気分障害とはどのような疾患なのか

気分障害(Mood Disorders)は、主に気分に異常を来たす疾患の総称です。

気分が異常に低下する「うつ病」や、気分の上昇と低下を繰り返す「双極性障害」などが代表的な疾患になりますが、近年では「気分障害」という用語は段々と使われなくなりつつあります。

その理由の1つとして、医学の発展とともに気分障害に属する各疾患はそれぞれ異なる原因で発症しているのではないかという事が分かってきたためです。原因が異なる疾患を「同じ種類」として扱うのは不自然であり、そのためにこの「気分障害」というまとめ方は近年ではあまり使われなくなってきているのです。

ただし、一部の診断基準などではまだ「気分障害」という分類をしているため、この用語が使われる機会がないわけではありません。

ここでは気分障害という疾患について、どのような疾患が含まれていて、それぞれどのような原因でどのような治療法があるのかを説明していきます。

また、そもそも「気分」とは何なのか、それが病的な状態になるというのはどういう事なのかについても見ていきましょう。

1.気分障害とは?

気分障害(Mood Disorder)は、気分に異常をきたす状態になってしまう疾患の事です。

代表的な疾患としては、

  • 双極性障害(躁うつ病)
  • うつ病

が挙げられます。

これらの疾患では、

  • 気分が異常に高揚する
  • 気分が異常に沈む

という気分の異常が認められます。

例えば双極性障害では、気分が異常に高揚する躁状態と、気分が異常に低下するうつ状態が生じます。また躁状態とうつ状態は混ざった状態である「混合状態」が認められる事もあります。

一方でうつ病では、気分が異常に低下する状態が続きます。

このような「気分」に異常をきたす疾患をまとめたのが「気分障害」という概念になります。

とはいえ、生きていれば誰でも多少の気分の波はあるものです。ある程度の気分が上がり下がりは正常の反応であり、これが全て気分障害になるわけではありません。

ではどの程度の気分の上下が生じたら「異常」と判断されるのでしょうか。

その詳しい判断は、個々の症例において診断基準を元に精神科医が行っているのが現状ですが、ざっくりとした基準を言うと、気分の上がり下がりによって、

  • 本人が苦しいと感じていて
  • 日常・社会生活に大きな支障を来たしている

状態が続く場合に、「気分が異常な状態(=気分障害)」と判断されます。

2.気分とは何か?

気分障害というのは、「気分に異常をきたす疾患」をまとめた概念です。

ではこの「気分」って何でしょうか。

私たちは日頃から「気分」という用語を何気なく使っています。そのため「気分が高揚する」「気分が落ち込む」という状態は何となくイメージできるかと思います。

しかし、この「気分」とはどのように定義されるものなのでしょうか。

気分というのは、喜怒哀楽や快・不快といった自分の気持ち(感情)の状態を表します。

私たちの気分は多少の波はあるものの、一定の範囲内に収まっているのが正常です。何らかの刺激によって一時的に気分が高揚したり、落ち込んだりすることはありますが、基本的にはこの気分の変化は生活に大きな支障をきたさない程度・期間に留まり、常軌を逸するほどの波が長期間持続する事は基本的にありません。

例えば、仕事で失敗をして同僚に迷惑をかけてしまったら誰だって落ち込むでしょう。これは全く正常な反応です。

しかし落ち込みが何カ月も続いて仕事に支障を来たすようになったり、落ち込みによって「もう自分は生きている価値がない」と考えてしまうのは正常な気分の波からははずれています。

このように異常が正常な波からはずれてしまい、その状態が長期間続き生活に支障をきたすのが気分障害です。

気分障害には、気分が異常に高揚してしまう双極性障害(躁状態)や、気分が異常に落ち込んでしまううつ病などがあります。

多少「気分が晴れ晴れとしている」「今日は自信がみなぎっている」という日は誰でも経験がある事だと思いますが、躁状態では、この気分の上昇が生活に支障をきたしたり、本人にとって不利益が生じる程度にまで至ってしまいます。

ちょっとしたトラブルで激しく怒り、相手を罵倒したり殴ってしまう。思い付きのアイディアを「世紀の大発見だ」と考えてしまい、莫大な借金をして事業化しようとしてしまう。

このような極端な気分の上昇は、生活に支障をきたし、本人の将来に不利益をきたす事は明らかです。これが双極性障害(躁状態)です。

うつ状態・うつ病も同じです。

多少「今日は気分が乗らない」「イヤな事があって仕事に行きたくない」という事は誰でも経験がある事でしょう。しかし、気分の落ち込みによって、実際に仕事に行けなくなってしまったり、生活に必要な活動(食事や買い物、人と会うなど)が出来なくなってしまうと、本人の生活に支障をきたし、本人の将来に不利益をきたしてしまうようになります。

このように気分とは、自分の感情(嬉しい、腹が立つ、悲しい、楽しい、心地よい、不快だなど)の状態であり、この上下が苦しみを生み、生活に支障をきたすレベルになってしまうのが気分障害なのです。

3.気分障害に属する疾患

気分障害は、どのように疾患が該当するのでしょうか。

代表的な疾患は「双極性障害」と「うつ病」ですが、実はそれ以外にも気分障害に属する疾患があります。

気分障害は大きく次の4つの疾患が含まれます。

Ⅰ.双極性障害

双極性障害は、

  • 躁状態:気分が異常に高揚している状態
  • うつ状態:気分が異常に低下している状態

を繰り返す疾患です。以前は「躁うつ病」と呼ばれる事もありました。

単に躁とうつを交互に繰り返すわけではありません。実は双極性障害の経過中の70~80%がうつ状態であり、一見するとうつ病と間違われる事もあります。また躁状態でもうつ状態でもない「寛解期(症状が落ち着いている状態)」や、躁状態とうつ状態が混ざってしまっている「混合状態」の期間もあります。

双極性障害の発症の原因は十分には解明されていませんが、遺伝の影響も少なくありません。遺伝的な素因(元々の発症しやすさ)に、ストレスなどの環境要因が重なる事で発症するのではないかと考えられています。

躁状態では気分の異常な高揚から、自分の能力を過大に評価するようになったり、自分と比べて周囲の人間が愚かに見えるようになってしまいます。

「自分は何をやっても成功する」という自信の元、莫大な借金をして新しいビジネスを始めようとしてしまったり、怒りっぽくなって周囲の人間を怒鳴りつけたりといった行為を認める事もあります。

また「自分はものすごく優秀な家系の一族なのだ」「自分は神の使いなのだ」といった妄想に至ってしまう事もあり、このような症状に基づいて行動するため、本人や周囲に大きな不利益をもたらしてしまいます。

一方でうつ状態では異常な気分の低下から自分を過小に評価してしまい、「何もやる気が起きない」「自分なんて生きている価値がない」などと考えるようになります。

Ⅱ.うつ病

うつ病は、気分が低下してしまう疾患です。

様々な症状を認めますが、その中でも

  • 抑うつ気分(気分の落ち込み)
  • 興味と喜びの喪失(何も興味を持てない。何も楽しめない)
  • 疲労感(疲れやすい)

といった症状が中核になります。

それ以外にも、

  • 集中力低下(集中できない)
  • 不眠(眠れない)
  • 食欲低下(食事を取れない)
  • 将来への悲観的な思考
  • 無価値感(自分に価値がないと考えてしまう)
  • 希死念慮(死にたいと考える)

などの症状が認められます。

うつ病も原因の全ては明らかになっていませんが、気分の影響を与える神経伝達物質である「モノアミン」の異常が1つなのではないかと考えられています。

モノアミンとは、

  • 落ち込みや不安に関係するセロトニン
  • 意欲・やる気に関係するノルアドレナリン
  • 楽しみ・快楽に関係するドーパミン

などがあります。

これらの分泌が低下したり不安定になる事が一因だと考えられていますが、それだけでは説明できず、その他にも様々な原因があると推測されています。

Ⅲ.気分変調性障害

気分変調性障害(気分変調症)は、軽度のうつ状態が長期間持続する疾患です。

症状は重くはないため軽く見られがちですが、うつ状態が数年単位で続くため、本人の苦しみは大きいものとなります。

うつ病は前述のとおりモノアミンの異常が一因と考えられていますが、気分変調性障害はモノアミンよりも環境要因(いわゆるストレスなど)による心因的な影響が大きいと考えられています。

Ⅳ.気分循環性障害

気分循環性障害は、躁状態・軽躁状態に至らない程度の気分の高揚と、うつ状態に至らない程度の気分の落ち込みを繰り返す疾患です。

「軽い双極性障害」のようなイメージを持っていただくと分かりやすいと思います。

双極性障害と比べると気分の波の程度が軽いため、「性格」として片づけられてしまう事もありますが、放置していると双極性障害に移行してしまうケースも少なくないため適切な治療が必要となります。

4.気分障害という分類が使われなくなってきたのは何故か

気分障害は、

  • 双極性障害
  • うつ病

など「気分に異常をきたす疾患」を総称した概念です。

この気分障害という用語は最近は徐々に使われなくなってきていますが、これはどうしてでしょうか。

気分に異常をきたす疾患を1つのグループでまとめるのは、確かに分かりやすい分類法です。

双極性障害は「気分が上がったり、下がったりする」、うつ病は「気分が下がる」という症状の経過から、両者は共通点がある疾患のようにも見えますし、1つのグループにまとめるのは一見すると違和感はありません。

実際、一昔前までは双極性障害でうつ状態になった時は、「双極性うつ病」と呼び、うつ病でうつ状態になった時は「単極性うつ病」と呼んだりしており、両者は近い疾患だと考えられていました。

このような背景から両者を含めた気分に異常をきたす疾患は「気分障害」というグループでまとめられるようになったのです。

しかし研究が進むにつれ、どうやら双極性障害とうつ病というのは表面上の症状に共通項はあるものの、発症原因としてみると異なる点が多い事が分かってきました。

例えば、双極性障害は遺伝性の影響が強い疾患であるのに対して、うつ病はそこまで遺伝性の強い疾患ではありません。

またうつ病では原因の1つとして「モノアミン仮説」が提唱されており、セロトニン、ノルアドレナリンといったモノアミンに異常が生じていると考えられていますが、双極性障害はモノアミン仮説では説明されません。

むしろ統合失調症の原因の1つと言われている「ドーパミン仮説」が当てはまる部分があり、うつ病よりも統合失調症に病態としては近いのではないかと考えられるようになってきています(もちろん、統合失調症とも全く同じ病態ではありません)。

治療法としては、うつ病に対してはモノアミンを増やす「抗うつ剤」が有効であるのに対して、双極性障害では神経を保護する作用を持つ「気分安定薬」や、ドーパミンをブロックする作用を持つ「抗精神病薬」が有効です。

双極性障害に対して抗うつ剤の有効性は「効果があることもある」というレベルにとどまっており、うつ病と同じように安易に使えるものではありません。

このように同じ「気分に異常をきたす疾患」であっても異なる点が多くある事が分かってくると、うつ病と双極性障害を同じ「気分障害」というカテゴリに入れるのが不自然になってきました。

このような流れから、2014年に発刊されたDSM-5という精神疾患の診断基準では、「気分障害」という分類は削除されました(1つ前のDSM-Ⅳまでは気分障害という分類がされていました)。そして双極性障害とうつ病をそれぞれ独立した分類として扱うようになりました。

多くの精神科医は診断基準としてDSMを使っています。そのためDSM-5の変更に伴い、気分障害という医療用語も自然と使われなくなってきたのです。

5.双極性障害のうつ状態とうつ病は見分けられるのか

同じ気分障害であっても、うつ病と双極性障害は異なる機序で生じている疾患であると考えられています。そして発症機序が異なるため、当然治療法も異なってきます。

うつ状態の患者さんがいた時、その人に「気分障害」と診断するだけでは不十分であり、気分障害の中のどの疾患なのかというところまでしっかりと見極めないと患者さんの苦しみを十分に取ってあげる事はできません。

うつ状態である時に、

  • うつ病で生じているうつ状態なのか
  • 双極性障害で生じているうつ状態なのか

を見極める事は、臨床的には特に重要です。この見極めが必要になるケースは少なくなく、間違えてしまうと治療はうまくいきません。

この両者の見極めは難しく、プロの精神科医であっても最初は見分けられない事もあります。

双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返しますが、経過中の70~80%はうつ状態であるため、うつ状態から発症してしまうと、うつ病のうつ状態とはなかなか見分けがつかないのです。

両者を見分けるのは難しいのですが、双極性障害のうつ状態を疑う根拠として、

  • 中核症状(抑うつ気分、興味と喜びの喪失、疲労感)のいずれかがない(うつ病は全て揃っていることが多い)
  • 過眠・食欲亢進がある(うつ病は不眠・食欲減退が多い)
  • 気分反応性がある(うつ病は落ち込みのみである事が多い)
  • 身体的な訴えが少ない(うつ病は痛み・しびれなど身体的な訴えも多い)
  • 精神病症状(幻覚・妄想など)が多い(うつ病は少ない)
  • 双極性障害の家族歴がある
  • うつ病を何度も繰り返している
  • うつ病の発症が早い(25歳未満)
  • 産後うつ病後の発症

などが認められる場合は、うつ病ではなく双極性障害のうつ状態である可能性が高くなる事が指摘されています。

気分反応性とは非定型うつ病で特徴的な症状で「仕事などストレスが高い事に対しては落ち込みが出現するが、友人との遊びの約束などストレスが低い事に対しては落ち込みは出現しない」というものです。

また治療中、

  • 抗うつ剤によって躁状態に転じやすい(躁転)
  • 抗うつ剤の効きが途中から悪くなる

なども双極性障害を疑う要素になります。

しかしこれらがあるからといって必ずしも双極性障害のうつ状態だと断言できるものではなく、あくまでもこれらの所見があると「双極性障害の可能性がありうる」と言える程度の根拠にしかなりません。

臨床の実感としても、確かにこれに当てはまるケースもありますが、当てはまらないケースも少なくありません。

6.気分障害の治療法は

気分障害はどのように治療するのでしょうか。

気分障害に属する疾患はそれぞれ原因が異なるため治療法が異なり、一概に「このように治療する」という事は出来ません。

そのため、気分障害という枠組みで考えるのではなく、

  • うつ病なのか
  • 双極性障害なのか
  • 気分変調性障害なのか
  • 気分循環性障害なのか

をしっかりと見極める事が大切で、これらのどの疾患なのかによって治療法は大きく異なってきます。

Ⅰ.双極性障害

双極性障害は、「気分の波を抑える」という治療が行われます。

気分の波を抑えるために有用なお薬は、

  • 気分安定薬
  • 抗精神病薬

の2つで、このいずれかが用いられます。

また、場合によってはうつ状態を改善させるために抗うつ剤が用いられる事もありますが、双極性障害の方に抗うつ剤を用いると躁転(躁状態を誘発してしまう)のリスクがあるため、積極的には推奨されていません。

上記のお薬が十分に効かない場合のみ、上記のお薬と併用して慎重に用いる事が許されています。

双極性障害は遺伝性も大きい疾患であり、治療の中心はお薬になります。

Ⅱ.うつ病

うつ病では、モノアミンを増やす作用を持つ「抗うつ剤」が治療に用いられます。

またお薬以外の治療法も重要で、

  • 安静、休養
  • 環境調整
  • 精神療法(カウンセリングなど)

も出来る限り取り入れる事が望まれます。

Ⅲ.気分変調性障害

気分変調性障害は、ざっくりと言えば「長期間持続している軽症のうつ病」といった疾患になります。そのため治療法はうつ病に準じます。

ただし、モノアミンの異常といった脳の異常という側面よりも、ストレスなどによる心理的側面が強いため、安易に抗うつ剤を開始する事は推奨されておらず精神療法(カウンセリングなど)や環境調整などをまずは行う事が推奨されています。

Ⅳ.気分循環性障害

気分変調性障害は、ざっくりと言えば「軽い双極性障害」といった疾患になります。そのため治療法は双極性障害に準じます。

気分の波が軽いため、「性格の問題」と放置されてしまいがちなのですが、放置し続けると双極性障害に移行してしまうケースが少なくないため、気分安定薬等でしっかりと治療をする事が大切です。