対人恐怖症の診断とセルフチェック方法

対人恐怖症は、他者からの注目を過剰に意識してしまい、強い恐怖を感じる疾患です。

「相手を不快にしているのではないか」「他者に迷惑をかけているのではないか」という恐怖も沸き、そこから「自分が異臭を発して人に迷惑をかけている」「自分が醜いから人を不快にしている」と妄想的に自分の身体的欠点の確信に至ってしまうこともあります。

対人恐怖症は、現在では「社交不安障害」とおおよそ同様の病態として考えられるようになっています。「全く同一の疾患ではないとする意見」もありますが、共通点も多いため現時点では対人恐怖症は社交不安障害の診断を満たすことで、その診断がなされるというのが一般的です。

その診断は精神科医の診察によってなされるため、患者さんが自分で自分が病気かどうかを診断をすることは出来ません。

しかし、「自分は対人恐怖症ではないか」と悩んでいても、いきなり精神科を受診するのには抵抗を感じることが普通でしょう。精神科を受診する前に、まずは「対人恐怖症の可能性があるのかをまずは知りたい」と考えている方もいらっしゃると思います。

今日は対人恐怖症(社交不安障害)の診断がどのように行われるのか、そしてセルフチェックをする際に有効な方法について紹介します。

1.対人恐怖症(社交不安障害)の診断はどのように行われるのか

対人恐怖症(社交不安障害)の診断は、精神科医の診察によって行われます。

では精神科医はどのように診断を行っているのでしょうか。簡単にではありますが、どのような手順で診察がなされているのかを紹介します。

Ⅰ.診察所見から

対人恐怖症に限らず、精神疾患の診察において一番重要なのは診察所見です。精神疾患の症状はこころの症状が主であり、目に見えるものではありません。血液検査や画像検査などでは分からないため、専門家である精神科医が入念に診察を行い診断をする必要があります。

診察においては、本人が一番困っている症状(主訴)や、今までの経過(現病歴)、患者さんの性格や環境、精神疾患の家族歴、既往歴や服薬歴などを入念に聴取していきます。

Ⅱ.診断基準との照らし合わせ

疾患には診断基準というものがあります。

精神疾患においては、アメリカ精神医学会(APA)が発刊しているDSM-5という診断基準と、世界保健機構(WHO)が発刊しているICD-10という診断基準の2つが有名で、日本でもこの2つが主に用いられています。

これらの診断基準の診断項目と、診察で得た所見を照らし合わせて、社交不安障害の診断基準を満たすかどうかを判定します。対人恐怖症においても、社交不安障害の診断基準を用いることで判定をします。

Ⅲ.補助的に心理検査を行う

心理検査は、その結果から直接診断を下せるものではありませんが、診断の補助的な役割を果たしてくれます。

対人恐怖症に特化した心理検査は少ないため、社会不安障害を検出する心理検査などを併用しながら診断を行うこともあります。具体的には次のような心理検査が用いられます。

A.社交不安・対人恐怖評価尺度(SATS)

SATSは、社交不安障害のみならず、対人恐怖症の診断も考慮されて作成された心理検査になります。

項目は大きく分けて

・恐怖感/不安感
・回避行動
・認知症状

の3項目があり、それぞれ更に4~5つの質問があります。評価は0~4の5段階で行われます。

B.LSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)

LSASは、社交不安障害の代表的な心理検査になります。24の質問について、不安感/恐怖感と回避についてそれぞれ0~3の4段階で評価します。過去1週間の症状について解答するため、病気の診断の時以外にも、治療経過の評価にも使用することが出来ます。

社交不安障害の診断に適していますが、対人恐怖症の特徴的な症状である

・自分が異臭を放っているのではないか
・自分が醜い顔をしていて、人を不快にしているのではないか

など、自分の身体に対する妄想的な症状に対しては焦点を当てていないため、それらの症状の検出には不十分である可能性はあります。

わが国では日本語訳されたLSAS-Jがよく用いられています。

LSAS-Jは当サイトでも行うことができます

C.STAI

STAIは対人恐怖症に特化した心理検査ではありませんが、不安の強さを見るのに優れた検査です。

状態不安(今この瞬間の不安の強さ)と、特性不安(普段のいつもの自分の不安の強さ)を検出します。マークシート式で質問に対してそれぞれ4つの選択肢の中から一番自分の状態に当てはまるものを選びます。所要時間は10~15分ほどかかります。

80点満点で、高いほど不安が強いことを表します。

2.対人恐怖症(社交不安障害)の診断基準

対人恐怖症の診断は、

・診察所見
・診断基準との照らし合わせ
・心理検査(補助的)

という、3つの手順で行われることを紹介しました。

セルフチェックする場合を考えると、精神科医の診察所見は受診をしないと得ることができませんので、

・自分で診断基準に照らし合わせてみる
・自分で心理検査を行ってみる

がセルフチェックで出来ることになります。

もちろん、セルフチェックは医師の診察とは異なるため、診断を下せる精度を持つものではありません。しかしセルフチェックの結果、対人恐怖症が強く疑われた場合は精神科や心療内科を早めに受診して相談をすることをお勧めします。

対人恐怖症に対して広く用いられている診断基準はないため、診断基準は社交不安障害の診断基準を用いるのが一般的です。

対人恐怖症は1930年頃より日本で報告が多い事が注目され、日本での調査・研究が行われてきた疾患ですが、当時の日本の精神医療は操作的診断(診断基準に照らし合わせて診断する)ではなく、伝統的診断(精神科医の診察所見から診察する)という方法が主であったため、確立された診断基準というももが少なかったのです。

社交不安障害の診断基準では、対人恐怖症に時折認められる、自分の身体に対しての妄想的な確信(異臭と放っている、醜い顔をしている、など)は診断基準に入ってはいけませんが、その他の所見はおおむね共通しているため、ある程度の精度で対人恐怖症を診断できます。

診断基準にはDSM-5とICD-10があることをお話しましたが、どちらも大きな違いがあるわけではありません。そのためここでは両方紹介するのではなく、DSM-5の社会不安障害の診断基準を紹介したいと思います。

なお、診断基準は難しい用語で書かれており、分かりにくいため後ほど改めて分かりやすく紹介します。

【社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)の診断基準(DSM-5)】

A.他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヶ月以上続く

G.その恐怖、不安、または回避は臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている

H.その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

I.その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない

J.他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である

*小児の場合の診断項目は省略しています

3.診断基準から対人恐怖症(社交不安障害)をセルフチェック

それでは診断基準から対人恐怖症(社交不安障害)をセルフチェックしてみましょう。これらを全て満たす場合、診断基準的には社交不安障害の診断となります。

Ⅰ.他人から注目される状況で、恐怖・緊張が過剰である

A.他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。

人前に出たり、人と話したり、人と食事をしたりするだけで、過剰に恐怖や緊張が出現する場合、該当します。

Ⅱ.恐怖の背景には他人から悪く思われるのでは、という気持ちがある

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)

人前で過剰に緊張したり、恐怖を感じたりする背景に、「この人から悪く思われたらどうしよう」「人前で恥ずかしい思いをしたらどうしよう」という感情がある場合は該当します。

Ⅲ.他人から注目される状況で、常に恐怖・緊張が過剰となる

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する

人前に出たときに、常に過剰な緊張・恐怖がある場合は該当します。日によって出たり出なかったりという場合は該当しません。

Ⅳ.他人から注目される状況を避けるようになる

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる

他者から注目を浴びる状況が、非常に強い苦痛を感じるため、次第にそういった状況を避けるようになっている場合、該当します。また、どうしても避けられない場合は、非常に強い恐怖・苦痛を感じながらその状況を耐えている場合に該当します。

Ⅴ.その状況で生じる恐怖として、明らかに過剰である

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない

例えば、人前で発表するとなれば、誰でも多少は緊張します。しかし正常であれば、それは激しい恐怖というほどではないはずで、激しい恐怖であるならばそれは一般的な感覚と比較して明らかに過剰です。

生じている恐怖が、一般的な感覚と比較して明らかに過剰である場合に該当します。

Ⅵ.症状は6ヶ月以上続いている

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヶ月以上続く

何かストレスを受けて、一時的にのみ恐怖に対して過敏になっているのであれば、それは病気とは言えません。症状が6ヶ月以上続いているときに該当します。

Ⅶ.その症状で困っている、支障をきたしている

G.その恐怖、不安、または回避は臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている

これらの症状があることによって、本人が困っている・苦しんでいる、あるいは生活への支障が出現している場合に該当します。逆に言えば、症状はあっても、本人がそこまで困っていなかったり、生活が普通に送れている場合は該当しません。

Ⅷ.他の病気が原因で生じているものではない

H.その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

I.その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない

J.他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である

これは医師の診察を受けないと判断が難しい項目ですが、対人恐怖症(社交不安障害)以外の病気の症状によってこれらの症状が生じているわけではない、というのを確認する必要があります。他の疾患によってこれらの症状が生じているのであれば、それは社交不安障害ではなく、別の疾患になります。

以上を全て満たした場合、社交不安障害の診断基準を満たすことになります。

4.心理検査から対人恐怖症(社交不安障害)をセルフチェックする

心理検査からも対人恐怖症(社会不安障害)をセルフチェックすることはできます。

対人恐怖症で用いられる代表的な心理検査を紹介しましたが、そのうちの1つである、LSAS-Jは当サイトでも行うことが出来ます。

LSAS-J|心理検査で社会不安障害をセルフチェックしてみよう