集合体恐怖症|ブツブツが怖いのはどうして?医師直伝の原因と克服法

4.集合体恐怖症はどのように克服すればいいのか?

集合体恐怖症というのは、どのように克服すればいいのでしょうか。

集合体恐怖症を克服したいと考えた時、まず覚えておいて欲しいのが「集合体を怖いと感じるのは異常」だと考えてはいけないという事です。

前項で説明したように、私たちは元々集合体に対して多少の恐怖を感じるような本能を持っています。そのため、集合体に対してある程度「怖いな」と感じるのは普通の事なのです。

集合体恐怖症の治療を行う際は、「集合体に全く恐怖を感じないようにしなければ」と考えてはいけません。本来多少の恐怖を感じるものに対して全く恐怖を感じないようになるのは困難ですし、このような本能に反した治療目標ではまず失敗します。

集合体を怖いと思うのは正常なのです。ただ、今は「怖い」という程度が強まりすぎてしまっているため、その程度を正常範囲に弱めてあげればいいんだ、という考え方で克服に望むのが正解です。

そしてもう1つ、確認してほしい事があります。

最近は集合体恐怖症という概念も少しずつ知られるようになってきたため、多くの方が「自分も集合体恐怖症ではないか」と心配されて精神科を受診されます。

しかし先ほども説明したように、集合体恐怖症というのは、

  • 集合体に対して過剰な恐怖を感じていて
  • 更にそれによって日常生活に大きな支障が生じている

場合に診断され、治療の必要が出てくるものです。

集合体に多少の恐怖を感じていても、日常生活にそこまで大きな支障が生じていないのであれば、それは集合体恐怖症とは言えず、正常内の恐怖だと言ってよいでしょう。このような場合は無理に治療を行う必要はありません。

集合体に恐怖を感じるのは異常だと誤解されがちですが、集合体にはある程度の恐怖を感じるのが普通なのです。生活に大きな支障が生じていなければ、それは正常内の反応と考えるべきで、治療をすべきではないでしょう。

では集合体に過剰な恐怖を感じていて、更にそれによって日常生活に大きな支障が生じている場合は、どのような治療があるのでしょうか。

集合体恐怖症に限らず、恐怖症を治すためには2つの方向からのアプローチが重要です。

重要なことは、この2つのアプローチというのはどちらか好きな方を選べば良いというわけではなく、どちらも並行して行っていく必要があるという事です。多くの方が恐怖症の治療を失敗してしまうのはこの事を理解していないからです。片方の治療法だけで完結しようとしてしまうため、うまく行かなくなってしまうのです。

集合体恐怖症は、何らかの原因により集合体に対しての過剰な恐怖が植え付けられてしまい、それが持続していることで生活に支障を来たしています。

これは、

  • 集合体を「怖い」と過剰に感じてしまう認知を修正する(考え方を治す)
  • 実際に集合体に慣れていく(行動で治す)

の2つのアプローチで克服しなければいけません。

考え方と行動、2つの面から治療を行わなければ恐怖症の克服は出来ません。これはよく考えれば当たり前のことです。

いくら「別に集合体ってそこまで怖いものではないよね」と考えだけを変えようとしても、それが机上の空論でしかなければ、その考えは深くは理解されません。考え方だけを変えても実体験が伴わなければ、私たちの脳は深いレベルでの理解はしてくれないのです。

そのため考え方を変えた上で、実際にそれを「体験する」という行動は必ず必要になります。

また反対に、行動だけを頑張るというのも危険です。「あえて集合体に自分を晒してひたすら慣れていく」という方法だけでは、一時的には集合体恐怖は治るかもしれませんが、根本の「集合体は非常に怖いものなのだ」という認知の歪みが治されていないため、すぐに再発してしまいます。

そのため、集合体に対する正しい考え方を修正しながら、同時に行動でも慣れていく。この2つを必ず併用する事が理想的な克服法になります。

それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。

Ⅰ.考え方を治す

集合体恐怖症が生じている原因の1つは「集合体」に対して必要以上に「怖い」と考えてしまっていることです。これを正常範囲内の「怖い」に下げることが出来ればいいのです。

先ほどから何度もお話しているように、誰だって集合体にはある程度の恐怖を感じるものなのです。そのため集合体に対しての恐怖をゼロにする必要はありません。「生活に支障がない程度の恐怖」にまで下げる事を目標にしましょう。

集合体恐怖症の方は、「集合体」に対しての認知(ものごとのとらえ方)が歪んでしまっています。

集合体は確かに「怖い」「気持ち悪い」と感じるようなものもありますが、本来は自分に害を与えたり、過度な恐怖を感じるものではありません。

この集合体に対する「認知のゆがみ」を修正していきましょう。

これは基本的には「認知行動療法」とう治療法の考え方になり、カウンセリングの形式で認知の修正を図っていくことが理想です。独学で行うのは難しく、出来れば精神科医や経験豊富な臨床心理士(カウンセラー)とともに行っていくのが良いでしょう。

ただし認知の修正だけを行ってもまずうまく行きません。学習という形式で認知の修正だけをしようとしても、実体験が伴わなければ、深いレベルでの理解は出来ないからです。

そのため、次項の「慣れていく」という治療法も並行していく必要があります。

Ⅱ.集合体に慣れていく

実際に集合体に少しずつ慣れてみるという作業も、集合体恐怖症を克服するためには必要です。

恐怖を感じるものに敢えて挑戦するのを「暴露療法」と呼びますが、集合体恐怖症の治療に対しても暴露療法は有用になります。

ただし、暴露療法は「どの程度の恐怖に暴露させるか」という判断が非常に難しいため、これもできれば独自に行うのではなく精神科医などの専門家とともに行うことが理想です。

ポイントは「自分がギリギリ耐えられる程度の恐怖に暴露していく」というのが理想で、今の自分がギリギリ耐えられる程度がどれくらいかを見極めることが非常に重要です。

暴露療法は、恐怖に少しずつ触れて慣れていくという治療法になり、最初は弱い恐怖から慣れていき、成功したらより強い恐怖に挑戦するという流れになり、必ず段階的にやっていく必要があります。いきなり自分の限界以上の恐怖に暴露させてしまうと、恐怖がかえって強まってしまう可能性があるためです。

そのため、まずは自分が怖いと思う状況を思いつく限りすべてリストアップし、それぞれどのくらい恐怖を感じるのかを10段階で表してみることから始めます。例えば、

・イチゴのブツブツ 恐怖の強さ2
・カエルの卵  恐怖の強さ6
・水玉模様の服 恐怖の強さ3

などといった感じです。このような表は「不安階層表」と呼びます。

不安階層表を作ったら、恐怖の低いものから1つずつ克服していきます。小さな成功を積み重ね、成功体験を積んでいくことが大切です。かんたんなものから少しずつ克服していくことで自信がつき、恐怖が和らいでいくからです。今の例でいえば、「じゃあまずはイチゴのブツブツを見る事から挑戦していこう」とチャレンジすればいいのです。

時間も最初は短い時間でも構いません。イチゴの画像を数秒見るだけでも十分でしょう。

またそれでもつらいようであれば、「恐怖を和らげる要素」を加えたうえで挑戦するという方法もあります。例えば、抗不安薬などのお薬を飲んで恐怖を和らげてから参加しても良いでしょう。親や親友・恋人など自分にとって安心できるような人に傍にいてもらって挑戦しても良いでしょう。

それで慣れていけば、「次は抗不安薬なしで挑戦してみよう」「次は一人で挑戦してみよう」とまた一段階負荷を上げていけばいいのです。

暴露療法の成功の鍵は、段階を多く作り、少しずつ少しずつ達成して自信をつけていくことです。協力者やお薬の力を上手に使い、段階を細分化することが出来ると、暴露療法の成功率は高まります。

協力者というのは「一緒に居て安心できる人」であることが絶対条件です。これは通常家族や恋人、親友などになります。また抗不安薬の処方は医師しかできないため、やはり暴露療法は精神科医と連携しながら行うことをお勧めいたします。

Ⅲ.失敗することもある

治療を行う際、直線状にきれいに治っていくことはまずありません。

良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に徐々に底上げされて治っていくような経過が普通です。

恐怖症の方は、非常に長い期間苦しんできた事がほとんどです。短くても数年、長い場合は数十年以上、集合体恐怖症を抱えながら生きてきた方もいらっしゃいます。このように長い期間苦しんできたのですから、いくら最適な治療をはじめたといっても短期間でキレイに治るものではありません。

治療の経過中には悪化してしまったり、失敗してしまうこともあります。しかしそれであきらめないでください。

失敗や悪化を経て、その中で少しずつ少しずつ治っていくというのが恐怖症の治り方です。

失敗してしまったり悪化を経験すると、「これはきっと治らないのだ・・・」と絶望的になってしまう方が多いのですが、そうではなく、「経過中に失敗することもある。みんなそうやって少しずつ治っていくのだ」と考えるようにしてください。

Ⅳ.補助的にお薬を使うことも

恐怖の程度が強い場合は、補助的に不安や恐怖を和らげるお薬を併用することもあります。

良く用いられるのが先ほども紹介した「抗不安薬」です。抗不安薬は、即効性もあるため暴露療法で暴露する前に服薬することでも効果が得られ、使い勝手の良い治療薬になります。しかし一方で慢性的に使用を続けると依存が生じることもあります。

長期的に不安・恐怖を抑えたい場合は「抗うつ剤」が用いられることもあります。不安や恐怖はセロトニンと深く関係していると考えられているため、抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるものが使われます。

抗うつ剤は飲んですぐに効果が出るものではありません。服薬して早くても1週間、通常は2~4週間ほどかかります。しかし依存性はありませんので、長期的に不安を抑えたい場合に適しています。

お薬は集合体恐怖症の治療を助けてくれる有効な方法の1つです。しかしあくまでもお薬で症状を抑えているだけであるため、お薬だけで治療がうまくいくことはありません。お薬の力を借りながらも「考え方を修正する」「暴露して慣れていく」という克服法を行っていく事が大切です。