゴタミン(商品名:クリアミン)

などがあります。

エルゴタミン製剤も、使用禁忌である疾患が多いため、注意が必要です(詳しくは主治医に確認下さい)。

また、妊婦への使用も禁忌となっています。

4.予防薬はどのように選べば良いのか

偏頭痛の予防薬には、たくさんの種類があります。代表的なものは前項で紹介しましたが、これ以外にもまだ偏頭痛予防に有効だと考えられているお薬はいくつかあります。

このようにたくさんの選択肢がある中で、一体どのお薬をどうやって選べばいいのでしょうか。

薬は主治医が適切に選択してくれますので、患者さんが心配する必要はないのですが、ここでは一般的な偏頭痛予防薬の選び方を紹介します。

Ⅰ.使用禁忌でないものを選ぶ

お薬を選択する場合、一番大事なのは、併用禁忌である疾患がないものを選ぶということです。

例えば妊娠中の方であれば、使えないお薬も多く、β遮断薬を選ぶことが多くなります。喘息を持っている方であれば、β遮断薬以外を選ぶべきです。また、偏頭痛発作にトリプタン製剤を使っているのであれば、エルゴタミン製剤以外を選択しなくてはいけません。

使用禁忌の病気を持っているのにお薬を使用してしまうのは大変危険ですので、特に細心の注意を払う必要があります。

Ⅱ.元々ある疾患ついでに偏頭痛も予防できれば最適

偏頭痛の予防薬は、元々は別の疾患の治療薬として使われているものがほとんどです。

抗てんかん薬は、てんかん患者さんが使っていることが多いですし、β遮断薬は血圧が高い方や不整脈の方などが使っています。

そのため。、例えば元々高血圧を持っていて、高血圧の治療もしなくてはいけないのだけど偏頭痛もある、ということであれば、血圧を下げる作用のあるβ遮断薬やカルシウム拮抗薬、ACEi/ARBは良い選択になります。

またうつ病で治療中であって、更に偏頭痛も予防する必要があるのであれば、三環系抗うつ剤は良い適応になるでしょう。

ひとつのお薬で、元々持っている疾患と合わせて偏頭痛治療も出来れば一石二鳥です。

Ⅲ.基本は3大予防薬から

なるべく、抗てんかん薬、β遮断薬、三環系抗うつ剤の3大予防薬のどれかを選ぶようにしましょう。

これら3種類はその他の予防薬と比べると、研究データが多くありますし、有効性も高いと評価されています。

3大予防薬を使えるのであればなるべくこれらから開始し、どうしてもそれでは効果不十分である時にそれ以外の予防薬を試すのが原則になります。