セディール錠(一般名:タンドスピロン)は1996年に発売された抗不安薬です。抗不安薬は不安感を和らげる作用を持つおくすりのことで、「安定剤」「精神安定剤」と呼ばれることもあります。
現在使われている抗不安薬は、そのほとんどがベンゾジアゼピン系抗不安薬という種類に属します。ベンゾジアゼピン系は即効性があり、効果も感じやすいため人気があるおくすりですが、依存性などの副作用が問題となることがあります。
セディールの最大の特徴は、ベンゾジアゼピン系ではない抗不安薬だというところです。セディールはセロトニン1A部分作動薬という種類のおくすりになります。
セディールの効果や特徴、また他の抗不安薬との比較などをみていきましょう。
1.セディールの総評
まずはセディール錠の特徴をまとめてみます。
【特徴】
- 抗不安作用は弱い(物足りなさを感じる患者さんも多い)
- 安全性が高く、耐性・依存性が生じない。副作用が少ない
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬と異なる作用機序を持つ
- 抗うつ効果もある
セディールの最大の特徴は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬ではない、という点です。2014年現在、ベンゾジアゼピン系以外の抗不安薬は、このセディールしかありません。
ベンゾジアゼピン系も良いおくすりですが、耐性・依存性などの副作用がしばしば問題となります。代表選手にはデパスやソラナックス、レキソタン、ワイパックスなどがあります。これらは即効性もあるし効果もあって頼れるおくすりなのですが、副作用で苦しんでしまう患者さんもいるということも忘れてはいけません。
対してセディールは、耐性・依存性が生じません。その他の副作用も少なく、安全性に非常に優れています。
ただし効果はとても緩やかで弱めです。強力に不安を抑えてくれる効果はないし、飲んですぐに効くものでもありません。
患者さんは日々、精神的な苦痛と戦っているため、どうしてもすぐ効いてくれるおくすり、効果が強いおくすりを好みます。そのため、あまり強く効かないセディールは、あまり「患者さん受け」は良くないおくすりです。
しかし、その分安全性は高く、身体にやさしいおくすりなんだということは知っておいて欲しいと思います。
2.セディールの抗不安作用の強さ
セディールの不安を和らげる作用(抗不安作用)は、かなり弱めです。
抗不安薬は、たくさんの種類があり、それぞれ強さや作用時間が異なるため、医師は患者さんの状態に合わせて最適な抗不安薬を選択します。
主なベンゾジアゼピン系抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下表のようになります。
(あくまでも目安で、個人差があります)
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 抗不安作用 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | + |
リーゼ | 短い(約6時間) | + |
デパス | 短い(約6時間) | +++ |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | ++ |
ワイパックス | 普通(約12時間) | +++ |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | +++ |
セパゾン | 普通(11-21時間) | ++ |
セレナール | 長い(約56時間) | + |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | + |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | ++ |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | +++ |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | ++ |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | +++ |
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の中で、効果が弱めのものというと、グランダキシン(トフィソパム)やリーゼ(クロチアゼパム)が挙げられますが、セディールはこれらと同等かこれらよりも若干弱いくらいでしょうか。
ちなみにセディールの作用時間は短く、半減期は1.2時間前後と報告されています。最高血中濃度到達時間は0.8~1.4時間前後と報告されており、数字だけをみると即効性があるように見えますが、即効性はありません。
血中濃度が上がれば不安が治まるというわけではなく、長く飲み続けることでセロトニン受容体の数が徐々に減っていき(ダウンレギュレーション)、それが抗不安作用につながるため、実際は2-4週間飲み続けて少しずつ効果を感じ始めることが多いのです。
3.セディールを使う疾患は?
セディールの適応疾患は、
〇 心身症(自律神経失調症、本態性高血圧症、消化性潰瘍)における身体症候ならびに抑うつ、不安、焦躁、睡眠障害
〇 神経症における抑うつ、恐怖
と書かれています。
心身症とは、身体の異常の主な原因が「こころ」にある病気の群です。例えば食生活が悪くて胃潰瘍になるのは心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になるのは心身症になります。同じようにタバコで血圧が上がるのは心身症ではありませんが、ストレスで血圧が上がってしまうも心身症になります。
臨床では、心身症に限らず様々な不安感に対して使用します。ストレスで不安感が強くなったり、気分の落ち込みが出てきたり、緊張が取れなくなってしまう場合なども適応になります。
ちなみに正常な人にでも不安はありますが、そのような「正常範囲内の不安」には用いません。正常範囲内の不安にも効果は示しますが、健常者に使っても副作用などのデメリットの方が大きいからです。不安感があり、医師が「抗不安薬による治療が必要なレベルである」と判断された場合に検討されます。
また、セディールの特徴として「抗うつ作用を持つ」ことがあります。ベンゾジアゼピン系には抗不安作用はありますが、抗うつ作用はありません。対してセディールには軽度ながら抗うつ作用があります。
そのため不安症状のみならず、うつも併発している方にも良いでしょう。ただし、抗うつ作用も即効性はなく、効果も弱いためセディールのみでは不十分なこともあります。
セディールは添付文書に
〇 神経症においては、罹病期間が長い(3年以上)例や重症例あるいは他剤(ベンゾジアゼピン系誘導体)での治療効果が不十分な例等の治療抵抗性の患者に対しては効果があらわれにくい。1日60mgを投与しても効果が認められないときは、漫然と投与することなく、中止すること。
〇 本剤の使用に当たっては、高度の不安症状を伴う患者の場合効果があらわれにくいので、慎重に症状を観察する等注意すること。
と、重症例ではあまり効果がないことが書かれています。やはり、軽症例に使用するすべき抗不安薬でしょう。
4.セディールが向いている人は?
セディールの特徴は、効果は弱めで即効性もないけど安全性は非常に高い、という点です。
ここから考えると、
・症状が軽い方
・精神科のおくすりの副作用が心配な方
・安全性を重視して、ゆっくり治していきたい方
に向いている抗不安薬だと言えます。
また、セディールはベンゾジアゼピン系抗不安薬と作用機序が異なりますので、
・ベンゾジアゼピン系抗不安薬があまり合わない方
も試してみる価値はあるでしょう。
5.セディールの作用機序
抗不安薬として、よく使われているのはベンゾジアゼピン系です。
ベンゾジアゼピン系は、GABA受容体という部位に作用することで、抗不安作用を発揮します。また抗不安作用以外にも
・催眠作用(眠くする)
・筋弛緩作用(筋肉の緊張を和らげる)
・抗けいれん作用(けいれんを抑える)
を持っているのがベンゾジアゼピン系の特徴です。
そのため、ベンゾジアゼピン系は睡眠薬として使ったり、筋緊張による肩こりや頭痛の改善にも使うこともあります。しかし反面で、これらは眠気やふらつきなどの副作用の原因にもなります。
対してセディールは「セロトニン1A部分作動薬」と呼ばれます。脳内のセロトニン1A受容体(5‐HT1A受容体)作用することで、抗不安作用を発揮します。ベンゾジアゼピン系と違ってGABA-A受容体に作用しないため、催眠作用や筋弛緩作用、抗けいれん作用は認めません。つまり、ふらつきや眠気などの副作用も起こりにくいということです。
(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のセディール錠とは異なることをご了承下さい)