マイスリーで幻覚は生じるのか

マイスリーは2000年から発売されている非ベンゾジアゼピン系という種類に属する睡眠薬です。

効果と安全性のバランスの良い睡眠薬であり、マイスリーはもっとも処方されている睡眠薬の1つです。その安全性の高さと使い勝手の良さから精神科のみならず、内科や整形外科など他の科でも不眠に対して処方されることも多いお薬です。

マイスリーは効果としても「強すぎず弱すぎず」で、睡眠に対してしっかりとした効果が得られます。一方で、副作用も多くはありません。作用時間が長くはないため、翌朝まで持ち越す可能性も少ないお薬です。

先日マイスリーを服薬中の患者さんから「マイスリーで幻覚が出るってネットに書いてあったんですけど、飲んでいて大丈夫でしょうか?」と聞かれました。

その答えとして、マイスリーと幻覚にお話してみたいと思います。

1.マイスリーは幻覚を起こすのか

「マイスリーは幻覚を起こすのか?」という質問に対しての答えは、

「起こす可能性はあるが、極めて少ない」

というものになります。

確かに、マイスリーの添付文書を見てみると、副作用の項目に「幻覚」と記載されています。しかしその出現率は、「0.1%未満」となっており、絶対に起きないとは言えないものの、滅多に生じない副作用になります。

臨床の感覚としても、特にマイスリーは幻覚が生じるお薬というイメージはなく、そのようなケースというのはほとんど経験しません。

絶対に起きないとは言えないものの、むしろ他の超短時間の睡眠薬(ハルシオンなど)の方が幻覚が生じる頻度は多いのではないかと思われます。

患者さんから言われて気になったため、マイスリーの幻覚について検索してみたところ、確かにそのように書いてあるページもありました。見方によっては「マイスリーは幻覚を起こしやすい睡眠薬」とも取れるようなページもあり、これで患者さんは不安になってしまったのかなと思います。

しかし医療者が書いているわけではなさそうな記事も多い印象があります。

マイスリーは幻覚を稀ながら起こすため、その副作用がたまたま生じてしまった患者さんが驚いてネットに書いたのかもしれませんが、幻覚はマイスリーに特徴的な副作用ではなく、ほとんどの睡眠薬で稀ながらも生じる可能性はある副作用になります。

2.幻覚とは何か?

そもそも幻覚とは、どのような症状なのでしょうか。「幻覚」という用語はちょっと誤解して使っている方も多いため、ここでは幻覚の定義を再確認してみます。

幻覚というのは、「本来であれば、ないはずの知覚を体験する」症状の事です。難しい書き方になってしまいましたが、幻の知覚は「全て「」幻覚になるというのが正しい認識です。

つまり、幻覚には、

・幻視(本来ないはずのものが見える)
・幻聴(本来聞こえないものが聞こえる)
・幻臭(本来臭わないものが臭う)
・幻味(本来感じないはずの味を感じる)

など、全ての幻の感覚が含まれます。があり、知覚に関する「幻の感覚」は全て幻覚に含まれます。

一般的に、「見えないものが見える」ことを幻覚だと理解している方が多いのですが、これは正確には「幻視」になります。幻視も幻覚の1つではありますが、幻覚というのは、幻視以外にも

「本来、聞こえないものが聞こえる」
「本来、臭うはずのないものが臭う」
「本来、感じるはずのない味を感じる」

といった知覚が全て含まれています。

実際にマイスリーをはじめとした睡眠薬は全て、稀ながらも幻覚を生じる可能性がありますが、そのほとんどは、幻視(本来見えないはずのものが見える)か幻聴(本来聞こえないはずのものが聞こえる)だと思われます。

3.マイスリーで幻覚が生じる理由

確かにネットなどで検索してみると、「マイスリーで幻覚が生じる」といった記載をしているサイトがあります。

これはウソではありませんが、

  • マイスリーで幻覚が生じる可能性は稀(0.1%未満)
  • マイスリーに限った話ではなく、他の睡眠薬全てに言える副作用

であるため、なぜマイスリーの幻覚だけが注目されているのかが謎です。

マイスリーで幻覚が生じる可能性があるのはウソではありません。しかし臨床をしていてほとんど遭遇することはありませんので、そこまで心配をする必要はないでしょう。

ところで、マイスリーで幻覚が生じてしまうのは何故なのでしょうか。

マイスリーに限らず睡眠薬で、幻覚のほとんどが「中途半端な覚醒状態」の時に生じます。

睡眠薬を飲むと、お薬の作用によって脳は鎮静され、徐々に眠気をもよおしてきます。そのままスムーズに眠れば何の問題もないのですが、お薬が中途半端に効いているような時というのは、脳が中途半端に鎮静されているため様々な精神症状が出現してしまう事があるのです。幻覚以外にも錯乱やもうろう状態、健忘などが生じることがあります。

これは睡眠薬全てに言える副作用です。そして、このような副作用が生じやすいのは、

  • 効果が強い睡眠薬
  • 即効性のある睡眠薬

だと考えられます。効果が強く、即効性のある睡眠薬は、お薬の力で急激に意識を落とすため、脳がその急激な変化についてこれず、精神症状が出現してしまいやすいからです。

マイスリーは服薬してから1時間未満で血中濃度が最大となるため、即効性に優れる睡眠薬ではあります。しかし効果は強すぎるという事はなく、特に幻覚が特に生じやすい睡眠薬ではありません。

むしろ効果も強く、即効性もある「ハルシオン(一般名:トリアゾラム)」「ロヒプノール・サイレース(一般名:フルニトラゼパム)」などの方が多い印象があります。

注意点としては、マイスリーのようなお薬でも、使い方が不適切であれば幻覚のような精神症状を起こしやすくなります。

よくあるのが「アルコール(お酒)」との併用です。他に鎮静系の物質を摂取していると、更に脳が急激に鎮静されたり、中途半端な覚醒状態が作られやすくなるため幻覚も生じやすくなることが考えられます。

お酒は睡眠薬と似たようなところがあり、眠りに導くはたらきがありますので、マイスリーとアルコールを併用していたりすると、幻覚が発症する可能性は高くなるでしょう。

また睡眠薬を服薬後に、脳を覚醒させる行動をしてしまうのも良くありません。、「お薬による脳の鎮静」と「活動による脳の活性化」が拮抗し、中途半端な覚醒状態が作られやすくなり、これも精神症状を発症しやすくしてしまいます。

例えば、睡眠薬を飲んだのにパソコンやスマホ、ゲームをしていたり、睡眠薬を飲んだあとに歩き回ったり人と話したりしている場合は、精神症状は生じやすくなるでしょう。

睡眠薬を服薬したらすぐにベットに入り、眠ることが大切です。

4.マイスリーで幻覚が生じてしまったらどうすればいいのか

万が一、マイスリーで幻覚が生じてしまったらどうすればいいのでしょうか。

まずは使い方に問題がないのかを再確認してください。マイスリーで幻覚が生じるのは、不適切な使用をしている場合がほとんどです。先ほど説明したような、アルコールなどの幻覚の発症率を上げるような物質を摂取していないか、服薬後に脳を活性化させるような行動をしていないかを確認してみましょう。

もし問題点があればすぐに修正してください。

そういった理由もなく、幻覚が生じてしまっているようであれば、マイスリーの減薬が変薬をした方が良いでしょう。

例えばマイスリー10mgを服薬しているのでしたら、半分の5mgに減らしたりすると、脳を鎮静させる力が弱まるため、幻覚も生じにくくなります。またマイスリー自体が体質的にあまり合わずに副作用が出やすいというケースもありえますので、その場合は別の睡眠薬に変更するという方法も有効です。

変更する際は主治医に自分の状態をしっかりと伝えれば、主治医が最適な睡眠薬を選択してくれますが、

  • 効果が強い睡眠薬
  • 即効性に優れる睡眠薬

が精神症状を来たしやすいことを考えると、即効性がマイスリーよりは劣る睡眠薬に変更した方が幻覚の発症率は少なくすることが出来ると考えられます。