精神科で心電図検査をするのはなぜ?

精神科・心療内科を受診すると、心電図検査をすることがあります。

初めての受診時にとることもありますし、治療中も定期的に心電図検査をすることもあります。

「精神科なのになんで心電図??」

医師に心電図検査をと言われ、このように疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

理由も十分に説明されずに検査をされると、「この病院はお金儲けがしたいから、必要のない検査をさせてるんじゃないか」なんて思ってしまうかもしれません。

精神の不調で受診しているのに、何で心電図を取らないといけないのでしょうか。

今日は、精神科・心療内科で心電図検査をとる意味について説明いたします。

1.精神科で心電図検査をする意味

精神科・心療内科で心電図検査をする理由はいくつかあります。一つずつお話していきます。

Ⅰ.おくすりの副作用が出ていないかのチェック

精神科で心電図検査をする一番の理由はこれです。

精神科のおくすり(向精神薬)は、不整脈や異常波形の原因となることがあります。最近の向精神薬は安全性が高いため滅多に起きませんが、昔の向精神薬は時に不整脈や異常波形の原因になっていました。

滅多に起きないことですし、起こったとしてもあまり問題のない不整脈であることがほとんどですが、重篤な不整脈が生じる可能性は0ではありません。

そのため、向精神薬を服薬している場合は定期的に心電図をとり、おくすりによる不整脈、異常波形が出ていないかチェックするのです。

またおくすりの量を増減した時も、増減後に心臓に副作用が出ていないかを調べるためにとることもあります。

私たちが特に注意している重篤な不整脈、波形異常には以下のようなものがあります。

【QT延長症候群 】

心電図波形には、P波、Q波、R波、S波、T波、U波があります。
(U波は正常の波形では検出されません)

qrs

このうち、Q波-T波間を「QT」と呼び、QT延長とは、QT時間が伸びてしまうことを指します。

波形的にQTが伸びるだけであれば、何の症状もないし何の問題もないのですが、QT延長は致命的な不整脈を起こしやすくなるという問題があります。

具体的には、心室頻拍や心室細動、そこからTorsades de Pointes(トルサード・ド・ポアント)という重篤な心室性不整脈に至りやすくなるのです。

これらの不整脈は、致死的な不整脈ですので、起こさないように細心の注意を払わないといけません。

下記のような方はQT延長及び重篤な不整脈が起こりやすいと考えられてるため、特に定期的に心電図検査をすることが推奨されます。

・女性
・子供や老人
・ストレスやショック
・徐脈
・心疾患の既往(心筋梗塞、心筋炎など)
・電解質異常(低カリウム、低マグネシウム、低カルシウム血症)
・元々QTが延長している

(参考文献:モーズレイ処方ガイドライン11版)

また、具体的にQT延長を起こす可能性が高い向精神薬は次のように言われています。
やはり古いおくすりに多く、最近のおくすりでは少なくなっています。

【QT延長への影響】

【高度】ハロペリドール(セレネース)

【中等度】クロルプロマジン(コントミン)、クエチアピン(セロクエル)、三環系抗うつ剤、シタロプラム

【低度】オランザピン(ジプレキサ)、リスペリドン(リスパダール)、スルピリド(ドグマチール)、トラゾドン(デジレル)、リチウム(リーマス)

【作用なし】アリピプラゾール(エビリファイ)、パリペリドン(インヴェガ)、SSRI、SNRI、ミルタザピン(リフレックス)、ラモトリギン(ラミクタール)、バルプロ酸(デパケン)、ベンゾジアゼピン

(参考文献:モーズレイ処方ガイドライン11版。カッコ内は代表的な商品名を記載しています)

そのため、特にQT延長のリスクがある方は、定期的に心電図検査を行うことが望ましいのです。

【心筋炎・心膜炎】

これも古い向精神薬で多く、最近の向精神薬ではほぼ認めませんが、心臓に炎症を起こしてしまうことがあります。炎症がひどければ心不全になってしまうこともあります。

心膜炎・心筋炎は心電図だけでは診断は難しいのですが、心電図変化が現れることも多いため、定期的に心電図を施行すれば早期発見ができます。

心筋炎・心膜炎は、三環系抗うつ剤、リチウムや抗てんかん薬で起こる可能性があると指摘されています。

Ⅱ.元々心臓の疾患がないかのチェック

持病として心臓疾患が元々ある方は、使えないおくすり、使いにくいおくすりがあります。初診で心電図検査をするのは、明らかな心臓疾患がないかを確認する意味もあります。

心疾患がある場合、上記のような心臓に負担をかけやすいおくすりは使いにくくなるため、そのことを念頭に置いて治療計画を立てる必要があります。

Ⅲ.最初に心電図をとっておくと、あとで比較しやすい

初診時に心電図を取ると、あとで取る心電図と比較しやすくなる、というメリットもあります。

心電図をはじめ、人間に行う検査というのは個体差があります。

一見、異常波形に見えても、実はその人にとってはいつも見られる正常波形だったということもあります。
(これを正常亜型と呼びます)

心電図で何か変化があるけど、これがおくすりによって起こったのか、それとも元々その人はそういう波形を持っている人なのか、これはおくすりを投与する前の心電図を見ないと分かりません。

初診で心電図をとっておけば、おくすりを飲む前後での比較ができます。比較ができれば、「この波形は元々あったものでおくすりの影響ではありませんよ」とか「この波形はおくすりを飲んでから出ているのでおくすりの影響が考えられます」とか、判断しやすくなります。

2.異常があった時はどうするのか?

心電図から異常が疑われ、それが専門的治療が必要なものであると主治医が判断した場合は、内科や循環器内科に紹介状を書き、検査・治療をしてもらいます。

明らかにおくすりの副作用としての不整脈や異常波形が出たのであれば、原則は速やかに原因薬は減量・中止します。

ただし、わずかな心電図変化で症状もなく、危険性が低いものであれば、そのまま様子をみることもあります。ここらへんの判断は個々の症例で異なりますので、主治医にしっかりと判断してもらってください。

3.心電図の料金

心電図が必要な検査なのは分かったけど、心電図って一回検査するといくらかかるのでしょうか?

心電図検査にも色々な種類がありますが、精神科で行うのはその中でも基本的な「12誘導心電図検査」です。

これは、平成26年度改定の診療報酬点数で「130点」となっています。
1点が10円ですから、精神科で12誘導心電図が施行された場合は、1300円になります。

実際は10割負担の方はあまりいないでしょうから、

3割負担だと390円、
1割負担だと130円

になります。

4.どのくらいの頻度で行うべき?

ではどのくらいの頻度で心電図検査をすべきでしょうか。

これは 患者さんの状態によって異なりますが、特に不整脈を起こすリスクが高くない方であれば、1年に1回~2回程度で十分でしょう。

会社の健康診断や他の病院を受診して、そこで心電図検査を定期的にとっている場合は、同じことをまた病院で行う必要はありませんので、「会社で心電図をとったので、診察の時に持ってきますね」でも構いません。

心電図は、特定の病院のものの方が精度が高いということはありません。ちゃんとした取り方をすればどの心電図計でも同じ結果になります。会社の健康診断での心電図でも十分チェックできます。