ジェイゾロフトと頭痛 -医師が教える対処法-

ジェイゾロフトの内服を始めると、頭痛の副作用に悩まされることがあります。これはジェイゾロフトに限らず、抗うつ剤でしばしば認められる副作用です。

頭痛という副作用の困るところは、これがうつ病などの「症状」で生じている頭痛なのか薬の「副作用」で生じている頭痛なのかの判断が難しいところにあります。

ジェイゾロフトを飲むとなぜ頭痛が生じるのでしょうか。うつ病などの「症状」で生じる頭痛との鑑別方法はあるのでしょうか。

また、頭痛についての対処法などについても紹介していきたいと思います。

1.ジェイゾロフトで頭痛が生じるのはなぜ?

ジェイゾロフトなの抗うつ剤で頭痛が生じる理由は、完全には解明されておらず、
いくつかの要因が関与すると言われています。

一つの大きい要因として、セロトニンとノルアドレナリンの作用があります。

セロトニンやノルアドレナリンは脳血管を収縮・拡張させる働きがあるため、
その結果として頭痛が生じるのではないかということです。

抗うつ剤を飲むとセロトニンやノルアドレナリンが増えます。
当然、脳のセロトニン・ノルアドレナリンも増えます。
そしてこれらの物質は「受容体」という部位にくっつくことで様々な作用を発揮します。

脳にあるセロトニン受容体のうち、セロトニン1D受容体や2A受容体に
セロトニンがくっつくと血管を拡張させたり収縮させたりと
脳血管の管腔を調整するように作用します。

この働きにより、頭痛が生じると考えられています。

また、ノルアドレナリンがノルアドレナリン受容体にくっついた時も
同じように脳血管の収縮・拡張に関与しますので、これも頭痛の一因となります。

ただ、ジェイゾロフトはノルアドレナリンよりもセロトニンを選択的に増やしますので、
ジェイゾロフトに関して言えば、頭痛の原因はセロトニン受容体の影響が大きそうです。

特に、内服し始めた時や急にお薬の量を変えた時には、
セロトニンの濃度が不安定になりやすいため
頭痛が起きやすく、程度も強くなりやすいようです。

2.他抗うつ剤との頭痛の比較

SSRIはどれも頭痛を起こす可能性があります。
ジェイゾロフトはその中では、わずかに頻度が少ない印象がありますが、
文献などを調べるとSSRIの頭痛の頻度はどれも大差ないようです。

SSRI:ルボックス、デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなど

SNRIは、セロトニン受容体のみならず、ノルアドレナリン受容体も刺激するため、
頭痛の頻度はSSRIよりも多くなります。

SNRI:サインバルタ、トレドミンなど

一方でSNRIは「心因性の痛みを改善する」という作用もあります。
でも副作用で「頭痛」を起こすこともあるのです。ちょっと不思議ですね。

SNRIは脊髄の下降性疼痛路においてセロトニン、ノルアドレナリンを活性化し鎮痛効果を発揮します。
しかし反面で、ノルアドレナリン受容体に作用して副作用の頭痛を起こしてしまうこともあるのです。

三環系抗うつ剤にも、頭痛の副作用が認められ、その頻度はSSRI/SNRIより多くなります。

三環系:トフラニール、トリプタノール、アナフラニール、アモキサン、ノリトレンなど

三環系は昔のお薬であり、「効果は強いけど副作用も強い」という荒いイメージのお薬です。
荒いため、受容体への選択性が低く、色々なところに作用してしまうため、副作用が多いのです。

頭痛の副作用の頻度は、大ざっぱに言えば

三環系>SNRI>SSRI

となります。

3.頭痛の鑑別 -病気の症状?お薬の副作用?-

抗うつ剤の内服中に頭痛が生じた時、みなさん迷うのが、

「この頭痛は病気の症状なの?それともお薬の副作用なの?」

というところです。

これを適切に鑑別することはとても重要です。

病気の症状であればお薬を増やす必要があるかもしれませんが、
お薬の副作用であればお薬を減らす必要があるかもしれません。
対処法が全く異なるのです。

判断を間違えて、対応を間違えれば
頭痛をより悪化させることにもなります。

しかし、この鑑別は非常に難しいというのが実情です。
頭痛の性状はどちらも様々であり、性状から鑑別することは困難です。

「頭全体が重いような感じ」
「頭が割れそうに痛くなる」
「頭全体が締め付けられる感じ」

人によって頭痛の性状は様々です。
上記のような訴えが多いですが、病気の症状でもお薬の副作用でもどちらでも
生じえる性状のため、鑑別できることがなかなかありません。

やはり、「お薬を始めた時期と頭痛が生じた時期との関係」が
一番のポイントになってきます。

お薬の内服を始めたのはいつくらいか。
頭痛が出現しはじめたのはいつくらいか。

これをしっかりと記録しておき、診察の時などで
医師と一緒にその関連を確認していく、というのが一番確実でしょう。

ジェイゾロフトの内服を始めた日、というのはカルテにも記載がありますから、
必ずしも患者さんが記録しなくても、分かります。

しかし、頭痛が出現しはじめた日は患者さんにしか分かりません。

「頭痛がいつから起きたか?」ということは
意外とみなさん覚えていないものです。

診察の時に患者さんに聞いても、
「うーん、一か月前くらい?」「3日前?1週間前?あれ、どっちだったかな?」
とかなりアバウトな答えが返ってくることが多いです。

鑑別に当たり、出現時期はかなり重要なポイントになりますので、
頭痛などの気になる症状が出現したら、必ずメモしておくようにしましょう。

4.ジェイゾロフトで頭痛が生じた時の対処法

ジェイゾロフトの副作用で頭痛が生じてしまった時は、
どのような対処法があるでしょうか?

1.様子を見る

内服しはじめたばかりであったり、ジェイゾロフトの量を増減したばかりである場合、
少し様子みてみることも手です。

頭痛はセロトニンの量が急激に上下する際に、強く起こりやすいので、
血中濃度が安定してくれば改善する可能性があります。

我慢できる程度の頭痛なのであれば、1-2週間様子をみてみることは
有効な手です。

2.鎮痛剤を併用する

お薬の副作用を治すためにお薬を使う、というのもおかしな話ですが、
鎮痛剤を併用するという方法もあります。

頭痛は辛いんだけどジェイゾロフトの効果は感じているから止めたくはない、
何とか続けたいという場合は、この方法がいいでしょう。
現状でも、臨床ではこの方法が一番多く取られています。

鎮痛剤はなるべく副作用の軽いものの方が望ましいです。
私の場合、最初は「カロナール」などのアセトアミノフェン系の鎮痛剤をよく使います。
アセトアミノフェンは効果もそこそこ認め、副作用が少なめです。

ロキソニン、ボルタレンなどのNSAIDsと呼ばれる鎮痛剤を使うこともあります。
これらは効果が強いため、患者さんは喜んでくれるのですが、
長期間使うと胃を痛めて胃潰瘍や胃出血などを起こすこともありますので注意が必要です。

抗うつ剤の副作用の頭痛は、自然と改善することがありますので、
鎮痛剤は漫然と投与せず、時々減らせないか試みることが大切です。

どうしても長期の使用にならざるを得ない場合は、胃薬などを併用して、
胃腸障害が起きないように予防してください。

病気を治すために治療して、別の病気になってしまったらたまりませんからね。

3.ジェイゾロフトの量を減らす

頭痛がなかなか改善しない場合は、
ジェイゾロフトの量を減らすのも一つの手です。

ジェイゾロフトを減らすということは、抗うつ効果も弱まるということですから、
医師としっかり相談し、医師の判断の上で行わないといけません。
頭痛は改善したけど、うつが悪化してしまった、となっては困りますからね。

気を付けないといけないのが、ジェイゾロフトを減らした時、
一時的に頭痛が悪化する可能性があるということです。

減量すると、セロトニンの量が急激に減るため、
一時的に血中濃度が不安定になるためです。

頭痛を改善したくてジェイゾロフトを減らしたら余計頭痛が悪化した。
こうなると焦ってしまうと思いますが、それは一時的なものですので、
慌てず、鎮痛剤などを使いながら様子をみましょう。

多くの場合、数日で改善します。

4.別の抗うつ剤に変更する

頭痛の頻度が比較的少ない抗うつ剤に変更するのも手にはなります。

同じ系統のお薬でも、効果・副作用の個人差は大きいですから、
別のSSRI(ルボックス/デプロメール、パキシル、レクサプロなど)に変えてみてもいいでしょう。
変わらない可能性もありますが、頭痛が改善する可能性はあります。

Nassa(リフレックス/レメロン)は比較的頭痛は少ないので、
頭痛という面だけでみれば候補に挙がるでしょう。

ただし、抗うつ剤はどれも一長一短です。
Nassaは頭痛は少ないものの、眠気や体重増加、倦怠感などの他の副作用が多くあります。

安易に判断せず、主治医とよく相談してから治療薬は決めていきましょう。