なぜ未成年の飲酒は禁止されているのか?

日本をはじめ、ほとんどの国で未成年者はアルコール飲酒を法律で禁止されています。

海外を見渡しても、だいたい18歳~21歳がアルコールを摂取して良い最低年齢となっています。中には16歳からOKといった飲酒できる年齢が早い国もありますが、やはりある程度年齢を重ねてからではないと飲酒は認められていません。

「未成年は飲酒してはいけない」というのは全ての方が知っている「常識」です。私たちはそれを当然のものとして受け止めています。

しかし、

「なんで子供は飲酒してはいけないの?」
「子供が飲酒したらどんな害があるの?」

といった具体的なアルコールの問題については、あまり知られていないのではないでしょうか。

「身体に悪いからだよ」
「危ないからだよ」

一般的にはこういった回答がなされますが、あいまいで抽象的な回答であれば、子供のこころにはしっかりと届きません。

最近では「飲酒可能年齢を20歳から18歳に引き下げる」といった話も出ています。社会的にどうなのかはさておき、医学的にみて飲酒可能年齢を引き下げることはどうなのでしょうか。

未成年の飲酒による健康障害や事故などを防ぐためにも、なぜ未成年は飲酒をしてはいけないのかついて改めて考えてみましょう。

1.未成年者の飲酒の現状

まず、現状で未成年者の飲酒の現状についてみてみましょう。

原則として未成年の方は飲酒をしてはいけません。しかし現状をみると、お酒を飲んでしまっている未成年は少なくありません。

2010年に行われた「未成年者の飲酒行動に関する実態研究調査」では、月に1~2回以上の頻度で飲酒するものの割合は、

中学生男子 8.9%
中学生女子 9.4%

高校生男子 17.9%
高校生女子 17.6%

と報告されています。法律で禁止されているにも関わらず、実際には少なくない未成年が飲酒をしているという現状があります。

しかし実は未成年の飲酒率は昔と比べると非常に低下しています。「未成年はアルコールを飲んではいけないよ!」という啓蒙活動が盛んに行われたこともあり、未成年の飲酒率は年々低下しているのです。

ちなみに1996年の同様のデータを見ると

中学生男子 29.4%
中学生女子 24.0%

高校生男子 49.7%
高校生女子 40.8%

となっています。現在の数字と比べると非常に高いことが分かります。

少しずつ未成年者の飲酒率が減少していますが、もし最低飲酒年齢を20歳から18歳に引き下げることになれば、18歳未満の飲酒率も再び上昇する可能性は高いでしょう。

2.未成年者が飲酒することによる害とは

成人であれば摂取しても良いアルコールですが、なぜ未成年は摂取できないのでしょうか。

その理由は主に2つあると考えます。

1つ目は、「脳や神経の発達に悪影響を与える可能性が高い」という事、そして2つ目は「未成年はまだ欲望のコントロールが未熟である」という事です。

そもそもアルコールは、成人であっても過量に摂取すれば害が大きいことが知られています。大量のアルコール摂取を長期間続けると脳の萎縮が進み、「アルコール性認知症」を発症するリスクが高くなります。

またアルコールは依存性物質ですので、長期・大量飲酒を続けていれば依存状態となってしまいます。アルコール依存になれば常にアルコールを手放せなくなり、アルコールを常に飲んでいないと落ち着きません。アルコールが切れるとソワソワ・イライラしたり、手の震えなどが出現するようになります。こうなってしまうと日常生活や仕事に支障を来たすのは明らかです。

日本においても、治療を要するレベルのアルコール依存症患者さんは80万人以上いると推定されており、アルコールの過量摂取は成人であっても大きな害があることが分かります。

一方、未成年にアルコールの摂取を許可すると、どのような問題が考えられるでしょうか。

Ⅰ.脳・神経系の発達への影響

成人においても大量のアルコール摂取は、脳を萎縮させてアルコール性認知症発症の原因になることが分かっています。

ということは当然、未成年においても同様の影響が考えられます。

更に未成年と成人が異なる点は、成人は脳や神経の発達がもう十分に完成した後だけども、未成年は脳・神経の発達の途中であるという点です。

神経系の発達は生後から急激に進み、12歳頃にはそのほとんどが完成します。しかしその後も緩やかに発達し続け、ピークは20歳前後です。つまり20歳以前(18歳など)で飲酒をしてしまうと、残りわずかな神経の成長ではありますが、その成長を阻害してしまう可能性があるという事です。

未成年が飲酒をしてしまうと、成人で生じる脳・神経の萎縮というリスクだけでなく、本来であれば発達するはずであった神経に悪影響をきたす可能性もあるのです。

Ⅱ.乱用・依存症リスク

未成年は、人格的にもまだ未熟です。

成人と比べるとまだ経験が浅いため、未熟であるのは仕方がない事ですが、このような未熟な時期に依存性のある物質の摂取を自由にさせてしまうと、乱用・依存のリスクは高くなります。

社会人の飲み会で急性アルコール中毒が出ることはほとんどありませんが、学生の飲み会では急性アルコール中毒の患者さんが出ることがあります。若いうちは欲望のコントロールが難しいことがここからも分かります。

人格的にある程度完成されている成人でさえ、アルコール依存症になってしまうのです。まだまだ未熟な未成年は、欲望のコントロールもまだ苦手ですし、またアルコールの害に対する知識不足などもあり、成人より容易にアルコール依存症に進行しやすい事が想定されます。

一度、依存性物質に依存状態になってしまうとそこから抜け出すのにはかなりの労力を要します。アルコール依存症の方が身近にいる方はそのことをとてもよく分かっているでしょう。「やめよう」と決意しても、欲望に勝てず再度依存性物質を摂取してしまう方は非常に多く、依存は「大事な人生を台無しにしてしまう」といっても過言でないほど怖いものなのです。

また、アルコールを摂取すると気持ちが大きくなってしまうことがありますが、それによって暴力などの問題行動を起こしてしまう事があります。これも欲望のコントロールがまだ苦手な未成年では生じやすく、また体力もある未成年であれば暴力沙汰も大事になってしまう可能性があります。もし警察沙汰となってしまえば、その子の人生に大きな傷を作ってしまうことにもなります。

実際、未成年の暴力事件や交通事故は、高い確率でアルコールが絡んでいます。

 Ⅲ.その他のリスク

その他のリスクについて考えてみます。

アルコールは肝臓で解毒・分解されます。分解できないほどのアルコールを摂取しているとアルコール性肝炎になったり肝硬変になってしまう事があります。未成年は分解・解毒能力が成人と比べるとまだ未熟なため、このような肝臓へのリスクも大きいと考えられます。

また生殖器への悪影響もあるでしょう。成人であっても飲酒をしすぎると勃起不全や月経不順といった生殖器系の異常が出現します。特に生殖器系は中高生の時期に大きく発達しますので、この時期に飲酒をしてしまうと、生殖器系への悪影響も考えられるでしょう。

3.アルコール摂取の最低年齢を下げることは良いことなのか

アルコールは、一概に悪いものとは言えません。

適度の摂取は総合的に見れば大きな害がないとは考えられており(「お酒は健康にいいの?悪いの?」参照)、

  • 善玉コレステロール(HDL-Chol)を増やす
  • 血糖を下げる
  • 心筋梗塞・脳梗塞のリスクを多少下げる

などのメリットも報告されています。

また適量のお酒は気分を高揚させるため、それによってコミュニケーションが円滑になるというメリットもあります。「飲み会で話が合う友人が出来た」「お酒の席で話が盛り上がって商談がまとまった」など、お酒を利用した人間関係によってメリットを感じたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし一方で、アルコールはリスクも小さくありません。

総合すれば、アルコールというものは

「適量の摂取に留まっていれば一概に悪いものではない」「過量摂取であれば間違いなく悪いもの」

と言うことができます。

アルコールの問題点として耐性・依存性があることが挙げられます。耐性・依存性があるため、アルコールは摂取量は徐々に増えていっきがちな物質なのです。特に欲望のコントロールが苦手な方は、依存性に負けてしまい、飲酒量は増大しやすい傾向があります。

未成年はどうしてもまだ欲望に対するコントロールは苦手であることが多く、そのような理由もあって保護者の元で養育されています。その未成年者へのアルコールを許可するという事になれば、これはかなり慎重に判断すべき事であると思われます。

アルコール摂取可能年齢を18歳に下げれば、18歳未満の飲酒率も恐らく増大するでしょう。現在80万人以上と言われているアルコール依存症患者もより増大させるリスクが高いと考えられます。

これは医学的に見ればあまり好ましいことではありません。

もちろん、法的なものですので医学的側面からだけで判断できることではありませんが、「アルコール摂取可能年齢の引き下げ」は医学的側面も十分に考慮し慎重に判断して頂きたいと、強く願っています。

少なくとも、急性アルコール中毒やアルコール依存症、アルコールによる暴力事件などが増大する恐れがあるというリスクをしっかり認識し、それを予防するための対策も合わせて考えるべきでしょう。

もし「アルコール摂取可能年齢は下げるけど、それで生じるかもしれない健康被害については医療現場でなんとかしてね」と問題を現場に丸投げの法律だとしたら、これは非常に困るなと感じています。