アルプラゾラム錠は、1984年に発売された「ソラナックス」「コンスタン」という抗不安薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリック医薬品とは、先発品の特許が切れた後に別の製薬会社から発売される主成分が同じお薬の事です。効果は先発品と同等でありつつ、開発費があまりかかっていないため薬価が安いというメリットがあります。
抗不安薬は主に不安を和らげる作用を持ったお薬の事で、「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれています。
アルプラゾラムは抗不安薬の中でも、バランス型のお薬です。抗不安作用もまずまずしっかりありつつ、副作用も多くはありません。即効性もあるため、頓用として用いる事もできます。
そのため処方される頻度も多く、メンタルクリニックを中心によく処方される抗不安薬の1つです。
ここではアルプラゾラムの効果や特徴、また他の抗不安薬との比較などを紹介していきます。
１．アルプラゾラムの特徴
まずはアルプラゾラムの全体的な特徴を紹介します。
基本的に抗不安薬というお薬は、
- 抗不安作用（不安を和らげる作用）
- 筋弛緩作用（筋肉の緊張をほぐす作用）
- 催眠作用（眠くする作用）
- 抗けいれん作用（けいれんを抑える作用）
という4つの作用を持っています。この4つの作用の強さはそれぞれの抗不安薬で異なります。そして、
- この4つの作用のそれぞれの強さ
- お薬の即効性と持続性
に焦点を当てるとそれぞれの抗不安薬の特徴が理解しやすくなります。
アルプラゾラムはというと、
- 中等度の抗不安作用
- 弱い筋弛緩作用
- 弱い～中等度の催眠作用
- 弱い抗けいれん作用
を持つ抗不安薬になります（あくまで一般的な目安で個人差はあります）。
アルプラゾラムは抗不安作用がしっかりある割に筋弛緩作用・催眠作用が軽いため、不安を抑えながらもふらつきや眠気などは比較的起こしにくく、バランスの良い抗不安薬だという事が出来ます。
即効性や持続性についてはどうでしょうか。
アルプラゾラムは服用してから約2時間ほどで血中濃度が最大になります。そして半減期（お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間）は約14時間です。半減期はお薬の作用時間とある程度相関するため、作用時間を知る1つの目安になる値です。
服用してから血中濃度が最大になるまで約2時間であり、即効性としてはまずまずです。即効性に優れる抗不安薬は頓服薬（不安が高まった時に、その時の不安をすぐ抑えるために服用するお薬）として使えます。
より即効性に優れる抗不安薬もありますが、アルプラゾラムも頓服薬として十分使えます。体感的には服用してから20～30分ほどで効果が感じられ始めます。
薬効もある程度長く、1日2回に分けて服用すればおおむね1日を通して効果は安定します。作用時間の長いお薬は反動も小さいため依存性も弱くなります。アルプラゾラムはまずまずの作用時間を持つため依存性も高くはなく、これもアルプラゾラムの利点になります。
またアルプラゾラムはジェネリック医薬品ですので、先発品の「ソラナックス」「コンスタン」に比べれば薬価が安いのもメリットです。
以上からアルプラゾラムの特徴として次のような事が挙げられます。
【良い特徴】
- 抗不安作用がしっかりある割には、副作用は全体的に軽め
- 筋弛緩作用・催眠作用が軽いため、ふらつきや転倒を起こしにくい
- ジェネリック医薬品であり薬価が安い
【悪い特徴】
- 人によっては眠気が強く出てしまう事も
- 依存形成はやや多めという報告もある
バランス型の抗不安薬であるアルプラゾラムには、大きなデメリットはありません。依存形成はやや多めだと言う専門家もいますが、抗不安薬はどれも依存形成のリスクがあり、私の印象としてはアルプラゾラムが特別に依存性が強い抗不安薬だとは感じません。
人気がある抗不安薬であり処方される頻度が多いので、それで結果的に依存になってしまう総数が多いというだけで、依存になる率として他と大差ないのではないかと思われます。
しかし使い勝手の良さから気軽に頼ってしまいやすい、という可能性は否めません。必要以上に多く服薬してしまうと、副作用などの害が多くなってしまいますので、医師と相談しながら必要な量だけの服薬にとどめるように注意してください。
２．アルプラゾラムの抗不安作用の強さ
抗不安薬には、たくさんの種類があります。
それぞれ強さや作用時間が異なるため、患者さんの状態によってどの抗不安薬を処方するかは異なってきます。
アルプラゾラムの不安を和らげる作用（抗不安作用）は中等度です。
主な抗不安薬の「抗不安作用」の強さを比較すると下図のようになります。
| 抗不安薬 | 作用時間（半減期） | 抗不安作用 |
|---|---|---|
| グランダキシン | 短い（1時間未満） | ＋ |
| リーゼ | 短い（約6時間） | ＋ |
| デパス | 短い（約6時間） | ＋＋＋ |
| ｿﾗﾅｯｸｽ/ｺﾝｽﾀﾝ | 普通（約14時間） | ＋＋ |
| ワイパックス | 普通(約12時間） | ＋＋＋ |
| ﾚｷｿﾀﾝ/ｾﾆﾗﾝ | 普通(約20時間） | ＋＋＋ |
| セパゾン | 普通(11-21時間) | ＋＋ |
| セレナール | 長い（約56時間） | ＋ |
| ﾊﾞﾗﾝｽ/ｺﾝﾄｰﾙ | 長い（10-24時間） | ＋ |
| ｾﾙｼﾝ/ﾎﾘｿﾞﾝ | 長い（約50時間） | ＋＋ |
| ﾘﾎﾞﾄﾘｰﾙ/ﾗﾝﾄﾞｾﾝ | 長い（約27時間） | ＋＋＋ |
| メイラックス | 非常に長い（60-200時間） | ＋＋ |
| レスタス | 非常に長い（約190時間） | ＋＋＋ |
アルプラゾラムは「ソラナックス」「コンスタン」のジェネリック医薬品ですので、抗不安作用の強さもこれらの抗不安薬と同じになります。
アルプラゾラムは不安を取る力が特別に強いお薬だというわけではありません。しかしある程度の効果は有しているため、不安を抑えるために十分頼れるお薬です。
３．アルプラゾラムを使う疾患は？
アルプラゾラムはどのような疾患に使われるのでしょうか。
添付文書を見ると適応疾患として、
心身症（胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症）における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
と書かれています。
これだけだとどんな状態の時に使うお薬なのかが良く分かりませんので、詳しく説明します。
心身症とは、身体の異常の主な原因が「こころ」にある疾患の総称です。
例えば胃潰瘍という疾患を考えてみても、食生活が悪くて胃潰瘍になるのは心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になるのは心身症になります。
同じようにタバコで血圧が上がるのは心身症ではありませんが、ストレスで血圧が上がってしまうのも心身症になります。
このように心身症による身体症状および、それによって認められる精神症状（不安や緊張・抑うつ・睡眠障害など）に対して、アルプラゾラムのようなお薬が検討されます。
ちなみに添付文書にはこのように書かれていますが、実際の臨床では心身症に限らず様々な不安感に対して幅広く使用されています。
ストレスで不安感が強くなったり、気分の落ち込みが出てきたり、緊張が取れなくなってしまう場合などですね。
疾患で言えば、パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏、強迫性障害などの疾患に用いることがあります。また、うつ病や統合失調症などで不安が強い場合も補助的に使用される事があります。
正常な人にでも不安はありますが、そういった「正常範囲内の不安」には用いません。正常範囲内の不安にもアルプラゾラムは効果は示しますが、健常者に使っても副作用などのデメリットの方が大きいからです。
不安感があり、医師によって「抗不安薬による治療が必要な程度である」と判断された場合にアルプラゾラムなどの抗不安薬が使われます。
４．アルプラゾラムが向いている人は？
アルプラゾラムはどのような方に向いている抗不安薬なのでしょうか。
アルプラゾラムは、「強すぎず弱すぎず」「副作用も少なめ」といったバランスの良い抗不安作用を持ちますので、不安、緊張がある方で薬物治療が必要な方にまず最初に用いるお薬として適しています。
まずはバランスの取れたアルプラゾラムを服薬してみて、それでちょうどよければそのまま、弱すぎればもう一段階強い抗不安薬へ、強すぎればもう一段階弱い抗不安薬へ。このように初期治療に用いやすいお薬になります。
また筋弛緩作用が弱いことから、以前に別の抗不安薬を使ったらふらつきが強く出てしまって服薬を中断してしまった方なども試してみる価値があります。
飲んでから血中濃度が最大になるまでは約2時間かかりますが、体感としては内服後20～30分ほどで効果を感じられますので、ある程度即効性にも優れます。そのため不安なイベントや緊張するイベントの前に飲むといった頓服的な使い方もできます。ワンポイントで不安を抑えたい、という方にも向いているでしょう。
５．アルプラゾラムの作用機序
アルプラゾラムはどのようなメカニズムによって不安を改善させているのでしょうか。
アルプラゾラムは「ベンゾジアゼピン系」という種類のお薬になります。アルプラゾラムに限らず、ほとんどの抗不安薬はベンゾジアゼピン系に属します。
ベンゾジアゼピン系は脳の神経に存在するGABA受容体という部位に作用することで、先ほど説明した抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用を発揮します。
GABA受容体は抑制系の受容体であり、刺激されると身体を鎮静させる方向にはたらきます。
ベンゾジアゼピン系のうち、抗不安作用が特に強いものが「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」になり、アルプラゾラムもそのひとつです。
ちなみに睡眠薬にもベンゾジアゼピン系がありますが、これはベンゾジアゼピン系のうち、催眠作用が特に強いもののことです。
ベンゾジアゼピン系は、基本的には先に書いた4つの効果が全てあります。
ただ、それぞれの強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。
アルプラゾラムは、先ほども書いた通り、
- 中等度の抗不安作用
- 弱い筋弛緩作用
- 弱い～中等度の催眠作用
- 弱い抗けいれん作用
を持っています。