頓服としてのデパスの使い方【医師が教える抗不安薬のすべて】

デパスは、抗不安薬に分類されるお薬で、主に不安を和らげる作用(抗不安作用)を持ちます。

強力な抗不安作用に加え、筋肉を緩めて身体をリラックスさせる作用(筋弛緩作用)も持つため用途は広く、また飲んでから比較的すぐに効果を実感できるため、デパスはしばしば頓服としても用いられます。

「頓服」というのは、症状が出た時や出そうな時だけ、ワンポイントで服薬する飲み方です。

ここでは、デパスを頓服で使う際の使用法や注意点などを紹介していきます。

1.頓服とは?

デパスの頓服としての使用法をお話する前に、まずは「頓服」という飲み方についてお話します。

頓服というのは、

「症状が出た時や出そうになった時だけ、ワンポイントでお薬を服薬すること」

です。

例えば、

  • 痛い時だけ、痛み止めの薬を飲む
  • 胃腸の調子が悪い時だけ胃薬を飲む

といった使い方が頓服になります。

症状が出た時だけ飲むので、頓服はあくまでも「その場しのぎ」であり、根本的な治療にはなっていないことがほとんどです。しかし症状があまりに苦しすぎる場合は、たとえその場しのぎであったとしても症状を抑えてあげた方がいいこともあります。

頓服とは、そのような場合に使われるお薬の飲み方なのです。

ちなみに頓服と反対の飲み方は、「定期的にお薬を飲む事」になります。

例えば抗うつ剤などは調子が悪い時だけでなく、調子が良くなってきてからも毎日決まった時間に飲みます。内科でもらう血圧のお薬や糖尿病のお薬も、症状がなくても毎日決まった時間に飲みます。

定期的に服薬する方法は、即効性はない事が多く、一時的な作用としては強くはありません。しかし、一日を通して確実に病気を抑えてくれるというメリットがあります。また、その場しのぎではない、根本的な治療となるものも少なくありません。

定期的に飲むこと、頓服として飲むこと、どちらの飲み方にも一長一短があります。お薬の種類によって、定期的に飲むものもあれば、定期的に飲むものではあるけども頓服としても使えるもの、主に頓服として使用するものなどがあります。

頓服は、症状が出そうな時にサッと使うわけですから、

  • 即効性がある事
  • 効果がある程度強い事

が求められます。

効いてくるまでに何時間もかかるお薬や、効いているんだか効いていないんだか分からない弱いお薬は頓服としては適しません。

実はデパスは、服薬してから効果が最大になるまでには3時間かかると報告されており、必ずしも即効性があると言えるお薬ではありません。しかし効果が強いことから、飲んで数十分もすると抗不安作用・筋弛緩作用を感じられる方もいます。

そのため、デパスは時に頓服としても用いられているのです。

2.頓服としてのデパスの使い方

デパスは抗不安薬ですので、頓服として使うのは「不安が強くなってしまった時」「不安が強くなる事が予測される時」でしょう。

具体的には、

  • パニック障害などの患者さんが、不安発作が出た時に使う
  • 電車などが苦手な人が、電車に乗る前に使う
  • あがり症の人が、人前でのスピーチや発表の時に使う
  • 会食が苦手な人が、会食の前に使う

などの場合があり、これ以外でも、「不安を一時的に軽減させたい」という場合には使用することがあります。

またデパスには筋弛緩作用(筋肉を緩める)、催眠作用(眠くする)もありますので、人によっては

  • 肩こりがひどい時に使う
  • 頭痛がひどい時に使う
  • 眠れない時に使う

などといった使い方をすることもあります。

デパスは、内服してから約3時間で血中濃度が最大になり、その後6時間ほどで半減期を迎え、効果が消えていくと報告されています。

この報告から考えると、効きが最大になるのは約3時間も待たないといけません。しかしデパスは効果が強いため、内服後20-30分ほどで効果を感じ始めることが出来る人もいて、即効性はある程度期待できます。

とは言っても数秒や数分で効くというわけではないので、できれば不安が高まる前に飲んでおく方がいいでしょう。

スピーチや発表、会食の前に予防的に飲むのであれば、ベストはイベントの約3時間前に服薬しておくことですが、最低でもイベントの30分くらい前に服薬しておけば、安定した効果は得られると思われます(個人差はあります)。

頓服として使用する量は人それぞれですが、1回0.5mgでの使用が一般的です。0.5mgだと不十分な場合は1.0mgを使う方も時々いらっしゃいます。反対に0.5mgだと効きすぎるという場合は、0.25mgなど低用量で使っても問題はありません。

1.5mgや3.0mgといった高用量を1回で飲むことが絶対にダメというわけではありませんが推奨はされません。副作用の眠気やふらつきが強く出てしまう可能性がありますし、何よりも高用量の服薬は耐性・依存性が生じるのを早めてしまうからです。多く使えば強くは効きますが、副作用や依存などの害も大きくなることを忘れてはいけません。

使用する量は、必ず主治医とよく相談して決めてください。

3.デパスの頓服で効果が得られない時は

デパスは作用が強力なのが特徴の一つですので、服薬した場合、満足のいく効果が得られる可能性は高いお薬です。しかし、効果が十分に感じられないケースがないわけではありません。

デパスを頓服として使用したが、十分な効果が得られないという場合はどうすればいいでしょうか。

まず思い付くのは増薬だと思います。増薬も選択肢の一つではありますが、安易に増やせば先ほど説明したような耐性・依存性が早く出現するリスクとなりますので、増薬すべきかどうかは主治医とともに慎重に判断すべきでしょう。

デパスが頓服として十分に効かなかった場合、まず考えて欲しいのは、効果発現が遅いのではないかという事です。

デパスは服薬してから効果が最大になるまで3時間かかり、薬物動態的には決して即効性に優れるお薬ではありません。頓服として使われることが多いのは、その即効性が評価されているわけではなく、効果が全体的に強いためです。

そのため、まずは効果不十分の原因を考えてみてください。もし効果発現が遅いために効果が不十分だと感じられているのであれば、デパスの増薬ではなく、即効性に優れる抗不安薬に切り替えてみることも選択肢に挙がります。

例えば、即効性に優れると報告されている抗不安薬には次のようなものがあります。

【リーゼ(クロチアゼパム)】
抗不安作用:弱い
最大血中濃度到達時間:約1時間

【レキソタン(ブロマゼパム)】
抗不安作用:強い
最大血中濃度到達時間:約1時間

【セルシン(ジアゼパム)】
抗不安作用:中等度
最大血中濃度到達時間:約1時間

【ソラナックス(アルプラゾラム)】
抗不安作用:中等度
最大血中濃度到達時間:約2時間

【ワイパックス(ロラゼパム)】
抗不安作用:強い
最大血中濃度到達時間:約2時間

作用の強さや血中濃度の推移は個人差もあるため、これらはあくまでも目安に過ぎませんが、このようにデパス以外にも頓服として使える抗不安薬は何種類かあります。

デパスは良いお薬ですが効果が強力であるため、依存性やふらつきなどの副作用も軽視できないお薬です。効かない場合は、安易に増薬するのではなく、なぜ効かないのかを主治医とともによく見極め、最適な方法と取るようにしてください。

安易な増薬は、依存形成につながり、後々離脱症状などに苦しむことになってしまいます。