デパスは太るのか。作用機序からみた体重増加の可能性【精神科医監修】

デパス(一般名:エチゾラム)はベンゾジアゼピン系抗不安薬の一種で、主に不安を和らげたり、筋肉の緊張をほぐす作用があります。

デパスは抗不安薬の中でもキレがあり効果が強いため、よく処方されているお薬の1つです。

正しく使えば患者様の苦痛を緩和してくれるお薬である一方で、不適正な使用をしてしまうと副作用で苦しむ可能性もあります。

副作用の相談の中には、「デパスの服用を始めてから太ってしまった」というものもあります。ではデパスで体重増加は生じるのでしょうか。

ここではデパスの副作用のうち、体重増加が生じるのかを考えていきたいと思います。

1.デパスを服用すると太るのか

まず、デパスは太るお薬なのでしょうか。

結論から言うと、デパスの服用で体重が増えるという事はほぼありません。

デパスの作用機序をみても体重を増やす機序はほとんどありません。

デパスはベンゾジアゼピン系という種類に属します。ベンゾジアゼピン系は、脳の神経に存在するGABA-A受容体という部位に結合して、そのはたらきを増強する作用があります。GABA-A受容体は「抑制系受容体」と呼ばれており、刺激されると脳神経のはたらきを抑えるため、ベンゾジアゼピン系は脳のはたらきをリラックスさせる作用があります。

興奮している脳のはたらきが穏やかになるため、ベンゾジアゼピン系は、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
  • 催眠作用(眠りを導く)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

といった作用が期待できます。

基本的にどのベンゾジアゼピン系も、この4つの作用を全て有しています。ただし、それぞれの作用の強さはお薬によって違いがあり、抗不安作用は強いけど、抗けいれん作用は弱いベンゾジアゼピン系もあれば、抗不安作用は弱いけど、催眠作用が強いベンゾジアゼピン系もあります。

ちなみにデパスはというと、

  • 強い抗不安作用
  • 強い筋弛緩作用
  • 中等度の催眠作用
  • 弱い抗けいれん作用

を持っています。

このようにデパスをはじめとしたベンゾジアゼピン系は主に抑制系神経に作用するだけであって、食欲や代謝(脂質の分解など)に作用するわけではありません。

そのためデパスの服用によって太る事は基本的にはないと考えてよいでしょう。

2.でもデパスを服用してから太ったんですが・・・

薬理学的に見れば、デパスで太る事はありません。

しかし「そうは言っても、デパスを飲み始めてから体重が増えているんです」という訴えを聞く事もあります。それはどう考えればいいのでしょうか。

臨床経験からすると、次のような可能性が考えられます。

Ⅰ.精神状態が原因で太った

精神科・心療内科領域ではデパスは、不安が強かったり眠れなくて苦しんでいるような患者さんに処方されます。

このように、デパスを処方される患者さんというのは、精神的に不安定な状態にあることがほとんどです。不安定だからこそ、デパスのようなお薬が処方されるわけです。

このような状況にある方というのは、その精神状態が体重増加の一因になっている事が珍しくありません。

精神エネルギーが低下しており、意欲低下・無気力などが生じていれば活動量が減ります。活発に行動する事はできなくなりますし、横になる時間が多くなるでしょう。

例えば、うつで気力が低下して一日中寝たきり状態であれば、全然動かないためカロリー消費量が少なくなり、皮下脂肪や内臓脂肪などが増えやすくなるでしょう。

またストレスで過食行為が多くなれば、これも太る要因になりえます。

デパスを服用しているだけでなく、このような症状も認めている場合は、安易に「デパスのせいで太った」と決めつけないようしなければいけません。

このような原因で太っている場合、その対処法は当然デパスを減量・中止する事ではありません。生活習慣の改善・精神状態の改善が適正な対処法となります。

Ⅱ.他のお薬が原因で太った

デパスを服用している時に、その他の向精神薬(精神の作用するお薬)も服用している事があります。

デパスは原則として太らないお薬ですが、向精神薬の中には体重増加の副作用が生じうるものもあります。

そのようなお薬の服用もしている場合、もしかしたらそちらのお薬が原因なのかもしれません。

例えば体重増加が生じやすい向精神薬には、

  • 抗うつ剤
  • 抗精神病薬

などがあります。

抗うつ剤はうつ病や不安障害の治療に用いられるお薬で、主に神経間のモノアミン(セロトニンやノルアドレナリンなどの物質)を増やす作用があります。

抗うつ剤にも様々な種類がありますが、代表的なお薬のうち体重増加が生じうるものとしては、

  • トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)
  • トフラニール(一般名:イミプラミン)
  • アナフラニール(一般名:クロミプラミン)
  • アモキサン(一般名:アモキサピン)
  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)
  • パキシル(一般名:パロキセチン)
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

などが挙げられます。

また抗精神病薬は統合失調症や双極性障害の治療に用いられるお薬で、主に神経間のドーパミンの分泌を抑える作用があります。

こちらも代表的なお薬のうち体重増加が生じうるものとしては、

  • コントミン(一般名:クロルプロマジン)
  • セロクエル(一般名:クエチアピン)
  • ジプレキサ(一般名:オランザピン)
  • リスパダール(一般名:リスペリドン)
  • ロナセン(一般名:ブロナンセリン)

などが挙げられます。

このようなお薬を併用している場合、そちらの方が原因である可能性は高いでしょう。

その場合はデパスを減量・中止するのではなく、原因となっているお薬を減量・中止できないかを検討するのが正しい対処法となります。

またここで挙げたお薬以外にも体重増加をきたすお薬はいくつもあるため、自分が服用しているお薬で太る可能性があるものはないか、主治医とよく相談してみる事が大切です。

Ⅲ.デパスの脱抑制で過食してしまっている

デパスをはじめとしたベンゾジアゼピン系は、服用によって「脱抑制」という状態が生じる事が稀にあります。

脱抑制というのはベンゾジアゼピン系によって理性が抑えられて本能だけが残ってしまい、本能的に行動してしまう状態です。たいていの場合で衝動的・攻撃的になります。

お酒で悪酔いしてしまっている状態をイメージすると分かりやすいかもしれません。アルコールも理性を抑えてしまう作用がありますので、たくさん飲むと理性が効かずに本能的な行動をしてしまいやすくなりますが、基本的にはそれと同じです。

脱抑制は高用量のベンゾジアゼピン系の投与で生じる事が多く、適正量で生じる事は少ないのですが、脱抑制が生じると衝動的に過食をしてしまう可能性もあります。更に理性が抑えられているため自分でもそれをあまり覚えていない事があり、これによって体重増加が生じる事も考えられないわけではありません。

デパスの脱抑制が原因で太ってしまっている場合は、デパスが強く効きすぎていると考えられるため、デパスの量を適正に再調整する必要があります。

4.太ったからと安易にデパスを中止するのは危険

デパスを服用していて体重が増えてくると、私たちはつい「デパスを服用してから太った」と考えてしまいがちです。しかし原則としてデパスで体重増加は生じませんので、慌ててデパスを中止してしまうのではなく、「これは本当にデパスのせいなのか」と冷静な視点を持ってみる事が大切です。

その体重増加は本当にデパスのせいなのか。安易に決めつけず、必ず自分の状態を見直してみるようにしましょう。

うつ病で活動性が低下しており、元気なころと比べて運動量が激減しているのであれば、それが原因で太っているのかもしれません。ストレスで過食傾向にあるのであれば、それが理由かもしれません。

このような状態で、「太るのはデパスのせいだ。もう飲むのをやめよう」と判断してしまうとどうなるでしょうか。中止によって精神状態がより悪化してしまい、より活動性低下や過食がひどくなり、体重増加は更に悪化していく危もがあります。

安易に判断せず、体重増加にデパス以外の原因がないかをしっかりと確認しましょう。

自分で判断できない場合は、一緒に住んでいる家族や主治医にも相談してみる事も有用です。自己判断での服薬中断は大変危険ですので、絶対にしてはいけません。