無気力症候群の治療法|無気力症候群はどのように改善させるのか

無気力症候群は、若い男性に多く見られる症候群で、本業に支障を来すほどの無気力を認めるものの、それ以外の症状に乏しいのが特徴です。

趣味や交友などの本業以外には気力を持って取り組めるため、周囲からは病気と気付かれにくく、また焦りや危機感なども乏しいため、みずから病院を受診することもほとんどありません。そのため無気力症候群は発見が遅れやすいのですが、ただの「甘え」ではないことに気付き、適切な対処を行えば完治させは十分に可能です。

今日は無気力症候群はどのように治療していくのかについてお話します。

1.有効なお薬はない

無気力症候群は、うつ病などの精神疾患とは違い、脳の異常ではないと考えられています。例えばうつ病では、セロトニンなどの脳の神経伝達物質の異常が発症のひとつの原因だと考えられていますが、無気力症候群にはそういった研究報告はありません。

無気力症候群は、脳の病気として起こるものではなく、精神的な葛藤や挫折などを契機に発症します。そのため、無気力症候群には治療薬はありません。お薬ではなく、精神的にアプローチする精神療法(カウンセリングなど)が治療になります。

あまりに無気力がひどい場合は、主治医の判断のもと意欲を出すようなタイプの抗うつ剤が投与されることはあります。しかし抗うつ剤を投与しても十分な効果が得られないことが多く、むしろSSRI誘発性アパシーなどの副作用で無気力が更に悪化する可能性もあります。そのため、無気力症候群にお薬を使用するのであれば、その適応については専門家が慎重に判断する必要があります。

基本的には、無気力症候群はお薬以外の方法で治していくべき疾患なのです。

2.生活習慣の改善は再重要

どんな疾患でもそうなのですが、生活習慣をただすことは治療成果を最大限にするために大切なことです。無気力症候群も例外ではなく、生活習慣を規則正しくすることは、治療の準備をする上でとても重要になってきます。

無気力症候群は、その人が本来期待されている社会的役割(本業)に対して無気力となるという特徴があります。具体的には学生であれば勉強、社会人であれば仕事に対して無気力になります。これがひどくなれば、不登校や欠勤などにつながったり、ひきこもりやニートと言われている状態に至ることもあります。

そのため、無気力症候群では生活のリズムが乱れていることが少なくありません。

健常人でも、睡眠が不規則だったり食生活が偏っているとやる気が出なかったりだるさが抜けなかったりするものです。せっかく無気力症候群の治療を初めても、無気力になってしまう生活習慣を改めていなければその効果は半減してしまうでしょう。

規則正しい生活はメンタルヘルスにおいて最重要事項です。

無気力症候群においても、まずは生活習慣の改善を行うようにしましょう。

・毎朝決まった時間に起きる
・三食規則正しく食べる
・1日1回は外出し、身体を動かす
・夜は夜更かしせずに寝る

まずはこれを一週間守るだけでも、だるさや無気力の改善が得られるはずです。

3.治療は精神療法が中心

無気力症候群の治療は、精神療法(カウンセリング)が主になっています。

多くの場合で無気力になっているのには何らかの原因(精神的葛藤や挫折など)があります。原因が自分でも薄々分かっているというケースもありますが、自分でも気付いていないものが原因であることもあります。

無気力症候群になってしまう背景には、様々なものがあります。患者さんによってそれぞれ異なるものですが、比較的多い原因としては、

・燃え尽き・・・何らか目標に向かって努力し、その目標が達成されたことで反動により無気力になってしまう
・逃避・退却・・・・負けたり失敗することが怖いため、無気力になることでこれらを回避しようとする
・主体性が乏しい・・・親などに自分の道を決めてもらっていたため、自分で将来を決められずに無気力になってしまう

などが挙げられます。

これら以外のパターンもあるし、これらのうち複数が混合していることもあります。

それぞれの治療を簡単に紹介します。

Ⅰ.燃え尽き

燃え尽きとして典型的なのは「5月病」と呼ばれるものです。受験勉強から解放された大学1年生が、5月くらいになると無気力になってしまうことから名づけられました、

大学受験を目標として今まで一生懸命頑張ってきたけど、いざ合格したら重圧から解放され、また目標もなくなってしまったため、反動から無気力となってしまうのです。時間とともに自分で新たな目標を見出し自然と回復するケースも多いのですが、なかなか改善しない場合は、カウンセリングにて自分を見つめ直してみることが必要です。

自分はなぜ受験勉強を頑張っていたのか、大学受験の先の目標は何だったのかなどをカウンセラーと一緒にふり返っていく中で、改善をはかっていきます。

Ⅱ.逃避・退却

逃避・退却から無気力症候群になるケースのほとんどは、自分ではその自覚がありません。あるいは薄々そうだと気付いてはいても、それを認め、受け入れるのに時間がかかります。

世の中は、「競争」が少ながらずあります。受験だって競争ですし、仕事でも営業成績に優劣をつけられることもあります。

逃避・退却パターンの無気力症候群では、学歴競争や職場での出世競争などで負けてしまって自分が傷つくことを恐れ、無気力に退行することでその挫折を回避しようとします。これは自分自身気付かずになっていることも多いため、まずは自分を見つめ直し、認めることが治療の第一段階にになります。

逃避パターンを持つ人の多くは、完璧主義だったり、勝ち負けに敏感であったり、テストの点数などで人の価値を評価したりする傾向があります。しかし現実的に、常に勝ち続けることが出来る人などいませんので、完璧主義、成績主義の極端な考え方はいつかは破綻します。

自分が良い結果を出しているうちは自分のアイデンティティを保てるのですが、そうでなくなると自分のアイデンティティが保てなります。その時、無気力に退却することでアイデンティティの崩壊を防ごうとするのです。

治療ではカウンセラーに自分の価値観や性格などを話す中で、自分の性格の傾向を知り、それが理由で無気力になっていることを理解していきます。その中で自分の経験などから、勝ち負けやテストの点数以外にも価値を見いだせるものはあるんだ、ということをふり返っていくのが治療になります。

言葉で言うのは簡単ですが、実際にこのように改善していくのにはある程度の時間がかかります。

Ⅲ.主体性が乏しい

主体性に乏しいパターンは、いわゆる「真面目な良い子」に多い無気力症候群です。親や先生の言う事をよく聞くいい子で、言われた通りに勉強もするため学生時代の成績は良好であることも多く、親や教師からの評判も非常に良好です。

しかしこのパターンの問題は「自分の意志での行動ではない」ことです。あくまでも「大人が決めてくれた道を進んでいる」に過ぎません。そのため、大人の保護を受けている子供時代は良いのですが、いざ自分で自分のことを決めなくてはいけない段階に来た時、何をしたいのかが分からなくなり、無気力となってしまいます。

この場合の治療は、カウンセリングで今までの自分の人生や経験を見つめ直し、自分の人生の目標を探し出していくことが治療になります。

無気力症候群は、「これをやれば治る!」という特効薬的な治療はありません。医師やカウンセラーとともに精神療法を続け、お話していきながら自分を見つめ直し、その中で少しずつ治していくしかないのです。

治療の経過は「少しずつ」ですが、無気力症候群は良くなっていく疾患です。自分を見つめ直し、ゆっくりと治療してください。