ストレス耐性を上げるために知っておきたいストレスの4つの性質

全ての人にとってストレスは避けられないものです。特に仕事などの責任が発生する状況では、ストレスは必ずと言って良いほど生じます。

もちろんストレスはいつでも悪者だというわけではありません。適度なストレスは、私たちの生活にメリハリを与えてくれます。適度なストレスがあったことで集中力や作業スピードが高まったなど、良い効果が得られることもあります。

一方で強いストレスや長期間続くストレスは、私たちの心身を傷付ける害となります。

ストレスで身体やこころを壊さないためにはストレスの性質を知っておくことが大切です。「ストレス耐性」という言葉がありますが、実はストレスに耐える力は皆大して差はありません。しかしストレスの性質を知っている人は、ストレスを上手に対処する力に優れるため、ストレスに押し潰されにくくなります。

つまりストレス耐性というのはストレスに耐える力ではなく、ストレスの性質を知っておりストレスを上手に処理できる力だという事が出来ます。

ストレスというのは目に見えないものですので、その性質というのはあまり理解されていません。しかし実はストレスにはいくつかの特徴的な性質があります。その性質を知っているとそれだけでもストレスへの正しい対処法が見え、ストレス耐性を上げることができます。

今日はストレスの性質を知り、ストレス耐性を上げるために意識すべき事を考えていきたいと思います。

1.溜め込めるストレスの量は決まっている

まず知って頂きたい事として、人が溜め込めるストレスの量は決まっているという事です。

溜め込められるストレスの量には上限があり、無限に溜め込むことなどは出来ません。限界値以上のストレスを無理矢理溜め込もうとすれば、必ず心身は壊れてしまいます。

ちなみに溜め込めるストレスの限界値というのは人によって多少異なりますが、皆そう大きくは変わりません。どんなに精神的に強そうに見える人であってもストレスを極端に多く溜め込めるわけではありませんし、ましてや無限に溜め込むことなどは絶対に不可能です。

精神科医をしていると、ストレスを溜め込みすぎた方を診る機会が多くありますが、この「ストレスを溜め込める量には限界がある」という事ははっきりと分かります。世の中には「ストレスに強い人」がいますが、そういう人はストレスを溜め込む限界値が高いわけではなく、ストレスを上手に対処する能力に優れているのです。

「ストレスは無限に溜め込めるものではない」と聞いても、多くの方は「そんな事すでに知ってるよ」と思うかもしれません。しかし誰もが理解している事のはずなのに、現実をみれば限界値以上のストレスを溜め込んで心身を壊してしまう人は後を絶ちません。

何故でしょうか。

知識としては「ストレスは無限には溜め込めない」と理解していたとしても、いざ自分自身のこととなると客観的に判断できず「まだ大丈夫じゃないか」「我慢すればまだ耐えられるはず」と考えてしまい、それが続くといつしかストレスは無限に溜め込めるものだと錯覚してしまうからです。ストレスは目に見えるものではないため、このような錯覚が生じやすい傾向があります。

ストレス耐性を高めるためにまず大切な考え方は、「ストレスは無限に溜め込めるわけではない」という事実をしっかりと認識する事です。

ストレス耐性の低い方というのは、「根性で耐えよう」「ストレスに負けちゃダメだ」と考えてしまいます。これに一見するとストレス耐性が高そうな考え方に見えますが、「無限に溜め込めるものではない」というストレスの性質を考えれば見当違いの考え方なのは明らかです。ストレスの性質を理解していない考え方であるため、このような考え方だとストレス耐性が低くなってしまいます。

では次に、「ストレスは無限に溜め込めるわけではない」という性質を理解したとして、それをどのように日常や仕事に生かしていけばいいでしょうか。

それは自分の中に溜まっているストレス量が限界値まで至らないよう、注意を払うことです。ストレスが限界値に近くなってくると私たちの身体は「このままだと危険だよ」というサインを必ず出します。そのサインを見逃さないようにすることが大切です。

ストレスが高い状態が続くと、ストレスホルモンの分泌が高まり、自律神経系の乱れが生じるため、必ず様々な症状が心身に現れます。どのような症状が出るのかは個人差もあるので一概には言えませんが、

  • 動悸がする
  • 息が深く吸えなくなる
  • 不安やイライラが強まる
  • 些細な事で怒りっぽくなる
  • 眠れなくなる
  • お酒の量が多くなる
  • 物に当たるようになる

など、今までの自分にはなかったような徴候が必ず出現します。

このようないつもと違う傾向が現れた時、「たまたまだろう」と目をつぶるのではなく、「ストレス量が限界値に近づいているから、このような変化が生じているのではないか」という視点を持つようにして下さい。

ストレスからこころの病気を発症してしまう方の多くは、このような身体のサインを無視し続けた結果、発症してしまっています。しかしそのような方のお話を聞くと、このような身体のサインに決して気付いていなかったわけではないことが分かります。

ストレスを耐え続けてきた患者さんのお話を聞くと、このような症状が現れた時、ほとんどの方は「これはストレスが溜まりすぎているのかもしれない」と本当は薄々は気付いているのです。しかし、「こんな事で弱音を吐いてはいけない」「疲れたなんていったら周りの人に迷惑をかけてしまう」という気持ちから、気付きかけていた感情に蓋をしてしまい、努力や根性で乗り切ろうとしてしまうのです。

これは一見すると我慢強く立派な行為に見えますが、ストレスの性質から考えると正しい対処法とは言えません。ストレスが限界値にまで達している状況を努力や根性で解決しようとするのは、状況を余計に悪くしてしまうだけで、全く見当違いの解決方法なのです。

「ストレスが溜まりすぎているのかもしれない」と気付いたら、それを無視してはいけません。せっかく気付いた自分の心を欺かないでください。その事実にしっかりと目を向け、ストレスを減らすための行動を取れないかを考えるようにしましょう。

例えば仕事量がストレスなのであれば、少しでも量を減らせないかどうか考えてみましょう。そのためには上司や同僚に相談してもいいでしょう。仕事量を極端に減らすことを目指すのではなく、少し減らすだけでもストレス軽減になりますので「仕事量を減らしてもらうなんて無理だ」と諦めず、少しでも改善できる道がないかと自分のために考えてみてください。

あるいはストレスを発散する機会がないことが原因なのであれば、忙しくても時間を作ってストレスを解消できるような行動を取り入れましょう。面倒に感じるかもしれませんが、それも自分のためなのだという事を忘れてはいけません。

2.溜め込んだままのストレスはどんどん膨らんでいく

ストレスは、「身体の中に溜めておくと、勝手にどんどん膨らんでしまう」という性質もあります。

これはストレスの非常にやっかいな性質の1つです。

先ほど溜め込めるストレス量には限界値があるとお話ししましたが、例え今のストレス量が限界値に達していなかったとしても、そのストレスをずっとそのまま溜め込んでいると、ストレスは少しずつ少しずつ大きくなっていってしまうのです。

なぜストレスが勝手に肥大していくのかというと、「ストレスが溜まっていることがストレスになるから」です。

ストレスというのは、元々私たちにとって不快な刺激です。不快なものを身体の中に溜め込んでいるわけですから、「ストレスを溜め込んでいる」という現状自体がストレスになってしまっているのです。

ストレスは目に見えないため、放置しておいたら自然と消えていくのではないかと考える方がいますが、これは非常に危険な誤解です。放置したストレスは消えるどころかどんどん大きくなっていき、時間が経てば経つほど身体の芯にまで染み込んで消えにくくなっていくのです。

とあるストレスに長期間耐えていると、やっとそのストレスから離れることが出来ても、なぜかストレスがいつまでも軽減されないという事があります。場合によっては、原因が解決されたはずなのに、数年以上もストレスを引きずってしまうことも珍しくありません。これは溜め込んだストレスがどんどん大きくなってしまい、身体の奥深くまで染み込んでしまったためです。こうなってしまうとこのストレスから解放されるのには長い年月と大きな努力が必要になってしまいます。

このようにストレスは溜め込んでおくと勝手にどんどん肥大していくという性質があるのです。

では、この「身体の中に溜めておくと、勝手にどんどん膨らんでしまう」というストレスの性質を知ったら、どのように日常や仕事中に生かしていけばいいでしょうか。

これは余計なストレスの肥大を防ぐためには、ストレスを溜め込む期間をなるべく短期間に留めること大切だという事になります。もっと具体的に言えばストレス耐性を上げるためには、定期的にストレス解消を行わないといけないという事です。

理想的にはその日にあったストレスは、その日のうちに発散・解消できると良いでしょう。例えば、その日のうちに家族や友人などにストレスとなった出来事の話を聞いてもらうなどの方法は有効でしょう。辛い気持ちを言葉として吐き出すだけでもストレスは解消されるものです。また毎日適度な運動で身体を動かしたり、自分が楽しめる趣味の時間を取るなどといった方法も有効です。

しかし毎日忙しいと、なかなか毎日はこのような時間を作るのは難しいかもしれません。

そのような場合でも、最低でも週に1回ほどはストレス解消の時間を意識的に取るようにしましょう。忙しい中時間を作るのは大変かもしれませんが、定期的にストレスを発散・解消させるような生活リズムを作っておくことは、ストレスの余計な肥大を防ぐために大切なことになります。

3.自分でコントロールできるとストレスは小さくなる

ストレスは自分がコントロールできないものに対して強く感じられる傾向があります。

それは私たちは自分で制御できない事に対しては不安を感じるからです。不安は代表的な不快な刺激であり、大きなストレスの原因となります。

例えば、同じ程度の労力を要する作業であっても、その作業が今の自分の能力では出来ないものであれば、私たちはその作業に対して大きいストレスを感じます。その作業をするというストレスだけでなく、そこに「自分に本当に出来るのだろうか」という不安が重なるからです。

反対にその作業が自分の能力で十分達成できてしまう内容であれば、ストレスは小さくなります。「自分でやれる」という作業内容が自分の制御下に置かれることで安心を得られるため、ストレスを感じにくくなるからです。

つまり、ストレスを軽減するためには、自分がコントロールできる程度が多ければ多いほど良い事が分かります。

とは言っても仕事である以上、「自分が出来る仕事だけを下さい」というわけにはいかないでしょう。しかし、なるべくそれに近い状況になるように工夫をしてみるという事は意味のあることでしょう。

例えば、

  • 自分の得意分野を発揮できる部署への異動を希望する
  • 出来ないところは一人で悩むのではなく、誰かにやり方を聞く
  • 初めての内容の仕事の時は必ず予習をする

このように少しでも作業のコントロールできる割合を増やしていけば、それだけストレスは小さくなります。

日常で特に有用なのは、ストレスを感じている内容に関して出来る限り予習をするという事です。例えばある仕事を任されて、それがストレスだったとします。この時、「出来なかったらどうしよう・・・」「自分に出来るのだろうか・・・」とただ不安になっているだけよりも、「少しでも出来るようにしておこう」と地道に予習をしていた方が実はストレスは小さくなるのです。

4.原因が解決されていなくても安心を得られるとストレスは軽減される

ストレスというのは大抵、原因があります。

そしてその原因というのは大抵、簡単には解決できないものです。

これは当たり前で簡単に解決できるようなことであれば、そもそも私たちはそんなに悩みませんし、ストレスに感じるはずもありません。

例えば仕事上のストレスであれば、

  • 「上司と合わない」などの人間関係のストレス
  • 「仕事内容が向いていないなど」の作業内容のストレス

などが多いと思われます。

これらの原因をすぐに解決することは困難でしょう。自分の希望通りに上司を選ぶなんてことはまず出来ません。また仕事内容を常に自分の希望通りにするという事もまず出来ないことでしょう。

これらの原因そのものを根本的に解決するのは現実的には難しいところがあります。

ではこのようなストレスがある場合は、どうすることも出来ないのでしょうか。

実はストレス自体が解決できなかったとしても、そのストレスを和らげる方法はあります。ストレスによって生じる精神的ダメージと同程度の精神的安心感を得ることが出来れば良いのです。その安心感がストレスを打ち消し、和らげてくれるからです。

これは具体的には、自分に安心を与えてくれるような「人」「場所」を確保しておくということになります。

仕事でストレスがあっても、それを支えてくれる家族がいたり、相談に乗ってくれる同僚や上司がいたりすれば、それだけで心強さをもらえるでしょう。職場がつらくても、それを打ち消すくらい自宅が温かくて癒される場所であったなら、つらいことがあっても頑張ろうと思えます。人や環境が直接何かしてくれるわけではなくても、「自分は一人じゃない」という安心感がストレスを和らげてくれるのです。

困った時に相談できる人が多くいる人はそれだけでストレス耐性が高いと言えます。また癒しを得られる場所を持っている人もそれだけでストレス耐性が高いと言えます。

このような環境を意識して作るという事もストレス耐性を高めるためには大切なことです。