閉鎖病棟とはどのような病棟でなぜ必要なのか

病気を治療する方法には「通院加療」と「入院加療」があります。通院加療は定期的にクリニックなどの外来を受診して治療をしていく方法で、入院加療は病院に入院して治療を受ける方法です。

そして入院加療が行われる場合、入院中は基本的には「病棟」で生活する事になります。

実は病棟には「開放病棟」と「閉鎖病棟」があります。

病棟は原則として「開放病棟」でないといけません。そのためほとんどの病棟は開放病棟になっています。おおよそ、みなさんが「入院」と聞いて思い浮かべる病棟が開放病棟です。

しかし開放病棟での治療が患者さんにとって不利益が大きいと判断される場合、「閉鎖病棟」に入院して頂く事もあります。

閉鎖病棟は主に精神疾患の方が適応となる病棟です。長期的に見て患者さんのためと判断される場合のみ閉鎖病棟での入院治療が許されますが、患者さんにとっては不自由や苦痛を感じる病棟でもあるため、その適応は慎重に判断する必要があります。

ここでは閉鎖病棟について、どのような病棟でどのような方が適応になるのかをみていきます。

1.開放病棟と閉鎖病棟

まずは「閉鎖病棟」がどのような病棟なのかを説明します。

「閉鎖病棟」と聞くと「監禁されている」「自由を奪われている」「暗くてジメジメした病棟」という何だか怖いイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん病院によっては古い病棟である事はありますが、基本的に最近の閉鎖病棟は明るく綺麗な病棟が多くなっています。

閉鎖病棟は確かに患者さんに不自由を感じさせるものではあります。しかし不要に行われるものではなく、患者さんを不自由にさせてしまうデメリットを上回るメリットがある場合にのみ検討されるものです。

まずは開放病棟と閉鎖病棟の違いについて説明しましょう。

病棟とは「病室のある建物」の事で、入院患者さんが入院生活を行う場の事です。そして病棟には「開放病棟」と「閉鎖病棟」があります。

この「開放」「閉鎖」というのは、何を表しているのでしょうか。

これは「病棟の入り口の状態」を表しています。

開放病棟というのは、入り口が常に開いている病棟です。患者さんは自由に病棟内と外を行き来できます。

一方で閉鎖病棟というのは、入り口が閉まっている(鍵がかかっている)病棟の事です。そのため患者さんは基本的に病棟内でしか行動できず、主治医の許可なく病棟の外に出る事は出来ません(許可があれば外出する事は可能です)。

入院中であっても患者さんには人権がありますから、本来は不当に行動を制限する事はできません。そのため患者さんが入院する場合、病棟は原則として開放病棟でなければいけません。

しかし、特定の症状が発症している患者さんに限っては、患者さんを守るという観点から閉鎖病棟に入院して頂かざるを得ない事もあるのです。

閉鎖病棟とはそのような時に使われる病棟の事になります。

2.閉鎖病棟の意義と適応となる患者さん

基本的に病棟というのは、開放病棟であるべきです。

開放病棟が「普通の病棟」であり、閉鎖病棟というのは「特殊な病棟」です。やむを得ない理由がなければ患者さんを閉鎖病棟に入れる事は許されません。

入口に鍵をかけて患者さんの自由を奪ってしまうわけですから、当然ですよね。

閉鎖病棟は、病院の中でも精神科にのみ見られる特殊な病棟です。なぜ精神科ではこのような病棟が必要になるのでしょうか。

もちろん精神科であっても、患者さんに入院してもらう時は基本的には開放病棟への入院をまず考えなければいけません。入院中の患者さんには当然人権がありますから、やむを得ない事情がない限りは不当に患者さんの自由を制限する事は許されません。

しかし患者さんの精神症状によっては開放病棟で治療をしてしまうと、長期的に見て患者さんに大きな不利益が生じる可能性が高いケースもあります。

そのような場合は、閉鎖病棟への入院が検討されるのです。

では具体的に閉鎖病棟はどのような患者さんが対象になるのでしょうか。主に次のようなケースで閉鎖病棟への入院が検討されます。

Ⅰ.病識が乏しく、退院すると不利益が大きい

閉鎖病棟による入院治療が行われるのは、原則として、

  • 患者さんの病識が乏しい
  • その症状を放置してしまうと患者さんやその周囲に大きな不利益がある

という状態です。

これは「医療保護入院」や「措置入院」に該当するような状態です。

精神疾患の特徴として、「自分が病気であるという認識(病識)がない」場合が少なからずあります。自分が病気であり、治療しないとまずい状態であるにも関わらず、当の本人にその認識がなく「自分は正常」と認識してしまっている事があるのです。

例えば統合失調症で幻覚が見えていたり妄想的になっている方などがそうです。

「悪魔にずっと後を付けられている」
「隣に住んでいる〇〇が、私を殺そうとしてくる」

このような幻覚や妄想が出現している患者さんがいたとします。これは周囲から見れば幻覚や妄想であったとしても、本人にとっては「真実」として認識されています。

患者さん本人はこの症状を「病気の症状」だとはとらえておらず、「実際に現実で起こっている事」ととらえているのです。

このように幻覚妄想に対して病識のない患者さんに「それは病気の症状だから、入院して治療しましょうね」といっても同意を得られる可能性は低いでしょう。むしろ「病院もグルなのではないか」と考えられてしまうかもしれません。

何とか説得して開放病棟に入院してもらえたとしても、「自分は正常」と思っているわけですからすぐに病棟を抜け出して帰ってしまうでしょう。そしてそれを放置していたら、「嫌がらせされている」と本人が信じている隣人を傷付けてしまったり、あるいは「もう悪魔からは逃げられない」という苦悩から自ら命を断ったりしてしまうかもしれません。

このような場合、開放病棟に入院してもらうのと閉鎖病棟に入院してもらうのとでは、どちらが将来的にみて患者さんへの不利益が小さいでしょうか。

短期的に見れば患者さんを不自由にさせてはしまいますが、しっかりと治療して病識を取り戻させてあげた方が長期的に考えれば患者さんのためになる可能性が高いと考えられます。

このような場合では、一時的に患者さんに不自由な想いをさせてはしまいますが、閉鎖病棟に入って頂き、病識が戻るまで治療をさせて頂くのです。

Ⅱ.不安が強い

病識がある患者さんであっても、閉鎖病棟での治療が行われる事もあります。

例えば不安が極めて強く、些細な事にも恐怖を感じてしまうような状態になっている患者さんにとっては、誰もが自由に出入りできる開放病棟よりも、入り口に鍵がかかっており、病院職員の許可がないと出入りができない閉鎖病棟の方が安心して過ごせる事もあります。

また不安によって感覚が過敏になっている患者さんは、些細な刺激で衝動的になったり暴力を起こしたりしてしまう事もあります。このような場合も開放病棟よりも閉鎖病棟の方が病院職員が本人の状態を管理しやすく、大きなトラブルを未然に防げる可能性が高まるため、閉鎖病棟による入院が行われる事があります。

Ⅲ.患者さんが希望している

医療的には閉鎖病棟の必要性がなくても、患者さん側から「閉鎖病棟でしばらく過ごしたい」と閉鎖病棟への入院の依頼があった場合、閉鎖病棟への入院が許可される事もあります。

この場合、医療的に閉鎖病棟が必要ではない場合もありますので、閉鎖病棟にいるとは言っても基本的には本人が希望すれば鍵を開けてもらって外に出る事も出来ますし、本人が希望すれば開放病棟に移ることも可能です。

Ⅳ.患者さんの同意がある

状況によっては「患者さんがすぐの入院を希望しているけど、現状では開放病棟は満床で閉鎖病棟にしかベッドの空きがない」という事があります。

このような場合は「今すぐの入院だと閉鎖病棟になってしまうけどよろしいですか?」と患者さんに同意をもらった上で閉鎖病棟に入院してもらう事もあります。

この場合も医学的には閉鎖病棟の必要性はなく、閉鎖病棟への入院の理由は「開放病棟に空きがない事」ですので、開放病棟のベッドに空きが出たら閉鎖病棟から解放病棟に移動する事になります。

3.閉鎖病棟に入ったら一切外には出られないの?

閉鎖病棟というと、その名称から「閉じ込められる」「監禁される」「出られない」といったイメージをもつ方も多いかもしれません。

確かにその一面がある事は否定できません。

しかし閉鎖病棟というのは特殊な病棟であり、やむを得ない症状がある方のみに入って頂く病棟になります。

逆に言えば、その「やむを得ない症状」が消失したのであれば、閉鎖病棟に不当に長く閉じ込められる事はあってはなりません。

閉鎖病棟というと、「一回入ったら当分出られない」と感じている方も多いかもしれませんが、そんな事はありません。結果的に「病気の症状がなかなか落ち着かず、長期間出られなかった」という事はあるかもしれませんが、一様に「患者さんの全身が当分出る事ができない」というものではありません。

閉鎖病棟での治療の必要性がなくなったら、その時点で開放病棟に移動する権利が生まれます。

例えば先ほどの統合失調症の幻覚妄想状態にある患者さんのケースで考えてみましょう。

閉鎖病棟に入院となった理由は、幻覚妄想状態であり、病識がなく、開放病棟だと将来的にみて患者さんへの不利益が大きくなると考えられるためでした。

この方に治療を行って幻覚妄想状態が落ち着き、「あの時の自分は幻覚・妄想に支配されていた」と病識が生まれてきたらどうでしょうか。

この時点で、閉鎖病棟に入院している必要性は消失したと考えられますので、開放病棟に移動する事が可能です。

ただし病院のベッドというのは流動的でいつも空きがあるわけではありません。

症状的には開放病棟に移れるけども、開放病棟にベッドの空きがないという状況であった場合は、患者さんと相談の上、空きが出るまでの間は閉鎖病棟での治療を継続させていただく事もあります。

その場合、閉鎖病棟での入院ではありますが、患者さんを閉じ込め続ける医療的意義はないため、原則として患者さんが「外へ出たい」と希望すれば、病院は正当な理由なくそれを断る事はできません(ただし夜などでは防犯上の理由から外出が制限される事があります)。