頭痛は不安や緊張・ストレスが原因となることも多く、精神科・心療内科で治療が行われることも少なくありません。
中でも「偏頭痛(片頭痛)」は、ストレスや疲労などが原因となることもあるため、私たちが治療をする機会の多い頭痛です。
偏頭痛は、日本人のうち800万人以上の人がかかっていると言われており、非常に患者さんの多い頭痛です。しかし、偏頭痛がどのような頭痛でどのようにすれば改善させることができるのかをしっかりと理解している方はまだまだ少ないようです。
偏頭痛は様々な原因で生じることが知られています。自分の偏頭痛の原因が分かれば最適な対処法も見えてきます。
偏頭痛とは一体どのような頭痛で、どのような原因で生じるのでしょうか。
今日は、偏頭痛が生じる原因について詳しくみてみましょう。
1.そもそも偏頭痛(片頭痛)って何?
偏頭痛(片頭痛)は、「頭の片側に生じる、拍動性の頭痛」です。
偏頭痛の多くは頭の片側に生じます。そのため、「片頭痛」と呼ばれるようになりました。ちなみに「片頭痛」と書く事もあれば「偏頭痛」と書く事もあり、これらはどちらも同じ意味になります。
偏頭痛の特徴は、次のようなものが挙げられます。
● 頭の片側に生じる
● 拍動性である
● 4~72時間ほど持続する
● 吐き気や光過敏、音過敏などの様々な症状を合併する
● 前兆を伴うことがある
● 20~40代の女性に多い
頭痛を持っている日本人は約3000万人いるとも言われていますが、その中の800万人の方が偏頭痛であり、特に20~40代の若い女性に多く認められます。
ちなみに前兆というのは、「これから頭痛がくる・・・」と感じる予兆のような症状を言います。前兆には様々なものがありますが、目がチカチカしたり、視界の一部が見えにくくなったり、身体がチクチクしたり、言葉が発しにくくなったりと様々な症状が起こりえます。偏頭痛の患者さんのうち、1/3ほどの方が前兆を伴うと言われています。
2.偏頭痛の原因となるもの
偏頭痛の70~80%には、原因があると言われています。
つまり偏頭痛の方の多くは、原因を特定できる可能性があるということです。これはとても重要なことで、原因を特定することが出来れば、対処法も見えてきます。
偏頭痛はどのようなことが原因となるのでしょうか。
偏頭痛を起こす原因は非常に多岐に渡るのですが、代表的なものを紹介します。
この中で、「そういえば、私はこういった時に頭痛が起こりやすいな」と自分に当てはまると感じるものがあれば、改善を試みてみましょう。
Ⅰ.精神的な要因
精神科で偏頭痛を治療する際に多い原因としては、
● 精神的ストレス
● 不眠や過眠など睡眠の異常
● 疲労
● 生理などのホルモンバランスの変化
などがあります。
緊張、不安や焦りなど精神的にストレスを受ける状況が続くと、偏頭痛は起こりやすくなります。
また、睡眠不足や過眠、疲労の溜まりすぎも偏頭痛の原因になりますので、規則正しい生活は偏頭痛予防のために大切だということが分かります。
また女性であれば、生理に伴うホルモンバランスの変化によって偏頭痛が増悪してしまうことがあります。
Ⅱ.環境要因
特定の環境に置かれると偏頭痛が誘発されやすくなります。
● 天候や気圧の変化
● 温度変化
● まぶしい光
● 音(騒音)
● 臭い
この環境要因は避けられるものと避けられないものがあります。
光や音、臭い、温度などは、自分の部屋であればある程度コントロールできますので、自分にとって最適な環境を整えるように工夫することは偏頭痛軽減のために大切なことになります。
天気や外の環境は自分の力では変えられないので、工夫だけでは難しいこともあります(この場合は、お薬などで偏頭痛の治療をしていきます)。
Ⅲ.食事や嗜好品
食べ物など、摂取するものの中にも、偏頭痛を起こしやすいものがあります。
● 空腹
● 喫煙
● アルコール
● カフェイン
● チーズ
● ナッツ
●柑橘系(ミカン、レモンなど)
● チョコレート
● 経口避妊薬(ピル)などの薬
これらは偏頭痛の原因となります。しかしこれらは、人によって原因になることもあればならないこともあるため、偏頭痛の患者さんは全員これらを摂取してはいけない、というわけではありません。
自分の食事や嗜好品の摂取をふり返ってみて、原因になりそうなものであれば、中止してみましょう。
また、空腹は偏頭痛の原因になることがあります。そのため、なるべく規則正しい食生活をするように気を付けましょう。
アルコールは、特に赤ワインが偏頭痛の原因となりやすいと言われています。これは赤ワインに含まれるポリフェノールが血管拡張作用を持つためだと考えられています。
チーズやチョコレートは、チラミンという物質を多く含み、これが偏頭痛を引き起こしやすいと言われています。
3.偏頭痛はどのような機序で生じるのか
偏頭痛が生じる機序は、少しずつ解明されてきてはいるものの、まだ全てが明らかになっているわけではありません。
少し前までは、偏頭痛の原因は「脳の血管」にあると考えられており、「血管説」が偏頭痛の原因であると信じられてきました。
【血管説】
偏頭痛は、脳血管の収縮・拡張によって生じるという説。脳の血管が収縮した際に偏頭痛の前兆が生じ、その後拡張した時に頭痛が生じると考えられていた。
かんたんに言うと、「脳の血管が広がることで偏頭痛が起こるんだ」というのが血管説です。そして前項で挙げた精神的ストレスや不眠、タバコやアルコール、カフェインなどは脳の血管を広げてしまうため、偏頭痛を誘発しやすいのだと考えられていました。
トリプタン製剤やエルゴタミン製剤という有効な偏頭痛の治療薬がありますが、これらのお薬は脳の血管の拡張を抑える作用を持ちます。これも、「やはり血管の拡張で偏頭痛が生じるのだ」と血管説が信じられてきた根拠の一つになります。
しかし、最近は偏頭痛の研究が進んできて、「どうも血管説だけでは偏頭痛の機序の説明がつかない」と考えられるようになりました。
血管説は完全に間違っているものとは言えないのですが、偏頭痛の研究が進むにつれて、血管説以外の様々な機序も解明されてきました。現在では、確かに血管の拡張で頭痛が生じるのは一部あるのだけども、それは偏頭痛の原因の全てとしては不十分であり、それ以外の原因もあるのだという考えが主流になっています。
偏頭痛の研究が行われ、その後も「神経説」や「三叉神経血管説」、「脱分極説」などたくさんの説が提唱されてきました。現在では、それらを総合した機序が偏頭痛の機序だと考えられています。
現在においても偏頭痛の機序は仮説であり、まだ全てが解明されたわけではありませんが、現時点で考えられている仮説の機序をお話します。
大脳皮質(脳の表面)が前項で説明したような原因(ストレスや天気、特定の食べ物・嗜好品など)によって興奮してしまうと、その部位の神経の電気活動が低下します。すると、三叉神経が刺激され神経の炎症が生じます。
三叉神経の炎症によって、三叉神経から血管作動性の神経ペプチド(サブスタンスPやNKA,CGRPなど)が分泌されます。三叉神経は脳の血管にもつながっているので、血管作動性の神経ペプチドは脳血管に作用します。これらは脳血管を拡張させるはたらきを持つため、脳血管は拡張し、それが偏頭痛を引き起こします。
更に三叉神経の刺激は脳全体に徐々に波及していくため(これをCSD(皮質拡延性抑制)といいます)、偏頭痛は数時間~数日続いてしまいます。また、この刺激は初期段階で脳幹や視床下部に伝わるため、これが前兆(目のチカチカや視野異常、感覚異常など)を引き起こすのです。
ちょっと難しいですね・・・。
「難しくてよく分からん!」という方は「偏頭痛は脳血管が拡張することで生じるんだけど、詳しく言うともっと細かい機序がある」
くらいに理解していただければと思います。
これもまだ仮説であり、偏頭痛の原因の全てはまだ解明されているわけではありません。